ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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魔族の誇り

 

 トレブルの娘が村の中でベスキュビアと邂逅している中、イリーナは一人薄暗い森の中を歩いていた。  両手に嵌めている黒い手袋からはポタポタと赤い血が滴り落ち、元を辿れば無数の魔物の死体が転がっていた。

 

 

 (少し休憩しよう)

 

 

 誰に言う訳でも無く、心の中で呟いたイリーナは、適当な大きな木を見つめると、一足で飛び上がり、太い枝に腰を降ろした。

 

 

 (国を出て結構な日が経ったけど・・・クイーン様が投げ飛ばした方角へ来てはいるものの、痕跡の一つもないわね)

 

 

 イリーナはそう考えながら懐から一つの携帯食料を取り出し、それを口にする。  携帯食料に味は殆ど無く、唯、栄養を摂取するだけの代物だった。  パサついた固形物を口にしながら、イリーナは更に思考を巡らせた。

 

 

 (ここら辺まで来ると北の大陸と東の大陸の境に近い。  ここまで見つからないとなると、もう死んでいるかしら。  それか、誰かが保護している?  しかし、この辺りには人間の住む村や街は無いし、考え難い)

 

 

 そんな事を考えている最中、丁度イリーナが休む枝の下を、一匹の魔物が歩いているのが見えた。  暫く様子を見ていたが、魔物はイリーナに気づく事は無く、そのまま森の奥へと消えて行った。

 

 

 魔物が消えて行ったのを見届けたイリーナは、枝から地へと降り立ち、魔物が進んで行った方を見ながら呟いた。

 

 

 「アンナ様なら、死んでいたわね。  私もまだ、甘いわ」

 

 

 そう言ったイリーナは、森の奥へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だから違うっつってんだろ。  もっとこう、ブワッと力を込めるんだよ」

 

 

 「それが分からないって言ってるでしょ!?  貴女みたいに初めから魔族だったんじゃないんだから!」

 

 

 「分かんねー奴だな。  そもそも元は人間何だから器用に振る舞えよ」

 

 

 「出来たら苦労しないっての!」

 

 

 今、私は村から少し離れた場所にある河道にいた。  近くには村の奥にある大岩から流れ落ちる水が川と成って流れている。  村とも繋がっているこの川さえ見失う事が無ければ、どんなに深い森に入っても必ず帰りつける事が出来る。

 

 

 そんな河道で、私は天蓋の生物であるベスキュビアと向かい合って言い合っていた。 不思議に思う。  とんでもない化け物相手なのに、私の肌にはヒリつく空気も感じなかった。  そんな私達から少し離れた所でルナが苦笑いしながら此方を見ており、エルンは適当な岩に腰かけて面白くなさそうに視線を動かしていた。

 

 

 「もう一回やってみろ」

 

 

 「ったく・・・はああっ!!」

 

 

 私は久方振りに手にした銀雪花を構えて気合を入れる。  が、それを見たベスキュビアは苛立ちを隠す事もせず、眉間に皺を寄せて口を開いた。

 

 

 「お前、死ぬか?  この私に何回も同じ事言わせるな」

 

 

 「いきなり魔族にされて悪魔の力を使えって出来る訳ないでしょうが!  つーか勝手に魔族にすんなっつーの!」

 

 

 「お前の中のうざったい人間の血を吹き飛ばしてやったんだ。  感謝しろ。  それに、お前はガキの頃から魔女の血も入ってるっつってんだろーが。  ついでに他の悪魔の血も取り込んでいるんだろ?  出来ねえ訳ねえんだよ」

 

 

 「誰が魔族になりたいなんて言ったのよ!  それに、コツを教えろって言ってんでしょ!」

 

 

 「ブワッと力を込めるんだよ。  さっきから言ってるだろうが」

 

 

 「それが分かんないって言ってるでしょ!」

 

 

 ギャーギャーと言い合う私達を見て、ルナがエルンへと視線を向けずに言葉を発した。

 

 

