ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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覚悟

 

私がベスキュビアを連れてルナの家に入ると、予想していた反応を見せたのはエルンだった。  座っていた椅子を倒す程、勢い良く立ち上がると、私の後ろにいるベスキュビアを睨みつけた。  静寂が包む中、椅子が倒れる音を聞いて、ルナがキッチンから慌ててやって来ると、状況を察したのか、ルナは嫌な顔一つせず、ベスキュビアを快く家へと上げた。

 

 

 そして今、ベスキュビアが座る正面には、テーブルに肘をつき、顎に手を当て、更には身体自体を横に向けたエルンがいた。  意地でもベスキュビアと対面する気は無いみたい。

 

 

 「そんなに私が怖いか?」

 

 

 ベスキュビアには二人には話はすると言っていたが、此処まで空気が悪くなるとは思わなかった。  そんな空気を切り裂いたのは意外にもベスキュビアだった。  唯、その言葉は明らかにエルンを挑発する様な言葉で、私は頭を抱えた。

 

 

 「はあ?  勘違いも此処までくると笑いが出るわね」

 

 

 「随分な嫌われ様だ。  これでも、感謝される事もあるんだがな?」

 

 

 「あんたに感謝?  そんな奴いる訳ないでしょ」

 

 

 エルンの素っ気ない言葉に、ベスキュビアは肩を竦めた。  ベスキュビアの空気は変わらない様に見えただろう。  だけど、私には分かる。  ベスキュビアの空気が一瞬だけ、悲しくて、寂しい、そんな空気を出した。  本当に一瞬だけ、だけど。

 

 

 ルナが作る夕食の音がキッチンから響く程、静けさに包まれた部屋だったが、この流れを変えなくては、と思った私は口を開いた。

 

 

 「エルン、ごめんね。  だけど、この人も一人は寂しいと思って。  ついでに、エルンもお友達が出来たら嬉しいんじゃない?」

 

 

 「しばくわよ」     「殺すぞ」

 

 

 「あ、はい。  すいませんでした」

 

 

 二人から心無い言葉に、私は一撃で沈んだ。  無理。  いつも優しいエルンがあんなに苛立ちを覚えた顔するなんて・・・。  おどおどする私だったが、その時、エルンがベスキュビアを睨みつけて牙を向いた。

 

 

 「その前に私があんたを殺すわ」

 

 

 「お前如きが私を殺す?  笑えない冗談だ。  その辺の魔族と脳みそ事取り替えてやろうか?」

 

 

 「は?」        「あ?」

 

 

 殺伐と、今にも殺し合いが始まりかねない空気に、私は更に頭を抱えた。  二人の仲が此処まで悪いなんて、私の考えの甘さが嫌になった。  話をするとかそういうレベルじゃない。  そんな最悪な空気を和らげたのは、魔族のルナだった。

 

 

 「ご飯できたよ・・・って。  何、この空気!」

 

 

 ナイスタイミング!  流石はルナ。  ルナが居ればこの冷めた空気も暖かく包み込んでくれる筈。  私は、渡りに船といった形でルナへと助けを求めた。

 

 

 「あ、ルナ。  この二人をどうにかしてくれない?  今にも殺し合いが始まりそう」

 

 

 「お前、自分が二人に話すからと言ってなかったか?  結局はこのカス頼りか?」

 

 

 横目で睨むベスキュビアの言葉に私は小さくなったが、そんな私への言葉に、エルンが再度嚙みついた。

 

 

 「もう一度ルナの事をカスって言ったら本気で殺すわよ」

 

 

 「それは面白い。  何度でも言ってやろうか?  おい、カ───」

 

 

 その時、私の目に映った光景は、エルンの腕を掴むベスキュビアだった。  エルンが爪を尖らせ、ベスキュビアへと迫り、その腕をベスキュビアが掴んでいる、そんな状況だった。

 

 

 ハッキリ言って、見えなかった。  エルンの動きも、ベスキュビアの動きも。  この二人は私にとって遥か上の存在だということが改めて分かった。

 

 

 「そんなに死にたいなら殺してあげようと思ったのにさ、防ぐなよ。  臆病者」

 

 

 「死ぬことに恐怖は無いがな。  お前如きじゃ、私の命をくれてやる事も出来ないな」

 

 

 二人のやり取りで、テーブルに置かれた綺麗な花瓶が倒れ、ルナが摘んできた一輪の花が水と共に流れた。  そんな空気の中、ルナがツカツカとやって来ると、バンッとテーブルに手をついた。

 

 

 「喧嘩するなら外でして。  此処は皆で楽しく食事を取る所なの」

 

