ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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最高傑作

  あたしの意識が少しだけ戻った時、目に映ったのはアリッサ様の一撃を防ぎながら倒れているクロウさんだった。  クロウさんが危ない。  守らなきゃ。  あたしが、守らなきゃ。  その為に、あたしは此処にいるんだから。

 

 

 アリッサに強力な一撃を叩き込まれ、身体を動かす事は絶対的に出来ない筈だった。  ザラ自身も、どうやって此処まで来れたのかも分からない。  朦朧とする意識の中、クロウを守らなくてはならないと、その一つの答えはハッキリあった。

 

 

 再度、気づいた時、ザラとアリッサは二人して漆黒の闇へと落ちて行っていた。  自身を捨てた決死の特攻は褒められたものじゃない。  だが、ザラは迷いもせず、行動した。  これが自分の役目だと、そうするのが当然だと迷いは無かった。

 

 

 これでいい。  何とかクロウさんからアリッサ様を引き剥がす事が出来た。  あたしの役目は終わった。  後は、クロウさんがあいつを倒せば・・・

 

 

 急速に落ちて行く中、ザラの意識が無くなりかけた時だった。  ガシッとザラの身体を掴んだ感覚で、ザラは意識を取り戻した。  力強く、元からあるアリッサの左腕で掴むと、ザラを抱きしめた。

 

 

 「うっ!  ア、アリッサ様・・・まだ」

 

 

 「・・・」

 

 

 何とか拘束を逃れようと、身体を動かそうとしたが、ザラにそんな力は残っていなかった。  このまま、地面に叩きつけられれば、ザラの身体は最早誰かと分からぬ程、原型を留める事はないだろう。

 

 

 死ぬ事に恐怖は無かった。  だが、自分を盾に衝撃を和らげれば、死人であるアリッサが再度クロウの所に行ってしまう可能性がある。  そんな事になれば、クロウでも二人を同時に相手する事は出来ない。  自分に与えられた役目は何が何でもアリッサを倒し、クロウの邪魔をしない事だった。

 

 

 ザラがそんな事を一瞬で考えていると、不意に声が聞こえた。

 

 

 「ザ・・・ラ・・・」

 

 

 「あ・・・」

 

 

 「ウゴ・・・ク・・・ナ」

 

 

 抱きしめられた腕に力が籠っていく。  そして、ザラは感じた。  アリッサはザラでクッションの役割をしようとしているのでは無いと。  パッと顔を上げると、そこで生気の宿ったアリッサの瞳を見た。  そして、アリッサは左腕から右腕へとザラを移すと、その小さな身体を不釣り合いな右腕で鷲掴みにした。

 

 

 「スマ・・・ナイ・・・メイワ、ク・・・カケタ」

 

 

 「ア、アリッサ様・・・」

 

 

 「ザラ・・・イキ、ロ」

 

 

 アリッサの最後の言葉は、ザラの耳にいつまでも残り続けた。  そして、地が視覚に入り、落劇する瞬間、アリッサは持てる全ての力を込め、右腕を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ザラーー!!」

 

 

 クロウの悲痛な叫びが崖下の闇に吸い込まれた。  クロウの先見眼でも、消えかかった空気がどんどん小さくなっていく事しか見えなかった。  届かないと分かっていながら、手を伸ばしたその手は、震えていた。  同じく、ヴァレリアーナも目を見開き、震える唇を動かした。  しかし、その震えは、驚きや、悲しみといったものでは無く、歓喜からくるものだった。

 

 

 「ああ。  死は美しい。  また一つ、新しい作品が出来る。  心配する事は無いわ。  彼女も私の作品に───」

 

 

 瞬間、ヴァレリアーナの首が飛んだ。  凄まじい殺気を放ったクロウが、黒き爪を振るい、一撃で首を刎ねたのだ。  余りにも一瞬の出来事であった為、首だけとなったヴァレリアーナは何が起きたか分からず、何度か瞬きを繰り返した。

 

 

 そんなヴァレリアーナに、クロウは冷たく口を開いた。

 

 

 「再生するのでしょう。  何度でもしなさい。  何度でも殺してあげるから」

 

 

 「無駄な事よ?  貴女じゃ私は殺せない。  言った筈よ。  私は死なない、と」

 

 

