ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい 作:nagiayu
このままこの少女について行ってもいいのか、クロウは警戒を怠らず、一定の距離を保っていた。
涙を流し、ハッキリと言った言葉は、人のそれだった。 “お姉ちゃん”と確かに言った少女は、ゆっくりと、姉と思われる主の場所へと向かっていた。 そんな少女の後を、クロウは距離を開け、左足を引きずり、薬草で押さえつけた脇腹を気にしながらもついて行った。
(この娘・・・自分の名前を聞いて、何かを思い出した感じだった。 お姉ちゃん。 多分、ヴァレリアーナの事よ、ね。 でも、ヴァレリアーナは名前も知らないと言っていた。 記憶を失くしている)
これまで相手の行動と言動を整理しながら、クロウは前を歩く少女から目を離す事は無い。 可能性は低いが、さっきの行動が演技の可能性も捨てきれない。 警戒だけは怠る訳にはいかなかった。
「おねえ・・・ちゃん」
(さっきからずっと繰り返しているわね。 可哀想な娘。 姉にも名前を忘れられ、挙句に、死人としてあの女の駒であるなんて。 この娘も、もう楽にして上げなければいけないわ)
ブツブツと同じ言葉を繰り返しながらゆっくり歩く少女に、クロウは生きる者として、この少女をもうゆっくりと休ませてやらないといけないと考えていた。
(それにしても・・・)
クロウはそう頭の中で呟きながら脇腹と左足に目を向けた。 脇腹の出血は少なくなった。 薬草は既に全て使い果たし、最後の一枚もクロウの血で変色しているが、最初程の色はついていなかった。 唯、クロウは左足と、左腕を気にしていた。
(左腕は使わなければどうってことは無い。 唯、問題は足の方。 この足じゃもう“ショック”を躱すのは難しいわね)
クロウの取柄の一つである、素早さを奪われた今、クロウはどうやってあの女を殺す事が出来るか、それを考えていた。 その時、前を歩く少女がピタリと動きを止めた。
「見つけたわ。 覚悟は出来たかしら」
(来たわね。 さ、て・・・どうするか)
クロウの考えが纏まらない内にそれが姿を現した。 言葉と共に地から現れたヴァレリアーナは少女を見下し、冷たい瞳を向けていた。 少女は一度ビクリと身体を震わせると、ヴァレリアーナへと手を伸ばした。
「お姉・・・ちゃん」
「その手で触らないで欲しいわね。 貴女は私の最高傑作でしょう。 さっさとその死にぞこないを仕留めなさい」
「お姉・・・」
「ああ、鬱陶しい」
歯軋りを起こしたヴァレリアーナは少女を殴りつけると、倒れた少女の頭を踏みつけ冷酷な声を落とした。
「さっさとやりなさい。 私は貴女の事なんか知らない。 知る必要もない。 殺せ。 殺せ殺せ殺せ!」
ガンガンと少女を踏みつけるヴァレリアーナに、敵ではあるものの、等々クロウが声を荒げた。
「止めなさい! 分からないの!? この娘はお前の妹なのよ!」
「妹? 妹って何? そんな者、私にはいない。 知らない」
壊れた様に言葉を発するヴァレリアーナを見て、クロウには恐怖や焦りは無かった。 唯、クロウは一つだけ思った。 なんと、哀れな事だろうと。
(狂っている。 ヴァレリアーナも元は人間だと言っていた。 そんな人が、どうやったら妹を忘れ、此処まで壊れてしまうのか。 何となく想像はつく。 全てを失った痛み、それに耐えきれず、記憶を封印した。 体の再生は何か別の要因があったとしても・・・哀れな)
「アヴ・・・お姉ちゃ・・・」
少女の頭を踏みつけていたヴァレリアーナだったが、その時、少女が縋るように伸ばした手が、ヴァレリアーナの足に触れ、掴んだ。 その瞬間だった。
「うあっ!! っう!!」
メキメキと言う何かが軋む音と共に、ヴァレリアーナが悲鳴を上げた。 そして、ヴァレリアーナは咄嗟に残った足で少女を蹴り飛ばした。 転がる少女を忌々しく、苦悶の表情を浮かべるヴァレリアーナを見て、クロウは内心可能性として考えていた事に確信を持った。
