ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい 作:nagiayu
「いたっ」
「ああ、重たかった」
「女に言う言葉じゃないでしょ」
「女として扱われたい?」
「冗談言わないでよ」
クラウディアが最悪な部屋として誰も近寄らない自室に戻ると、リースをベッドに放り投げた。 衝撃で、ベッドが軋み、投げられたリースがつい声を上げた。
「はー、これで誤魔化せたかな」
「大根役者。 何が“殺してやるっ”だ。 感謝して。 面倒事から引き上げてあげた」
「演技はクイーンの役目でしょ。 感謝はしてるさ。 それにしても、アンナの奴は本気だったでしょアレ」
「アンナの魔族に対する意識は変えられない。 “あれ”も生まれつき狂ってる」
「悪い奴じゃないんだけどね。 アンナにあの娘を見つけられたらマズイ事になる」
「アンナの事。 イリーナを使って探し出す筈」
「アンタが首を落としたなんて嘘つくからでしょ。 アンタなら首を落としても持ち帰るのが正解」
「演技はクイーンの役目。 私じゃない」
リースはベッドに腰かけ、話ながら首をニ、三度コキコキと鳴らし、身体の具合を確かめていた。 そんなリースの傍で、クラウディアが解剖時に使う小刀を手にし、それを見つめながら口を開いた。
「これからどうする?」
「決まってるでしょ。 あの娘を助けに行く。 アンナ達より先に見つけないと。 で、実際どうだったのさ」
「止めておけ。 一か八かの賭けをした。 下手をしたらもう死んでいる」
「だから冗談言わないでよ。 例えどうなってたとしても、あの娘の全てを受け止めてやらなきゃいけない。 それが、アタシの───」
「責任、か?」
クラウディアの言葉にリースは答えを返さなかった。 沈黙が場を支配したが、先に破ったのはクラウディアだった。
「何にせよ、お前は自由に動けない。 暫くは此処で大人しくしていろ」
「だから、アンナ達より先に見つけないとマズイんだってば」
「駄目だ。 お前、自分が今どういう状態か分かっているのか?」
「瀕死の状態で動く事が出来ないってやつでしょ? “鼠”の気配も消えたし、大丈夫でしょ」
「どちらかといえば“蝙蝠”。 何にせよ、お前が相手の目についたら“全員”の芝居が水の泡になる」
「アルテアとアンナのアレは芝居じゃないでしょ。 クイーンは何だかきな臭い動きしてるし。 素直なのはレイメイ位じゃない?」
「クイーンはクイーンで色々と考えがある筈。 それに、アンナも馬鹿じゃない。 己の立場を理解している。 だから最後までお前に手を出さなかった」
「アンナの部屋で一回斬られてるけどね」
「本気ではない、筈」
「どうだか」
大きく伸びをしながら答えるリースに、クラウディアが溜息をついた。 リースはベッドから立ち上がると、クラウディアに向き直り口を開いた。
「世話になったね」
一言そう言うと、リースは手をヒラヒラと靡かせながら歩き出した。 しかし、リースの歩みはクラウディアによって止められてしまった。 リースの前に先回りしたクラウディアが、唯一の出入り口の前に立ち塞がったのだ。
「何の真似? アンタまで邪魔する訳?」
「状況を考えろ。 暫く大人しくしていればいいだけ」
「出来ないっつってんの」
「トレブルが大事だというのは分かる。 なら、尚更行かせる訳にはいかない」
クラウディアの言葉に、何か引っかかるものを感じたリースは、眉を顰めながら口を開いた。
「アンタ、あの娘に何をした」
「賭けをしたと言っただろう?」
「賭け、だって?」
「あの時のトレブルは完全に死に掛けていた。 ただの外傷ならば自己治癒力が高いトレブルの場合、三日もすれば治る。 だが、精神の方はそうはいかない。 あの状態から己を取り戻し、動ける様になるまで恐らく一ヶ月以上は掛かる。 周辺には魔物もいる、場合に寄っては魔族もいるだろう。 どのみちそのまま放っておけば餌になるだけだ」
「それで・・・?」
「お前の言う通り、此処に連れて戻れば首を刎ねられるは必然。 ならばと思い、コレを使った」
クラウディアが懐から取り出したのは赤黒い液体が入った試験管だった。 それを見た時、リースは全てを察した。 そして、今度は演技でもない本気の勢いでクラウディアに掴みかかった。
「この・・・!!」
「トレブルを生かすにはああするしかなかった」
「アンタがしたいのは唯の実験でしょうが!」
「否定はしない。 が、あの状況でトレブルを匿えと? 匿った所で、あんな稀少な娘、何れは目につく。 そうなった時、ロイヤルクラウンの全勢力と殺り合う事になる。 そんなもの、私は御免だ」
