ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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邂逅

 

 魔族の集落がある方角を見ながら、口を閉ざしたベスキュビアの横顔は、何処か懐かしさと悲しみを混ぜた、そんな表情だった。  しかし、当の本人はそんな感情は無いのかもしれない。  唯、対面するイリーナにはそう見えた。

 

 

 「トレブルの母親がそんな人物だなんて知らなかった・・・」

 

 

 「お前等の先人になる奴の事くらい知っておけ」

 

 

 「先人?  まさか、ロイヤルクラウンに所属していたの!?」

 

 

 ベスキュビアの言葉にイリーナは声を張って驚いた。  純粋な魔族を壊滅させる程の強さを持った人物が昔ロイヤルクラウンに居たというならば、当然ながら文献や書物は残っている筈だった。  しかし、幹部部隊の副部隊長を務めるイリーナですら、そんな話、一言も聞いた事は無かった。 しかし、イリーナにはどうしても合点がいかない事が合った。

 

 

 「でも、待って。  トレブルの年齢は十八、九になるかという所の筈。  少なくとも母親であるその人物が生存していた時の文書は必ず残って───」

 

 

 「因みに、私が封印されていた期間はハッキリと覚えちゃいねぇが“百に近い年月”だ。  後は歴史についても学ぶんだな」

 

 

 言葉を遮る様に、そう言いながら話は終わったとばかりにベスキュビアは立ち上がった。  その行動に、ハッと我に返ったイリーナは戦闘態勢を取った。

 

 

 「殺しはしねえ。  帰ってお仲間に伝えろ。  今、魔女擬きに手を出したら、お前等全員皆殺しにしてやるとな。  あいつは最後の“切り札”だ」

 

 

 ベスキュビアの瞳は本気だった。  ゾクリと背筋が凍る様な感覚を覚えたイリーナは、震える唇を小さく開いた。

 

 

 「どうして、私を殺さないの」

 

 

 「あ?  何だ、死にたいのか?」

 

 

 「違う!  私を逃がせば、私達はいずれ貴女の前に現れる。  魔族である貴女を倒すために。  なら、今此処で私を殺せば───」

 

 

 「お前、自分が私の相手になれるほど強くなれると思っているのか?」

 

 

 「っ・・・!  なって・・・みせるわ」

 

 

 「はっ!  そんな事、天地がひっくり返っても有り得ねえ。  それとも何か?  お前のお仲間が私を討ちに来るか?」

 

 

 ベスキュビアの言葉に、イリーナの脳裏にロイヤルクラウン幹部部隊長である全員の顔が浮かんだ。  あの方々ならこの化け物にも勝てるかもしれない。  そんな、期待を持ってしまう。  それ程までに、主人達の強さをイリーナは知っている。  しかし、それも期待に過ぎない。  目の前にいるのは本物の化け物であり、主人達の強さを知っているイリーナでさえ、この生物を倒せる確信は持てなかった。

 

 

 「駄目だな。  お前等じゃ駄目だ。  お前等じゃ殺されてやる事も出来ねえ。  そもそも、私はエスターと・・・私が認めた友以外に殺されるつもりはねえ」

 

 

 「もう居ない人間に執着しすぎね。  その余裕のせいで、いつか必ず痛い目を見るわよ」

 

 

 「人間の小娘が私に忠告か。  いいぞ。  少しは喰いごたえのある顔つきになった。  だが───」

 

 

 余裕の笑みを不気味に作り上げていたベスキュビアだったが、次の言葉を放つ時、その表情は真剣そのものだった。

 

 

 「お前等の組織が何故、エスターの事を隠しているか、よく考えろ。  人間共が何かを隠す時はな、自分達に“何か都合の悪い事が起こったから”だ。  魔族である私を殺しに来る前に、よく考えて行動しろ」

 

 

 コキコキと首を鳴らし、踵を返したベスキュビアに、イリーナが喰いつき気味に声を張った。

 

