ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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それぞれの戦い───①

~南通り~

 

 ショッピングロードとして、普段は人々が絶えないこの通りは、現在、見るも無残な姿になっていた。  通りに並ぶ店からは炎が上がり、人々の泣き叫ぶ声と、それらを保護し、懸命に避難させるブルデンバウムの兵達の声が飛び交っていた。

 

 

 近衛六臣女の二人である、リズ、アルムは攻め込んできた魔物や魔族を討ち続け、その数を着実に減らしていた。  このままいけば、南通りは取り戻せる筈だった。

 

 

 そんな折、一匹の歴戦の魔族が誘導に従って避難する群衆に突っ込んで行った。  しかし、その牙は誰一人も捉える事は無く、リズとアルムによって止められていた。

 

 

 フィングラス───書物に書かれているのは、歴戦の魔族の中でも非常に好戦的であり、食欲は旺盛。  狡猾で狙った獲物をいたぶり喰い殺す様から“餓鬼屍”の異名を持つ。  

 

 

 そんなフィングラスは、先ず、邪魔になる目の前の二人を仕留めにかかった。  が、二人係とはいえ、歴戦の魔族であるフィングラスを止める程、リズとアルムの強さはフィングラスにも予想外すぎる物だった。  個人的な強さではフィングラスが圧倒しているが、息の合った連携に、フィングラスでさえ易々と突破する事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 「こん・・・のっ!!」

 

 

 リズが手にしたクナイを無数に投げつけると、フィングラスはそれを易々と躱し、舌を出して挑発するかの様に手を振った。

 

 

 「当たらないよーだ!  お腹空いてるんだからとっとと喰わせてよー!」

 

 

 「リズ!  もう一度、私が足を止める!」

 

 

 そう言うと、アルムは火が回る周囲の家屋にクナイを無数に突き刺した。  そして、そのクナイからは透明の糸が繋がっており、触れただけで対象を切り刻む程の鋭利な物だった。  火にも焼けない特殊な糸を使ったこの技をフィングラスに使うのは二度目になるが、フィングラスの身体からはいくつもの出血が見られてはいるものの、薄皮を切る程度で見切られており、致命傷にはなっていなかった。

 

 

 「さっきはそれで止められてさー人間共を喰えなかったけどさー・・・何度も効かないよー!!」

 

 

 そう言うと、フィングラスはその場で高速回転し、自身を小さな竜巻と化し、アルムの糸を全て断ち切った。  竜巻の力凄まじく、周囲に火が回り、脆くなった家屋を吹き飛ばした。  更に竜巻を纏ったフィングラスはそれだけで収まらず、アルムに向かって突っ込んできた。

 

 

 それを紙一重で躱したアルムだったが、その衝撃に吹き飛ばされ、地に手をつけてその衝撃を和らげた。  それでも、数メートルはその体制で身体を支え、その手からは赤い血が流れていた。

 

 

 「うっ・・・ぐ!!」

 

 

 「アルム!  くっそ・・・こいつ!」

 

 

 「あっは!  よそ見はー・・・ダーメ!」

 

 

 アルムを気遣った一瞬の隙を付かれ、フィングラスがリズに突撃すると、その首に牙を突き立てた。  ズブリと食い込んだ感触があったが、それは一瞬であり、フィングラスが気づいた時、自身が牙を立てているのが唯の瓦礫だと分かった。

 

 

 瓦礫を軽々と食い千切り、舌を伸ばして振り向くと、そこには肩で息をするアルムとリズの姿が在った。  そんな二人を見て、フィングラスは地団駄を踏むと、足元にある大きな石を蹴飛ばしながら破壊した。

 

 

 「もー!  どいつもこいつも面白くなーい!  変な技ばかり使っちゃってさー!」

 

 

 苛立ちを抑えようともせず、子供の様に憤るフィングラスに対して、リズは起き上がったアルムの隣に並びながら小さく声を発していた。

 

 

 「はぁ、はぁ。  ギリギリって所、数舜遅れてたら死んでた。  アルム、無事?」

 

 

 「手は動く、大丈夫。  “空蝉”は後何回使える?」

 

 

 「正直、分からない。  此処まで連続で使ったのは初めてだから、体力的にどこまで持つかって所。  “斬糸・絡”は?」

 

 

 「私の糸は火や水に強い特殊加工の分“一本”だとあのクラスの相手の斬撃には耐え切れない。  “五本”なら切れはしないだろうけど」

 

 

