ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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決意

 

 (これだけ自分の足を使ったのは、いつ以来でしょうか)

 

 

 あの戦闘から、十日以上が経っていた。  プラムベティは己の足で一歩、また、一歩と歩き、東の大陸にある魔女の城へと戻って来ていた。  自身の影を使った移動ではなく、己の足で歩いた。  理由はプラムベティにも分からない。  ただ、そうしたかった。  一度も止まる事は無く、ゆっくりと、何かを噛みしめる様に大地を踏んだ。

 

 

 途中で魔族や魔物の群れと会い、プラムベティは一つの嘘をついた。  この先には手練れがいる、と。  へし折られた自身の腕を見せ、そう言うと、魔族や魔物達は三美凶に此処までの傷を与える者がいる事に震え怯えた。  そんな姿を見て、プラムベティは命が惜しければ暫く大人しくしているよう命じた。

 

 

 (二ヶ月は持つでしょうか。  あの二人の命と引き換えとしては足りないでしょうが、それ以上はお姉様も黙ってはいないでしょう。  ふっ、三美凶ともあろう私がこの様な事、バレてしまえば大変な目に合うでしょうね)

 

 

 自虐的に笑みを作ったプラムベティは、城へと戻ると、先ずはオルベルスの元へと向かった。  正直いって、あまり気が乗らない。  だが、長女であるオルベルスには報告する必要がある。  しかし、今は少しでも早く部屋で休みたい、それがプラムベティの本心だった。

 

 

 (少し、レベルカとガルムボーン・・・いや、エルディロイネが羨ましくなりますね。  有象無象の魔物や魔族程度、あの二人の強さであれば、あってない様な物。  自由・・・か)

 

 

 俯き気味に闇の通路を歩き、オルベルスの部屋の前に立つと、プラムベティはノックもせずにその扉を開いた。

 

 

 「お姉様、只今戻りました」

 

 

 「まあ。  随分遅かったわね、ベティ。  それに、酷い姿じゃない」

 

 

 オルベルスはベティの姿を見るなり、自身の手を口元に当て、大袈裟な態度を取った。  プラムベティはあれから一度も汚れを落としておらず、身体中、汚れにまみれていた。  特に、右手は酷く、爪の中にまで土が入り込んでいたが、プラムベティはそれを落とす事をしなかった。

 

 

 「はい。  少々、手こずりました」

 

 

 「みたいね。  その左腕、折れてるじゃない」

 

 

 赤い液体を美しく磨かれたグラスで飲みながらオルベルスがそう言うと、オルベルスの傍にいた魔族がプラムベティへと慌てて近づいて来た。

 

 

 「これはいけません。  直ぐに手当てを・・・」

 

 

 「触らないでください」

 

 

 魔族がプラムベティの手に触れようとした時、プラムベティはそれを跳ね除けた。  そして、真っすぐにオルベルスを見つめると、口を開いた。

 

 

 「お姉様、オリガとイディスの二名を討ち取りました。  他に二名いましたが、逃しました。  私の責任です。  罰は受けます」

 

 

 「罰だなんて。  オリガとイディスを殺しただけで大したものよ。  ゆっくり休みなさい」

 

 

 「ありがとうございます。  それでは、私は休ませて頂きます」

 

 

 踵を返し、無意識な内に早足になるプラムベティに、オルベルスが声を掛けた。

 

 

 「そうだわ。  ベティ、牡丹はどうしたの?  死んだのかしら?」

 

 

 「会っていません。  “何処かの誰かに喰われたのでは”?」

 

 

 プラムベティの言葉にオルベルスは眉をピクリと震わせると、言葉を発した。

 

 

 「あの牡丹は私のお気に入り。  “お礼”をしなくてはいけないわね。  誰か分かるかしら?」

 

 

 「私には分かりかねます。  失礼します」

 

 

 再度歩き出し、部屋の扉に手が触れた時、オルベルスの声がプラムベティの直ぐ真後ろから聞こえた。  気配も無く、プラムベティに気づかれる事なく、一瞬の内に“そこ”にいたオルベルスは、プラムベティの両肩に手を当て、耳元で囁く様に声を発した。

 

 

 「ねえ、ベティ。  貴女まで離れないわよね」

 

 

 「・・・」

 

 

 「ベティ」

 

 

 何も言わないプラムベティに、オルベルスがもう一度、名を呼んだ。  囁く様な言葉から打って変わって、ハッキリと、そして、脅すかの様な声に、プラムベティは鈴の音を返した。

 

 

 「お姉様。  私は三美凶。  オリガ、イディスを討ち取った私を、何か疑う様な事でもありますか?」

 

