ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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それぞれの戦い───②

 南通りから聞こえる断末魔は、此処、中央通りにも微かに響く程だった。  その声と、消えた巨大な空気を南通りの方から見たドルベルーダは、驚きの表情をした後、苦虫を嚙み潰した様な顔で口を開いた。

 

 

 「フィングラス!?  ちっ、あの馬鹿。  だから油断するなと言ったのに」

 

 

 「シラベさん、リズとアルムが・・・」

 

 

 「分かっています、カエデさん。  二人共、近衛六臣女として恥じない戦いをした様です」

 

 

 唇を噛んだのはドルベルーダだけではない。  フィングラスの空気が消え、数分後・・・微かに残っていたリズとアルムの空気も消え失せた。  近衛六臣女であるシラベ、カエデの二人も、完全に消えたリズとアルムの空気を見て、悲しみに目を伏せた。  しかし、それはほんの一瞬であり、二人共直ぐに目の前のドルベルーダへと視線を向けた。

 

 

 三人の戦闘は長引いていた。  それは、リズ、アルムとフィングラスの決着がついても、未だ、三人には余力がある程に余裕があった。  一対二ではあるが、拮抗しているとはこういう事だと思える程だった。

 

 

 周りの魔族や魔物達は既に息絶えており、此処、中央通りには三人の空気だけがあった。

 

 

 フィングラスが消えた事で、ドルベルーダはカエデとシラベに改めて視線を向けると、空気を膨れ上がらせていった。

 

 

 「私が二人分の働きをしなくてはいけなくなった。  お前達と遊ぶ時間は楽しかったよ」

 

 

 「お楽しみ頂けたのでしたら、ようございました。  ですが───私達は唯、戦っていた訳ではありません。  貴女の動き、癖、それらを見させて貰いました」

 

 

 「貴女達、魔族の弱点は個の強さにあります。  強すぎるが故の慢心が故に、本来なら勝てる戦いにも負ける事もあるのです」

 

 

 カエデとシラベの言葉に、ドルベルーダは口角を上げると、軽く首を振り、言葉を紡いだ。

 

 

 「ふっ。  忠告、ありがとう。  なら、此処からは全力で行かせて貰おうか」

 

 

 徐々に空気が濃くなっていくドルベルーダを見て、シラベとカエデの二人も、その手に持つ武器を更に強く握りしめた。  空気が振動し、歴戦の魔族の強さを誇示するドルベルーダに、慢心も油断も無い。  

 

 

 「さっきの忠告だけど、一つ、言わせて貰う。  個の強さに固執せず、仲間を頼るのが人間の強さと言いたいのだろうが───」

 

 

 そう言い、禍々しい空気を更に膨れ上がらせ、白い二本の角を鋭利に発達させたドルベルーダは戦闘態勢を整えた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 「群れる事でしか強さを示せない種族等、たかが知れている。  人間であろうが、魔族であろうが、最後は己一人の力が全てよ!  それが“私が敬愛する方”の言葉だ!!」

 

 

 

 

 

 

 ドルベルーダ───書物に書かれているのは、歴戦の魔族の中では他の魔族達を使役する存在。  進んで表に出る事は多く、それでいて自らが人間を無差別に襲ったりはしない。  誰の影響か分からないが、強い相手と戦う事を好み、それ以外には基本的には手を出さない。  そんな彼女の異名は“悪夢”。  戦った事がある者の中には生き残りもおり、毎夜、ドルベルーダとの戦闘で魘される事から付いた異名である。

 

 

 

 

 現存する魔族にはそれぞれ特徴的な力があるが、多くに共通している点がある。  それは、鋭利に伸びた角である。  そもそも、純粋な魔族であるビクトリアやベスキュビア達には角が生えていない事が多いが、中には元から生えている純粋な魔族も居た。  

 

 

 今、世界中にいる魔族達には角が生えている者が多いが、その角は、魔女から生み出される際に持って生まれた物である。  では、何故、魔女から生まれた魔族達には角があるのか。  それは、魔女がとある純粋な魔族からの血液を使い、その純粋な魔族には珍しく角が生えていたからであった。

 

 

 つまり、ドルベルーダも、その純粋な魔族の血を使って生み出された魔族の一人であり、その力を多少なりとも引き継いでいる。

 