どんなに攻撃しても再生してしまう、本当の不死と思われたヴァレリアーナの唯一の弱点。 それは───
「そういう事。 分かったわ、貴女の身体の絡繰り。 “自分が作り出した作品からの攻めには再生も出来ず、不死には成れない”。 そうでしょう」
クロウの言葉に、ヴァレリアーナは一瞬だけ眉を顰めたが、直ぐに冷酷な瞳を向けて口を開いた。
「ふ、ふふ。 それが分かった所で貴女からの攻撃は無意味よ」
「そう、そうね。 確かに私からの攻めは無意味でしょうね。 でも、滑稽だわ。 自分が作り出した作品とやらには自慢の身体が何も意味を成さないなんて」
(あの時の反応。 あれは演技でも何でもない。 漸く化けの皮が剥がれたわね。 後は、この女の感情を揺さぶる───)
馬鹿にしたかの様に鼻で笑いながらそう言うクロウに、ヴァレリアーナは唇を噛み締めると、怒気を含んだ言葉を発した。
「黙りなさい。 この身体は私が作り出した作品。 私は不死。 故に何人もこの身体を壊す事は出来ない。 貴女には期待していたのだけど、所詮は人間。 私の命を壊す事は出来ないのよ」
(乗って来たわね。 相当自分の再生力に自信があるのは今までの戦闘で分かっている。 そこさえ刺激すればいい。 精神的に不安定なこの女の事だから、簡単に崩せる)
「まあ、確かに最初から壊れている命を壊す事は出来ないわね。 拍子抜けもいい所ね。 貴女を土に還す事がこうも簡単だなんて。 アリッサもミストも、絡繰りさえ分かっていればこんな勘違い女に殺される事なんて無かったのに」
敢えて、ヴァレリアーナを挑発する様な言葉を選ぶクロウに、ヴァレリアーナは徐々に冷静さを失っていった。
「黙れ・・・黙りなさい・・・この身体は私の・・・全てを賭けた作品」
目を見開き、怒りで震えるヴァレリアーナに、クロウは更に言葉を続けた。
「壊す事が出来ない? 出来るじゃない。 何が不死よ。 世界に不死な存在なんて居はしない。 唯の勘違い女に此処まで苦しめられるなんて、私も練磨が足りないわ」
やれやれと頭を振るクロウに、遂に感情を爆発させたヴァレリアーナが迫った。
「黙れぇ!!」
手に持つ禍々しい剣を振るうヴァレリアーナの一振りを黒き爪で受け止めたクロウは、最後に言葉を紡いだ。
「そうそう、言い忘れたわ。 お前の作品だけど、駄作もいい所ね」
「貴様っ!!」
怒りで感情を抑えきれず、剣を振るうヴァレリアーナだったが、その剣筋は単純な物だった。 左足が動かないクロウにとっても、それを躱す事は容易く、逆に、交錯する瞬間にヴァレリアーナの腕を切り落とし、飛び上がりながら右足で回し蹴りを放った。
真面に顔面に蹴りの入ったヴァレリアーナは地面を抉りながら転がった。 そして、忌々しくクロウを睨みつけた。
「元々、お前の接近戦での剣の腕は話にならない。 それに加えて、怒りに任せた攻撃なんて読み易いわ」
切り落とした腕を踏みつけながら言うクロウに、ヴァレリアーナが怒りの表情を向けた。 そして、ブクブクと再生する腕を見ると、怒りの表情から一転して笑みを浮かべた。 その笑みは自分の身体への悲観が溢れた笑みだった。
「ふ、ふふ。 見なさい。 これが私の作品。 私を壊す事なんて誰にも出来はしない。 そう、私は死ぬ事が出来ない。 永遠なる地獄。 それが私への罰」
そう言うと、ヴァレリアーナは剣を構えた。 その表情は冷たく、先程まで感情の揺さぶりで取り乱していた姿では無かった。 クロウはそんなヴァレリアーナを見て、内心で舌打ちすると、引き摺った左足をチラリと見た。
(ちっ、このまま崩れてくれればと思ったけれど、そう簡単には行かないわね。 やっぱり鍵はあの少女───)
「貴女は私の作品になるのよっ!!」
クロウが少女へと注視した瞬間、ヴァレリアーナは剣を構えると、間髪入れずに“ショック”を放った。
(躱しきれないっ・・・!)