 

 「待って!  貴女は以前、ロイヤルクラウンに何が起こったか知っているの!?」

 

 

 「言った筈だ。  少しは歴史を学べとな。  てめえで調べろ。  結果、てめえが居る場所がどんなクソの山の上に建っているか分かるだろ」

 

 

 そう言うと、ベスキュビアは初めからそこに居なかった様に消えた。  音も無く、強大な存在そのものが消えたその場には、ベスキュビアの言葉を聞いたイリーナが唯一人、考え込みながら佇んでいた。

 

 

 「ベスキュビアが封印されて百年近く。  少なくともエスターという人物はベスキュビアが封印される前に存在していた。  そして、トレブルの歳が十八から九。  エスターが本当に唯の人間なら、少なくとも百を超える歳にトレブルを生んだ事になる・・・」

 

 

 イリーナの思考と言葉は、静寂が支配する闇の森に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 私は不思議な空気を感じるものの、人間であるエルディロイネと魔族のエルン、そして、同じく魔族であるルナの三人が話しながら歩く後ろで、突如手を引かれた。  余りの勢いに、足がふらついたが、手を引いた相手が私の顔を自分の顔の近くに引き寄せた。

 

 

 「いたっ!」

 

 

 「しっー!  此処で何してんの、貴女」

 

 

 「え?  レベルカ?  何?」

 

 

 「何?  じゃないわよ。  なんでトレブルの貴女が此処にいるかって聞いてんの」

 

 

 レベルカの言葉に、私はビクついた。  私の事をトレブルだと知っているのは限られる。  もしかしたら、ウィンクドレスが情報を流したのかも知れないけれど、それにしてはレベルカの雰囲気がおかしい。  前を歩く三人には聞かれたくないのか、内緒話をする様に声を低めていた。  そんなレベルカの雰囲気に、私はシラを通す事に決めた。

 

 

 「何言って・・・」

 

 

 「貴女、ロイヤルクラウンに居たんじゃないの?」

 

 

 「・・・どうして、知ってるの?」

 

 

 「どうしてって・・・あ、そうか。  この姿じゃ分からないよね」

 

 

 そう言うと、レベルカは自身に生えている赤い角を消し、牙も隠すと、私が見知った人物へと変わった。

 

 

 「ほら、これで分かった?」

 

 

 「貴女!  クイーン様の黒服メイド・・・!」

 

 

 見た事がある顔だった。  まさか、クイーン様とのお茶会にいた黒服のメイドが魔族だったなんて分からなかった。  余りの驚きに、私の声は自然と大きくなってしまった。

 

 

 「声が大きい!  びっくりしたよ。  魔族の集落にトレブルが居るし、ベスキュビア様も居るし。  訳分かんないんだけど」

 

 

 姿を魔族に戻しながらコソコソと話すレベルカに、私も小さな声で“こっちも驚いたわよ”と告げた。  言われたレベルカはニヒヒッと人懐っこい笑顔を見せた。  そんなレベルカに、私は一つの疑問を投げかけた。

 

 

 「さっき、どうして黙っててくれたの?」

 

 

 「貴女ねえ、あそこで私がそんな事言ったらどうなるか分かるでしょ」

 

 

 ジト目で前を歩く三人を指差しながらそう言うレベルカに、私は首を傾げて口を開いた。

 

 

 「エルンは知っているし、多分ルナも分かっていると思わよ。  えっと、エルディ・・・なんだっけ」

 

 

 「エルディロイネ。  適当に呼べばいいんじゃない、あんな馬鹿。  で、エルンってのがあの歴戦よね?  ふう、ん。  泳がせているのか、何か策があるのか・・・」

 

 

 エルンを見ながらブツブツと独り言を言うレベルカに、私は強い意志を言葉に乗せた。

 

 

 「大丈夫よ。  エルンは悪い魔族じゃないわ」

 

