ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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始祖の誕生。


始祖

 

 【ねえ。  あなたがべすきゅびあ?】

 

 

 赤い瞳を携え、ドス黒い血と肉片を口回りに張り付かせた女がそう言った。  その見た目とは裏腹に、言葉の一つ一つがたどたどしく、幼児を思わせる様だった。

 

 

 【何だ、お前】

 

 

 (何か近づいて来ているとは思ったが、空気からして純粋な魔族、か。  それにしても小さい。  余りの小ささに分からなかった。 純粋な魔族でこの空気の小ささ・・・初めて見るな)

 

 

 ベスキュビアは女を一目見て思った。  こいつは、魔族の中でも最弱の魔族だと。  私の様な純粋な魔族であるならば、ある程度の強さは持っていて当然だと思ったが、こんな奴もいるのか、と。

 

 

 【わたし“のあ”っていうの。  あなたがべすきゅびあ?】

 

 

 たどたどしくそう言うノアに、ベスキュビアは溜息交じりに答えた。

 

 

 【お前の様なカスが私に話しかけるな】

 

 

 【どうしていじわるするの?】

 

 

 俯きながらそう言うノアに、ベスキュビアは厄介事は御免だとばかりに踵を返して歩き始めた。  そんなベスキュビアの後を、トコトコとついてくるノアに、ベスキュビアは苛立ちを隠さないまま口を開いた。

 

 

 【失せろ。  私は今、機嫌が悪い】

 

 

 【あなたにおねがいがあるの】

 

 

 【勝手に願うな。  何なんだお前】

 

 

 【わたし、のあっていうの】

 

 

 【名前なんざ聞いてねえ。  失せろって言うのが分からないか?】

 

 

 会話らしい会話にならないノアに、ベスキュビアは振り向いて言った。  そんなベスキュビアをキョトンとした顔で見つめ返したノアは同じ言葉を口にした。

 

 

 【あなたにおねがいがあるの】

 

 

 (面倒くさい奴に捕まったな)

 

 

 【あーあー・・・分かった分かった。  で、何だ?】

 

 

 【わたしをこわしてほしいの】

 

 

 ノアからの意外な言葉にベスキュビアは眉を潜めた。  そして、睨みつけながら口を開いた。

 

 

 【死にたいなら勝手におっ死ね】

 

 

 【できないの】

 

 

 【適当に人間だか魔族に喧嘩でも吹っ掛ければ死ねるだろ】

 

 

 言いながらベスキュビアは再度、歩みを進めた。  

 

 

 【あなたがいいの】

 

 

 【知るか。  ついてくんな】

 

 

 【わたしをこわしてほしいの】

 

 

 そう言うノアに、等々ベスキュビアは完全に歩みを止め、振り向きもせず言葉を紡いだ。

 

 

 【何で私なんだ?  誰でもいいだろうが】

 

 

 【あなた、とても“あかい”の。  こんなに“あかい”のはあなただけなの】

 

 

 その言葉にベスキュビアは振り返った。  ジッと見つめてくるノアに、ベスキュビアは自分の身体を見て答えた。

 

 

 【赤い、だ?  ああ、返り血か。  悪かったな、直ぐに洗って───】

 

 

 【ちがうの。  あなた“あかい”の】

 

 

 【・・・空気か】

 

 

 【くうき?  わからないの。  とても“あかい”ひとをさがしていたの。  ねえ、わたしをこわしてほしいの】

 

 

 【お前の言う赤いってのは恐らく空気の事だろうが。  色が見えるのか?】

 

 

 【ほかのひとはみんなうすいの。  でも、あなたはとても“あかい”の】

 

 

 (空気に色がついているなんて聞いた事もねえ。  こいつだけにしか見えていない事か)

 

 

 【おねがい】

 

 

 ベスキュビアは思案した。  二人の純粋なる魔族がお互いを見ながら、静寂の時が進んでいた。

 

 

 (さて、どうするか。  今、此処でこいつの言う通り壊すか?  簡単に殺せるが、こいつの言いなりになったみたいで気に食わないな。  頭の方はかなりお粗末だが、空気に色がついているとか言っていたな。  使い方次第では面白い事になる、か)