動かない左足では完全に躱しきれないと悟ったクロウは、焼けた左腕を犠牲にした。 肩から吹き飛んだ左腕を気にする事無く、クロウは黒き爪を地面に突き刺すと、地を掻いた。
「っ!?」
「どうせ動かないんだから上げるわよっ!」
急速度で懐に入られたヴァレリアーナは対処する事が出来なかった。 クロウの黒き爪で両手を切り落とされるとその場に倒れた。
「このっ! 無駄だと言う事が分からないようね!」
倒れながらもそう叫ぶヴァレリアーナに対して、クロウは最後の足掻きだったのか、汗を流しながら無くなった左肩を抑え、膝を付いた。
「くっ・・・うう」
「ふ、ふふ。 勝負あった様ね」
そんなクロウを見て、立ち上がり、見下ろすヴァレリアーナの表情は不気味に歪んでいた。 再生された腕は何も起こった形跡も無く、不死の身体の呪いの強さを感じさせた。
「腕が無くなったのは残念だけど、心配しなくていいわ。 あの娘みたいに新しいのを付けてあげるから」
ヴァレリアーナの言葉に、アリッサの姿を思い出したクロウは、忌々しく顔を上げた。 そこで、クロウは目を見張った。 ヴァレリアーナの後ろに迫る“その”姿を見て、クロウは一瞬で状況を把握すると、強張った顔で口を開いた。
「確かに私では貴女を殺せない。 だけど“その娘”ならどうでしょうね?」
クロウの言葉と目線で振り返ったヴァレリアーナの目に映ったのは、自分を羽交い絞めせんとする少女だった。 咄嗟の事で躱しきれなかったヴァレリアーナは、少女にその身体を掴まれた。
「お姉・・・ちゃん」
「はっ、離せっ!!」
「もう・・・や・・・」
縋るように身体を掴み、力を入れる少女に、ヴァレリアーナは顔を顰めた。 メキメキと音を立て、ヴァレリアーナが苦しみの声を上げた。
「うっぐ・・・! こ、の!」
無理やりに引き剥がしたヴァレリアーナは剣を振るった。 そして、肩から腰までを真っ二つに切られた少女は仰け反った。 それを見て、クロウは動かない左足を引きずりながらも、慌てて少女へと向かい、倒れ際の上半身を片手で抱きかかえた。
「お姉ちゃん・・・」
「はぁはぁ・・・なんて事を! 妹だと言うのが分からないの!?」
「私に妹等いない! “コレ”は私の最初の作品! 最高傑作! 名前なんて知らない! どうでもいい!」
叫ぶヴァレリアーナに怒りを再熱させた時、抱き締めるリリアが何かを呟いた。 それは、余りに小さく、クロウにしか聞こえない音だった。 それを聞いたクロウは、一度リリアへと目を向けた。 そこには、半分に閉じられた瞳を向けるリリアがいた。
その瞳を見た時、クロウは小さく頷き、呟いた。
(分かったわ。 ありがとう、リリア)
クロウは一つの決心を付けると、落ちているリリアの帽子へと視線を向け、口を開いた。
「その帽子・・・見てみなさい」
クロウが示す目線の先には、少女から脱げたボロボロの帽子があった。 そして、言われるがままに、ヴァレリアーナが帽子を手に取った。
「これが何? こんな薄汚い帽子───」
目を落とした先には、クロウが目にした刺繍があった。 瞬間、ヴァレリアーナの表情が変わった。 元々、生気の無い色白い肌をしていたヴァレリアーナだったが、その顔面が蒼白した。 目を大きく見開き、身体全体が震えた。
「嘘・・・嘘よ・・・嘘ウソうそ───」
震えながら壊れた様に繰り返すヴァレリアーナの姿を見て、クロウは勝機を見た。 そして、更に言葉を紡いだ。
「はぁはぁ・・・あ、哀れね。 妹の名前すら忘れていたなんて。 その刺繍、貴女が施したんでしょう」
(今の内に・・・リリア、ごめんなさい)
「あ・・・ああ・・・」
ヴァレリアーナの脳内、いや、身体の中にある核に、凄まじい情報量が叩き込まれていった。
『お姉ちゃん、出来た?』
『もう少し・・・痛っ!』