淡々と話すクラウディアに対して、リースは襟元を掴んでいた手の力を徐々に抜いて行った。 頭では分かっている。 クラウディアが行った事は、ロイヤルクラウンも敵に回さず、更にあの娘を生かす為にはある意味適切な判断だとも言えた。
「分かって・・・る! クソッ! アタシがもっと近くにいてやれば良かったんだ!!」
「十分近くにいただろう? 蛇女の時よりな。 それに、賭けに勝てばいいだけだ」
「運良く生き残る可能性は・・・?」
「さあ、な。 五分五分、いや、分が悪いと言える。 だが、あの娘はトレブルだ。 何か、私の想像を超える進化を遂げる可能性もある。 副作用は言わずもがな、だ」
その言葉を聞き、リースは完全に項垂れた。 自分がもっと近くにいてやれば、あの娘の異変にも直ぐに気づけたかも知れない。 あの娘が苦しい思いをしなくて良かったのかも知れない。 リースは、自分を責めた。 ガデルベルナの時と同じ過ちを繰り返してしまった。 それが、リースに取って堪らなく悔しかった。
「クソッ・・・」
俯き自分を責めるリースを見て、クラウディアはリースの横を通りすぎ、持っていた試験管を台に置くと、別の適当な試験管を手に口を開いた。
「後、一つ。 今回の急激な異変。 何かおかしい」
「何が、さ」
「私が触診した際、トレブルは身体的には魔の血に蝕まれてはいたが、精神的な問題は見当たらなかった。 それがたった一晩で急激な変化だ。 これは私の勘だが、誰かが裏で糸を引いた」
その言葉を聞き、リースの周囲の空気が揺らめいだ。 殺意は元より、怒り、憎しみの空気が膨れ上がった。
「誰が、やった」
「分からない。 “蝙蝠”の仕業だろうが、それが誰かまでは分からない。 私達にさえ本性を隠し通していると見ると、良い腕をしている」
「どうでも、いいさ」
膨れ上がるリースの空気を観て、クラウディアは目を細めて口元に笑みを作った。
(やはりダブルというだけあって、魔族の血を引いているだけはある。 興味深い存在だ)
「くくっ・・・やはりお前は大根役者だ。 今の方がよっぽど良い空気だ」
「本気だからね・・・“どいつが相手”でも、必ず見つけ出して、全ての殺意を込めて殺してやる」
「はぁはぁはぁ・・・! 次から次へと、キリがありませんね。 夜で周りが見えないのも鬱陶しい・・・!」
「空気の読み方が悪いよ。 僕がお手本見せようか?」
「私の錬磨もありますから! レディ様が手を出したら辺り一面吹き飛びますよ!」
「それなら僕、要らないよね?」
「そういう意味ではありません!」
東と西の大陸境ではレディとノーティスの二人が魔物の群れと対峙していた。 朝であろうが、星空輝く夜であろうが、此方の都合等関係なしに湧いて出て来る魔物の数に、ノーティスの体力は限界に近くなり、レディは面白くなさそう魔物の攻撃を交わしていた。
本来ならばレディ一人で一瞬の内に叩きつぶす事も可能だったが、ノーティスが己を鍛える為、自分が戦う事を申し出ていた。 その為、レディは広範囲を破壊する技は使わず、適当に魔物を相手にしていた。
「交代って誰が来るの?」
「事前報告ではオリガ様とイディス様が来られる様です!」
「オリガ? イディス?」
首を傾げるレディに対して、ノーティスは魔物の攻撃を避けながら声を張り上げた。
「第九部隊の部隊長と副部隊長です! お忘れですか!」
「・・・あっ。 あの、双子?」
「そうです・・・! レディ様! 前!」
金棒を手放し、ポンッと手を叩くレディに魔物の一匹が牙を向けた。 しかし、レディは足元に落ちていた拳大の石を蹴り上げ、魔物の頭を粉砕した。
「まだ来ないの?」
「ですから、今此方に向かっていると! それに、こいつ等をそのままにしておく訳にもいきません!」
「なら、殲滅したら寝てていいよね?」
魔物にナイフを差し込みながら答えるノーティスに、レディは溜息を付きながら金棒を手にした。 心底、気だるそうに。 しかし、レディから溢れ出る空気は膨れ上がっていた。
「レディ様! 待って下さい!」
「君がちまちまするからだよ。 早く帰って寝たいのに。 僕が終わらせるから、下がってていいよ」
金棒を大きく振りかぶったレディに、ノーティスが必死に声を掛けた。 先日の魔族に対して放った一撃を再度放つつもりなのか、レディの目には大地しか見えていなかった。
「レディさん、そんな事したら自然破壊ですよ」
「同意。 お待たせした」
「オリガ様! イディス様!」
「遅いよ」
オリガとイディスが到着した事により、辺りの魔物達は瞬時に殲滅された。 ノーティスは自身の錬磨を兼ねて魔物と対峙するつもりが、二人によって簡単に倒される魔物達を見て、溜息をついた。