 

 「元人間の貴女が言うと不思議ね。  で、何があって此処にいる訳?  それに、なんで空気が完全に魔族になっちゃってる訳?」

 

 

 レベルカの問いに、私はこれまでの事を話した。  自分が自分じゃない感覚に陥り、気づいたら全身ズタボロで野外で倒れている所をルナとエルン、そして、この村の魔族達に助けられた事。  そこに現れたのがベスキュビアで、気分が悪くなった私を助けてくれた事。  結果、魔族の空気を纏う事になった事。  それらを話すと、レベルカは最初こそ相槌を打ちながら聞いていたが、最後には口元に指を当て、何かを考えている様だった。

 

 

 「暴走。  でも“あの時”はその兆候は無かった。  確かに、飲み物を美味しそうに飲んだのは見て分かったけど、それにしてはいきなりすぎる。  やっぱり、私以外にも入り込んでいる奴がいる訳ね」

 

 

 レベルカの独り言の様な言葉に、私は目を見張って声を上げた。

 

 

 「入り込んでる?  まさか、ロイヤルクラウンに魔族が!?」

 

 

 「そっ。  私もその一人だったんだけどさ。  貴女、クイーン様とお話されている時は人間だった。  でも、次の日に急に暴走したんでしょ。  何かあった筈よ。  覚えてない?」

 

 

 「そんなの、あまり覚えてないわ。  それより!  魔族がロイヤルクラウンに入り込んでいるなんて!  早く知らせないと!」

 

 

 直ぐに村を出る事をルナやエルンに伝えようと、私が駈け出そうとすると、その手をレベルカが掴んだ。

 

 

 「待って待って!  どうやって知らせるつもりよ。  大体貴女、自分がどうしてボロボロの状態で倒れていたのか分かってるの?  十中八九、暴走したせいで誰かが貴女を吹っ飛ばしたのよ?  つまり、今戻れば今度こそ確実に殺されちゃうよ」

 

 

 「でも・・・」

 

 

 「今は向こうの動きを見るのが先決。  それにさ、貴女の首が飛んでいなくて、身体ごと吹き飛ばしたって事は、そういう事よ」

 

 

 「どういう事?」

 

 

 レベルカの言葉の意味が分からない私に、レベルカは思いっきり溜息をつくと、人差し指を私の前に突き出しながら口を開いた。

 

 

 「はあ、本当に資料にあった通りの娘ね。  いい?  殺すだけなら首を落とせばいいの。  暴走しているとはいえ、貴女の力でクイーン様や他の幹部の方達に適う訳がないの。  吹き飛ばしたって事は、貴女を助ける為でもある訳」

 

 

 「でも、私死にかけていたわよ」

 

 

 「そこは、まあ、トレブルの力を信用したとか?  傷の治りも早いんでしょ?  一種の賭けみたいなものよ」

 

 

 レベルカは勢いよく指を突き出していたが、私の言葉に、今度は迷う様に指を遊ばせながら明後日の方を見ながら言った。

 

 

 釈然としないまま、私はあの時の状況を思い出した。  そして、一つの事が頭に浮かんだ。

 

 

 「そういえば、倒れている時に誰かが私に何かした気がする」

 

 

 私の言葉にレベルカが得意げな表情になり、腰に手を当て、胸を張った。

 

 

 「それよ。  そこまで計算した上でやった事だと思うけどな」

 

 

 「そうかしら・・・」

 

 

 「貴女、クイーン様達の事をよく知らないからそう思うのよ。  あの方達は強さだけじゃなく、頭も回るのよ。  現に生きているのがその証拠でしょ」  

 

 

 言いながら頭に手を回し、前を歩く三人の後に続いたレベルカを見て、私はロイヤルクラウンにいる仲間達の心配と、思い出せない記憶にモヤモヤした感情を抱いたままだった。

 

 

 

 

 