『大丈夫? お姉ちゃん裁縫苦手何だから無理しなくていいのに』
『大丈夫よ。 よし、出来たわ』
『わっ! 見せて見せてー!』
『はい。 どう?』
『下手ー! ヨレヨレー!』
『ご、ごめんね。 やり直すから───』
『でも、嬉しい! コレがいい! ありがとう、お姉ちゃん!』
その叫びは、余りにも悲しく、そして、痛かった。 クロウは後に、ヴァレリアーナとその妹、リリアとの一戦に関して問われると、詳しくは誰にも何も言わず、その全てを自分だけの胸に留めた。
涙を流し、取り乱すヴァレリアーナに、クロウは少女を横にすると、右手と右足だけでバランスを取り、立ち上がった。 そして、膝を付いて泣き叫ぶヴァレリアーナに声を落とした。
「貴女に何があったのか詳しくは分からない。 だけど、人間を恨んでいる事からある程度の想像はつくわ。 苦しかったでしょう。 痛かったでしょう」
「違うチガウちがう・・・私はワタシはわたしは───」
「だけど、だけど・・・お前は・・・いや、貴女は・・・罪のない者達を余りにも殺し過ぎた。 未来ある者達を殺し過ぎた。 どんな理由があっても、それは許される事じゃない。 もう、終わりにしましょう。 この子を解放して上げなさい。 大好きなお姉ちゃんの事を想っている今の内に、人の心がある内に、逝かせて上げなさい」
ゆっくりと、しかし、ハッキリとそう声を落とすクロウに、ヴァレリアーナは 震えながら少女、最愛の妹、リリアへと顔を向けた。 倒れたまま動かないリリアは、それでも姉へと震えながら手を伸ばした。
「リ・・・リア」
「お姉ちゃん・・・」
「ごめんなさい。 ごめんね、ごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ・・・」
ヴァレリアーナが震える手でリリアの顔に触れた瞬間、リリアの身体が動かなくなった。 薄っすら開けられたその瞳は、最後まで姉を見続けていた。 身体が土に還る訳でも無く、二度と再生する事も無かった。
「ごめんなさい。 ごめんなさい───」
リリアの顔に触れながら壊れたかの様に繰り返すヴァレリアーナの姿を見て、クロウは思う。 ミスト、そしてアリッサ。 ドヤ顔と共に遠征に立った者達。 そして、死人として死して尚、戦わされてきた者達。 そんな者達を殺し、自身の作品として宣ったこの女を許す事等、出来はしない。
しかし、しかしだ、この女も又、同族だった人間に全てを奪われ、自我が崩壊し、記憶を封印する程に壊れてしまっていた。 この女は、こうするしかなかった。 自分の身体を呪いながらも、その怨念と言われる程の怒りと悲しみは、どうする事も出来なかったんだろう。
恐らくだが、実際にこの女を壊した者達は既に、死んでいるだろう。 それだけの事をしておきながら、易々と生きていれる、そんな事、この女が許す筈が無い。 それだけでは済まない怨は、この女の全てを支配した。 人で在った事を忘れ、全てを無くしたこの者は───
この世界の縮図でもある。
その昔、魔物や魔族に怯えて暮らす中、人間同士で略奪も在ったと聞く。 食料や寝床、金を求め、力ある者は無き者から奪い取っていた、と。 下らない事をする。 人間同士が争って何になるのか。 理解する事は、永遠に出来ない。
息をついたクロウは、ハッキリと声を上げた。
「ヴァレリアーナ。 終わりにしましょう」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい」
「貴女を黄泉へと返す。 もう、十分に苦しんだわ。 もう───眠りなさい」
「私は・・・私は永遠なる不死・・・ごめんなさい」
「いいえ、貴女は不死なんかじゃない。 あの子が、リリアが教えてくれたわ。 貴女を眠らせる事が出来る、と」
