ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい 作:nagiayu
「エマ・・・! 何処にいるの!」
ノーティスはロイヤルミュート内を駆け回った。 最初にヴァルハラ門へ向かい、受付メイドをしているエルダやザラ、クロウにエマを見ていないかと問うと、三人とも出国の記録は無いと答えた。
国を出ていないとなると、エマはこの国の何処かに居る筈。 行き交う街の人々に聞いてみても誰もエマの行方を知らなかった。
「はぁはぁはぁ・・・。 これだけ探してもいないとなると、やっぱり国を出たんじゃ・・・。 もう一度、クロウ様達に聞いてみた方がいいわね」
ノーティスが再度、ヴァルハラ門へと向かうと、そこにはクロウと話をする別の黒服メイドがいた。 ノーティスが近づくと、二人の会話が聞こえてきた。
「クロウ、貴女に第九部隊・部隊長の要請が来ているわ」
「私は部隊長になるつもりは無いといったでしょう?」
「幹部部隊長からの要請よ? 断る気なの?」
「・・・」
「オリガ様、イディス様が戦死されて、第九部隊は実質、存在していない部隊になっているの。 実力からして、貴女がなるべきよ」
「他にも優秀な部隊兵がいるでしょう。 その人達を上げたらいいわ」
「いい加減、我儘を言うのは止めなさい。 現状がどうなっているか分かっている筈よ」
「我儘ではないわ。 事実を言っているのよ。 他に優秀な者はいる。 一メイドの私が部隊長になるなんて、その者達からしたら納得いく話じゃない筈よ」
黒服メイドにそう言われていたが、クロウは首を縦に振らなかった。 そんなクロウに、紺服のエルダと黄服となったザラが近づき、声を掛けた。
「クロウさん、私達に気使ってます?」
「あたし達の事なら気にしないで下さい」
「気なんて使ってないわ。 私何かが───」
クロウが二人に話していると、周りの群衆からざわめく声が聞こえた。 ノーティスが其方へ振り返ると、金色の鎧に身を包み、ウェーブの掛かったロングヘアの人物がクロウの元へとやって来た。
「何だ、まだごねているのか、クロウ」
「ロザリー様。 貴女様まで来られるという事は、本気なのですね」
「話は聞いているな? ついて来い。 エルダ、ザラ、クリア。 ここは任せた」
そう言うと、ロザリーは踵を返した。 そして、メイドの三人が頭を下げた。 どうやら、この黒服のメイドはクリアという名らしい。 ノーティスも全てのメイドや部隊兵の名前を知っている訳ではない。 数歩進んだ所で、クロウが動いていない事に気づき、ロザリーは身体ごと振り向いた。
「クロウ、来い」
「それは、命令ですか」
「・・・」
クロウの問いに、ロザリーは直ぐに答えなかった。 ノーティスはロザリーとクロウの関係を知っていた。 同期でありながら、片や部隊長となったロザリーと、実力的には申し分無いが、敢えてメイドの道を歩んでいたクロウ。 命令だと一声言えば、クロウは首を縦に振るしかない。 しかし、ロザリーはその一言に詰まった。 ロザリーにはクロウに対する想いもある。
「いや」
「それでしたら、お引き取りを───」
頭を下げたクロウに対して、ロザリーは自身の想いからの言葉を告げた。
「頼み、だ」
ロザリーの言葉に、クロウが顔を上げると、ロザリーは真っすぐな瞳でクロウを見つめた。
「クロウ。 もう、頼れるのはお前しかいない。 死人使いに殺られたアリッサやミストを始め、オリガもイディスも逝ってしまった。 ミルノア様に共に扱かれ、共に錬磨してきた仲間は、もうお前しかいない」
「“ロザリー様”・・・」
「お前の性格からして、無理な頼みかもしれない。 だが、お前しかいないんだ。 頼む・・・」
頭を下げるロザリーを見て、クロウは一つ息を入れた。 そして、空を眺めると、笑みを浮かべ、ロザリーの前へと進んだ。
「“ロザリー”頭を上げて。 親友の貴女に、そんな事して欲しくないわ」
「クロウ。 良いのか」
「一つ、頼みがあるの。 エルダとザラも部隊兵に入れて欲しいわ。 出来るかしら?」
「えっ!」
「部隊兵になれるんですか!」
クロウの後ろで話を聞いていたエルダとザラが驚き、喜んだ。 そして、ロザリーはそんな二人に目を向けつつ口を開いた。
