ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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魔族と人間と

 

 ルナとエルンに保護されてから、一週間が経った。  相変わらずベッドの上で休んでいる私だったけど、最近はルナの肩を借りながらでも、少しずつ歩く練習をしている。

 

 

 エルンが言うには、二ヶ月も身体を動かして無かった為、筋肉が完全に落ちている。  だから、先ずは歩くリハビリから始めようという事だった。  それは、私にも分かる。  私の一日はエルンの言葉通り、ゆっくりと、焦らずに身体の筋肉を戻す所から始まる。

 

 

 「おはよう、ルナ」

 

 

 「おはよー!  声の方はもうすっかりいいね!  喉の痛みは大丈夫?」

 

 

 「うん。  ありがとう」

 

 

 朝、目覚めると先ずはルナに声を掛ける。  ルナは朝から洗濯や掃除と、家事を忙しなくやっており、角が無ければ普通の人間にしか見えない程の働き者だった。

 

 

 「朝ごはんはどうする?」

 

 

 「今日は調子がいいから、ルナと一緒の物に試してみる」

 

 

 「うん!  分かった!  ちょっと待っててね」

 

 

 ルナがバタバタと洗濯籠を持って外に出て行った。  窓から差す光を見て、今日も良い天気だと分かる。  私が見つめる先には、光に差された銀雪華が合った。  あれから、一度も触っておらず、少しだけ、埃が積もっているのが分かる。

 

 

 私の環境には大きな変化が合った。  “それ”を受け入れるには、私の心が壊れそうになったけど、ルナとエルンが傍で支えてくれた。

 

 

 

 私はもう  人間ではなくなっていた

 

 

 

 ルナとエルンの話や、言葉で薄々分かってはいた。  二人は、私が魔族だから保護したのだ、と。  エルンは、先見眼が弱く、よく分からないみたいだったけど、ルナが教えてくれた。  人間の空気ではないと。

 

 

 ただ、魔族の空気としては何処かおかしく、純粋な魔族でもない。  よく分からない存在。  それが、今の私だった。

 

 

 私がトレブルとして、魔女の血と母様の血が混ざった事は二人にも話してはいない。  人間として生きていた事も。  言ってしまったら、二人が離れてしまいそうで、とても、怖かったから。

 

 

 「おはよー。  おっ、起きてるね」

 

 

 「おはよう、エルン」

 

 

 エルンがルナの家に入って挨拶を交わした。  エルンは私が目覚めてから毎日、私の様子を見に来てくれていた。  怪我の治りの速さに驚いていたけど、そういう魔族もいるという事で、話はつけた。

 

 

 椅子に腰かけるエルンを見て、私はゆっくりと足に力を込めた。  うん、大丈夫。  今日は調子がいい。  

 

 

 「今、そっちに行くから」

 

 

 「ちょっと!  無理しちゃ駄目だよ!」

 

 

 「だいじょう、ぶ・・・!」

 

 

 止めるエルンを制し、私は自力で立ち上がると、一歩ずつエルンの傍まで歩いた。  足を引きずりながらだけど、それでも自分の力で、足で歩いた。

 

 

 「くっ・・・!」

 

 

 ダリアのリハビリの姿が頭に浮かんだ。  ダリアも、苦しい思いをしながら頑張っている。  私が負ける訳にはいかない。  後、もう少し・・・!

 

 

 「あっ!」

 

 

 「ほらっ!  言わんこっちゃない!」

 

 

 もう少しでエルンまで辿り着く直前、私が倒れ込むと、エルンが支えてくれた。  エルンは私やルナより小さいけど、面倒見が良くて、とても優しい魔族だ。  村にいる少ない人数の子供と遊んであげたりもしている。  言葉遣いは悪い時もあるけど、それが私の事を思って言ってくれているのが、嬉しい。

 

 

 エルンは私を支えると、自分が座る場所と、テーブルを挟んだ椅子に座らせてくれた。

 

 

 「ふっー・・・」

 

 

 「まだ一人で歩くには早い!  言う事ききなさいっ」

 

 

 腕組しながらいうエルンを見て、私は俯き気味に口を開いた。

 

 

 「ごめん」

 

 

 「でも、良く頑張ったよ。  もう少ししたら段差にも挑戦してみる?」

 

 

 「う、うん!」

 

 

 エルンの言葉に、私は表情を明るくして答えた。  飴と鞭とでも言うのだろうか。  エルンはただ怒るだけではなく、しっかりと褒めてくれる。  エルンが村の人や子供達に好かれているのが、良く分かる。

 

 

 「お待たせー!  あっ、エルンちゃん手伝ってあげたの?  ありがとー!」

 

 

 「この娘が此処まで頑張ったんだよ」

 

 

 「ほんと!  すごーい!  じゃあ、今日はお祝いだね!」

 