 「クロウさんー休みましょうよー」

 

 

 「さっき休んだばかりでしょう」

 

 

 「さっきって二日前じゃないですか。  もー疲れましたー!」

 

 

 「ザラ、文句あるならロイヤルクラウンに帰りなよ。  遊びじゃないんだよ」

 

 

 クロウ、エルダ、ザラの三人がロイヤルクラウンを経って一か月以上経った時、三人は深い森の中を進んでいた。  目的はクイーンに飛ばされたトレブルの捜索だが、ロザリーの報告で表向きは魔物及び魔族の掃討作戦中という事になっている。

 

 

 「仕方ないわね。  少し休むわ。  エルダ、水を確保して。  ザラ、適当に木と葉を集めて火を起こしておいて。  私は食料を狩るから」

 

 

 「やったー!  直ぐやりますね!」

 

 

 るんるんと鼻歌を歌いながら枯れ木を集めるザラを横目に、エルダは呆れた表情でクロウへと口を開いた。

 

 

 「ったく。  クロウさん、ザラに甘すぎますよ」

 

 

 「無理をしてコンディションを落とす訳にはいかないわ」

 

 

 「そうですけど・・・」

 

 

 「いいから。  エルダ、水分は大切だから、しっかりお願いね」

 

 

 「分かってますよ。  っとにもう」

 

 

 ブツブツ言いながら森の奥に消えたエルダに対して、クロウは一つ息を付くと、反対の方へ消えて行った。

 

 

 

 

 「はー、お腹一杯です」

 

 

 「遠征で腹一杯まで食べる娘なんて初めて見たよ」

 

 

 「ザラ、見張りは交代でするから今の内に休んでおきなさい」

 

 

 「いいんですか!?  じゃ、お言葉に甘えまーす!」

 

 

 そう言うと、ザラはその場に横になった。  相当疲れていたのか、直ぐに小さな寝息が聞こえてくる。  そんなザラをジト目で見ながらエルダは小さく口を開いた。  三人は焚火を囲む様に座り、食事を取り終えた。  エルダは自身が愛する武器である黒棍を手入れしていた。  

 

 

 棒術に置いて、メイドの中は勿論、部隊兵の中でもエルダに適う者は居ない。  そもそも、棍を持つ者は多くは無いが、一撃で相手の命を絶つには殺傷力が高い剣やファランクス等、刃を持つ武器で良い。  にも拘わらず、幼い頃からエルダは棍を手に取っていた。  それは、どんなに敵であっても、相手の命の重みを感じ、殺す相手を見定めるのがエルダだった。

 

 

 しかし、それはこの時代では甘いという他はない。  エルダ自身もそれは分かってはいるが、それでも、どうしても一方的に相手を殺す事は出来なかった。  その為、実力は有っても、今までメイドから部隊兵へと昇格する事が無かった。 

 

 

 「クロウさん、本当に甘すぎません?  ザラの奴、調子に乗りますよ」

 

 

 「いいのよ。  ザラがどんな娘かは貴女も分かっているでしょう?  仕事はキッチリこなす娘よ。  オンとオフの切り替えが上手いのよ」

 

 

 「それは分かりますけど、でも状況が状況ですよ。  魔物には何回か会いましたけど、まだ魔族と会っていません。  こんな状態で魔族と出くわしたらって思うと・・・」

 

 

 口ではそう言いながらも、エルダはザラが良く眠れる様に、クロウが狩ってきた獣の皮を毛布替わりに掛けてあげていた。  当然、臭いはするが、そんな事をいってられる状態ではない。  遠征では村や街に宿泊する事はあまりない。  その為、どんな状況にも臨機応変さを求められる。  食べれない、眠れない、飲めない、そんな甘い言葉は通用する訳が無かった。

 

 

 「ザラは良くやっているわ。  これまでも、強い先見眼のおかげで魔物との戦闘も先に動ける事が出来た」

 