 

 「うふふ。  無いわね。  愛しているわ、ベティ」

 

 

 「私も“愛”しています。  お姉様」

 

 

 そう言うと、プラムベティは開いた扉から出て行った。  残されたオルベルスはプラムベティに掛けられていた自身の手を見つめると、ニヤリと不気味な笑みを作った。

 

 

 自室へと足を向けている中、プラムベティは小さく呟いた。  その顔は、悲壮感を露わに、己の運命に疲れている様にも見えた。

 

 

 「三美凶・・・か。  望むなら、普通に生まれたかったですね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西の大陸。 ロイヤルクウランにおいても、総督であるアルテアに報告を行う者がいた。  アルテアはその者の目を見ながら、一言一句聞き逃さずにいた。

 

 

 

 「・・・以上が、報告となります」

 

 

 レディとノーティスはアルテアの前で全ての報告を行った。  魔物を退け続けていた事、三美凶の一人が現れ戦闘になった事。  イディスの死。  そして、一人残ったオリガの事。  全ての報告を行ったノーティスは俯いていた。  ノーティスの横に立つレディは何も言わず、ただアルテアを見つめていた。

 

 

 「分かりました。  大変な任務でしたね。  代わりの者の選定は済んでいます。  ゆっくり休んでください」

 

 

 「はい・・・。  失礼、します」

 

 

 「レディ。  オリガは一人残ると、そう言ったんですわね?」

 

 

 アルテアの執務室にはアルテアとレディ、ノーティス以外にも人がいた。  ロイヤルクラウン第一部隊・部隊長のクイーンは執務室に備えられているソファーに腰を掛け、レディへと口を開いていた。

 

 

 「うん。  自分が足止めするって言ってたよ」

 

 

 「そう。  しかし、貴女と意思の疎通が図れるとは思いませんでしたわ。  これからも───」

 

 

 「疲れたから、寝るよ」

 

 

 そう言うと、レディはノーティスの手を引っ張り部屋を後にした。  言葉の途中で遮られたクイーンはやれやれと頭を振ると、置いてあるカップに口を付けた。

 

 

 「クイーン。  貴女も戻って良いです。  まだ、リースとトレブルの件の後片付けがあるでしょう」

 

 

 「後片付けはアンナとメイドに任せていますわ。  お気遣いなく」

 

 

 「クイーン。  お願い・・・します」

 

 

 報告書に筆を向け、震える声を発したアルテアは静かにそう言った。  察したクイーンは小さく息を付くと、カップを手に部屋を後にした。  そして、部屋の外にいる黄服メイドの一人に声を掛けた。

 

 

 「暫く、誰も近づかない方がいいですわ。  此処には私がいますから、他の者にそう言いなさいな」

 

 

 「はい」

 

 

 そう指示された黄服メイドは姿を消した。  残ったクイーンは扉に寄りかかり、ゆっくりとカップに口を付けた。

 

 

 そして、暫くすると、部屋の中からガシャンと何かを倒す様な、壊す様な音が響いた。  クイーンにはそれが何か良く分かっていた。  ミルノアの時と同じ、その音を聞いた時、自分もそこに居たのだから。

 

 

 「くっ・・・ううっ。  オリガ・・・イディス・・・」

 

 

 執務台に置かれていた全てを、怒りと悲しみを込めて手で薙ぎ倒したアルテアは、唇を噛みしめ、溢れる思いを流した。

 

 

 アルテアの啜り泣く声を聞くと、クイーンは廊下にある窓際に立ち、空へと目を向けた。  青空へ向かって、二羽の白い鳥が仲良く飛び立つのが見えた。

 

 

 「貴方達も、逝ってしまったのですわね。  良く、仕えてくれましたわね。  ゆっくりお休みなさいな」

 

 

 

 

 

 ノーティスとレディは二人連れ立ってロイヤルクラウンの廊下を歩いていた。  偶にすれ違うメイドが、チラチラと二人に目を向けていたが、ボロボロな姿で歩くノーティスと、問題児とされているレディに誰も声を掛けなかった。  

 

 

 「いつまで、泣いてるの」

 

 

 「泣いてなんて、いません」

 

 

 「泣いてるよ。  君の足音で分かる」

 

 

 レディが歩きながらそう言うと、それまで横に並んでいたノーティスの動きが止まった。  俯き、唇を噛みしめるノーティスは震えながら声を絞り出した。

 

 

 「私が、もっと強ければ・・・!」

 

 