「あの二人なら問題ない。 クリア、代わりの者を直ぐに選出する」
「はい。 街に入る人々が増えてます。 早急にお願いします」
「ああ。 デキる奴を送る」
それだけ聞くと、クリアは一度頭を下げ、一連の流れで足止めされていた人々の入出国の手続きに精を出し始めた。 ロザリーが先頭に立ち、その後ろにクロウ、エルダ、ザラが続く様にロイヤルクラウンへと向かった。 そんな光景を見ていたノーティスは、ハッと我に返り、四人を追い掛けた。
「クロウさん、やっぱり気を使ってたんじゃないですかー」
「部隊兵・・・部隊兵! やったー!」
茶化すようにクロウの隣でニヤニヤとするエルダと、軽くスキップしながら満面の笑顔で進むザラを見て、ノーティスはエマの事を切り出すのを躊躇っていた。
「気なんて使っていないわよ」
「またまたー」
「お前達、クロウは部隊長になるんだぞ? 態度に気をつけないか」
「いいのよ。 この二人とは部下と長、なんて関係は嫌だから」
クロウの言葉に、エルダが笑みを浮かべてロザリーへと口を開いた。
「聞きました? これがロザリー様との違いですよね」
「ああ。 確かにな。 クロウは何も言わないだろうが、私への態度は別だ」
「あたっ!」
言いながらロザリーはエルダの額にデコピンを放った。 額を摩るエルダを横目に、痺れを切らしたノーティスが口を開いた。
「あのっ。 エマが何処にも見当たらないのです。 やはり出国しているのではないでしょうか?」
「何? 貴女、またそれを聞きに来てたの?」
エルダが呆れた様に言うと、ザラが顎に指を当て、空を眺めながら記憶を辿っていた。
「うーん。 本当に記録には無いですよね。 あたし達は兎も角、クロウさんが不正出国する人を見逃す訳ないですし」
「ええ。 国から出ていないのは確かよ」
「エマに何かあったのか?」
ロザリーが会話に入った事で、ノーティスは事の顛末を四人に話した。 エマがトレブルに対して行った事。 それから行方が分からなくなっている事。 トレブルの暴走については、四人の耳にも既に入ってはいたが、事の発端がエマが差し入れた茶葉という事は知らなかった。
「うええっ!? それ本当!? 城の方が騒がしかったのは知ってたけど、内容までは知らなかったわー」
「エマって、あのお下げの人ですよね? 武器調達部隊に入ったって。 そんな事する様な人には見えませんでしたけどね」
「ノーティス。 その話、他の者にしたのか?」
「いえ、詳しくはしていません」
「その方がいいわね。 案件としては幹部部隊の扱いだわ。 そう、それでイリーナ様が出国されたのね」
少し前にイリーナが単身で出国した事はクロウ達にも分かってはいたが、任務の内容までは聞かされてはいなかった。 合点がいったクロウが軽く頷くと、ロザリーが鋭い目付きで口を開いた。
「イリーナ様の目的はドヤ顔の探索、か。 生きているのか?」
内密と言われてはいたが、ノーティスはこの四人ならば力になってくれる筈であり、そして、イリーナ自身も内密な話をノーティスにした時点で、他の信用ある者を頼りなさいという言葉の真理を捉えていた。
「はい。 内密にですが」
「私達に話した時点で内密じゃないじゃん」
「ですね。 でも、話してくれて良かったですよ。 ねっ、クロウさん」
「ええ。 ロザリー、直ぐに遠征に出たいのだけど」
「手続きは此方でしておく。 ノーティス、お前と私でエマを探すぞ。 クロウ、ドヤ顔は其方に任せる」
早々に次の動きを決めるロザリーとクロウに、ノーティスは戸惑ったが、こんなにも心強いものは無かった。 レディは隠してはいたが、プラムベティとの戦闘で少なからず傷は負っていた。 本人も相当疲れていたのか、休んでいる今は頼りにする訳にはいかなかった。
「でも、いいんですか? ドヤ顔の件って幹部部隊の扱い何ですよね? 探すような勝手な真似して」
最もな意見を言うエルダに、ロザリーがフッと笑みを浮かべて口を開いた。
「ドヤ顔を探すための遠征ではない。 魔物や魔族の討伐の折、ドヤ顔を見つけるだけだ」
「あっ、なるほどー! それなら、偶々見つけたって話になりますね」
「悪い顔してますよ、ロザリー様」
「元から、だ。 クロウ、エルダ、ザラ。 ドヤ顔は昔のあいつではない。 気をつけろ」