そう言うと、クロウは“それ”を構えた。 そして、膝を付いたまま動かない無抵抗のヴァレリアーナへと突き出した。 ズブリと身体を貫く感触はあるものの、そこから直ぐにブクブクと黒い泡が膨れ上がり、再生する筈だった。
「無理よ。 私は───」
そう呟くヴァレリアーナの言葉が震えた。 身体が元に戻らない。 元々、痛みは在ったが、そんな物、どうでも良かった。 どんなに痛みがあろうが、この苦しみ以上の痛みは無かった。 その筈が、今まで何ともなかったクロウの一撃に、吐血した。
「かはっ! ど、どうして・・・」
「不死の力には、不死の力でしか対抗する事は出来ない」
ヴァレリアーナに切られ、倒れたリリアに駆け寄った際、クロウは“それ”を手にしていた。 リリアから確かに、ヴァレリアーナはどんな攻撃をしようと、身体が切られようと、再生されていた。 しかし、そこには明確な弱点があった。
自分が蘇らせた存在からの攻撃には再生出来ない事。 それは、その者の意志に関係なく、その者の身体を使えば再生する事は出来ない。 呪いには呪いで抗うしか方法が無かった。
「こ・・・これは・・・リリ・・・ア?」
「そう、あの子の腕よ」
ヴァレリアーナの身体を貫いたのはクロウの黒き爪では無かった。 突き刺さったのはリリアの腕だった。 ヴァレリアーナが取り乱している時、クロウは切り落とされたリリアの腕を使った。 何故その様な事をしたのか、それは、リリアから告げられた言葉でもあったからだった。
『つかっ・・・て。 からだ・・・お姉ちゃん・・・助けて・・・・あげ・・・』
「そ、そう・・・リリア・・・最後まで・・・ごめんなさい」
そう言うと、ヴァレリアーナはその場に倒れた。 そして、クロウへと目を向けると、小さく呟いた。 その言葉は、クロウには届かなったが、何を言っているのか、それだけは分かった。
「最後まで“その言葉”だったわね。 だけど、貴女を許す事は出来ない。 さようなら」
クロウのその言葉を聞いたヴァレリアーナは瞳を閉じると、その身体を溶かしていった。
「───さん!! ・・・ロウさん! クロウさん!」
「うっ・・・ザ、ラ?」
「気づきました!? 良かった! 血は何とか止めましたけど、動いたら駄目ですよ!」
「ザラ。 クロウさん・・・目、覚ました? はぁはぁ」
「はい!!」
薄っすら開けた瞳から見えたのは心配そうな顔で覗き込むザラだった。 そして、少し離れた所からエルダの声が聞こえた。 上体だけ起こそうとすると、それを察したザラが身体を支えた。 そして、少し離れた木を背に、座り込むエルダの姿が見えた。
「ク、クロウさん。 大丈夫ですか?」
「あ、貴女こそ・・・エルダ、酷い顔よ」
「あ、はは。 カッコ良くないですか? 暫く鏡は見たくないですよ」
「冗談が言えるくらい・・・なら、大丈夫ね」
「こ、これでも全身痛すぎて倒れたいくらいですけどね」
「エルダさんも応急処置しか出来てないんですから、兎に角休んで下さい!」
いつもの元気な声のザラが立ち上がったが、その足取りは覚束ない。 自慢の盾も持っておらず、鎧もバキバキに壊されている所を見ると、ザラも無事では無い事が見て分かった。 ザラがエルダの傍に座り、ポーチから取り出した包帯を巻いている中、エルダが口を開いた。
「クロウさん・・・アレ、誰のですか?」
エルダの視線の先には、白骨化した人があった。 随分と時が立ち、ボロボロになった骨は、二つ分あり、一つは隣に眠る髑髏より小さく、傍から見れば大人と子供の骨だった。
「絶対に許せない女・・・だけど・・・悲しくて、苦しい・・・そんな人だった。 隣は、その妹よ」
クロウの言葉に、エルダもザラも何も言わなかった。 それだけで、誰かという事が理解出来た。 更にあのクロウが片腕を無くし、片足や脇腹にも穴が開いている事から、かなりの激戦だったと分かった。