 「言った筈よ。  お前を必ず殺す、と」

 

 

 ぶくぶくと黒い液体がヴァレリアーナの首から吹き出ると、元の姿を復元した。  そして、倒れたままだった胴体は液体と化し、地に消えて行った。  そして、二人の間に一時の風が吹くと、お互いの武具がぶつかり合った。

 

 

 

 “メイク・ザ・アンデッド”

 

 

 今宵何度目にかになる行動だった。  禍々しい剣を地に刺したヴァレリアーナがそう召喚すると、モコモコと地から死人達が現れた。  しかし、そんな死人達はクロウの黒き爪によって再度、黄泉へと送り返されて行った。  周りには凄まじい数の死人が倒れており、二人の対峙の時間の長さを物語っていた。

 

 

 「はぁ、はぁ」

 

 

 「疲れてきた?  ごめんなさい、私が貴女を作品にするにはこうでもしないと、ね」

 

 

 「疲れ?  違うわ。  痛いのよ、心が」

 

 

 「心が痛い?  面白い事言うのね」

 

 

 クロウは足元に転がっていた死人の首に目を移した。  そこには生気の無い顔と目をした男性の首があった。  ドス黒く変色し、これが元は生きていた人物だと言われても、眉を顰めただろう。  そんな首を見つめながら、クロウは小さく口を開いた。

 

 

 「お前は、元人間でありながら人の心を持っていない。  死者をこうやって自分の駒として扱い、挙句に戦闘まで強要する」

 

 

 「そうかしら?  この者達は私が殺した者達。  この者達が何をしていたか知らないでしょう?  死んで当然の奴等ばかり。  私達を壊したんだもの。  そうよ、罰を与えなければいけないのよ。  それでも死んでも尚、私に使えられるその事を光栄に思って欲しいわ。  ふふふ。  愉快でしょう?  私は救っているの。  迷える魂に救いを差し伸べているのよ」

 

 

 口元を歪め、笑うヴァレリアーナに、クロウが口を大きく開いた。  死人達の服装や着ている鎧から、何処かの国や街の民や、騎士達だった。  真面に生きて来た者達だった。  完全に狂ってしまっているヴァレリアーナに、クロウの怒りは湧き上がっていった。  

 

 

 「何が愉しいの!?  この人達の生は既に終わっている!  いや、お前が無残にも終わらせた!!  お前がやっている事は救済でも何でも無い!!  死者を愚弄する愚かな行為よ!!」

 

 

 「愚か?  愚かなのはこの者達よ。  貴女には今、分かって欲しい等と思わない。  邪魔をするなら、ごめんなさい。  貴女も私の作品になれば分かるわ」

 

 

 

 剣を構え、あの見えない衝撃斬を放つ構えを見せたヴァレリアーナに、クロウは回避の構えを取ったが、それは出来なかった。  地から出た手がクロウの足を掴み、動きを封じ込めると、更に別の死人達がクロウへと襲い掛かった。  多数の死人に掴みかかられ、身動きが出来ないでいるクロウへと、ヴァレリアーナが口を開いた。

 

 

 「楽にしてあげる。  あの二人も死んでいるだろうから、私が救って上げないといけないわ」

 

 

 そうして放たれた“ショック”だったが、クロウはヴァレリアーナの言葉で怒りを爆発させ、無理やりに周りの死人達を蹴散らすと、寸でで身を躱した。  真っ二つにされていく死人達を見て、歯軋りを起こしたクロウは一足飛びにヴァレリアーナへと迫り、その黒き爪で顔の半分を貫いた。

 

 

 「無駄だと言っているでしょう」

 

 

 抉った箇所がブクブクと泡立ち、再生するヴァレリアーナに、クロウが再度、黒き爪で貫きにかかった時、クロウの後ろから死人の一人が伸びた爪を突き出して来た。  クロウはそれを転がりながら回避すると、目を見開いた。

 

 

 そこには、死人の爪を躱したヴァレリアーナの姿があった。  そして、その死人はヴァレリアーナに真っ二つに切られると、動かなくなった。

 

 

 再度、多数の死人の群れに襲われたクロウだったが、それらを時には蹴散らし、時には回避し、ヴァレリアーナと距離を取ったクロウが冷静に分析を始めた。

 

 

