ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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侵攻

 (駄目。  駄目よ・・・絶対に手を出しては駄目・・・!)

 

 

 クロウは震えて動けないザラへと、心の中で伝えた。  ザラの顔色は青。  真っ青な表情で汗も出ず、唯、目の前の化け物相手に震える事しか出来なかった。  クロウはゆっくりと、エルダへと目を向けると、エルダは息遣いが荒く、大量の汗を拭きだしていた。

 

 

 それも当然だと、クロウは内心で汗を垂らした。  こんな化け物が存在するなんて思いもしなかった。  人智を超えた化け物は、唯一立ち上がっているザラに近づくと、その小さな身体を見下ろした。

 

 

 「人間三匹がこんな所で何をしている?」

 

 

 化け物の言葉に、誰も返すものはいなかった。  ガシガシと頭を掻き毟る化け物は、ザラの前に立つと、更に小さく見えたザラを見下ろしながら口を開いた。

 

 

 「聞こえないか?」

 

 

 「っあ・・・」

 

 

 ズイッと顔をザラに近づけると、ザラは小さく悲鳴を上げた。

 

 

 「や・・・止めなさい・・・」

 

 

 クロウが何とか振り絞った言葉はそれだけだった。  だが、その言葉で化け物の対象がザラからクロウへと移った。

 

 

 「お前は少しは話せそうだな?  何をしている。  誰だお前等」

 

 

 「はぁはぁ・・・私達は・・・」

 

 

 全身の痛みと、出血の多さ、そして、目の前の化け物の威圧感により、クロウは真面に話すことが出来なかった。  そんなクロウを見て、化け物は首をニ、三度鳴らすと、先に口を開いた。

 

 

 「あーあー、もう言わなくていい。  大方“魔女擬き”の所の奴等だろ。  雰囲気からして、どこぞの奴と殺り合った後か。  どうするかな、喰っちまってもいいが・・・」

 

 

 化け物の言葉に、ザラがビクリと身体を震わせた。  それを感じた化け物はニヤリと笑みを浮かべながらザラへと手を伸ばした。

 

 

 「や・・・!  止めてっ!」

 

 

 何とか振り絞ったクロウの言葉に、化け物は何の反応も示さず、ザラの頭に手を乗せた。  瞬間、糸が切れたかの様にザラがその場に倒れた。

 

 

 「さ、て。  次はどっちかな。  金髪からか」

 

 

 倒れたザラを跨ぎ、座り込むエルダに近づいた化け物は腰を落として目線を合わせた。

 

 

 「あ・・・う・・・」

 

 

 震えて声が出ないエルダに、化け物がエルダの首に手を当てると、エルダもザラと同じように倒れた。 

 

 

 「こ、このっ!  うう・・・!」

 

 

 二人が倒れ、クロウ自身もどうにか立ち上がろうとするが、力が入らない。  そんなクロウに、化け物が近づくと、エルダの時と同じ様に腰を落として口を開いた。

 

 

 「お前が一番死にかけだが、少しは話せるな?  イリーナとか言う女と同じで、魔女擬きを探しに来たんだろう?」

 

 

 「イ、イリーナ様・・・ですって?」

 

 

 「まあ、それはどうでもいい。  魔女擬きを探してどうする気だ?」

 

 

 「貴女の言う・・・はぁはぁ。  魔女擬きと言うのはドヤ顔の事でしょう」

 

 

 「ドヤ顔?  ああ・・・確かに鬱陶しい顔をする時があるな。  で、そいつを見つけてどうする?  殺すか?」

 

 

 化け物の問いに、クロウは鋭い目つきでハッキリと答えた。

 

 

 「冗談、言わないで。  あの娘は連れて帰るわ。  あの娘は私達の・・・仲間・・・」

 

 

 力強くそう言ったが、クロウにも限界が訪れた。  そのままゆっくりと倒れ込むと、完全に意識を失ってしまった。  そんなクロウを見て、化け物は頭をガシガシと掻き毟ると、誰に言う訳でもなく、愚痴を吐いた。