 「駄目だよ。  “五本”を束ねて数秒でその手がどうなったか分かってるでしょ」

 

 

 リズにそう言われ、アルムは自身の手をチラリと見た。  そこには、先程、地を滑った時にできた傷では無く、自身の手を一周するかの様に、横線状にできた古い傷跡だった。

 

 

 「分かっている。  でも、兎に角、火が回る前に残った人達の避難は終わった」

 

 

 周囲からの空気が無くなった事を確認していたアルムは、ホッと息をついた。  リズも同じく、小さく頷くと、フィングラスへと視線を動かした。

 

 

 そんな中、地団駄を踏んでいたフィングラスは、面白くなさそうにアルムへと顔を向け、首を傾げながら口を開いた。

 

 

 「あんたの糸? ってさー、燃えないのは凄いし、うちの身体に傷つけるだけあって、いい殺傷能力だけどー・・・簡単に千切れすぎじゃなーい?  あっ!  うちが強すぎるだけかー!」

 

 

 「・・・否定はしない」

 

 

 「でっしょー!?  さすがうちだよねー!」

 

 

 先程まで子供の様に地団駄を踏んでいたかと思えば、今度は、心底嬉しそうにニヤニヤ笑うフィングラスに、リズもアルムも眉間に皺寄せた。  そして、二人して同じ事を考えた。

 

 

 ((まるで子供。  付け入る隙はそこにある───))

 

 

 「で、あんたはーあんたとその辺の瓦礫を入れ替えられるって訳ねー?  どうやってるか分かんないけどー」

 

 

 アルムに向けていた顔をリズに向け、首を傾げながらそう言うフィングラスに、リズは小さく口角を上げると、その問いに答えた。

 

 

 「瓦礫・・・ね。  まあ、当たらずとも遠からず」

 

 

 「あっは!  つまんなーい!  殺す為じゃないじゃん!」

 

 

 「殺すだけが技とは言わない。  私とリズは互いに互いを補って相手を始末する」

 

 

 「それがつまんないって言ってんだよねー!  技ってのはさー・・・相手を殺してこそじゃなーい!?  こんな風にさー!!」

 

 

 「“餓鬼牙”」 

 

 

 「「!!」」

 

 

 フィングラスがそう言い、犬歯が更に進化した。  そして、全てを嚙み砕く事が出来る凶悪な牙を剥き出しに二人へと突撃した。  二人は別々の方向へ瞬時に回避すると、勢いが余り、止まることが出来なかったフィングラスが瓦礫の山に突っ込んだ。

 

 

 ガラガラと崩れる瓦礫の山だったが、途端に大量の瓦礫が塵の様に砕け散っていった。  理由はフィングラスの餓鬼牙が全てを喰らい尽くしたからだった。

 

 

 「まっずー!  もー!  早くあんた達の肉を食べたいのにー!  次はちゃんと狙い定めなきゃー!」

 

 

 頭を掻きながら屈託のない笑顔でそう言うフィングラスに対して、リズとアルムはゴクリと唾を飲み込んだ。  そして、二人はまたしても同時に想う。  冗談では無い、と。  さっきは直線的な軌道だった為、上手く躱す事が出来たが、もし、あれで相手を狙い撃ち出来る程の動きが出来れば躱す事は至難の業だった。

 

 

 それ程までに、先程のフィングラスの速さは尋常では無かった。  風を纏い、自分の身体に追い風を吹かる事で、その速力を強化しているのなら、これ以上に厄介な事は無かった。  そして、悪い予想というのは、得てして、当たりやすい物でもある。

 

 

 「さーってと!  今度は食べさせてねー!?」

 

 

 「“餓鬼牙乱”」

 

 

 フィングラスは、剥き出しにした巨大な犬歯を突き出し、二人に突っ込んだ。  再度、躱した二人だったが、今度はフィングラスが軌道を変え、リズに向かって行った。  目に追えない速さのフィングラスだが、直線的な軌道と、先見眼を使うリズとアルムの目には、その空気の向きで、どちらが対象になっているか、どうにか読み取れた。

 

 

 そして、リズは己が対象になっているのを瞬時に読み取り、回避する事は不可能だと判断すると、フィングラスを迎え撃った。  

 

 

 「っ!!  “空蝉・唐草紋様縛り固め”!!」

 

 