 

 

 接近戦を仕掛けるドルベルーダは、鋭利な爪や牙を持たない。  純粋に己の体術を駆使した。  拳撃、蹴撃・・・凡そ、魔族には似つかわしくないその戦闘スタイルに、シラベとカエデの二人も最初は困惑した。  何か別の力を持っており、それを使う隙を伺っているのではないか。  元から遊び半分で人間の真似事をしているのか。  そう思っていた二人だったが、現在、本気を出したドルベルーダは、最初と変わらず、己の体術のみで二人へと向かっていた。

 

 

 「やはり、お前達二人も本気を出していなかったな」

 

 

 ドルベルーダの攻撃を躱し、防ぎ、一瞬の隙があればそこを反撃していた二人だったが、ドルベルーダもまた、それらを上手く躱し、防いでいた。  一進一退。  二対一でありながら、互角の戦いを行う三人は、お互いに距離を取った。

 

 

 「歴戦の魔族、ドルベルーダ。  貴女も、流石のお強さ」

 

 

 「人間に褒められて、楽しいと思ったのは初めてだ。  此処までの相手、今まで居なかった」

 

 

 「これからも、でしょう。  私達が貴女にとって最後の相手となるのですから」

 

 

 「ふっ。  そうかな?  いや、そうかもしれない、な」

 

 

 シラベに言われ、ドルベルーダは僅かに目を伏せた。  その隙をついて、カエデが顔を目掛けてクナイを投げつけるが、ドルベルーダはそれを歯で受け止めると、プッと吐き出して口を開いた。

 

 

 「うん。  一瞬の隙を見逃さないその冷静さと、相手を確実に仕留める為に急所を狙う冷酷さ。  悪くない。  やはり、人間との戦はこうでなくてはいけない」

 

 

 「貴女、随分と魔族らしくありませんね」

 

 

 カエデの言葉に、ドルベルーダは目を丸くし、口元に手を当てて笑った。  口を大きく開けて笑っている為か、口元を隠す姿は、本当に、魔族らしくなかった。  そんなあからさまな隙を見せているドルベルーダに対して、シラベとカエデの二人は手を出さなかった。  いや、出せなかった。  余りにも、余りにも魔族らしくなく、二人にとってこんな魔族と対峙した事は無かった事から、何か別の狙いがあるのではないかと、疑いが強すぎたからだった。

 

 

 「あはははっ!  あー、笑った。  そうか、私は魔族らしくないか。  うん。  そうだろうな。  私の敬愛する方もそうだ。  実に魔族らしくなく、豪気なお方。  私は───あの方の様になりたい。  だが、どれ程あの方の真似をしても・・・あの方の様にはなれない」

 

 

 伏目気味にそう言うドルベルーダの空気は変わっていない。  大きく、それでいて周囲を振動させ、強い。  シラベとカエデの二人に油断は微塵も無い。  油断は無かった。  二人の目は、しっかりとドルベルーダへと向けられていた。  それなのに───

 

 

 「ならばせめて、強さだけでも追いつきたい。  此処でお前達に負ける訳にはいかない」

 

 

 背後から聞こえたドルベルーダの言葉に、シラベとカエデは瞬時に振り向いた。  瞬間、カエデの視界に一瞬だけ映ったシラベの姿が吹き飛ばされた。  強烈な蹴りを受けたシラベが瓦礫の山に突っ込むと、カエデは目前にいるドルベルーダへとその武器を振るった。

 

 

 「面白い形状の武器。  形からして、曲刀、とでも言うのか?」

 

 

 またしても背後から聞こえるドルベルーダの言葉に、カエデは振り向きもせず自身の背後へと、その武器を振るった。  何かを掠めた感触はあったが、肉や骨ではない。  ドルベルーダの前髪だと気づいたのは、その後だった。

 

 

 「その形なら、背後への攻撃もやりやすい訳か。  いい武器だ」

 

 

 前髪が少し短くなったドルベルーダに顔を掴まれ、地面に押し付けられたシラベは、痛みを受けながらも、その両手に持つ曲刀を振るった。

 

 

 「遅い───」

 

 