 

 

 【分かった。  だが、お前を殺すには時間が必要だ】

 

 

 【じかん?】

 

 

 【ああ。  殺すとなるとそれなりの準備がいる。  準備には時間が掛かる。  待つ間、一人でいるのもつまらないだろう?  私と来るか?】

 

 

 【いってもいいの?】

 

 

 【お前が良ければな】

 

 

 【いく。  あなたやさしいのね。  はじめてなの。  わたしをこわしてくれるひと】

 

 

 【心配するな。  お前の願いは聞いてやる】

 

 

 (さて、さっきの戦闘で数匹魔族を逃がしてやったからその内こっちに魔女の部下共が来るか。  適当に此奴を使ってみるか。  力の方も知っておかないと意味がないからな)

 

 

 

 

 あれから何度もやってくる追っ手を撒きながらも、ノアの力を見た。  此奴は、空気通り弱かった。  いや、弱すぎた。  その辺にいる魔物にさえ殺られかける程弱かった。  ズタボロになりながら私に涙目になりながら助けを求める此奴は、最早魔族とさえ呼ぶ事は出来なかった。

 

 

 自分を壊して欲しいと懇願する癖に、赤い空気だという訳の分からない理由で私以外には殺されたくないらしく、必死に助けを求めてきた。

 

 

 そんなノアを御するのは簡単だった。  何か言えば何でも言うことは聞いた。  頭の方はガキと変わらず、強さも人間の大人にすら負けるだろうノアは魔物や魔族を殺す私を見て、キラキラした目で見つめてきた。

 

 

 時には役に立つ事もあった。  私ですら確認できない程遠くにいる人間や魔物や魔族も、此奴には見えていた。  魔族としての強さはカスな癖に、先見眼だけは異常な程に強かった。

 

 

 合点がいった。  この弱さでどうやって生き延びてきていたのか。  此奴は強すぎる先見眼のお陰で他の接触を交わし、喰い残しで自身の腹を満たし、そうやってひっそりと生き延びて来ていたのだ。

 

 

 しかし、魔物を貪り喰う時の表情は異常だった。  心底楽しそうに、そして、私ですら眉を顰める程に不気味な笑顔で食事を取っていた。  思えば、この時点で此奴の“危険性”に気付くべきだった。

 

 

 【むー】

 

 

 【むーじゃねえ。  ほら、食べカスがついてる】

 

 

 【むー!】

 

 

 【少しは外見にも気を配れ】

 

 

 顔を適当な布切れで拭いてやると、ノアはガキの様な仕草を見せた。  もしかして、此奴は私のこういう所を見抜いて私に近づいて来たのかもしれない。 

 

 

 【よし、綺麗になったぞ。  偶には顔でも洗え】

 

 

 【うん】

 

 

 【喰ったら寝ろ。  明日は北に行く】

 

 

 【うん】

 

 

 魔物の死臭が漂う中、横になるノアを見て、私は溜息をついた。

 

 

 【何をしているんだ、私は。  こんなガキに・・・】

 

 

 眠るノアの髪を撫でながら、私はある種の使命感の様な物に包まれていた。  私は───

 

 

 私は魔物や魔族、人間達から───

 

 

 此奴を“守らなければならない”。

 

 

 そして、これが“あいつ”が歩んだ道だと感じた。

 

 

 だが、その感情や感覚は間違いだった。  少なくともこの不可思議な魔族、ノアに対しては───

 

 

 【んぐっ・・・おいしい】

 

 

 【お前、何でも美味そうに喰うな?  魔物の肉なんざ美味くもないだろ】

 

 

 【にんげんはおいしい?】

 

 

 【人は喰うな。  できる奴以外はな】

 

 

 【できる?】

 

 

 【お前からしたらできる奴も雑魚も関係ないか。  そうだな、お前の言葉で言うなら“赤い”奴だ】

 

 

 【“あかい”のはおいしい?】

 