 「元気になって良かったけど・・・。  エルンちゃんが教えて上げたら?」

 

 

 「何で私が。  そもそもあの娘を魔族にしたってのも気に喰わないのに」

 

 

 「うん。  変な空気だと思ったけど、本来は人間だったんだね」

 

 

 「でも、純粋な人間じゃないよ。  魔女の血が入ってるのは驚いたけど。  ルナ、あんた分かってて助けたんでしょ?」

 

 

 エルンの言葉にルナはピクリと反応すると、恐る恐るといった感じにエルンへと顔を向けた。

 

 

 「気づいてたんだ。  ごめんね」

 

 

 「謝る必要ないよ。  どうなってもあの娘はあの娘だし。  それに、魔族が武器なんて持つわけ無いしね。  おかしいと思ってたよ」

 

 

 そんなエルンの言葉に、言い合っていたベスキュビアがエルンの方へ首だけ振り向き答えた。

 

 

 「魔族が獲物を持たないって考えは捨てるんだな」

 

 

 「あんたには話してないよ」

 

 

 嫌な顔を隠さず、そう言うエルンにベスキュビアはわざとらしく肩を竦ませた。

 

 

 「随分な嫌われ様だ」

 

 

 「当たり前でしょ。  あんたみたいな化け物が来たら誰でも嫌な顔するわよ。  村の皆には手を出さないってのは守ってよね」

 

 

 「此処にいるゴミ共を喰った所で私の血が汚れるだけだ。  それに、隣のカスは私を嫌ってないみたいだがな?」

 

 

 「カスって呼ばないで。  この娘はルナって名前があるんだから」

 

 

 「カスはカスだ。  バカと言い合っていたら喉が渇いた。  おい、寄越せ」

 

 

 言いながら手を差し出すベスキュビアに、ルナがおどおどしながら近づくと、ルナの手に持っていた木で出来た水筒を奪い取って飲み始めた。

 

 

 「んぐっ・・・はあっ。  あーいいな。  此処の水はいい」

 

 

 「ルナ、こっちにおいで」

 

 

 「う、うん」

 

 

 エルンの言葉に踵を返したルナだったが、その手をベスキュビアが掴み、ジッと顔を見つめた。

 

 

 「ちょっと!」

 

 

 「お前、私が怖いか?」

 

 

 ジッと顔を見つめてそう言うベスキュビアに、ルナは震えながら答えた。

 

 

 「は、はい」

 

 

 「お前、先見眼が強いだろ。  それで私の強さが分かっている。  そこにいる“雑魚”とは大違いだ」

 

 

 「止めなさいよ。  ルナが怖がってるじゃない」

 

 

 止めに入る私を無視したベスキュビアは、さらに口を開いた。

 

 

 「お前、いい眼をしている。  “魔族”でいるのが勿体ないくらいだ」

 

 

 ルナの顎を掴み、ゆっくりと品定めする様に顔を近づけるベスキュビアに、震えるルナは何も出来なかった。  見かねた私とエルンがベスキュビアに手を伸ばすと、近くの茂みがガサガサと揺れ始め、二つの影が飛び出して来た。

 

 

 「ルナ姉ちゃんから手を放せー!」

 

 

 「このー!」

 

 

 飛び出して来たのはサーベリアとロジーだった。  二人は果敢にもベスキュビアへと向かったが、ベスキュビアは其方に目を向け、一言声を発した。

 

 

 「ああ?」

 

 

 「うっ!」

 

 

 「ひっ!」

 

 

 睨みつけ、そのたった一言で、二人は金縛りにあったかの様にその場から動けなくなってしまった。  ガクガクと震えながらも拳を作るサーベリアだったが、明らかに力が入っていない。  対照的にロジーは尻もちをついて涙まで流していた。  咄嗟にエルンが二人の前に躍り出ると、低い威嚇する声を発した。

 

 

 「コソコソうざったい空気があると思ったら、魔族のガキか」

 

 

 「村の人には手を出さないって約束よ!」

 

 

 「先に向かって来たのはガキ共だろうが」

 