 ドルベルーダの言葉と、振りかぶった拳を打ち下ろすのは、同時だった。  瞬間、吹き飛ばされたシラベの方向から、三日月型をした武器がドルベルーダへと迫った。  それを目視したドルベルーダは、瞬時にその場から飛び上がった。

 

 

 「貰いました」

 

 

 宙に飛ぶドルベルーダの背後から、今度はカエデの言葉を聞こえた。  見れば、地に押し付けていた場所にはひび割れは有るものの、カエデの姿は無い。  カエデの曲刀がドルベルーダを引き裂くのと、ドルベルーダの声が地から聞こえたのはほぼ同時だった。

 

 

 「私の命はそう簡単にはやれない」

 

 

 (速い。  それでいて、恐ろしく冷静。  ドルベルーダ、やはり、歴戦の魔族の中でも別格の強さを持っている)

 

 

 ドルベルーダを見ながらそう分析したカエデは、地に立ち、ジッと此方を見ているドルベルーダから離れる為、ひらりと宙で回転しながら降り立った。  そんなカエデの横には、いつの間にかシラベが立っていた。

 

 

 「お怪我はありませんか?」

 

 

 「大丈夫です。  それにしても、速いですね」

 

 

 「恐ろしい程に」

 

 

 そう言う二人は、顔を合わせず、ドルベルーダに視線を向けたまま話していた。  今まで倒してきた魔族達なんかでは比にならない程の強さを持つドルベルーダに、二人の視線からは最大級の警戒と、畏怖の念が込められていた。  そんな視線を向けられるドルベルーダもまた、二人に対する警戒心を上げた。  そして、ドルベルーダは一度、黒の衣を纏うシラベへと、チラリと目を向けた。

 

 

 (蹴り飛ばした方は瞬時に後ろに飛んで衝撃を和らげた。  それだけじゃなく、空気を消して瓦礫の山に姿を顰めた。  そして、もう一人を仕留める際の隙をついて、あの手に持つ三日月形の武器をあの距離から正確に投げつけた。  自分の腕と相手を信頼していなければ出来ない胆力。  強いな)

 

 

 ドルベルーダはシラベから、今度は赤い衣を纏うカエデへと目を向ける。

 

 

 (そして、この女。  あの曲刀を器用に扱う。  隙をつかれたとは言え、私の後ろを一度取るだけの速さ。  仕留めきれなかった時の空気の乱れも無い。  冷静だな。  いや、冷静さだけじゃない。  私が仕留める際、この女は恐怖を感じていなかった。  やろうと思えば無理やりにでも引き剥がせた、か。  この女も、強いな)

 

 

 そして、ドルベルーダはカエデから視線を外すと、二人を同時に見て、思った。

 

 

 (この二人、かなりの強さを持っている。  百戦錬磨、と言えば聞こえはいいが、かなりの修羅場と経験を積んできている。  驚いた。  ブルデンバウムにはソフィアという相当の手練れがいるという話は聞いていたが、事前のビクトリア様のお言葉でベルビューヌに任せたあの青髪の女はソフィアとやらに匹敵する空気だった。  そして、この二人。  こんな奴等がいるとは。  三美凶がこの国に中々手を出さなかった理由が分かった)

 

 

 そう思ったドルベルーダは小さく口角を上げた。  その笑いは、カエデとシラベの二人も気付かない程、本当に小さかった。

 

 

 (これだ。  これこそが、あの方がずっと体感し、私が求めていたものだ。  今まで、それなりに腕の立つ人間達を屠ってきたが、此処までの強さは無かった。  ああ・・・今日、私はあの方に少しでも近づけるかもしれない)

 

 

 

 

 一進一退の攻防。  ブルデンバウムが誇る最高戦力であるソフィア、次いで、メアリ。  そして、近衛六臣女。  この戦力を持っているからこそ、ブルデンバウムはロイヤルクラウンと並んで、最近まで強固な国だった。  そんなシラベとカエデの二人がかりで、歴戦の魔族の一匹であるドルベルーダとの実力は拮抗していた。

 

 

 

 「疲れがみえてきたな。  動きが鈍くなっている」

 

 

 「はぁ、はぁ。  それは貴女も同じ事では?」

 

 

 「息が上がっていますよ」

 

 