 

 「誰に言っている、カ───」

 

 

 瞬間、ルナを見たベスキュビアの言葉が止まった。  ルナが凄まじい形相で睨みつけたからだ。  ルナの空気自体は変わっていない。  いや、多少なり冷たくはなっているが、それでも、ルナの力自体は弱い。  でも、本気で怒っている事が分かる。

 

 

 「・・・ごめん、ルナ」

 

 

 「ちっ」

 

 

 頭を下げるエルン、罰が悪かったのか、舌打ちだけするベスキュビア。  シンッと静まり帰った部屋で、最初に口を開いたのはルナだった。

 

 

 「エルンちゃん。  お花の水が零れちゃった。  沢まで行って汲んで来てくれない?  その間にご飯の用意しておくから」

 

 

 「えっ・・・あ、ああ、うん。  分かった」

 

 

 ルナに言われてエルンは花瓶を手にすると、玄関へと向かった。  そんなエルンの背中に、再度ルナが言葉をかけた。

 

 

 「沢、だからね」

 

 

 「分かってる」

 

 

 短い会話だったが、エルンはそう言うと、ルナの家を出て行った。  三人になった後、ルナは別の花瓶を持ってくると、倒れていた花をそこに移した。  水は注がれている。  ルナがわざわざエルンを沢まで行かせたのは、ベスキュビアと話をする為だと私は思った。

 

 

 「ルナ。  ごめんなさい。  私が軽率だったわ」

 

 

 「どうしてララが謝るの?」

 

 

 「だって・・・」

 

 

 「ララは悪くないよ。  ねっ、ベスキュビアさん」

 

 

 「私に聞くな」

 

 

 ブスッとした顔で頬杖を付くベスキュビアに、ルナはニコリと笑みを浮かべると、先程までエルンが座っていたベスキュビアの対面へと腰を下ろした。

 

 

 「ねえ、ベスキュビアさん」

 

 

 「あ?」

 

 

 ルナがベスキュビアへと呼びかけると、ベスキュビアはルナを目を合わせず、ぶっきらぼうに答えた。  その後、暫く沈黙が続いたが、再度ルナが口を開いた。

 

 

 「怖いの?」

 

 

 思ってもいない言葉だった。  それは私だけではなく、ベスキュビアもそうだったみたいで、頬杖を外し、眉間に皺を寄せてルナへと顔を向けた。

 

 

 「怖い、だ?  この私がお前みたいなカスを恐れているとでも思ってるのか?」

 

 

 「ううん。  私じゃないよ。  私達の関係に入るのが怖いんでしょ?」

 

 

 「言っている意味が分からないな。  お前等みたいな関係が何だ?」

 

 

 私は唯、黙ってルナとベスキュビアの会話に耳を向けた。  ルナが何を言いたいのか、それは私にも分からない。  だけど、ベスキュビアは何となくだけど、分かってはいる。  何だ?と聞いてはいるものの、ベスキュビアはルナの真意を求めている。

 

 

 「家族」

 

 

 「っ・・・!  ははっ!  お前等カス共みたいな関係に私が恐怖を感じると思っているのか?」

 

 

 「貴女にも、私達みたいな関係の人がいたのね」

 

 

 「そんなものいない。  私はずっと一人だ。  好きなように戦い、好きなように喰う。  それが純粋な魔族だ」

 

 

 「嘘。  分かるよ。  貴女は一人じゃなかった。  今は、そうかもしれない。  だけど、昔は違った筈」

 

 

 「どうして、そう言える」

 

 

 「だって、貴女の言葉は誰かを傷つける様に見えるだけだもん。  本当は自分と深く関わりを持って欲しく無いから、敢えて突き放す様な言葉を使ってる。  ううん。  自分が関わるのが怖いのね」

 

 

 「だから・・・どうして───」

 

 

 「此処に来てくれたから。  本当に嫌いだったり、殺したいなら、ララと一緒に来ないよ」

 

 

 ルナの真正面な言葉に、ベスキュビアは何も言わなかった。  いや、言えなかったと私は思った。  長い沈黙の後、ベスキュビアは小さく息をついた。

 

 

 「お前、やはりいい眼をしている。  心の中が分かるのか」

 

 

 「そんなの分からないよ。  だけど、私も家族を失ったから、だから・・・だから、分かるのかな」

 

 

 ルナの真っすぐな瞳とを受けたベスキュビアは小さく舌打ちすると、伏目気味に小さく口を開いた。

 

 

 「今は、話はしない。  飯の前にする話じゃない」

 