 

 

 「死にかけじゃ話にならないな。  うざったい三匹も増えたし、更に三人も増えるとなると飯が少なくなる。  ちっ。  カスに私が頼むのか。  面倒くせえ」  

 

 

 

 

 

 

 東の国、魔女の城には地を一望できるテラスが在った。  生暖かく、長時間そこにいるだけで気分が悪くなる様な空気の風が吹く中、気持ちよさそうに佇んでいるのはオルベルスネーシアだった。  地を一望すると、魔族や魔物の数は減っているものの、その濃ゆさに変わりはなかった。  そんな光景を見て、オルベルスは小さく笑みを浮かべていた。

 

 

 「へえ、死んだの?  あの不死女」

 

 

 オルベルスが独り言の様にそう言うと、暗がりから声が聞こえる。  姿は見えないまでも、その空気から、存在感は確かにあった。

 

 

 「はい。  ロイヤルクラウンの新部隊長と交戦後、肉体が消滅しました」

 

 

 「うふふ。  自分は不死だと何だと宣っていたのに、死んだの。  面白いわね」

 

 

 不気味に笑うオルベルスの声色に変化は無い。  どうでもいい駒が死んだ、唯それだけの事だった。

 

 

 「しかし、実力は確かでした。  あの身体は我々魔族でも殺せない再生力を持っておりました」

 

 

 「いい働きはしてくれていたのだけれどね。  所詮は人間ね。  どうせ、記憶が戻って壊れたんでしょう。  でも、残念でもあるわね。  御母様もあの不死女には一目置いていたのに」

 

 

 「あの女の力はオルベルス様が?」

 

 

 影からの問いに、オルベルスは風で靡く髪をかき上げ、気怠そうに声を発した。

 

 

 「あの身体はあの女が作った薬のせいよ。  馬鹿な女。  死者を蘇らせる物等ある筈無いのに、必死になっちゃって」

 

 

 「確か、盗賊達が村を襲い、そこで・・・」

 

 

 「そう。  昔の人間と言うのは愚かだったわ。  今は、私達魔族の力が強くなって、人間共の結束力が高まった。  そこに来て、ロイヤルクラウンが幅を利かせているわ」

 

 

 先程までの気怠さとは裏腹に、今度は眉を顰め、忌々しい顔つきでそう言っているであろうオルベルスに、影は機嫌を損ねない様、言葉を選んだ。

 

 

 「心配はいりません。  潜伏しているアルメリアが上手くやるでしょう」

 

 

 「レベルカの馬鹿は人間に絆された。  今度はどうかしら、ね。  余り人間を舐めない方がいいわよ。  特に、追い詰められた鼠程、ね」

 

 

 「それは、ビクトリア様の事を?」

 

 

 影の言葉に、オルベルスは喉の奥を鳴らした。  心底嬉しそうに笑うオルベルスに、影は何も言わず、オルベルスからの言葉をジッと待っていた。

 

 

 「ブルデンバウムを墜とすですって。  世間知らずの古いお嬢様がそう易々とあの国を墜とせるものか。  我々でさえ簡単に手を出せなかった大国よ。  そう簡単には墜とす事は出来ないわ。  た、だ───」

 

 

 饒舌に語るオルベルスの端切れが悪い。  鋭い目つきを地に向けると、ゆっくりと言葉を発した。

 

 

 「三人の封じられた魔族の中でも、最弱とはいえ、ビクトリアも今は希少なる純粋な魔族の一人。  意地は見せるでしょうねえ」

 

 

 「しかし、ビクトリア様に忠誠を誓う者があれ程にいるとは・・・今となっては数だけならば、オルベルス様やプラムベティ様より数倍の戦力と化しています」

 

 