 

 エルンやサーベリア、ロジーに向かってゆっくりと手を向けるベスキュビアだったが、その手はルナに寄って遮られた。

 

 

 「ルナ・・・姉ちゃんから・・・はぁはぁ・・・離れろっ!」

 

 

 「ううっ・・・はっ、離れてっ!」

 

 

 「殺すか。  うざってえ」

 

 

 「や、止めて下さい!  この子達は私を守ろうとしてくれたんです!」

 

 

 「・・・」

 

 

 「お願いです・・・止めてください」

 

 

 頭を下げるルナにベスキュビアは軽く息を付くと、水筒の水を全て飲み干し、空になった筒をルナへと投げ渡した。

 

 

 「水が切れた。  上流から汲んで来い」

 

 

 「あ、は、はい」

 

 

 「ガキ共。  お守りがしたいんだろ?  行って来い」

 

 

 「っ!」

 

 

 「ひぅ・・・」

 

 

 「さっさと行け!  喰われてえか!!」

 

 

 怒鳴るベスキュビアの言葉に怖気づいた二人は、水を汲みに上流に向かったルナの後を走って追い掛けて行った。  残された私とエルンは互いに顔を見合わせると、先にエルンが口を開いた。

 

 

 「あんた、良い所あるのね」

 

 

 「ああ?」

 

 

 エルンの言葉に不機嫌な態度を取ったベスキュビアだったが、それ以上何も言わず、適当な岩に腰かけ、流れる小川を見つめていた。

 

 

 「水なら此処を流れてる水でいいのに、わざわざ上流に行かせてさ。  あの二人がルナを守ってるって聞いて、役を与えたんでしょ?  怖がらせるのは間違ってるけどね」

 

 

 「お前、やっぱり死ぬか?」

 

 

 追撃する私の言葉に、ベスキュビアは小川から目を離さず言葉だけ口にした。  感じる。  さっきまでのヒリ付いた空気じゃない。  何処か、悲しい、そんな空気。  この生物は、いや、ベスキュビアは言葉こそ悪いし、強さもそれに比例している程に恐ろしいけれど、何処か・・・悲しい生物だと私は思った。

 

 

 

 静かに流れる小川を見つめながら、ベスキュビアは適当な小石を放り投げた。  ポチャンと言う音と波紋が広がったが、その波は流れる水に直ぐに掻き消されて行った。

 

 

 「人間は喰わないのか」

 

 

 「食べる訳ないでしょ」

 

 

 「魔族になったばかりのお前には聞いてねえ、バカ。  そっちの雑魚だ」

 

 

 背を向けて話すベスキュビアに、エルンは私をチラッと横目で見ると、深い溜息を付いて口を開いた。

 

 

 「昔は、食べた。  でも、今は食べないよ。  食べる必要も無いし」

 

 

 「そうか。  じゃあ、殺すだけか」

 

 

 「そんな事する訳ないでしょ。  食べもしない人間を殺して何が面白いのよ」

 

 

 「・・・そうか」

 

 

 そう言うベスキュビアは、そのまま私達の方を振り返る事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 『人間共は殺し尽くすよ!!』

 

 

 【おい、もういいだろ。  抵抗しない人間共を殺す必要あるか?】

 

 

 ≪あははっ!  逃げろ逃げろ!!  逃げ惑う人間共を殺すってのは最高だ!≫

 

 

 戦う事しか能の無い奴

 

 

 『悪趣味ー!  でも、たーのしー!』

 

 

 〔ふふふっ。  ああ、弱い。 甘噛みで死んじゃうなんて、人間は脆いわぁ〕

 

 

 食べる事しか興味の無い奴

 

 

 <私と張り合う人間なんていない。  弱すぎる>

 

 

 自分の強さに自惚れる奴

 

 

 【おい・・・もう、いいだろ】

 

 

 『何?  もう全員死んだの?  まだまだ楽しみ足りない!  ベスキュビア、次に行くよ!』

 

 

 ただ、殺す事だけしか楽しみが無い奴

 