 

 「はい。  ザラは私達の中でも一番強い先見眼を持っていますからね。  対して私は・・・」

 

 

 俯き加減にそう言うエルダに、クロウは焚火から目を放さずに口を開いた。

 

 

 「エルダ。  貴女は状況を読み解く術に長けているわ。  私が何も言わずとも貴女が上手く動いてくれるお陰で助かっているわ。  その状況判断力は、部隊長にもなれる筈よ」

 

 

 「そういうクロウさんだって、一瞬で倒しているじゃないですか。  私はそこまで強くないです」

 

 

 「強さだけが部隊長になれる訳ではないわ。  状況の判断を瞬時にする力が必要よ。  仲間を守る為にはね」

 

 

 「この中で一番強いのはクロウさんですから。  私達より早く動けますし・・・でも───」

 

 

 一切焚火から目を放さなかったクロウが、ハッキリとエルダへと顔を向けた。  赤く照らされたクロウの顔をエルダは真正面から受け止めた。  暫く時が経ち、クロウが先に口を開いた。

 

 

 「魔族は本当に敵かどうか、でしょう。  貴女、前からそう言ってたわね」

 

 

 「はい。  魔物には知性がありませんから、自分の食欲に忠実です。  でも、魔族は違います。  知性もあれば理性もあります。  恐怖も感じるでしょうし、怒りもある筈です」

 

 

 「エルダ、貴女の性格も分かっているし、気持ちも分からないではない。  でも、仮に逃した魔族が人々を襲ったら、同じ事が言えるの?」

 

 

 「言えません。  だから、相手を良く見定めて───」

 

 

 「そんな事している間に、殺されるか逃げられるわ」

 

 

 「私はいいんです。  それに、逃しもしないし、殺されもしない。  クロウさんなら」

 

 

 自信を持ってそう言うエルダに、クロウは少しだけ眉を下げると、小さく息を付き、又、焚火へと目を移しながら口を開いた。

 

 

 「私を買ってくれるのは嬉しいけれど、そんなに出来た人間じゃないわ。  私より強い者なんて腐る程いる。  そんな相手が好戦的に現れた時、見定める時間をくれとでも言うつもり?」

 

 

 「そんなつもりは・・・」

 

 

 「甘い考えは捨てなさい」

 

 

 「・・・」

 

 

 沈黙が場を支配した。  パチパチと焚火から火が飛ぶ音だけがする。  不気味なくらいに静かでありながらも、何処か、穏やかな空気もあった。  どのくらい経ったか、焚火に枯れ枝を放り投げたクロウは、エルダへと目を向けた。

 

 

 「と、言いたいけれど、それが貴女が貴女である証拠。  その気持ちは忘れない方がいいわ。  だけど、一つ覚えておきなさい」

 

 

 優しくも、強い言葉を放つクロウに、エルダは目を放す事は無かった。  何を言われるのだろうか。  やはり、甘さを捨て、非情になるべきと言われるのだろうか。  エルダの中では、ある意味そんな言葉で一杯になっていた。

 

 

 しかし、クロウから放たれた言葉は意外な物だった。

 

 

 「貴女の見定めとやらで信じれる者が現れた時、その時は、その者と共に歩みなさい。  それが貴女の選ぶ道ならば、尚更ね」

 

 

 「えっ・・・いいん、ですか?」

 

 

 余りにも自分が思っている言葉とは違った為、エルダは思わず目を丸くし、口をポカンと開いた。  そんなエルダを見て、クロウはクスッと笑うと、優しい言葉をかけた。

 

 

 「見定めに自信が無いの?  エルダの事は信用しているのだけど、私の見込み違いかしら」

 

 

 「そうじゃありませんけど・・・でも、相手は魔族ですよ?」

 

 

 「自分の気持ち、目を信じなさい。  それが、貴女と長くメイドをしてきて、貴女を見て来た私の先見眼よ」

 