 

 【ああ。  いいな?  色が無い奴、薄い奴は喰うな。  それが純粋な魔族というものだ】

 

 

 【わかった】

 

 

 【まあ、お前じゃ人間のガキ一人狩れるかどうかだがな】

 

 

 殺しても殺しても際限なくやってくる魔女の手下共と戦い続け、数十年が経った頃、等々魔女は自身の娘の一人を送り込んできた。  私にしてみれば判断が遅すぎるくらいだが、その娘の一人と対峙した時、合点がいった。

 

 

 魔女は娘の成長を待っていたのだ、と。  あいつと、ウィンクドレスと殺り合った時、私は驚愕した。  何故なら、ウィンクドレスが扱う保護障壁。  あれは、私の唯一の“友”と呼べる者が扱っていた物だったからだ。  

 

 

 その日から、私はノアに構う時間が増えて行った。  ウィンクドレスとの殺り合いは激しかった。  放って置けば治る私の傷を必死に治療するノアを見て、悪くないと思い始めた。

 

 

 【どうしてけんかするの?】

 

 

 ある日ノアが私に尋ねた。

 

 

 【さあな】

 

 

 私は適当に答えた。

 

 

 【べすきゅびあがけがするの、いや】

 

 

 潤んだ目でそう言うノアの頭を撫でてやった。  

 

 

 そんな私達の殺り合いを見ていたノアが、この日も口を挟んだ。

 

 

 【べすきゅびあ。  もうやめて。  あなたはわたしをこわすひとなの】

 

 

 【・・・】

 

 

 【だからいやなの】

 

 

 【分かってる。  ちゃんと“壊して”やる】  

 

 

 言いながらも笑う私にノアは泣きながら私の服を掴んでいた。  それからウィンクドレスとは幾度となく殺し合ったが、決着はつかなかった。  ノアはその度に私の傷を治していた。  何も言わずに。  

 

 

 ウィンクドレスと殺し合う中、私は一人の友の事を思い返していた。  友は純粋な魔族では無く、又、魔女の作り出した半端な魔族でも無かった。  忌族と呼ばれる存在だったが、私と友は初めて出会った時から波長が合った。  何となく殺り合う事も無く、何となく話相手になっていった。

 

 

 別に一緒に生活をしていた訳じゃない。  お互いに好きに行動し、適当な月日が経てば自然と同じ場所に現れ、他愛のない会話を続けていた。

 

 

 そんな友がある日、一人の女性を守りたいと言い出した。  聞けば友と同じ忌族でありながらも、人間どもの女王として一つの国、いや、大陸を治めているという。  忌族として生まれながらも、人間どもに信頼されているそんな人と共に歩きたいと言った。  忌み嫌われ、迫害されてきた忌族の歴史を変える事が出来る、と。

 

 

 友に一緒に来てほしいと言われたが、私は断った。  私からすれば忌族がどうなろうが知った事では無かったし、その女王にも興味が無かった。

 

 

 選択を誤った───

 

 

 それから友と会う事は無くなった。  会おうと思えば会えたが、何となく、誰かを守っている友など見たくもなかった。  思えば私はガキだった。  何てことはない、ただその女王とやらに友を取られた気がして、嫉妬していただけだった。

 

 

 どれくらい時が経ったか、適当な噂で東の大陸を統べていた王国が魔女によって滅ぼされたと聞いた。  魔女の名前を知っていた私の足は自然とその王国に向かっていた。

 

 

 焼け落ちた城壁、無数の転がる人間どもの死体。  溢れかえる魔族や魔物。  目を疑った。  傍で座っていたノアがキョトンとした顔で私を見上げていた。  その光景を見たとき、私は自然に歯軋りを起こした。

 

 

 ───そんな筈は無い!  あいつが・・・クラリスがいて何でこんな事になっている!?