 「無駄だよ。  プラムベティ相手に、僕たちじゃ束になっても勝てない。  むしろ、良くやったと思うよ。  オリガだってどうなるか分かってて残ったんだよ」

 

 

 その言葉に、ノーティスが鋭い目付きで顔を上げた。  涙を浮かべ、まるでレディが仇かのように睨みつけた。

 

 

 「諦めるんですか!」

 

 

 「事実を言っただけだよ。  オリガだって、もう死んでる」

 

 

 「このっ・・・!」

 

 

 ノーティスがレディに掴み掛かると、レディはノーティスの首を掴み、壁に叩きつけた。  ガンッという大きな音が廊下に響いた。  パラパラと壁の欠片が落ちる中、レディは真っすぐノーティスを見つめた。

 

 

 「カハッ!  うっ・・・!」

 

 

 「事実から、目を逸らしたらいけないよ」

 

 

 「オリガ・・・様は・・・生きて、ます!」

 

 

 「一人でどうにか出来る相手じゃないよ。  分かるよね」

 

 

 レディの真っすぐな言葉に、ノーティスは何も返せなかった。  分かってはいる。  未熟なノーティスを含めた、四人がかりでも、あの化け物にはまだ余裕があった。  どう足掻いても、オリガ一人では勝てる相手じゃない事くらい、分かっている。  だが、ノーティスはそれを簡単に割り切る事は出来なかった。

 

 

 レディの腕にかけていた手を下ろすと、ノーティスは嗚咽した。  静かに、涙を流すノーティスから手を離したレディは、その場に座り込むノーティスに、ゆっくりと、そしてハッキリと声を落とした。

 

 

 「二人共、死んだんだよ。  死んだんだ」

 

 

 ノーティスの脳裏に二人の姿が浮かんだ。  そして、遂に溢れる想いが止められなくなってしまった。

 

 

 「うっ・・・ふぐっ・・・うああ・・・!」

 

 

 泣きじゃくるノーティスを見下ろしながら、レディは無意識に拳を握りしめていた。  震えながら握られる拳から、血が流れている事は誰にも分からなかった。

 

 

 

 どれ位、そうしていたのか。  ノーティスは一人、廊下を歩いていた。  既にレディの姿は無い。  暫く前に“少し休むよ”と言い、先に行ってしまった。  一人、廊下を歩くノーティスは様々な事を考えた。  自分の弱さ、オリガとイディスとの思い出、レディの言葉。  考えながら、イディスの最後の言葉を強く胸に秘め、ノーティスは前を向いた。

 

 

 “強くなりなさい”

 

 

 ノーティスの目には、燃え上がる炎があった。  泣いている暇等ない。  強くなってやる。  何処までも強くなって、そして“あいつ”を私の手で葬り去ってやる。  ただ、その想いだけでノーティスは前に歩いた。

 

 

 

 ノーティスが決意を新たに自室へと戻っていると、部屋の前で意外な人物と邂逅した。  その人物は黒いスーツに身を包み、鋭い目付きで部屋の扉を見つめていたが、ノーティスに気づくと、そちらに目を向けた。

 

 

 「貴女、ノーティスだったかしら」

 

 

 「えっ・・・はい」

 

 

 「私はイリーナ。  貴女に聞きたいことがあるの」

 

 

 「第五部隊の・・・副部隊長様・・・」

 

 

 一度目にした事はあったが、直接話した事がない幹部部隊のイリーナから口を聞かれ、ノーティスは戸惑った。  空気からして、何かただ事じゃない事は分かった。

 

 

 「同室の者は何処にいったか分かる?」

 

 

 「同室・・・エマですか?」

 

 

 「そう、彼女」

 

 

 「分かりません。  私も少し前に遠征から帰って来ましたので」

 

 

 「失礼だけど、部屋に入らせてもらったわ。  テーブルに武器の調達に行くと、手紙があった。  だけど、今日はそんな予定は無いと部隊から言われているの。  それに、先日城内で騒ぎがあった。  それから、姿を見たものがいない」 

 

 

 エマの行方が分からない。  それに、幹部部隊の方が探しているという事から、先日あった騒ぎとやらにエマが関連している事はノーティスにも分かった。  しかし、自分は遂先程戻って来たばかりで、本当にエマの行方は分からなかった。

 

 

 「あの、エマに何かあったんでしょうか?」

 

 

 「それを調べる為に此処にきたの。  同室の貴女には話しておいた方がいいわね」

 

 

 そう言うと、イリーナは事の発端を話した。  トレブルである娘の急な暴走、それに伴い、クラウディア自らが部屋の捜索をした所、茶葉に魔族が好む成分が入っていたと報告が上がっていた。  その成分は西の大陸では手に入る様な物ではなく、東の大陸から持ち込まれた可能性が高いという。