 「彼女の力よ。  言葉巧みに操り、支配する。  質より量で攻め込んだわね。  どちらにしても、面倒な国と面倒な女がぶつかる。  ふふ。  どうなるかしら、ね」

 

 

 笑い声が聞こえるものの、そこに愉しさは無い。  影との対話の中、遂に直接表情を見せる事は無く、背中で語るオルベルスに、影は静かにその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「状況は?」

 

 

 言葉を発したのは、ブルデンバウム王では無かった。  王の間にて、常に王の後ろに立ち、隠す気の無い強大な空気を出している女性だった。  問われた女騎士は、王の前に跪き、その問いに答えた。

 

 

 「少しずつですが、好転しています。  “近衛六臣女”の出撃令のお陰で押し返しています。  現在、城下町まで侵入してきた魔族及び魔物と交戦中です。  一匹の力は大した事はありません。  名持ちも今の所は見えません。  ですが・・・余りにも数が多すぎる為、手を焼いています」

 

 

 「六臣女は作戦通りばらけているわね」

 

 

 付き人の女性は王の間に居ながらも、目を凝らし、周囲を確認した。  それを見ながら、女騎士が言葉を返した。

 

 

 「はい。  リズ様、アルム様は南通りにて残存部隊と共に───」

 

 

 

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 「西通りはレア様、ニア様が抑え込んでいます───」

 

 

 

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 「最も攻め込まれていた中央通りにはシラベ様、カエデ様のお二人の力が有れば、間もなく封殺出来るかと」

 

 

 

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 「東通りにはロイヤルクランからの出向されている二部隊が押し返しています。  流石にチームワークも良いです」

 

 

 「東通りには何か・・・嫌な空気を感じるわ。  油断しない様に伝えて。  それから、シラベとカエデを東通りに向かわせて。  中央は残った魔物の殲滅に残存部隊を充てれば十分ね?」

 

 

 「はい、中央通りに関しては対応できます。  シラベ様、カエデ様には私が直接伝えます」

 

 

 女騎士とメアリのやり取りを前かがみで聞いていた王は深く座りなおすと、ゆっくりと背もたれに背を預けた。  そして、女騎士にハッキリとした言葉を掛けた。

 

 

 「戦力の大半を継ぎ込んできおったな。  街の者達の避難の進捗はどうだ?  其方を最優先に動くのだ」

 

 

 「城内にて確認出来た街民は全体の半分しか。  近衛六臣女が敵を殲滅すれば、捜索隊を出す余裕が出来るかと思います」

 

 

 「それでは遅い。  動ける者は捜索に当たらせるのだ。  一人でも多くの者を救う。  メアリ、帰還令を出したソフィア、ジュナの動向はどうなっておる?」

 

 

 王の言葉に、付き人であるメアリが王の間に立ち、言葉を返した。 

 

 

 「ソフィア様、ジュナに於いては二日前、奴らが攻めて来た時に既に。  あの二人ならば、本日には戻る事が出来ると思います。  ロイヤルクラウンへの援軍の要請もその時に行っています。  其方は少し遅れる可能性があります」

 

 

 「アルテア殿は約束を守られる方だ。  どの様な状況でもロイヤルクラウンからの援軍も見込めるであろう。  みな、それまでどうにか耐えよ」  

 

 

 「分かりました。  近衛六臣女が共に戦って下さっています。  耐える所か押し返す事も可能───」

 

 

 女騎士が言葉を返している最中、周囲を先見眼で見ていたメアリの顔が強張り、歯で唇を噛んだ。

 

 

 「!!  くっ・・・見誤ったわ・・・!」

 

 

 「メアリ様?」

 

 

 「王!  東通りには私が向かいます!!」

 

 

 ただならぬ雰囲気でそう言うメアリに、女騎士が説明を求めようと口を開いた瞬間、開かれたのは王の間の扉だった。  乱暴に大きく開かれると、バタバタと慌てた様子で一人の騎士が入って来た。  騎士は王の前で在りながらも、跪く事を忘れ、息を切らせながら口を開いた。