 (どういう事?  あの女、どんな攻撃をしても再生出来る筈。  死人の爪を恐れた?  何故?  自分の駒が自分に傷をつけるのが許せなかった?  再生出来るのに?  何か、おかしい)

 

 

 周りの死人を倒しながら分析を続けるクロウに対して、埒が明かないと考えたヴァレリアーナは軽く息を付くと、再度、その手に持つ剣を地に突き刺した。  すると、クロウの周りを取り囲んでいた死人達がバタバタとその場に倒れて行った。

 

 

 「今後の為に、使いたくは無かったのだけど。  貴女を手に入れる事が出来るならいいわ。  見せてあげる。  私の最高傑作」

 

 

 そう言ったヴァレリアーナは一度目を閉じると、大きく息を吐き出した。  そして、一つ力を込めると、倒れた死人達がブクブクと黒い泡となり消えて行く中、ヴァレリアーナの傍に禍々しい何かが地から這い出て来た。

 

 

 「ウヴッ・・・」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 「うっ・・・」

 

 

 凄まじい悪臭を放ちながら現れたそれは、ヴァレリアーナによく似ていた。  クロウは余りの臭気に思わず顔を顰め、手で口と鼻を覆った。  それはヴァレリアーナの傍に近寄ると、何かを訴えていた。

 

 

 「アア・・・」

 

 

 「ふふふ。  この作品はね、私が最初に生み出したの。  “名前も分からないけれど”こんなに私の事を想ってくれる作品は無いわ」

 

 

 自分に似た少女を抱きしめたヴァレリアーナは、ゆっくりとクロウへと視線を向けると、口を開いた。

 

 

 「さあ、行きなさい。  貴女にお友達を作って上げるわ」

 

 

 その言葉で、ビクンと身体を震わせた少女はクロウへと迫った。  その余りの速さに、クロウは辛うじて攻撃を躱す事が出来たが、少女が触れた木が腐っていくのを目の当たりにした。

 

 

 (速い。  それに、触れた物を腐食させるなんて・・・)

 

 

 更に迫る少女に対して、クロウは回避する事しか出来なかった。  ニ、三度腕を切り落としたが、ヴァレリアーナと同じで直ぐに再生してしまう為、埒が明かないと判断しての回避だった。

 

 

 (一撃でも当たったらまずいわね。  最高傑作と言うだけあって、他の人達よりレベルが全く違うわ。  あの女をどうにかすれば止まるのでしょうけど、あの女も直ぐに再生してしまう。  この少女もあの女に操られているだけ・・・このままじゃ押し切られる)

 

 

 クロウは少女の攻撃を躱しながら、チラリとヴァレリアーナへと目を向けた。  ヴァレリアーナはクロウと目が合うと、口元を歪め、剣を構えた。  嫌な汗がクロウの背中を伝った瞬間“ショック”が放たれた。  辛うじて躱したクロウだったが、背後から少女の手がクロウの左腕へと触れた。

 

 

 「駄目よ。  私もその作品も忘れちゃ」

 

 

 「ああっ!!  このっ!」

 

 

 何かが焼けるような音が響くと、クロウは声を上げた。  焼けるような痛みに顔を歪めながら、少女を蹴り飛ばすと、クロウは大木へと左腕を突き込んだ。  途端に腐食されていく大木が倒れると、クロウの左腕は大火傷を負ったかの様な有様になっていた。

 

 

 「ぐっ・・・くっ!」

 

 

 「ごめんなさい、痛いでしょう?  でも、咄嗟に直接触れなかったのは流石と言うべきね。  触れればそこから貴女の身体は腐りきった筈だから」

 

 

 (左腕はもう駄目、ね。  唯でさえ厄介な女が相手だったのに、もう一人面倒な娘が増えるなんて・・・)

 

 

 痛みで汗が止まらない中、それでもクロウは冷静さを失わなかった。  多対一のこの状況で、どう戦えばいいのか、そればかりを頭の中で考え続けた。  そして、ヴァレリアーナと対峙する中、一瞬だけクロウは蹴り飛ばした少女へと目を向けた。  しかし、そこには少女の姿は無かった。

 

 

 (いない?  死人なだけあって空気が薄いから私の先見眼では見えない。  何処に───)

 

 