 

 「うん。  いつか話してくれるまで待ってるよ」

 

 

 フンッと小さく呟いたベスキュビアは、先程までの怒り顔ではなく、穏やかな表情だった。  ルナは、ベスキュビアの心をこの短い時間で想った。  それは、誰にも出来る事では無く、同じ経験をしたルナだからこそのものだった。

 

 

 「はぁ~・・・」

 

 

 ゴンッとテーブルに突っ伏した私は深い溜息をついた。  二人の表情は見えないが、私の頭の上からベスキュビアの刺々しい言葉が降りかかった。

 

 

 「これが話をするという事だ。  少しは学べ」

 

 

 「うっさい。  自分の無力さが情けないわ」

 

 

 「どうしたの?」

 

 

 ルナの言葉に、私は顔だけ上げると、ルナを見上げた。  心配そうに見つめるルナを見て、エルンは私を姉だと言ったが、本当はルナが姉であるべきではないのかと、私は心の中で再度深い溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 「ほう。  この辺りにな」

 

 

 「うん。  森の中に一杯咲いている場所があってね。  綺麗でしょ」

 

 

 「ああ。  今まで花なんて間近で見る事は無かったな。  だが、悪くない」

 

 

 あれから、二人して話が盛り上がる中、私は面白くなさそうに二人の会話に耳を向けていた。  ルナが新しい花瓶に差した花の話で盛り上がる中、私は沢まで水を汲みに行ったエルンを迎えに行こうと席を立った。

 

 

 「ちょっとエルンを迎えに行ってくる」

 

 

 「ガキじゃないんだ。  放っておけ」

 

 

 「そんな言い方したら駄目だよ。  ララ、お願いしていい?  あ、身体は大丈夫?」

 

 

 「ええ、大丈夫。  じゃ、行ってくるわ」

 

 

 言いながら私は木で出来た扉を開き、外へと歩みだした。

 

 

 私は逃げた。  あの二人の会話に入れる自信も無かったし、それに、何だか邪魔する訳にもいかないと思った。  あれ程の強さと冷酷な空気を持つベスキュビアだったが、ルナと話をしだしてそれが嘘みたいに和らいでいた。  罰が悪かった。  本当は私がルナの役目をしなきゃいけなかったのに、それが出来なかった。

 

 

 「はぁ・・・」

 

 

 溜息をつきながら月明りの中、私は沢の方へと足を進めた。  数件しかいない魔族の集落は、それぞれに灯が灯っている。  小さな川がそれぞれの家を挟んで真ん中を通り、川のせせらぎと、虫の鳴く声が響いていた。

 

 

 そっか、もう暑くなる時期、ね。  私がロイヤルクラウンに入ったのが随分昔な様な気がする。  あれからどれくらい経っただろう。  唯、猛スピードで時が過ぎていった。  だけど、何だか恐ろしく濃い時間だったな。

 

 

 調子に乗ってロイヤルクラウンへ入隊志願。  門兵のオリガさんに打ちのめされ、現実を知りながらも、奇跡的に合格。  誰かと初めての共同の部屋。  ノーティス、エマ、初めての・・・仲間。  初めての模擬戦闘。  初めてのライバル、ダリア。  その付き人のフレデリカは元気にしてるかな。

 

 

 私は一歩、一歩進みながらこれまでの道のりを辿っていった。  そして、違和感に気付いた。

 

 

 あれ?  確か、ダリアを殺しかけて、それで・・・誰かに会った、筈よね。  誰だっけ。  ロザリー様?  アンナ様?  イリーナ様?  いや、違う。  誰か、大切な人と会って、その人に練磨を見てもらった様な気がする。

 

 

 私の歩みは、先程よりゆっくりとしたものになった。

 

 

 「誰・・・だっけ・・・」

 

 

 頭に靄が掛かったかの様に、その人の姿を思い出せない。  黒衣に包まれたその人の顔を思い出せなかった。

 

 

 私の足は、完全に止まってしまった。

 

 

 「誰・・・誰なのよ・・・」

 

 

 その時、ズキンと激しい痛みが私の頭を襲った。  あまりの痛みに、私は頭を押さえ、その場に膝をついた。

 

 

 「ううっ!  思い出せない・・・大切な人・・・だと、思うのに」

 

 

 痛みが増していき、私が苦しんでいると、頭上から聞きなれた声が聞こえた。

 

 

 「っと・・・!  ちょっと!!  大丈夫!?」

 

 

 「うう・・・エ、ルン?」

 

 

 「これ飲んで!  ほら!」

 

 