(言う暇も無かった。 でも、確かに体力的に限界は来ていたし、ここらが潮時かな。 それに、いい経験も出来たし)
四人は魔物が補充される一時の時間を使ってその場で座り込んだ。 ノーティスただ一人だけ、肩で息をしながら疲れ果てていた。
「はぁはぁ・・・。 ふー。 レディ様、一度ロイヤルクラウンへ戻りましょう」
「うん。 早く寝たいよ」
「驚いたわね。 ノーティス、貴女いつからレディさんとそんな風に話せるようになったの?」
「一週間前位からでしょうか。 私がレディ様の一撃を躱した後に口を聞いて下さりました」
「君を狙った訳じゃないよ。 それに、君が作るご飯美味しかったし」
「来る途中に大きなクレーターがあった。 レディが?」
「うん。 火吐かれて苛ついたから、つい」
オリガとイディスと話すレディを見て、ノーティスは思う。 レディは元々、ロイヤルクラウンで問題児として扱われていた。 誰とも意思の疎通を図らず、一人で全ての任務を行う事から誰も話しかける事も無かった。 レディはおかしい奴、あまり近づかない方がいい。 そんな話も聞いた事がある。
だけど、違う。 レディは意思の疎通を図るまでに時間が掛かるだけだ。 直ぐに眠たいと愚痴を言ったり、とっつきにくい所もあるが、話してみれば聞かされていたイメージが吹き飛んだ。
「それより、オリガ様とイディス様こそ、レディ様とお知り合いですか?」
「同期」
「ええ。 同期の中ではダントツの腕なのに、この怪力馬鹿には頭を痛めさせられたわ」
「何かした?」
「レディさんが何でも壊すから、私達がミルノア様にどれだけ小言を言われたか」
「覚えてないよ」
「酷い有様だった」
昔話をする三人を見て、ノーティスは同部屋の二人を思い浮かべた。 いつまでも寝ている剣士の娘を叩き起こし、それを見て笑いながら三つ編みを作る娘。 そんな日常を思い浮かべ、ほんの少しだけ、ノーティスは懐かしい気分に浸った。
「帰るよ。 後はよろしく」
「ああ。 気をつけろ」
「ノーティス、この怪力馬鹿に何かされたら直ぐに言いなさい」
「はい。 それでは、後はよろしくお願い───」
ノーティスが二人に頭を下げた時、三人の空気が変わった。 険しい表情だけではなく、最大級の警戒の空気を出す三人を見て、ノーティスは戸惑った。
「ノーティス。 逃げなさい」
「えっ?」
「早く行け」
「邪魔だよ」
口々にそう言うと、三人は己の獲物を構えた。 あれだけ気だるそうにしていたレディでさえ武器を構え、夜の虚空を見つめた。
(成程。 お姉様が元を断つべきと言われた意味がわかりました。 私に気づくだけでも大したものです。 それに、あれだけの魔物を殲滅するその強さ。 有望な者達は今の内に摘んでおきましょうか)
地面からズルリと出てきたのは三美凶の一人、プラムベティだった。 プラムベティの目を見た瞬間、ノーティスは金縛りに合ったかの様に動けなくなってしまった。
「プラムベティ。 大物が来た」
「レディさん、本気、出してくださいね」
「いつも本気だよ」
「はぁ・・・はぁ・・・こ、これが・・・三美凶」
ノーティスを守るかの様に三人が前に立つと、それぞれの武器を構え、最大限の空気を発生させた。 そんな空気すら、プラムベティにはそよ風に感じるのか、鈴の音の声を発した。
「四対一ですか。 いえ、貴女のその有り様じゃ三対一ですね」
震えるノーティスを見て、プラムベティがそう言うと、ノーティスはナイフを構えて声を張った。
「わ、私だって戦える! 舐めないで!」
「震えていますよ? ですが、死ぬ覚悟を持った者との対峙の礼儀として、私の力をお見せします」
(しかし、妙ですね。 牡丹は私より先に出ていた筈。 何故、此処に来ていないのでしょうか。 もう既に倒された? いや、それはあり得ない。 いくらレディがいるからといっても、牡丹を相手にあの震えている娘が無事でいられる訳がない。 何かあったと考えるのが普通でしょうか)
「ノーティス、逃げなさいと言ったでしょ」
「嫌です! 私だって援護位は出来ます!」
「何処でその頑固さを覚えたの?」
「話してる場合じゃないよ」
「同意。 来るぞ」
歩きながら四人に近づくプラムベティは、全てを焼き尽くす炎を発しながら一人、心の中で言葉を紡いだ。
(牡丹は後で考えるとしましょう。 先ずは、この四人。 あまり気乗りはしませんが偶には運動するのも良いでしょう)
「久しぶりの戦闘ですから、力は制御出来かねます。 お気を付け下さい」
あなたの好きな魔族は?
-
オルベルスネーシア
-
ウィンクドレス
-
プラムベティ
-
ベスキュビア
-
ビクトリア
-
ガデルベルナ
-
ヴァレリアーナ
-
牡丹
-
ベルビューヌ
-
ルナ
-
エルンヴァイス