 気づかない内にドルベルーダの息も軽く上がっていた。  言われて初めて気づいたのか、ドルベルーダは少し目を開くと、直ぐに冷静さを取り戻し、口角を上げた。

 

 

 「お前達二人が相手となれば、息も上がる。  一対一なら簡単に潰す事も出来るが、二対一。  それも手練れの二人となれば尚更だ。  強さは互角という所か。  互いに技らしい技も無いのはみっともない、か?」

 

 

 「技は随分と出しています。  唯、名を付けていないだけです」

 

 

 「私もだ。  拳撃に蹴撃。  それが技という所、か。  似ているな、私達は」

 

 

 「お褒めの言葉として受けとっても?」

 

 

 「構わない」

 

 

 短い会話が終わると、三人の姿は消えた。  凄まじい速度で動き回り、辛うじて建っていた家屋が崩壊したり、切断されたりと、傍から見れば家屋が急に崩れていく様は異様だった。  時折、何かを殴る音や、何かを切断する様な音、防ぐ音、それだけが周囲に響き、所々で、血液が飛沫していた。

 

 

 力が拮抗している戦闘は長引く。  お互いに致命傷を避け、躊躇無く相手の命を刈り取る技を使用しても、躱し、防ぐ。  少しでも隙を見せれば、瞬時にその命は絶たれる緊張感の中、遂に、均衡が破れた。

 

 

 ドルベルーダの放った足尖蹴りが、カエデの持つ曲刀の一本を叩き折った。  瞬間、カエデは直ぐに腰に付けていた予備の小刀を取り出そうと手を回した。  しかし、それが大きな隙となった。

 

 

 「あっ・・・ぐっ!!」

 

 

 ドルベルーダの掌撃がカエデの顔面を捉えると、そのまま鷲掴みにし、地へと押し当てた。  カエデは無理やりに引き剥がそうと力を込めたが、かなりの力を込めたその手が動く事は無く、残った曲刀でドルベルーダの首を切断しにかかったが、それを歯で受け止め、力を込めて砕いた。

 

 

 これまでのドルベルーダとの戦闘で限界を迎えていたのか、カエデの持つ曲刀は二本共、美しい破片となって宙に舞った。

 

 

 「自分の武器の状態を逐一確認していればこうはならなかっただろう」

 

 

 「っ!!」

 

 

 「私をお忘れですか?」

 

 

 「忘れる訳ないだろう。  お前の様な手練れ」

 

 

 ドルベルーダの背後を取ったシラベのクナイが貫きにかかったが、ドルベルーダはそれを半身を翻し躱すと、シラベの腕を脇で挟み込んだ。  そして、カエデの顔を地に押し付けていたその手を離すと、シラベの顔面へと拳撃を放った。

 

 

 片腕を封じ込まれ、残った手で三日月を振るうのと、ドルベルーダの拳撃がシラベに当たるのは同時だった。  吹き飛ばされる衝撃で狙いがズレたのか、シラベの手にはズブリと肉の感触があったものの、それはドルベルーダの左肩だった。  引き抜く隙すら作らず、ドルベルーダはシラベの三日月を肩に刺したままだった。

 

 

 「うあっ・・・!」

 

 

 小さく声を上げたシラベが吹き飛ばされたと思えば、今度はドルベルーダが宙に打ち上げられていた。  馬乗りにされていたカエデがドルベルーダを思い切り蹴り飛ばした為だ。  ドルベルーダの左肩から赤い血飛沫が舞い、黒いマントが更にドス黒く滲んでいるのが分かったが、カエデの蹴りはドルベルーダの腕に衝撃を吸収されていた。

 

 

 「くっ!  やはり二対一はきつい・・・!?」

 

 

 ドルベルーダが小さく愚痴を吐いた瞬間、ドルベルーダは宙でガッチリと拘束された。  振り返れば、左側の顔が大きく腫れ上がり、左目を潰され、口から血を流しながらも、鬼気迫る顔でシラベがそこに居た。

 

 

 「ちっ!」

 

 

 小さく舌打ちしたドルベルーダは、右手でシラベの髪を掴むと、無理やりに引き剥がしにかかった。  ブチブチと髪が千切れる音がするものの、シラベはドルベルーダに巻き付けた手を足を離すことは無く、更に、シラベ本人の歯を使い、それをドルベルーダの首筋に立てた。  牙を持たないシラベの歯では、対したダメージは与えられないが、意地でも離れまいとするシラベの覚悟がそこにはあった。  