 

 【・・・】

 

 

 燃える人間の住処。  泣き叫ぶ人間のガキ共。  必死に命乞いする人間共。  取れない血の匂い。  死臭の匂いが充満した空気。

 

 

 いつからだ。  この光景も匂いも嫌になったのは。

 

 

 もう、いい───

 

 

 

 『殺せ殺せー!』

 

 

 《ママー!  パパー!》

 

 

 〔ほら、大人しくしなさい。  一番美味しい所が食べれないでしょ〕

 

 

 《お願いじゃ!  子供達には手を出さんでくれ!!》

 

 

 <そんな甘い言葉、聞く訳ない>

 

 

 《誰か助けてー!!》

 

 

 ≪此処も人間が少ないな!  つまらねえ!≫

 

 

 【・・・】

 

 

 

 

 もう、いい。 

 

 

 

 

 

 

 『何の真似?  ベスキュビア。  一人も人間を殺さないなんて。  私達は“御母様”の命でやっているのよ?』

 

 

 【その“御母様”って奴には借りが合ったから今まで黙っていてやったが・・・もう、うんざりだ。  お前等、弱い人間共を殺して面白いか?】

 

 

 『はあ?  人間は殺すもんでしょ?』

 

 

 【それが魔女の刷り込みか。  生憎だがな、私は“純粋な魔族”だ。  必要以上に殺すなんて事はしねえ。  私がまだ若い時は純粋な魔族が溢れていた。  私を含め、そいつらは抵抗しない人間共を殺したりはしねえ】

 

 

 〔バカじゃない?  弱い人間を殺して何が悪いって言うの?  私はお腹一杯食べたいの〕

 

 

 【快楽の為に殺すなんざ、魔族とは言わねえ。  腹を満たす為に殺すのも魔族とは言わねえ。  “本当の魔族”は人間共と命の殺り取りをするんだ。  生きるか、死ぬか。  そうやって互いの力を認め合うんだ】

 

 

 ≪ふっざけんじゃねえ!!  魔族は人間共を殺す為に生まれてきているんだぜ!!  人間共は私達の餌なんだ!  私達に殺される為に生まれてきてんだよ!≫

 

 

 【魔族の誇りさえも持たないお前等は魔族じゃねえ】

 

 

 『この・・・魔族の恥さらしが!  おい!  コイツを殺すよ!!  私達魔族の裏切り者だ!』

 

 

 【もういい。  魔族ですらないお前等は生きている価値もねえ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベスキュビアの言葉に、四匹の魔族は一斉に飛び上がると、その中で、最も好戦的な一匹が地から眺めるベスキュビアに向かって、口を開いた。

 

 

 ≪この裏切り者が!  死ね!≫

 

 

 魔族の一匹は開かれた大口から、圧縮された黄色い弾をベスキュビアに向かって無数に打ち出した。  降り注ぐ黄色い弾はベスキュビアに直撃すると、小規模な爆発が連なり、終いには大爆発を巻き起こした。  舞い上がる砂塵と爆煙が周囲を包み込んで行く。

 

 

 ≪はんっ!  何が純粋な魔族だ!≫

 

 

 『上よ!!』

 

 

 ≪はっ?≫

 

 

 弾を吐き出した魔族が鼻を鳴らしていたが、リーダー格の魔族が警告を鳴らした時には遅かった。  ベスキュビアは一瞬で好戦的な魔族の頭上に現れると、力を込めた拳を魔族の頭へと叩きこんだ。

 

 

 ≪ぶがぁっ!!≫

 

 

 頭を叩き割られた魔族は凄まじい勢いでそのまま地面へと叩き落ちた。  完全に頭を潰され、地へとめり込んだ事で、生死を図る事すら必要無かった。

 

 

 『ちっ!』

 

 

 <ぬああっ!>

 

 

 残った三匹の中で、一際体格の大きい魔族がベスキュビアの背後を取った。  伸びきった爪を武器に、加速をつけた腕を振るうと、ベスキュビアの身体へと突き刺した。

 