 巨大な牙で頭から喰らわれたリズだったが、その姿が消え去さった。  代わりに、クナイを地に固定し、それにつながれた無数の縄でフィングラスの身体を縛り上げた。  しかし、目に追えない速さのフィングラスが一瞬止まりはしたが、直ぐに凶悪な笑みを浮かべた。

 

 

 「あっはー!!  こんなもんでうちを止められるかってーの!」

 

 

 フィングラスは笑い声と共に、縛り上げていた縄を引き千切ると、牙を構えて動き出した。  だが───

 

 

 「!!  まーたこの糸?  んー・・・しかもこれさーさっきより太くなーい?」

 

 

 動きだしたフィングラスの動きが完全に止まり、目を凝らすと、そこには無数の糸が張り巡らせてあった。  その糸を辿ると、アルムがその手から血を流しながら束ねた糸を手にしていた。

 

 

 「馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込んできてくれれば良かったのだけど」

 

 

 「ふーん。  流石にこれじゃ結構傷が残るかもー。  でもさー・・・」

 

 

 目の前の糸をピンと指で弾くと、フィングラスはニヤリと笑い、張り巡らせた糸を両手で適当に鷲掴みすると、力一杯に引っ張った。

 

 

 「こんなんでビビるうちじゃないっつーの!!」

 

 

 「ぐっ・・・あ!!」

 

 

 三本を束ねたアルムの糸は切れはしなかった。  が、その為、アルムとフィングラスで、糸を使った綱引きの形になり、フィングラスの力により、アルムの手には糸が食い込んでいった。  手から血飛沫が上がり、地に足を踏ん張るアルムだったが、その足は地を抉りながら徐々にフィングラスへと近づいて行った。

 

 

 「あっはー!!  非力ー!  このままー・・・ぐっ!」

 

 

 笑みを浮かべ、糸を手繰り寄せていたフィングラスだったが、その笑みは消えた。  それは、背後からリズがフィングラスの首へとロープを巻き付け、首を絞め上げたからだった。

 

 

 「私も忘れないで欲しいけどね」

 

 

 「コソコソと・・・ぐっ・・・!」

 

 

 「このまま絞め殺してあげようか?」

 

 

 「はっ!  笑・・・えるー!  こんなもん・・・!?」

 

 

 フィングラスが力を込め、首を絞めるロープを断ち切る寸前、そのロープに何か粘液の様な物が染み込んでいるのに、その時初めて気づいた。

 

 

 「締め上げるだけじゃ“つまらない”でしょ?  “火祭り・源氏蛍”!!」

 

 

 「うっそ!?」

 

 

 リズはロープを一度、口で加え、それを吐き出すと共に、手に持った火打ち石を着火させた。  ボンッという爆発音と共に超足で迫る火炎は、首に絞められたフィングラスの顔面を焼き、遂には身体全体を炎で包み込んだ。

 

 

 

 業火に焼かれ、断末魔も無く焼き焦げながら倒れるフィングラスを横目に、リズは血塗れになった手を震わせるアルムの元へと歩み寄った。

 

 

 「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

 「アルム、手はどう?」

 

 

 「何とか・・・三本で抑えられた。  リズ、助かったよ」

 

 

 「うん。  少し休んだら私は中央通りに。  アルムは西通りに───」

 

 

 二人がそう話し、焼かれる死体に背を向けていると、突然、死体がムクリと起き上がった。  その気配を感じ、二人が同時に振り向くと、そこには未だ、炎に身体を焼かれながらも赤い瞳を持つ者が此方を凝視していた。

 

 

 

そして───フィングラスを包み込んでいた炎が弾け飛んだ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 「ちょーしに乗るんじゃないってーの!!」

 

 

 そこには、身体中に花を象った刺青が浮き上がり、空気も先程とは比にならない程に膨れ上がったフィングラスがいた。  巨大な牙こそなくなったが、変わりに、左腕には黒く、禍々しい空気を纏わせ、舌を出しながら二人を睨みつけるその姿は、歴戦の魔族が書かれている書物に出て来るフィングラスの姿其の物だった。

 

 

 「あっつーい!!  くっそ!!  お気に入りの服だったのにー!!」

 

 

 「なっ・・・!」

 

 

 「あれだけ炎に包まれて死なないなんて・・・どういう身体よ」

 

 

 驚愕するリズと、汗を流しながら唇を噛んだアルムは、瞬時に戦闘態勢を取った。  そんな二人を見て、フィングラスは忌々しく睨みつけて口を開いた。

 

 

 「あんた等はもう喰わない!  殺してやる!!  絶対に殺してやるからー!!」

 