 

 ルナはとにかく元気で優しい。  私がルナの肩を借りながらも、歩いた時は涙を浮かべて喜んでくれた。  自分の事じゃないのに、私よりルナが喜んでいる所を見た時、私も自然と涙が溢れた。  ただ、歩くという事がこんなにも嬉しいものなのか、と。

 

 

 「そうだ!  ねっ、今日は外に出てみない?  すっごく天気も良くて、ぽかぽかして気持ちいいよ!」

 

 

 「うーん、まだ早い気もするけど・・・大丈夫?」

 

 

 「うん、出てみたい。  村を見てみたい」

 

 

 「そっか、ならそうしよっか」

 

 

 「やったー!  お昼ご飯も作らなきゃ!」

 

 

 ウキウキと笑顔でキッチンに向かうルナを見て、私も笑顔になった。  そんなルナの後ろ姿を見ながらエルンが口を開いた。

 

 

 「あんなに喜んじゃってまあ。  良かったね」

 

 

 「うん。  ルナと、エルンには本当に助けてもらってばかり・・・ありがとう」

 

 

 「止めてよ、今更。  それに言ったでしょ、ルナは姉妹が出来たみたいで嬉しいんだよ」

 

 

 先日、ルナとエルンの身の上の話を聞いた。  なんでも、ルナは以前、人間によって家族を失ったらしい。  魔族と人間の戦闘に巻き込まれ、力を持たないルナの一族はあっけなく殺されたという。  やったのは、私も良く知る国の者だった。

 

 

 ルナ一人が生き残り、戦う力を持たないルナは当てもなく彷徨い続け、この村に行きついたという。  当初はエルンがどんなに声を掛けても塞ぎ込んでおり、どうしたものかと頭を悩ませていたが、エルンの介抱と、村の者達がルナを支え、時間は掛かったけど、今の元気なルナを取り戻したらしい。

 

 

 エルンは元々一人で行動していた事が多く、それなりに戦闘も出来るみたいだけど、それでも戦闘に特化した魔族には足元も及ばないと自分で笑っていた。  だから、この村に行きつき、ここで穏やかに暮らす事を決めたそうだ。  だけど、何となくわかる。  エルンは嘘をついている。  時折見せる笑顔の裏に、何か凄い力が働いているのが、肌に感じた。  本当は───。

 

 

 「姉妹・・・」

 

 

 「そっ。  ルナには姉がいたみたいなんだけどね。  あんたを重ねてるのかな。  何にせよ、ルナにとっても、あんたにとっても良かった事だと思うよ」

 

 

 「そっか。  ルナにはいいお姉さんでいないといけない、かな」

 

 

 「あの娘イイ娘でしょ?  でも、ちょっと危機感がないとこもあるから、あんたが元気になったらしっかりしてあげてよ」

 

 

 「うん。  任せて」

 

 

 「なんの話ー?」

 

 

 エルンとルナの話をしていると、ルナがトレイを手に戻って来た。  言いながらルナが朝食を私とエルンの前に並べてくれた。  いつもは喉の調子の為に、スープが主食だったけど、今日は二人と同じメニューだった。  パンを主菜に目玉焼き、野菜のスープ、サラダ。  そして、冷たくて美味しい水。  ルナの作るご飯はいつにもまして美味しそうだった。

 

 

 「うんにゃ。  あんたがいい娘だって話」

 

 

 「うん」

 

 

 「???」

 

 

 頭にハテナを浮かべるルナを見て、私とエルンは互いに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が目覚める二ヶ月前。  ロイヤルクラウンの会議室では怒号が飛んだ。

 

 

 「こんの・・・大バカ女!!  どうしてあの娘を連れて戻らなかった!」

 

 

 「離せ」

 

 

 ロイヤルクラウンではリースがクラウディアの襟元を掴み、壁に叩きつけた。  凄まじい怒りの表情で睨みつけるリースに対して、クラウディアは涼しい顔でそれを受け止めた。

 

 

 「クラウディア、どうして首を持って帰って来なかったの?」

 

 

 「黙ってなアンナ!!」

 

 

 「リース、落ち着きなさいな。  会議にならないわ」

 

 

 「そうヨ。  丁度、遠征じゃなかったら私も楽しみたかったネ」

 

 

 「レイメイ!  アンタも殺されたい!?」

 

 

 「リースとやれル!  嬉しいヨ!  早くやろうヨ!」

 

 

 「止めて下さい。  リース、手を離して下さい」

 

 

 アルテアが静かにそう言った所で、リースはクラウディアに掛けた手を放す事は無かった。  この会議室に幹部部隊長が全員と、総督であるアルテアが揃う事は先ずは無い。  そんな貴重な時間の中で、今回の議題は例の件だった。