 クロウがほんの数舜だけ、辺りに目を凝らした時、ヴァレリアーナの声が聞こえた。  その声色は、愉快に踊っているのか、にやついた口元から放たれた。

 

 

 「あの作品」

 

 

 クロウがヴァレリアーナへと目を向けると、クロウの足元へ視線を移したヴァレリアーナが口を開いた。

 

 

 「何処から生まれたかしら、ね」

 

 

 「っ!!」

 

 

 クロウの足元の地が競り上がると、少女が地から腕を伸ばしながら湧き出て来た。  瞬時に側転し、その攻撃を躱したクロウだったが、その耳に届いた言葉に、クロウの対応が遅れた。

 

 

 “デッド・ショック”

 

 

 地から無数の赤い棘が生まれると、クロウへと迫った。  クロウは側転から更に身体を捻り、回避を行ったが、完全に躱す事は出来なかった。  脇腹と左足を貫かれたクロウは吐血した。

 

 

 「あぐっ!!  くっ・・・あ!」

 

 

 「面倒をかけないで。  貴女にはあまり傷を付けたくないの」

 

 

 (こ、この女!  この娘まで一緒に!)

 

 

 クロウの目に映ったのは自分と同じく、いや、それ以上に酷い有様の少女だった。  身体中を赤い棘に貫かれていながらも、死人である為、その動きを止める事は無かった。  藻掻きながら、クロウへと手を伸ばすその姿は、最早死人以上の別の何かに成り果てていた。

 

 

 「その傷じゃ真面に動けないでしょう。  楽にしてあげるわ」

 

 

 「冗談・・・言わないで!」

 

 

 無理やりに赤い棘から身体を抜き取ると、クロウの脇腹と左足から血飛沫が上がった。  クロウは痛みに耐えながらも、脇腹から流れ出る血を左手に塗りたくると、それをヴァレリアーナの顔面へと投げつけた。

 

 

 「くっ!  小賢しい真似を・・・!」

 

 

 クロウの血液が顔を覆い、ヴァレリアーナは思わず視界を閉ざした。  そして、ヴァレリアーナが顔を拭き取ると、そこにはクロウの姿は無かった。

 

 

 「森に姿を隠した?  あの傷じゃ真面に動けない筈。  ああ、鬱陶しい。  ああ、こんなに腹立たしい事は無い。  殺してやる、殺してやる、殺してやる。  ああ・・・殺してやるわ」

 

 

 ヴァレリアーナはブツブツと独り言を言いながらクロウの血を舐めとると、赤い棘に刺さったままの少女の元に歩みより、その棘を消失させた。  倒れ込み、藻掻く少女に冷たい瞳を落とすと、少女の髪を掴んで持ち上げた。

 

 

 「いつまでそうやって足掻いているの?  貴女は私の最高傑作。  さっさとあの女を殺してきなさい。  ああ、全身を腐らせては駄目よ。  あの女は私の作品にするのだから」

 

 

 「アア・・・」

 

 

 血涙を流す少女を振り投げると、ヴァレリアーナは千切れた髪の毛を美味しそうに飲み込むと、地へと泡となって消えていった。  少女はそんなヴァレリアーナを見送ると、ヨタヨタと立ち上がり、身体を引き釣りながら森の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 「痛っ!  出血が酷いわね。  速い所勝負を付けないと」

 

 

 クロウは森の中で大木を背に脇腹を抑えながら休んでいた。  抑えている脇腹からは止めどなく血が溢れているが、持っていた薬草で直接抑え込んでいた。  本来、ペースト状に磨り潰し、それを塗りたくる事でその効果を発揮するが、時間の無い今は応急的な処置だった。

 

 

 穴の開いた左足は既に感覚が無くなっており、役に立たない。  そんな激痛の中、クロウには焦りは無かった。  未知なる者と戦う際、どんな時でも冷静さを忘れない事。  ロイヤルクラウンで培ってきた経験からくるこの言葉の意味を、クロウはよく知っていた。

 

 

 「問題は、あの女の再生力。  どんなに致命傷を与えても、瞬時に治ってしまうんじゃ手の打ちようが無い。  だけど───」

 

 

 クロウは自分に言い聞かせるように敢えて言葉を発しながら呟いていた。  言葉にする事で、自分の耳に入り、再度、その意味を考える事が出来るからだった。

 

 