 

 

 「報告です!  東通りを守護していたロイヤルクラウンから出向されていたニ部隊が壊滅しました!!」

 

 

「何ですって!?  先程まで逆に押し込んでいたではないですか!!」

 

 

 騎士の言葉に、女騎士が驚愕しながら言葉を返した。  そんな中、東通りを凝視していたメアリは眉を顰め、身体を震わせていた。

 

 

 「名持ちです!  確認出来たのはドルベルーダ!」

 

 

 

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 「フィングラス!」

 

 

 

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 「ログロムキッシュ!」

 

 

 

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 「歴戦の名持ちばかり・・・此処にきてこんな戦力を隠しているなんてっ・・・!」

 

 

 「他にも何匹かいるかと思われます!」

 

 

 青ざめる女騎士とは対象に、報告した騎士の言葉を聞いた王は、一度目を瞑り、祈る姿を取ると、冷静にメアリへと口を開いた。

 

 

 「ロイヤルクラウンの者達は自国でも無いこの国の為、その命を賭して良く仕えてくれた。  アルテア殿にも悪い事をしてしまった。  メアリ。  これまでの、任を解く。  お前も行きなさい」

 

 

 「分かっています。  直ぐに出るわ、貴女は王の護衛を───」

 

 

 メアリが女騎士に言葉を掛けていた最中、王はそれを手で制すると、鋭い目つきで口を開いた。

 

 

 「一兵の無駄を出してはならぬ。  命を賭した者達の為にも、魔族共を殲滅するのだ。  街の者の捜索は残った者に任せ、近衛六臣女とお前は魔族の討伐に力をそそげ。  良いな?」

 

 

 強い瞳を携え、そう言う王の言葉と威厳に、メアリは静かに一言だけ言葉を返した。

 

 

 「はい」

 

 

 

 

 研ぎ澄ました獲物を手に、王の間から出る間際、メアリは振り返る事無く王へと言葉を発した。

 

 

 「これまで、王に仕えた事は私の誇りです」

 

 

 「私もだ。  お前を誇りに思う」

 

 

 「行ってまいります。  父上」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日で何日かしら?」

 

 

 「三日目になりますね」

 

 

 「今の時代の人間も意外にしぶといのねえ」

 

 

 豪華な椅子に座り、崖の上に建つ城を眺めながら、そう言ったのはビクトリアだった。  城下には火が回っており、燃え盛っていた。  そして、それを見るビクトリアの足元には何人かの鎧を着た人間が息絶えており、そんな者達に足を乗せ、カップに注がれた紅茶を嗜んでいた。

 

 

 そんなビクトリアの横に立つ女魔族も、空気からして唯の魔族ではない事が分かった。  プリミアやイルミディーテの同等の歴戦の魔族ともいえた。

 

 

 「初めから名持ちを使えば良かったではないですか」

 

 

 「私の人形達がどれくらい役に立つか見てみたかったのよ。  こんな城を三日経っても墜とせないなんて・・・やっぱり数だけ多くても駄目ねえ」

 

 

 「名持ち達は痺れを切らして勝手に動いたみたいですが、良かったのですか?」

 

 

 「好きにさせておけばいいんじゃない?  あの娘達ならそれなりの働きをするでしょうし」

 

 

 「強い空気が七つ。  特に、一つは桁が違うようですね。  手こずるかと思います」

 

 

 「なら、貴女も行けばいいじゃない。  私は此処でお茶でも飲んでいるから、好きにしなさいな」

 

 

 興味なさげにそう言うビクトリアに、傍にいた魔族の女は溜息をつきながらもその場から動かなかった。  

 

 

 「ふふふ。  三美凶でも成しえなかったブルデンバウムの陥落。  純粋な魔族である私こそが選ばれた種族なのよ。  そう思わない?」

 

 

 

 

    

 

 

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