 

 

 クラリスとは殺り合う事は無かったが、強さは本物だった。  だが、事実として、女王とやらに出会ってからあいつの空気は柔らかくなっていった。  そう、女王に出会った事であいつの強さは失われていっていた。

 

 

 孤独と絶望。  怒りと恨み。  それらを糧に強さを増すクラリスや魔族にとって、誰かを守る為の強さというのは“合わなかった”。

 

 

 恨んだ。

 

 

 あいつと出会ったその女王は勿論、あの時、何故あいつと共に行かなかったのかと、自分を恨んだ。  そんな私を、ノアが優しく抱きしめくれた。

 

 

 あれから、私とノアは変わらず彷徨っていた。  魔女の大陸から離れた。  クラリスの敵討ちをするつもりもなかった。  興味も無かった。  いや、正直に言えば、ノアがいる事で私の行動は少なからずも制御されていた。  他の者なら言うだろう。  そんなカス、手放せば良い。  殺せばいい。

 

 

 しかし、数十年という月日は、私にそんな考えすらさせない程だった。 

 

 

 そして、雑魚の分際で湧いて出てくる魔族擬き共に、私の怒りを向けた。

 

 

 お前らが、お前ら如きが───

 

 

 腕の一振りで木っ端微塵に吹き飛ぶ魔族擬き共を見て、私の苛立ちは募っていった。  どいつも、こいつも私の苛立ちを募らせた。  

 

 

 弱い。  弱すぎてつまらないんだよ。  あの時は楽しかった。  力のある人間や純粋な魔族と命の殺り合いをして、疲れたらクラリスと適当な話をして・・・そんな生き方が楽しかった。  唯一、私の怒りをぶつけられる相手はウィンクドレスしか居なかった。    

 

 

 そんな精神と肉体のせめぎ合う時間が流れた。  そして、限界が訪れた。  ノアを殺せない、手放せないジレンマ。  ぶつける場所がない怒り。  唯一の友を失った悲しみ。

 

 

 もう、疲れた。

 

 

 ある日、私の苛立ちと疲れが限界まで達した時、魔族や魔物の死体の群れの傍で腰を下ろしていると、いつもの様に赤い球体が現れた。  中から何度も殺し合ってきたクラリスの力を有した女が出てきた。

 

 

 ウィンクドレスとの殺り合いもこれが最後となるか、何となくそう感じていた。  どちらかが死ぬ。  そして、それは私だという事も分かっていた。

 

 

 【お前の顔を見るのもこれが最後か】

 

 

 ウィンクドレスも分かっていた。  これだけ長い間殺り合えば互いの事など手に取るように分かった。

 

 

 【お前とは何度も殺り合ってきたが、話すのは初めてだな】

 

 

 【私が憎いか?  あの女の力を持った私が】

 

 

 【舐めてるのか。  そんなもの、関係ない。  私はもう、疲れた。  後はお前等で好きにしろ】

 

 

 死への恐怖は無い。  ただ、これで漸く私という存在も終わりを迎えられる。  それが少し、嬉しくもあった。  唯一、ノアの事だけが気にかかった。  チラリと目を向けると、涙を流し、悲痛な顔をしたノアがいた。  ノアも、分かっていた。  これが、最後になるのだと。

 

 

 (悪いな。  お前を壊す約束破っちまった)

 

 

 【・・・苦しませずに逝かせてやる】

 

 

 【案外優しいんだな、お前】

 

 

 瞳を閉じた時、無邪気に笑うノアの顔が浮かんだ。

 

 

 

 

 【だめーー!!】

 

 

 

 

 その言葉と共に、突如として爆発的な空気が当たりを吹き飛ばした。  気付いた時、私は地に倒れていた。  まともに動かない身体を無理やり動かすと、近くでウィンクドレスが必死の形相で保護障壁を張っていた。

 

 

 【な・・・何が起きた・・・】

 

 

 【ぐっ・・・なんて奴だ!  起きたなら手を貸せ!】

 

 

 歯を食いしばりながらそう叫ぶウィンクドレスだったが、保護障壁にヒビが入り込んでいくのを見て、私も自身の力を使いながら隣に立った。

 

 

 馬鹿な!  ウィンクドレスの保護障壁にヒビが入るなど有り得ない!  私ですらそんな事は出来なかった!  一体、誰が───  

 