 

 

 「リース、貴方の気持ちは分かりますわ」

 

 

 「気持ちが分かるだって!?  じゃあ何であの娘をあんな目に合わせた!」

 

 

 「それがベストだからよ。  魔族は敵、あの時のあの娘は───」

 

 

 アンナの言葉に、リースはクラウディアから離れ、一瞬でアンナの目の間に現れた。  そして、アンナへと口を開いた。  その時の殺気は城全体に及び、この会議室にいる者達以外の城にいる全ての者が震えあがったという。

 

 

 「ほんとに殺すよ」

 

 

 「ダブル風情が勝てると思っているのかしら?」

 

 

 リースが翼を広げ、本気の姿勢を見せると、アンナもまた、常に傍にある刀を二本手にしていた。  正に一触即発の中、アルテアが口を開いた。

 

 

 「リース、落ち着いてください。  アンナも挑発する言葉は止めて下さい」

 

 

 アルテアの静かな、それでいて重い言葉に、先に刀を納めたのはアンナだった。  それを見て、リースも翼を終うと、頭を掻きむしった。

 

 

 「クソッ!!  アタシはあの娘を探しに行かせてもらうよ!」

 

 

 「お待ちなさいな。  先ずは事の整理から始めないと」

 

 

 「整理!?  ハッ!  何を整理すんのさ!」

 

 

 「様子が変、だったと聞いています。  それに間違いはありませんか?」

 

 

 「間違いありません。  確かに、以前の彼女ではありませんでした。  しかし、彼女は前代未聞のトレブル。  何が起こるか分からない点では、あの様な暴走もあり得るかと」

 

 

 「それを問いただす前にアンタが斬りかかったんでしょうが!」

 

 

 「あの状態で真面な答えが返ってくると思ったの?」

 

 

 「だからって直ぐに殺すなんておかしいでしょ!?」

 

 

 リースとアンナの言い合いが再開されると、見かねたレイメイが横から口を挟んだ。

 

 

 「話だけ聞くト、状況的にマトモな答えが返って来そうになさそうネ」

 

 

 「レイメイ・・・!」

 

 

 睨みつけるリースの視線を受け止めながらレイメイは続けた。

 

 

 「た、ダ。  だからといきなり殺すのもおかしいヨ。  拘束するなり何なりできた筈ヨ。  部隊長がサンニンもいて出来ないとは言わせないヨ」

 

 

 レイメイの言葉に、クイーンは紅茶を飲む事で返し、アンナは視線を逸らした。  リースは歯軋りを起こしながら再度頭を掻きむしった。

 

 

 「そうですね。  レイメイの言う通りです。  アンナ、クイーン。  何故直ぐに手を下したのですか?」

 

 

 「魔族は敵だからです。  間違っていますか?」

 

 

 アンナの真っすぐな、それでいてハッキリした声に、アルテアは何も言わなかった。  しかし、そんなアンナの言葉を返したのは意外な人物だった。

 

 

 「彼女が魔族だという理由と証拠は?」

 

 

 明後日の方から意外な言葉を紡いだクラウディアに一斉に視線が移った。  その問いに、答えたのはクイーンだった。

 

 

 「見ていないからそう言えるのですわ。  あれはもう人間ではなかった」

 

 

 「人間ではないから魔族という判断?」

 

 

 「間違っていて?」

 

 

 「間違っている。  私が最後に見た時、彼女は人間だった」

 

 

 「その時は人間に戻っていただけでしょう?  だから放って置いても死ぬと判断した貴方は直接手を下さなかった。  違う?」

 

 

 「手は下したさ。  持ち帰るのが面倒だっただけ」

 

 

 「アンタ・・・何言って・・・」

 

 

 クラウディアの言葉に、リースが目を見開いた。  そして、次の言葉を聞いた時、リースの堪忍袋が完全に切れてしまった。

 

 

 「首なら落とした。  今頃、魔物か魔族の餌だろう」

 

 

 

 

 

 

 「殺してやるっ!!」

 

 

 

 

 

 我を忘れ、クラウディアに迫り狂ったリースに対して、クラウディアは勿論、他の部隊長達が一斉に動いた。

 

 

 爆発音と地響きが城中に響き渡ると、メイド達が慌ててその場に向かった。  埃と瓦礫が舞う中、メイドが目にしたのは倒れるリースと、それを囲む部隊長達と、リースにゆっくりと歩いてくるアルテアだった。

 

 

 「残念です。  リース。  貴女ほどの者を無くしてしまうとは」

 

 

 「やはりダブルというのは危険ですね」

 

 

 「一対一でやりたかったヨ」

 

 

 「まだ息はありますわね。  どうなさいます?」

 

 

 「私が引き取る。  いい実験材料になりそうだ」

 

 

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