 「何故、あの女は死人の爪を躱したのか。  そこにあの女を倒す鍵がある筈。  残る問題は、あの少女。  あの女と姿が良く似ているから、近親者?  だけど、あの女は名前も知らないと言った」

 

 

 クロウは戦闘中もずっと二人を観察していた。  僅かな可能性も見出す為、状況の把握と、敵の行動の癖や動き、言葉の一つ一つを適格に記憶し、それを反芻した。  ザラとは違い、魔物や魔族の空気を遠くから見える事は出来ないが、戦闘時の相手を見極めるのがクロウの先見眼だった。

 

 

 「右足一本でどれだけやれるか・・・。  だけど、あの女だけは許さない。  アリッサ、ミスト。  エルダ・・・ザラ」

 

 

 クロウは自分の足を見ながらそう呟いた。  流れ出る血は止まってはいない。  そして、クロウの中の炎も消える事は無い。  倒す。  殺す。  あの女だけは何が何でも。  そう、決心した。

 

 

 (この臭い!  来たわね)

 

 

 鼻につく異臭を察知したクロウは、右足一本で立ち上がると、大木に背を預けた。  限りなく空気を消し、辺りに気を配る。  小さな足音が少しずつ大きくなり、異臭も濃くなって来ると、クロウは先に仕掛けた。

 

 

 「ヴアッ!」

 

 

 「貴女も殺しては死なないでしょうけど!  再生するのにあの女より時間は掛かる様ね!」

 

 

 急に飛び出してきたクロウに対応が遅れた少女は、クロウの黒き爪によって両腕を切り落とされた。  倒れ込む少女に、クロウは追撃を行ったが、その口からドス黒い液体を吐き出した。

 

 

 「っ!!」

 

 

 黒い液体は大木に触れると、見る見る内に腐食させた。  そんな危険な攻撃を何とか躱したクロウだったが、少女に蹴り飛ばされた。  距離を離されたクロウは右手で地面を抉りながら衝撃を和らげた。

 

 

 「ちっ!」

 

 

 (流石にやるわね)

 

 

 ゆっくりと立ち上がり、ブクブクと再生する少女を見て、今度はどう出るか考えていたクロウの目に、おかしな光景が入って来た。

 

 

 「ウー・・・・ウー・・・」

 

 

 何か呻きながら少女は辺りを見渡していた。  何かを探しているかの様なその姿に、クロウが眉を顰めながらも、好機と見て、右足に力を込めた時だった。  足元に何かが落ちているのを見つけたクロウは、思わずそれを手に取った。  緊迫しているこの状況で、何故そんな行動を取ったのか、クロウは自分でも分からなかった。

 

 

 それは、少女が被っていたズタボロの帽子だった。  ボロボロになり、何十年も経っているかの様なその帽子には、刺繡が入っていた。  決して上手いとは言えない。  だが、下手なりにも懸命に施したであろうその刺繍は、何かを綴っている様に見えた。

 

 

 「リ・・・リ・・・ア?」

 

 

 クロウはその綴りを思わず口に出した。  決して大きな声では無い。  呟く様に言ったクロウの言葉は、この場の全ての状況を一変させた。

 

 

 「アアーーー!!」

 

 

 途端に雄たけびを上げた女の娘に、クロウは顔を向けた。  女の娘は再生された自分の手で頭を抱え込み、その場に膝をついていた。  錯乱しているのか、頭を抱え、取り乱すその姿は、感情の無い死人では有り得ない事だった。

 

 

 「な、何?」

 

 

 「ウウウッ!!  オネ・・・」

 

 

 「何?  何が言いたいの!?」

 

 

 何かを思い出そうとしているのか、言おうとしているのか、女の娘はクロウへと手を伸ばした。  その手を見た時、クロウは不思議と恐くは無かった。  先程まで、触れれば腐食させてしまう凶器の様な手が、クロウの目には唯の女の娘の手に見えていた。  いつの間にか、不快な異臭も感じなくなっていた。

 

 

 この女の娘は何かを伝えようとしている。  何かを思い出そうとしている。  そう感じたクロウは、元は人間だった女の娘に近づくと、その手を自分の手で包み込み、握った。  瞬間、女の娘から流れていた血涙が、透き通る涙へと変わった。

 

 

 

 

 「お姉・・・ちゃん」

 

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