 

そして、そんな馬鹿げた事をしている人物を見て、目を疑った。  悍ましい空気を発生させるそいつは、私の知っている人物ではなかった。

 

 

 【ノ・・・ノア?】

 

 

 【ああーー!!】

 

 

 更に膨れ上がる空気に、私とウィンクドレスの二人係でさえ押され始めた。  ジリジリと足が地を滑るのが分かった。  歯軋りするウィンクドレスが聞いた事のない音量で私に叫んだ。

 

 

 【お前・・・なんて奴を飼っていた!】

 

 

 【ノアがやっているのか!?  あいつにこんな空気は───】

 

 

 【見たら分かるだろう!  この力・・・お前が飼っていたのは普通の魔族じゃない!  本物の化け物だ!】

 

 

 有り得ない。  魔物にすら殺されかけるあのノアが、純粋な魔族である私と、そんな私と互角の殺り合いをしてきたウィンクドレスを抑え込む等、誰が想像出来ただろうか。

 

 

 荒れ狂う空気を抑えている中、ノアと視線があった気がする。  そんなノアが私に対して何かを呟いた気がした。

 

 

 【べすきゅびあ・・・ありがとう】

 

 

 そして、遂にウィンクドレスの保護障壁と私の重い壁が破られかけたその時、状況は一変した。

 

 

 ノアを中心に大規模な空気の渦が放出されていたが、その空気が逆流を始めた。  空気がノアへと一気に収束すると、先程までとは打って変わって、シンッと辺りが静寂に包まれた。

 

 

 生まれ変わったとでも言うのか、ノアが発する“それ”は、もう私の知っている“それ”では無かった。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 【やっと。  やっと“わたしがわたしになれた”】

 

 

 【はぁはぁ・・・何が・・・だ】

 

 

 ポツリと言うノアに、肩で息を切らせながら私が問うた。  そして、ノアは私に何度も見せたあどけない笑顔を向けた。

 

 

 【ありがとう。  やくそく、まもってくれて。  わたしを、こわしてくれた】

 

 

 【お前は・・・はぁはぁ・・・まだ生きているだろう】

 

 

 【これでいいの。  これがいいの】

 

 

 【そうか、ノアと呼ばれる奴とお前は身体こそ一つだが、お前は中で眠っていたのか】

 

 

 【そう。  ようやくこわしてくれた。  “あのこ”はあなたにかんしゃしていた。  まもってくれていたのね。  ありがとう、べすきゅびあ】

 

 

 ノアを象った者はクスクスと笑いながら言った。  今まで何十年もいい様に扱われた私の苛立ちと怒りが頂点に達した。

 

 

 【ざ・・・けるな。  ノアを・・・返せ!!】

 

 

 【止めろ!】

 

 

 ウィンクドレスの言う事等耳に入らず、私は全力の力で向かった。  殺してやる。  そう息巻いた私の力は、クスッと笑うノアの顔を見て、身体の中から殺意というモノを霧散させた。  私が今まで殺してきた魔族達も、この様な思いだったのだろう。

 

 

 どう足掻いても、私は殺される。  そんな、絶対的な死を連想した。

 

 

 私は、私はとんでもない奴と数十年という時間を過ごしていたのだと、その表情だけで思い知らされた。

 

 

 【あっちに、おいしそうなにおいがたくさん。  たくさん。  たくさん】

 

 

 言いながらノアは西の大陸へと目を向けた。  ノアが何をするつもりなのか、瞬時に悟った私はノアへ向けて力を発した。  震える手で、力を行使した。  しかし、そんな私の力をノアは笑いながら消失させた。  バシンッと言う何かが弾け飛んだ音が響いた。

 

 

 【なっ・・・!】

 

 

 何をしたのかすら分からなかった。  いや、何もしていなかったのかもしれない。  私の力等、この生物には何の意味もなさなかった。

 

 

 【無駄だ。  あいつは最早お前の知るノアとか言う奴じゃない。  あいつは私は勿論、純粋な魔族であるお前も、クソ魔女も含めて、全ての魔族の元だ】

 