 エルンから差し出された木で出来た水筒を受け取ると、私は一気にそれを飲み干した。  冷たさが私の中に入り込み、一気に身体が軽くなった。  頭の痛みも多少はあるものの、気にはならない程度に収まった。  暫く私の身体をエルンが支え、ゆっくりしていると、気分も落ち着いてきた。

 

 

 「ふう。  ありがとう、エルン」

 

 

 「いいけど、もう落ち着いた?」

 

 

 「ええ。  何だったのかな」

 

 

 「どうしたの?」

 

 

 「昔の事を思い出してたんだけど、どうしても思い出せない人がいて、それを考えていたら急に頭が・・・」

 

 

 「昔の、事・・・ね。  丁度いい、か」

 

 

 エルンが呟く様にそう言うと、私の手を引っ張り立ち上がらせてくれた。  だけど、エルンは自身の表情を私に見せる事無く、直ぐに背中を向けると、ゆっくりとルナの家へと歩き出した。

 

 

 どうしたんだろう。  いつものエルンとは違う。  空気が、冷たく感じる。  何か怒っている?  それとも、私が変な事を言ったせいかな。

 

 

 歩くエルンの後ろを、私も同じ速さで歩いた。  何となく、エルンの横に行く気はしなかった。

 

 

 「あんた、さ」

 

 

 どれくらい経ったか、エルンが足を止め、背中を向けたまま呟いた。  虫の音と弱い風が吹く中、その言葉はハッキリと私の耳に届いていた。

 

 

 「あんた、人間なんだよね」

 

 

 「ええ。  今となっては元、だけど」

 

 

 「西の大陸の何処にいたの?」

 

 

 「山奥の辺鄙な所よ。  此処みたいに森もないし、石と砂が埃を上げる・・・そんな所」

 

 

 「石と砂、ね。  岩石地帯なら、ボルム山脈かな」

 

 

 「知ってるの?」

 

 

 「昔ね。  行った事があるよ。  そっか、そんな所から来たんだ」

 

 

 嘘はついていない。  私は確かに、ボルム山脈にあるダロの村からやってきた。  その後、ロイヤルクラウンに入隊したけれど、そこは言わなかった。  言ったら、全てが壊れる気がしたから。  だけど、そんな私の心の中を知っているかの様に、エルンは続けた。

 

 

 「それで、ロイヤルクラウンに入ったんだ?」

 

 

 「っ!!」

 

 

 エルンが振り向き様にそう言った瞬間、ザアッと強い風が吹いた。  自然の悪戯か、私の心の中をかき乱す様に、村に咲く花たちは月明りに照らされ、幻想的に乱れ散った。

 

 

 「知って・・・たの?」

 

 

 「調べただけ。  得体の知れない人間がいたら何者か知ろうとするでしょ。  武器を持った変わった服をした人間が血塗れで倒れていたら、尚更ね。  私も魔族としてそれなりに長く生きているから、危険視する情報は集めているよ」

 

 

 「ごめん、なさい。  騙すつもりは───」

 

 

 「黙って」

 

 

 エルンの鋭い目つきと、空気に、私の身体が震えた。  怒っている。  いや、そんな言葉では言い表せない程の怒りと悲しみ、そして、恨みの籠った空気を感じた。

 

 

 「“今”私はお前を殺さない。  殺させもしない。  ルナがそうしようと言ったから。  唯、知って置いて欲しい事がある。  お前等が・・・・ルナの家族を殺した」

 

 

 「・・・」

 

 

 エルンの口から放たれた言葉は、私の心に刺さった。  私が目覚めた時、人間───いや、ロイヤルクラウンに対する言葉と空気から、その可能性を捨てきれずにいた。  でも、信じたく無かった自分もいた。

 

 

 「戦えない・・・ルナの家族を殺したんだ。  それだけじゃない。  此処に住む魔族は全員、お前等ロイヤルクラウンの手で家族を失った者達だ。  ロジーもサーベリアも・・・親を殺された」

 

 

 私は何も言わなかった。  言えなかった。  やっぱり、ロイヤルクラウンに対するエルンのあの怒りは尋常じゃなかった。  唯の人間ではなく、ロイヤルクラウンそのものに怒りを覚えていた。

 

 

 「ルナには話してはいないよ。  こんな事実、話せる訳ない。  だけど、あの娘は頭がいいから、多分気付いているだろうね。  私はあの娘が言った“放って置けないよ。  この人は悪い人じゃないよ。  きっと、友達になれる。  私には分かるもん”って言葉を信じてる。  ほんっとに馬鹿・・・親兄弟を殺された組織にいる者、それも人間を介抱するなんてさ」