 

 そう叫び、突っ込んでくるフィングラスの速さは異常であり、リズとアルムはその速さに対応する事が出来なかった。  右手でアルムの顔、左手でリズの顔を鷲掴みすると、その勢いのまま瓦礫の山に突っ込んだ。

 

 

 「がっ!!」

 

 

 「ぐっ・・・はっ!」

 

 

 「あっはー!  まだ死なないでよねー!!」

 

 

 笑うフィングラスに燃える瓦礫に叩きつけられたかと思えば、今度は地へと叩きつけられ、更に蹴り上げられ、悪魔の左腕で切り付けられ、遂に、二人の身体がダラリと力無く倒れた。

 

 

 「う・・・」

 

 

 「あ・・・」

 

 

 二人は辛うじて息はあるものの、それはフィングラスが加減して、遊んでいるからだった。  事切れる寸前でもある二人は、最早血塗れ所では無く、生きているのが不思議な程だった。

 

 

 「あっはー!!  やっぱりうちつよーい!!」

 

 

 ピクリともせず倒れる二人の傍で高笑いするフィングラスだったが。  チラリとリズへと目を向けると、ギリッとその歯軋りを起こした。

 

 

 「でも・・・あんたはこんなんじゃ許さなーい!!」

 

 

 フィングラスは、倒れるリズを蹴り上げると、悪魔の左腕で首を掴み、燃える瓦礫へとその身体を近づけた。

 

 

 「どんだけ熱かったかあんたも試してみればー!?  あっは!」

 

 

 リズを掴み、背を向けるフィングラスに、アルムは霞む目の中、リズへと視線を動かした。  そんな視線を感じたのか、辛うじて意識があったリズはほんの少しだけアルムへと視線を向けた。

 

 

 二人の視線が一瞬だけ交差した。

 

 

 

 『無茶しすぎ。  “五本”は束ねたら手が千切れるよ。  限度は“三本”までだから』

 

 

 『分かってる。  だけど、いつか“五本”でも抑えられない、そんな魔族が現れるかもしれない。  見て、文献にはとんでもない魔族もいるって書いてある。  こんな奴等を仕留めるには“五本”じゃ足りない』

 

 

 『その為に私がいるんでしょ?  一人じゃ無理でも、二人ならやれる』

 

 

 『分かってる。  貴女の方はどうなの?』

 

 

 『中々難しくてね。  自分となら兎も角、他人となると空気の制御もあるし、上手くいかないから』

 

 

 『“それ”が完成したら、守る為の最高の技になる』

 

 

 『私が守って、アルムが仕留める。  更にいいコンビになりそう』

 

 

 『攻めの技も覚えないと。  ジュナが面白い技を使う。  教えて貰うといい』

 

 

 『あの火の技?  気が進まないけど。  それなら、アルムも強い相手を抑える技を覚えないといけないよ?』

 

 

 『うっ・・・分かってる。  出来れば使いたくはないけど、練磨しないと。  手が治ったらまた、付き合って』

 

 

 『はいはい。  しょうがないね』

 

 

 『リズ、強くなろう。  私達がこの国を守るんだ』

 

 

 

 

 「ほらほらー瓦礫と変わらないでいいのー!?  焼けちゃうよー!?」

 

 

 ニヤニヤとしながらリズを炎に近づけるフィングラスだったが、妙な空気の流れを感じ、後ろを振り向いた。  そこには、血塗れになりながらも、立ち上がり、震える手で糸を手に、睨みつけるアルムがいた。

 

 

 「あっは!  あんたはまだ立てるんだー!?  その糸・・・って、あー!!  そーいえばー・・・あんたうちの身体に傷つけてくれたよねー?  じゃ、あんたから殺してあげるー!」

 

 

 リズをその場に落とし、フィングラスが笑いながら悪魔の左腕でアルムの身体を貫いた。  抵抗する間も無く、ズブリと肉を貫通する感触、夥しい吐血、吹き出る血液。  確実に、アルムは死んだ。

 

 

 「あっはー!!  ───は?」

 

 

 フィングラスが気づいた時、その目に映ったのは───石の壁だった。  粉々に砕け散る石の壁を目にしたフィングラスの目が大きく開かれ、まさかと思い、リズへと振り返ったフィングラスが改めて目にしたのは、目から光が失われていく中、小さく呟くリズだった。

 

 

 

 

 “空蝉・他身御供”

 

 

 

 

 (こ、こいつ他人と瓦礫を入れ替える事も出来るの!?)