 

 【全ての元・・・始祖、だというのか】

 

 

 苦虫を嚙み潰しながら話す私達に目もくれず、始祖は西へと向けていた目を東へと向けながら呟いた。  最早、私達二人等、目に映す必要すら無いのだろう。

 

 

 【だけど、あかくないのはたべてはだめ。  こっちのほうにする】 

 

 

 確かにそう言った始祖は、私達の前から音も無く消えた。  私やウィンクドレスでさえその姿を視認する事は出来なかった。

 

 

 【あいつ・・・まだ、ノアの心が残っているのか?】

 

 

 【淡い期待を持つな。  最後に見ていたのは東、か。  アレが東へ行ったとなると、魔女諸共全ての生物は絶滅するな】

 

 

 淡々と話すウィンクドレスは自分の生みの親や、同族の種としての存続の危機に、何の感情も無かった。  寧ろ、そうなればいいとさえ感じられた。  そんなウィンクドレスに対して、私は私の中に或る言葉を紡いだ。

 

 

 【・・・魔女には借りがある】

 

 

 【まだそんな事に囚われているのか?  あのクソはお前に恩を売ったつもりもない。  偶々クソの侵攻方向だっただけだ】

 

 

 私の昔の事を知っているウィンクドレスに驚きは無かった。  

 

 

 【そっちの方はクラリスとの件でチャラだ。  だが、もう一つ、借りが出来た】

 

 

 そう言う私に対して、無意識であろうが、ウィンクドレスはしっかりと言葉を聞く為か、髪を耳にかける仕草を取った。

 

 

 【お前だ。  クラリスとは似ても似つかないが、お前と会ったこの数十年、悪くなかった。  どんな形であれ、それを生み出したのは魔女だ。  それが、奴への借りだ】

 

 

 意外な言葉だったのか、ウィンクドレスは目を丸くした。  此奴のこんな表情は見た事が無かった。  今日に至るまで、話す事等無く、単に殺り合ってきただけだったが、此奴のこんな顔を見れるのなら、話をするというのも悪くないと思った。

 

 

 【馬鹿みたいな性格だ。  だが、正直、私もお前に会えて良かったと思う。  私の中の“力”がお前と惹かれ合う様になっていたらしい。  実に腹立たしいがな】

 

 

 言いながらチッと舌打ちしたウィンクドレスは罰が悪そうだった。  照れているとでも言うのか、意外な一面が見れた。  今日までの殺伐した雰囲気では無く、柔らかい雰囲気が流れた気がした。

 

 

 【行くか。  ノアは私のもう一人の友、だ。  放って置けない】

 

 

 【ノアではないだろう?  仮にお前の言葉を覚えていたとしても、始祖となったアレがお前の言う事を聞く訳ないだろう】

 

 

 【もう、何かの選択で悔やみたくはない】

 

 

 私がそう言うと、ウィンクドレスは無言のまま目の前に赤い球体を作り上げた。  幾度となく見てきたそれの中は、暗く、闇の空間が広がっていた。

 

 

 【お前の足に合わせていたら間に合わん】  

 

 

 【便利な女だ。  クラリスはこんな力持っていなかったがな】

 

 

 【私を便利屋扱いするな。  殺すぞ】

 

 

 【好きにしろ】

 

 

 言いながら私は恐れも無く、赤い球体へと足を踏み入れて行った。

 

 

 【おい、言い忘れたが、もう一人の友と言うのは私の事じゃないだろうな?  誰がお前の友なんて───】

 

 

 後ろでごちゃごちゃと言いながらやって来るウィンクドレスを無視して、私は始祖と化したノアの事を想った。

 

 

あなたの好きな魔族は?

  • オルベルスネーシア
  • ウィンクドレス
  • プラムベティ
  • ベスキュビア
  • ビクトリア
  • ガデルベルナ
  • ヴァレリアーナ
  • 牡丹
  • ベルビューヌ
  • ルナ
  • エルンヴァイス
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