 

 

 ルナの言葉と、その時の顔が脳裏に浮かんだ。  ルナは私の事を薄々感づいていながらも、全てを飲み込んで私を助けてくれた。  涙が止まらなかった。  確かにルナの家族も、この村の魔族達の家族の命を奪ったのは私ではない。  でも、だからといって簡単に飲み込める物では到底ない。

 

 

 「うっ・・・くっ・・・」

 

 

 「あんたは人間でもいい娘だよ。  それは分かる。  あの女のせいで血の中は魔族になったのかも知れないけど、それでも、あんたは人間だ。  それだけは変わらない、いや、変わってほしく無い」

 

 

 「ふぐっ・・・うう」

 

 

 「なんて、カッコつけて言ったけどね。  私は私で魔女の部下だったから、あんた等人間を殺してるよ。  何人もね。  それが全てだった。  そうする事が当然だと思ったから。  だから、私は人間に恨まれてもいるだろうし、私達は人間を恨んでる」

 

 

 私は止まらない涙を拭う事無く、俯きながらそう言うエルンを見つめていた。  潤んだ瞳では良く見えないけれど、エルンも泣いている様に見えた。

 

 

 「恨んで、恨まれて。  そんな馬鹿みたいな時間が過ぎて、調子に乗った私は西の大陸で“悪魔みたいに強い女剣士”に殺されかけて、この村に辿り着いた。  ルナやロジー、サーベリアや此処の村の人達に助けられて、私は変わることが出来た」

 

 

 エルンの独白はゆっくりと続いていった。  私はそれを、一言一句逃さずに聞き入った。

 

 

 「ルナ達は戦う事が出来ない。  戦う事が出来ない魔族なんて、ハッキリ言って何の意味も無い。  そう思っていた。  だけど、違う。  違うんだ。  ルナ達は戦えないんじゃない。  “戦わない”んだよ。  そりゃ、他の戦闘特化の魔族達に比べたら力は数十段劣るけれど、それでも普通の人間より強いよ」

 

 

 「戦わ、ない」

 

 

 「うん。  今まで欲求を満たす為に戦う事だけが生きる目的だったけど、今は違う。  私はルナ達を守りたい。  だから、ルナ達を守る為なら、私はなんだってする」 

 

 

 「じゃ、最後に一つだけ」

 

 

 俯き、涙が止まらない私は、エルンの言葉に顔を上げた。  その言葉だけは、私は目を背ける訳にはいかないと思ったから。

 

 

 「あんたがロイヤルクラウンとして、この村の人達を・・・ルナを殺すと言うなら、その前に私があんたを殺す。  ルナはそんな事言わないし、思わないだろうけど、私は違う。  ルナみたいに頭も良くないし、穏やかでもない。  どんな手段を使おうが、何処までも追いかけて殺す。  惨めにその五体を切り裂いてやるから」

 

 

 「・・・」

 

 

 覚悟を決めているエルンの表情は、私に寒気を覚えさせた。  空気は変わらないのに、その表情と瞳が私の心の芯を捉えていた。

 

 

 「急に色々な話をして悪かったね。  疲れたよね。  落ち着くまでこの村でゆっくりしていくといいよ。  その間に、あんたが道を決めればいい。  例え私達と戦う事になっても、ね。  それが、人間と魔族だろうから、ね」

 

 

 「エルン・・・」

 

 

 「んー・・・はあ。  帰ろうか。  ルナのご飯が待ってるよ」

 

 

 大きく伸びをすると、背中を向け、歩いていくエルンを見て思う。  エルンの芯を捉えた言葉に、私はゆっくりと、ハッキリと頷いた。  例えエルンが見ていないであろうが、私は答えを出した。  エルンの言葉は、脅しでも何でもない。  覚悟だ。  私は、この村の魔族達に命を救われた。  例え、どんな状況になろうとも、私は此処の者達に返せない程の恩がある。

 

 

 

 例え、同じ釜の飯を食った者でも、私は此処の者達の為に戦う。  それが、今の私に出来る事なのだから。

 

 

 

 「待って、エルン!」

 

 

 

 涙を拭き、私も覚悟を決め、先を行くエルンの後を駆け足で追いついた。  エルンはチラリと此方に目を向けると、少しだけいつもの柔らかい笑顔を見せてくれた。

 

 

 そんな私達の姿を、村の傍にある森の中から、ジッと見つめる青い瞳がある事を、私は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 「どういう事・・・どうしてトレブルが魔族と一緒に・・・」

 

 

 

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