 

 「後悔しませんか?  あの時、こんな事言わなければ良かったって」

 

 

 「後悔なんて。  それが貴女の選んだ道でしょう。  アドバイスはしてあげるけれど、最後は貴女が決めなさい。  誰かに言われるんじゃなくて、自分の道くらい自分で決めればいい」

 

 

 ピシャリと言い放つクロウに、エルダを笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

 「やっぱり、厳しいですね、クロウさんは」

 

 

 「ロザリーよりマシでしょう?」

 

 

 「言えてます」

 

 

 お互いにクスクスと笑い合うと、その日、二人は長い夜を過ごした。  これが、お互いにとって最後の夜になるとは知らずに。    

 

 

 その時だった、先程まで眠りこけていたザラが身体を持ち上げると、一点を凝視した。  その表情には鬼気迫る物があり、談笑していたクロウとエルダにも緊張の糸が走った。  エルダは直ぐに焚火を消すと、黒棍を手にし、クロウは漆黒の鉤爪を右腕に装着した。

 

 

 「何か、来ます。  魔族じゃありません。  でも・・・人でもない。  数は二つ。  どちらも強いです、恐ろしいくらい」

 

 

 「避けられそう?」

 

 

 「無理です。  あちらもこっちに気付いています。  真っすぐ来ています」

 

 

 「エルダ、二人で当たるわよ。  ザラは───」

 

 

 状況を察したクロウは即座に二人へ指示を送る筈だった。  しかし、そのクロウの言葉を遮る様にザラが口を挟んだ。

 

 

 「一人、速度が上がった?  速いです!!  正面から来ます!  対応を!」

 

 

 瞬間、三人の正面から凄まじい勢いでやって来る何者かに、クロウは接触した。  右腕に着けられた鉤爪で相手の一撃を防ぐと、弾き返し、距離を取った。  強力な一撃に腕が痺れたクロウは、痺れる腕を左手で押さえながら口を開いた。  

 

 

 「ザラ!  貴女はもう一人から目を放さないで!  エルダ、サポートをお願い!  こっちは私達が!」

 

 

 クロウがザラへと指示を出した時、雲が割れ、徐々に月明りが差し始めた。  暗闇から光が差し始め、相手を目視できた時、三人の目は驚愕に開かれた。

 

 

 「そ、そんな・・・」

 

 

 「うっそでしょ?  まさか・・・」

 

 

 「アリッサ・・・?」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 そこには、かつてのクロウの同期であり、親友でもあったアリッサが立っていた。  死人使いヴァレリアーナに殺され、リースが持ち帰った首だけの姿になってしまったアリッサとミストを抱きしめ、泣いた記憶は未だに覚えている。

 

 

 顔や体はアリッサそのものだが、一つ違う所があった。  それは異常なまでに膨れ上がった右腕だった。  あんな物、以前のアリッサには無かった。  クロウは生気の無い顔をしたかつての親友を目にし、瞬時に状況を察した。

 

 

 死人使いが蘇らせたのだと。  どうやってアリッサの首を手に入れたのか分からないが、あの時、アリッサは確実に死んでいた。  それを、蘇らせた者がいる。  恐らく、あの右腕は別の何かの腕をくっつけたのだろう。

 

 

 そんなかつての親友の姿を見たクロウは歯軋りを起こすと、大声で吠えた。

 

 

 「見ているんでしょう!?  出てきなさい!!  ヴァレリアーナ!!  私は貴女を許さない!」

 

 

 クロウの怒りの籠った声が、深い森の中へ響いた。

 

    

あなたの好きな魔族は?

  • オルベルスネーシア
  • ウィンクドレス
  • プラムベティ
  • ベスキュビア
  • ビクトリア
  • ガデルベルナ
  • ヴァレリアーナ
  • 牡丹
  • ベルビューヌ
  • ルナ
  • エルンヴァイス
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