「エルダさん、包帯最後です。 出血は押さえましたけど、早くクラウディア様に診てもらわないと・・・」
「馬鹿言うんじゃないよ。 クロウさんも限界来てるってのに、クロウさんが先でしょ」
「エルダ、貴女が・・・先よ」
「言うと、思いました。 譲りませんよ、こればかりは」
「どっちも一緒に診てもらいます!! クラウディア様ならそれくらい出来ます!」
お互いに言い聞かせる様に言うザラを見て、クロウもエルダも小さく笑った。 しかし、気持ちは楽になっているとは言え、身体はそうはいかない。 エルダもクロウも木を背に座り込んだまま動く事は出来なかった。
「何とかロイヤルクラウンに戻らないと・・・こんな所にいつまでもいて魔物や魔族に見つかったらどうしようもないですよ」
辺りを見渡しながらそう言うザラに、クロウは何とか立ち上がろうとするものの、身体が言う事を利かなかった。 そして、一つの決断を下したクロウが口を開いた。
「ザ、ラ。 貴女は少しは動けそう、ね。 ロイヤルクラウンに・・・戻りなさい。 遠征は、此処までよ」
「ク、クロウさん・・・」
「エ、エルダ。 いいわね」
「・・・はい。 ザラ・・・私の活躍、ちゃんと報告してよね」
察したエルダは、努めて明るく、ザラへとそう告げた。 それを聞いたザラも、二人の言葉の意味を察すると、声を上げた。
「い、嫌です! 二人共あたしが連れて帰ります!!」
「動けない二人を運ぶのは無理、よ。 ザラ・・・貴女の先見眼なら、はぁはぁ、魔物や魔族と接触する機会が減るわ。 いいわね、命令よ」
クロウの強い言葉に、ザラは狼狽えた。 どうすればいいのか、命令通り二人を置いて、一人だけ戻るのか───いや、そんな事は出来ない。 そんな事すれば、何れこの二人は此処でその命を終わらせてしまう。 二人にはその覚悟が既にある。 だが、ザラにはその決断を下す事がどうしても出来なかった。
ザラが何か手は無いかと、疲れた頭を回転させている中、三人にとって、予期せぬ事が起きた。
「何だ、あいつ等に喰わせる獣を狩りに少し足を伸ばしてみれば、死にぞこないの人間が三匹、か。 少しは喰いでがありそうだな」
あなたの好きな魔族は?
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オルベルスネーシア
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ウィンクドレス
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プラムベティ
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ベスキュビア
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ビクトリア
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ガデルベルナ
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ヴァレリアーナ
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牡丹
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ベルビューヌ
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ルナ
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エルンヴァイス