 

 <!?>

 

 

 しかし、突き刺したのはベスキュビアが羽織っていたマントだけだった。  またしても一瞬で姿を消したベスキュビアに困惑した魔族だったが、急激な衝撃が彼女を襲った。

 

 

 <あぐっ!!>

 

 

 蹴り落とされた魔族だったが、最初の一匹とは違い、地面に激突する前に両手を地に付け、衝撃を緩和した。

 

 

 <うぐぐっ・・・!>

 

 

 しかし、それ相応のダメージはあるのか、体格のいい魔族はその場に蹲っていた。  そんな中、空に佇むベスキュビアに、食欲が旺盛な魔族が大きな黒い球体を作り上げ、ベスキュビアへと投げ飛ばした。

 

 

 〔これでも・・・くらいなさいっ!〕

 

 

 投げ飛ばされた黒い球体がベスキュビアに迫る中、ベスキュビアは一瞬チラッと地に蹲る体格のいい魔族へと目を向けた。

 

 

 『馬鹿っ!!』

 

 

 リーダー格の魔族がそう言った時には遅かった。  ベスキュビアは迫りくる黒い球体を片手で弾き飛ばした。  それも、飛ばす方向を決めていたのか、黒い球体は地で蹲る体格のいい魔族へと迫った。

 

 

 <あああっ・・・!!>

 

 

 身体が上手く動かず、躱しきれなかった体格のいい魔族はそのまま黒い球体に飲み込まれ、大爆発を起こして塵となっていった。  そんな光景を見ながらベスキュビアはにやけた顔で鼻を鳴らした。

 

 

 【ははっ】

 

 

 〔こんのっ・・・!〕

 

 

 『アイツはただの魔族じゃないのよ!  数で攻めるよ!  お前達!!』

 

 

 リーダー格の魔族が指笛を鳴らすと、ゾロゾロと魔族と魔物の群れが現れた。  そして、数百はいるであろう魔族や魔物の群れがベスキュビアへと一斉に迫り狂った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『はっ・・・はっ・・・はっ・・・!!』

 

 

 それは、時間にして僅か数分程度の事だった。  リーダー格の魔族は一人、地を走っていた。  自慢の翼は片翼が捥がれ落ち、身体中傷だらけで血を流しながら走っていた。  その表情は鬼気迫る物があり、焦りと、苛立ちと、恐怖を混ぜ合わせていた。

 

 

 『じ、冗談じゃない!!  あんな・・・あんな化け物と殺り合いなんて出来るかっ!!』

 

 

 必死に走るリーダー格の魔族だったが、急激に自分の身体が重くなり、遂にはその場に膝を付いた。

 

 

 『ぐああっ・・・何、コレ・・・!』

 

 

 【おい、最後くらい魔族の誇りを見せろよ】

 

 

 重力に押されながらも、何とか顔を上げたリーダー格の魔族の目の前には、赤黒く染まったベスキュビアが佇んでいた。  その赤黒さは、魔族や魔物の血液だと分かるが、ベスキュビア自身に傷は無く、全てが返り血であった。

 

 

 『ゆ、ゆる・・・して!』

 

 

 【最後は命乞いか。  人間共にお前等と同じ魔族と思われるだけで虫唾が走る】

 

 

 そう言うとベスキュビアは、灰色の瞳を輝かせ、リーダー格の魔族を完全に圧し潰した。  全てが終わり、空を見上げるベスキュビアは小さく息を付いた。  そして、そんなベスキュビアを、彼女でさえ分からない程遠くから見つめる赤い目があった。 

 

 

 ジャリジャリとベスキュビアが皆殺しにした魔族の頭を食べながら、その“赤い瞳”は空を見上げる彼女を捉えていた。

 

 

 【あれが、べすきゅびあ。  あのひとなら、わたしをこわしてくれるかなあ?】

 

 

 ニヤリと不気味に笑みを作った“赤い瞳”が揺らめいていた。

 

 

【挿絵表示】

 

   

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