真剣な表情でそう言うロザリーに、三人が頷くと、直ぐにヴァルハラ門へと踵を返した。 残ったノーティスとロザリーは横に並び、ロイヤルクラウン城へと入って行った。
「くふふ。 さて、またお前の姿を借りるとするよ」
倒れているエマを見下ろしながら赤い目の女が言うと、女はみるみる内にエマの姿へと変わった。 エマの言葉使いは勿論、癖までも完全に模倣した女は、笑みを浮かべると、本物のエマを残して部屋を後にした。
「ノーティス、城の中は全て見たのか?」
「はい。 しかし、エマの姿は何処にもありません。 途中、メイドにも聞いてみたのですが、誰も見ていないとの事です」
ロザリーの歩く速さについていきながらノーティスが答えると、ロザリーはとある場所で歩みを止めた。 そこは、城の上層階へと続く階段の前だった。
「本当に、全てか?」
階段の先を見ながらロザリーがそう言うと、ノーティスは目を見開いた。
「まさか・・・」
「ここから上は幹部の住居区だ。 “エマ”が隠れるには危険すぎるが、逆に一度隠れられればこれ程探しにくい場所も無い」
「幹部の方の住居区に、ですか? 直ぐに見つかると思いますが」
「本物のエマなら、な」
「誰かがエマの姿を真似していると? そんな事、できる訳がありません」
ノーティスの言葉に、ロザリーは鋭い目付きを階段先に向けたまま口を開いた。
「魔族はな、ただ力で襲って来る奴だけじゃない。 頭の回る奴もいる。 特に、狡賢さに特化した奴は虫唾が走る程だ」
ロザリーの強い答えに、ノーティスはゴクリと喉を鳴らした。 ロザリーは魔族がロイヤルクラウンへ入り込み、エマを襲い、エマの姿であの娘を暴走させたと考えていた。 ロザリーからしても、エマは自分が鍛え込んできた者の一人であり、そんなエマがあの娘の害になる様な事をする訳が無いと、自負していたからだった。
二人が階段先を見つめ、ロザリーが一歩目の階段を上がろうと足を踏み込んだ際、その人物は現れた。
「あれ~? ノーティスちゃん?」
「エマ・・・」
「帰って来てたんだ~。 お帰りなさい~! ロザリー様もこんにちわ~」
幹部の住居区である上層階から降りてくるエマを見て、ノーティスは複雑な表情を浮かべた。 ノーティスは前にいたロザリーの後ろ姿をチラリと盗み見た。 綺麗な金髪と、ウェーブの掛かったロングヘアーが美しく、空気には何の変化も無かった。
「エマ。 探していたぞ」
ロザリーの最初の言葉は何ともない普通の言葉だった。
「私をですか~? 何か用でもありました~?」
「ああ。 それより、幹部の住居区に何の用だ?」
「あ~これはですね~。 “アンナ様”に頼まれた物を持って行っていたんですよ~」
「ほう“アンナ様”がな。 何をだ?」
「それは言えません~。 個人的な事ですから~」
「そうか。 で、ブツは渡せたか?」
「はい~。 今から戻る所です~」
ロザリーとの会話を自然に行い、そう言いながらエマが階段を降りて来ると、ノーティスに微笑みながら口を開いた。
「ノーティスちゃん~久しぶりだね~。 今回の遠征はどうだった~?」
「えっ・・・ああ、大変だったわ」
「そうなんだ~。 後でお話聞かせてね~? それより聞いて~昨日から何も食べて無くてお腹ペコペコなんだ~今から食べに行こうよ~」
言いながらエマは二人の間をすり抜け、先に歩いて行く。 姿はエマと何ら変わらず、歩き方も、話し方もエマと一緒だった。 本当に魔物が変化しているのか、ノーティスは疑問に思いながらロザリーの方へと目を向けた。 ロザリーはエマの後ろをついていき、間をおいて口を開いた。
「エマ」
「何です~・・・ぶっ!!」
エマが振り返った瞬間、ロザリーの拳が顔面にめり込んだ。 吹き飛び、壁に叩きつけられたエマが倒れると、ロザリーは歩みを進めた。
「大変な事をしてくれたな」
「なっ、何をするんです~!」
「ほう、私の一撃をくらって昏倒しないとは。 随分力をつけたな」
「うぐぐ・・・酷いです~!」
血を吐きながらエマがそう言うと、ロザリーは殺意を込めた目で見下ろしながら口を開いた。
「アンナ様はな、個人的な物を受け取る時、イリーナ様からしか受け取られない。 そんな事も調べてなかったのか?」