 

 

 「なんて不格好な姿・・・!  だが、それでこそ私が認めた者だ!」

 

 

 更に力を込め、力ずくで引き剥がそうとするドルベルーダと、髪を引き千切られ、掴まれた腕の骨を圧し折られ、巻きつけた足を砕かれながらも、それでもシラベは離さなかった。  密着しながら二人共、地へと落下していく。

 

 

 そして、落下の最中、ドルベルーダが目にしたのは、小刀を構えるカエデだった。  視界に入った瞬間、カエデは足に力を溜め、二人に向かって宙へと飛び上がった。

 

 

 

 (この女諸共殺る気か!!)

 

 

 

 二人には言葉で交わすものはないが、これまで共に戦ってきた経験がそうさせた。  それを瞬時に悟ったドルベルーダは、そうはさせまいと藻掻いた。  ギリギリと力を込め、己を拘束するシラベの身体を引き剥がしていったが、三日月が肩に刺さったままでは、左腕に力が余り入らない。

 

 

 「ぐくっ!!」

 

 

 自身への苛立ちと、拘束された身体が言う事を利かない事から、ドルベルーダは苦悶の表情を浮かべた。  そして、そんな二人へと、飛び上がったカエデが衝突した。

 

 

 「うぐっ!」

 

 

 急所を貫かれたドルベルーダは、苦痛で顔が歪み、首筋に歯を立てていたシラベの口から吐血した血液が見えた。 

 

 

 「くっ・・・ぐおおおおっ!!」

 

 

 雄たけびに似た声を上げたドルベルーダは、限界を超えた力を発揮した。  緩んだシラベの拘束を力任せに解き、小刀を突き立てたカエデの首を目掛けて手刀を放った。

 

 

 骨が折れる音が響くと、カエデの首に直撃したドルベルーダの手刀がカエデの首を砕いた。  あらぬ方向へ曲がったカエデの目から光が無くなっていった。

 

 

 (先ずは一人!  後はこの女を・・・!?)

 

 

 ドルベルーダは直ぐに真後ろにいるシラベへと、死の一撃を放とうと振り返る───事は出来なかった。  何故なら、ドルベルーダの手刀がカエデの首と肩により挟み込まれていたからだった。

 

 

 (こっ・・・この女も・・・死して尚、私を抑え込む気か!?)

 

 

 カエデの目には光は無い。  だが、それでも、カエデは己の命が消えても、ドルベルーダの動きを封じ込めていた。  近衛六臣女として、死んでも相手を仕留める執念を感じた。  

  

 

 三人が地へ落下した瞬間、衝撃でドルベルーダの手を封じていたカエデの首と肩から、それが抜けた。  そして、刹那の時が流れた。

 

 

 瞬時にシラベへと振り向くと、目の前にはクナイが迫っていた。  それを紙一重で躱したドルベルーダが、動かない左腕を使わず、左肩に刺さった三日月をシラベの首目掛けて突き出した。

 

 

 鮮血が舞った。  シラベの首に突き刺さった三日月は、シラベの血で、更に濃く、美しく染まった。

 

 

 

 「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」

 

 

 

 シラベの返り血を浴びながら、ドルベルーダが肩で息をすると、シラベがゆっくりとドルベルーダへと倒れ込んだ。  そんなシラベを身体で受け止めたドルベルーダだったが───

 

 

 「ああ・・・最高の時間・・・だっ・・・た・・・」

 

 

 ドルベルーダの身体には、二本の小刀が突き刺さっていた。  急所である心臓を交差させる様に刺されていた。  一本はカエデがシラベ諸共突き刺した物。  そして、もう一本は───

 

 

 ドルベルーダにもたれ掛かり、目から光が消え、絶命したシラベの手に握られていた。

 

 

 

 

 「最後に・・・お前達と、戦れて・・・良かった。  私は・・・あの方に・・・近づけ・・・出来た・・・」

 

 

 

 

 

 ドルベルーダは倒れる事無く、その場に立ちすくんだ。  数秒後、中央通りから全ての空気が消えた。

 

 

   

 

 

 

 

 

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