 

 

 そんなリズに気を取られた一瞬の隙。  その隙をついて、アルムがフィングラスを後ろから羽交い絞めにした。

 

 

 「くっ!」

 

 

 「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

 羽交い絞めにするアルムだったが、その腕には力が入っていない。  それに気づいていたフィングラスはニヤリと笑うと犬歯を剥き出しに口を開いた。

 

 

 「なーんて!  あんたにもう力がない事くらい分かってるよー!?」

 

 

 そう言いながら肘鉄をアルムの顔面に見舞うと、アルムが吹き飛ばされ───無かった。  いや、正確には吹き飛ばされた。  しかし、それはアルムだけではなく、フィングラスもだった。  アルムの身体に密着したまま、フィングラスは訳も分からず、アルム諸共、燃える瓦礫に激突した。

 

 

 「いった!!  な、なによこれー!!」

 

 

 激突した痛みとは別の、身体が切れる痛みに戸惑いながらも、フィングラスが己の身体を良く見てみれば、そこには、重ねられた糸がフィングラスとアルムを繋げるように輪になっていた。

 

 

 「あ、あんた・・・うちとあんたを糸で結んだの!?」

 

 

 「・・・」

 

 

 藻掻くフィングラスに、アルムは背を炎で焼かれながらも糸を離さなかった。  既に、意識が無いのか、アルムは唯、フィングラスを羽交い絞めにしたまま、重ねられた糸を手にしていた。

 

 

 「バッカじゃない!?  こんな糸で今のうちが切れる訳ないじゃん!  あんただけ勝手に───!!」

 

 

 その時、フィングラスは気づいた。  そうだ、此処には・・・此処には他人と別の物を入れ替える事が出来る奴がいる───。

 

 

 そう気づいた時、フィングラスの視線は自然と倒れるリズへと動いた。  そこには薄っすら目を開けたリズがいた。  死にかけだ。  間違いない。  大丈夫だ。  あんな身体ではもう技の一つも出せない。  後ろのこいつは犬死だ。  そう思った。  リズが僅かに口角を上げるまでは。

 

 

 「!!」

 

 

 瞬間、密着していたアルムの気配が消えた。  そして、冷たい壁が自分の背中に付いている事が分かった。  その壁と、自分を糸が結んでいるのも分かった。  その時だった、目の間にアルムが立ち、鬼気迫る表情で、両手にした糸を思い切り引っ張った。

 

 

 何かが風を切る音がすると、周囲の瓦礫に繋がれた糸が、地を切り刻み、格子状にフィングラスに迫った。  燃える事がないこの特殊加工された糸は、アルムが戦闘中、ずっと地へと張り巡らせていた物だった。

 

 

 (躱せない!!  くっそ!!)

 

 

 「舐めんなっつーの!!」

 

 

 フィングラスは無理やりに縛られていた糸を引き千切った。  “五本”が重ねられた糸を千切った影響か、フィングラスの身体には無数の深い切り傷が出来、血飛沫が上がった。

 

 

 そして、迫りくる格子状の糸を悪魔の左手で受け止めた。

 

 

 「あっはー!!  これならさっき千切ったからなんともないよーだ!!」

 

 

 汗を掻き、重ねられた糸をギリギリと受け止め、鬼気迫る笑みを浮かべるフィングラスだったが、その目に映ったのは、アルムが一方の糸を両手で鷲掴みし、そして、もう一方をリズが鷲掴みしている光景だった。

 

 

 「そう・・・“五本”なら・・・ね」

 

 

 「そんなので・・・満足する・・・アルムと私じゃ・・・ない」

 

 

 「ま・・・まさか・・・」

 

 

 フィングラスが受け止めていた悪魔の左手にズブズブと食い込んでいく糸を凝視すると、糸が重なっていた。

 

 

 しかし、それは“五本”ではない。

 

 

 

 

 「じゅ・・・十本・・・ある?」

 

 

 

 フィングラスがそう呟くと、アルムとリズは同時に引っ張った。  仲間がいなければ、決して成しえないこの斬糸の威力は、先程までの物とは比較にならない程、巨大だった。

 

 

 

 

 

 「くっ・・・くそぉおおおーーーー!!」

 

   

 

 

 

 断末魔と言える雄たけびと、悲鳴を込めたフィングラスの言葉は、細切れになるその寸前まで、焼ける街並みに響き渡った。

 

 

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