ロザリーの言葉にエマの姿をした魔族が驚愕した。 そして、自分の中で合点がいったのか、身体を震わせ、怒りに任せて床を叩きつけた。
「ぐっ・・・“あの女”! 私に情報を渡さなかったのか・・・!」
「誰の事を言っているのか知らんが、生きて帰れると思うな」
「くっ・・・くふふ。 くふふふふ! バレたなら仕方が無い・・・死ねえ!」
ゆらりと立ち上がったエマの姿をした魔族は薄ら笑いを浮かべると、ロザリーに向かって鋭い爪を向けた。 しかし、ロザリーは悠々と躱し、魔族の腹部を蹴りつけた。
「おごっ・・・! ぐぐっ・・・」
「エマは何処」
蹴り飛ばされた魔族が嗚咽すると、頭上からノーティスの声が降りかかった。 その冷たい瞳は親友の二人を傷つけられた事から怒りと恨みに染まっていた。
「くっ・・・貴様も死ね!」
爪でノーティスの身体を貫きに掛かった魔族だったが、ノーティスはそれを躱し、服の袖を持つと、顔面に肘撃ちを叩きこみ、魔族の首を掴み床に押し付けた。
「ぐあっ!!」
「エマは何処!! 答えなさい!」
ギリギリと魔族の首を締めながらノーティスが叫んだ。
「くふ・・・私が、どうやって姿を変えれると思う・・・? はぁはぁ・・・美味かったなあ・・・あの女」
血だらけのエマの顔が歪み、ベロリと長い舌を出した魔族を見て、ノーティスの中でプツンと音を立てて切れた。 そして、凄まじい形相で何度も魔族の顔面を打ち付けた。 衝撃で床にヒビが入り込んでいき、ノーティスの拳も血に染まっていった。 そして、魔族の動きが止まった時、ノーティスの腕を捕まえた者が口を開いた。
「もういい。 それ以上はお前の手が傷つくだけだ」
「はぁはぁはぁ・・・」
ロザリーがノーティスを止めると、ノーティスは肩で息をしながら震えていた。
「何故、止めたんですか。 まだ、死んでいません」
「だから、だ。 こいつには聞きたい事が山ほどある。 教えた筈だ、感情に任せた動きはするなとな」
馬乗りの状態で殴り続けられた魔族は、ピクピクと小刻みに震え、エマの顔だった姿は解かれ、魔族の女が現れていた。 しかし、その顔はグチャグチャになっており、魔族の女の血とノーティスの拳から出る血で原型を留めていなかった。
「エマは・・・死んだんですか・・・」
「それを聞き出す。 お前はクラウディア様をお呼びしろ」
「・・・分かり、ました」
フラフラと立ち上がったノーティスは俯きながらクラウディアの地下へと向かった。 拳から流れ落ちる血を拭う事もせず、点々とする血の跡がノーティスの心を示している様だった。 そんな歩き去る後ろ姿を見たロザリーは小さく溜息をついた。
「やはりあいつも問題児だな。 クールに見えて激情型か。 ああいう奴程、怒らせると一番怖い」
あなたの好きな魔族は?
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オルベルスネーシア
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ウィンクドレス
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プラムベティ
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ベスキュビア
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ビクトリア
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ガデルベルナ
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ヴァレリアーナ
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牡丹
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ベルビューヌ
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ルナ
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エルンヴァイス