 

 

 話をするイリーナを前に、ノーティスは慌てて口を開いた。

 

 

 「ま、待って下さい!  エマがそんな事する訳がありません!」

 

 

 「状況からみて、エマが犯人だという事は明白よ」

 

 

 「そんな事して、エマに何の得があるんですか!?  それに、エマはあの娘の・・・あの娘のファンの一人目何ですよ!」

 

 

 「ファン?  よく分からないけれど、兎に角、探し出して問い詰めないといけないわ」

 

 

 ノーティスからしてみれば、あり得なかった。  あのエマがあの娘にそんな事する訳がない。  する理由も無い。  あの娘が旅に出てからも、エマとあの娘の話を沢山してきた。  あの娘の話をするエマはとても楽しそうだった。  何かあったんだ。  エマの身に何かがあったとしか思えない。

 

 

 「私もエマを探します」

 

 

 「遠征から戻ってきたばかりで疲れているでしょう?  任を与えられたのは私」

 

 

 「大丈夫です。  それに、エマがそんな事する訳ありませんから。  あの娘は医務室ですか?  会って話をして、あの娘も一緒にエマを───」

 

 

 「トレブル?  死んだわ」

 

 

 「えっ・・・」

 

 

 「言ったでしょう。  魔族の血が暴走を始めたの。  それを処理する為、クイーン様が彼方へ放り出してしまった。  クイーン様の力からして、生きてはいない」

 

 

 イリーナの言葉を聞き、ノーティスは愕然とし、遂にはへたり込んだ。  

 

 

 「そ、そんな・・・」

 

 

 「と、普通なら思うでしょう。  実は、私はトレブルの捜索の任も受けているの。  恐らくまだ生きている。  これは内密にね」

 

 

 「えっ!?  ほ、本当ですか!」

 

 

 その言葉にノーティスはイリーナに縋った。  イリーナの肩を掴み、迫真の表情で迫るノーティスに、イリーナは言葉を続けた。

 

 

 「可能性は五分、といった所でしょうけど。  それよりも、今はエマを探すのが先だわ」

 

 

 「エマが・・・原因だというのは確かでしょうか?」

 

 

 「分からない。  でも、場合によってはロイヤルクラウンに混乱をもたらした者として、それ相応の対応をさせてもらうわ」

 

 

 ノーティスの手を掴み、ゆっくりと降ろすと、イリーナは部屋を見つめながらそう言った。  ノーティスはイリーナを見ながら考えを巡らせた。  あの娘が生きているかもしれない。  そして、あの娘がおかしくなった原因は親友であるエマにあるかもしれない。  それならば、私はエマを問いたださなければならない。  もし、先にイリーナ様達に見つかってしまえば、有無を言わさない事になり兼ねない。

 

 

  

 考えを巡らせたイリーナは、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 「エマは私が探し出します。  イリーナ様はあの娘をお願いします」

 

 

 ノーティスの言葉に、イリーナは暫く何も言わなかったが、ノーティスの気持ちを汲んだ答えを発した。

 

 

 「そう。  それでは其方は任せるわ。  見つけたらアンナ様の元へ」

 

 

 「はい。  イリーナ様、一つだけ、頼みがあります」

 

 

 ノーティスの次の言葉を察したイリーナは、先に答えを放った。

 

 

 「それは私が判断する事では無いわ。  私に与えられた任は、トレブルを見つけ出す事」

 

 

 「分かり、ました」

 

 

 消沈するノーティスに、イリーナは声を掛けた。  それは、常にハッキリと冷静に言葉を発するイリーナの声ではなく、優しく、暖かい温もりのある声だった。

 

 

 「信じているのね、二人の事」

 

 

 「えっ」

 

 

 「仲間って、いいわね。  私は友と呼べる者はもう、いないわ。  その気持ち、想いを大事にね」

 

 

 そう言うと、イリーナは姿を消した。  残されたノーティスは暫く部屋の前に立ちすくんでいたが、直ぐに気持ちを切り替え、エマを探すため駆け出した。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 「ううっ・・・」

 

 

 狭く、暗い闇の中、エマは傷だらけで倒れていた。  そこに、エマを見下ろす赤い目が光った。  その者はエマの頭を踏みながら口を開いた。

 

 

 「おい、まだ死ぬなよ。  お前には全ての責を負ってもらうんだからな。  くふふ」

 

   

あなたの好きな魔族は?

  • オルベルスネーシア
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