ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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それぞれの戦い───③

 女はフラフラと、獣の様に、四つん這いで進んでいた。  ゆっくりと、身体を揺らしながら進むその姿から、相当のダメージを受けた事が見て分かった。  現に、立派な角の一本は圧し折れ、口からは勿論、身体中から出血し、進む後には血液が点々としていた。  そして、そんな女から少し離れて、倒れている二人の人間があった。  既に空気は無く、事切れている事が分かった。

 

 

 燃え盛る街並みの中、倒れている二人の人間は、かなりの腕前を持つ者達だった。  現に、歴戦の魔族である女が、それ相応のダメージを受け、その場から逃げ出そうとしている事と、周囲に飛び散った血液と、破壊された建物や周囲を吹き飛ばしたと思われるクレーターから、その戦闘の壮絶さが見て取れた。

 

 

 「はぁ、はぁ・・・」

 

 

 肩で息をし、フラつきながらゆっくりと進む女───ログロムキッシュは硬質化した足に力を溜め、飛び立った。  しかし、ログロムキッシュは目的の場所に飛び立つ事は出来ず、唯一といっていい未だに建っている建物に激突した。

 

 

 「はぁ・・・んっ・・・く」

 

 

 ガラガラと瓦礫から這い出て来ると、自身の右足を見て、忌々しく目を細めた。  硬質化された右足が潰れており、ログロムキッシュはその影響で上手く飛ぶ事が出来なくなっていた。

 

 

 「はぁ、はぁ・・・」

 

 

 再度、足に力を込めるが、上手くいかず、フラフラしていると、一気に意識が遠のいたのか、ログロムキッシュは建物から落ちて行った。  地に激突し、周囲の瓦礫が舞い散った。  火に包まれた瓦礫から何とか出て来ると、ログロムキッシュは足の力を使わず、自身の手の力のみを使って這いずりながら移動した。

 

 

 「んん・・・はぁ・・・くっ」

 

 

 ズルズルとゆっくりと這いずりながら移動するログロムキッシュの姿は、今まで歴戦の魔族として、その力を誇示してきた姿では無かった。  一秒でも早く、この場から離れたい。  心の中には、その事だけあった。  本当の恐怖を感じたその姿は、這いずりながら、震えていた。  ゆっくりと這いずっていたログロムキッシュは、両手にありったけの力を込めると、思い切り地を叩いた。

 

 

 「んぁ!!」

 

 

 バンッと地を叩き、ログロムキッシュはブルデンバウムの城下町を離れた。  着地点も決めず、唯々、この場から一秒でも離れる為だった。  飛んでいる最中、意識が途絶えた。  その暗闇の中、二人の人間が悍ましい空気を纏って此方を見つめていた。  闇の意識の中、小さく悲鳴を上げたログロムキッシュには、生まれて始めて感じた───恐怖の芽が生まれていた。

 

 

 燃える街並みには、命の輝きが消えた二人の人間が残されていた。

 

 

 

 

 ───数十分前、此処、西通りでは激しい攻防が行われていた。  歴戦の魔族、ログロムキッシュとブルデンバウム近衛六臣女である、レアとニアの二対一の戦闘は、激しかった。

 

 

 「くっそう!  歴戦の魔族とは何度か戦った事があるけど、ここまでの奴は初めてだ!」

 

 

 「ぐちぐち言わない!  コイツは此処で仕留める!  行くよ!  ニア!!」

 

 

 レアとニア。  ジュナを除いて、近衛六臣女の中で最も若い二人は、パートナーとなってまだ日は浅い。  しかし、個々の力は十分に強く、ブルデンバウムを守る者達として、その力は周囲にも認められていた。

 

 

 「あ、あなたたち・・・強い・・・だから、だから・・・殺さなきゃ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 おどおどしながらも、二人にそう口を開いたログロムキッシュは、その身を屈め、両手を地に着けた。  前屈みに構えるその姿は獣の戦闘態勢に酷似しており、両角は悪魔の角を象り、両手と両足を硬化させ、黒い外殻に覆われた尻尾を生やしたその姿は、正に───“獣魔鬼”と呼ばれる所以でもあった。

 

 

 

 ログロムキッシュ───書物に書かれているのは、魔族の中では非常に珍しく、非好戦的。  戦いを拒み、人間にも滅多に手を出さない臆病な魔族。  が、その実力は魔族の中でも相応に高い。  そんな、彼女だが、一つだけ、必ず守って欲しい事がある。  怒らせるな。  彼女を怒らせてはならない。  一度彼女の逆鱗に触れれば“獣魔鬼”と呼ばれる意味をその身体に刻み込まれるのだから。

 

 

 

 

 目を見開き、無表情に構えるログロムキッシュの空気が膨れ上がった。  そんなログロムキッシュを目にしたレアとニアは、手に持っていたクナイを同時に投げ飛ばした。  しかし、あっさりとその鋼の尻尾で撃ち落とされると、二人はまたも同時にそれぞれの得意な獲物を手にした。

 

 

 「いよいよ本番って訳ね!」

 

 

 「油断するんじゃないよ、ニア!!」

 

 

 「こんな化け物相手に油断なんてする訳ないでしょ!」

 

 

 武器を手に、二人は同時に駈け出し、ログロムキッシュへと迫った。  迎え撃つログロムキッシュは、獣の戦闘態勢のまま、姿を消した。  風を切る音が一瞬したかと思えば、レアとニアの二人は別々の方向に燃える建物へ激突した。

 

 

 「あっ・・・ぐう!!」

 

 

 「はっや・・・!!」

 

 

 二人が余りの速さと激痛に悶えていると、レアの前にログロムキッシュが姿を現した。  そして、間を置かずにその硬化した手を振りかざした。  しかし、レアもまた、近衛六臣女の一人。  並みの人間の強さでは無い。  振り下ろされたログロムキッシュの一撃を、レアは手にしていた鋼の棍棒で防いだ。

 

 

 「くうう!!」

 

 

 ギリギリと力比べが始まったが、歴戦の魔族の中でも相応の強さを持つログロムキッシュの腕力は尋常では無かった。  押され始めたレアの顔に苦悶の表情が映し出された時、ニアの言葉がその場に響いた。

 

 

 「させるかー!!」

 

 

 ニアの言葉と共に振るわれたのはフランシスカと呼ばれる手斧だった。  両手に一振りずつ持ったそれを、ログロムキッシュへと振るったが、ログロムキュシュはそれを硬化した手で受け止めた。  今度はニアとログロムキッシュの力比べが始まったが、歯軋りするニアと違い、ログロムキッシュは無表情のままそれを押し返していた。

 

 

 「でええい!!」

 

 

 ログロムキッシュがニアへと振り向いている隙をついて、レアが鋼の棍棒を背後から振るった。  しかし、ログロムキッシュはその鋼の尻尾で受け止めた。  近衛六臣女の二人に挟みこまれていても尚、ログロムキッシュの表情には変化は無い。

 

 

 「このっ!  このぉ!!」

 

 

 「であっ!!  はあ!!」

 

 

 鋼と鋼が打ち合い、火花が上がっていた。  一方は武器を手にした人間二人。  そして、もう一方は両手と尻尾を巧みに操る魔族。  武器対素手でありながら、周囲にはありえない金属の打ち合いの音が響いていた。

 

 

 「このっ・・・化け物!!」

 

 

 「硬すぎて生半可な攻撃じゃ通らない!  必殺の一撃を───!?」

 

 

 レアが大きく振りかぶり、威力を込めた鋼の棍棒を振るう刹那、ログロムキッシュは風の音と共に姿を消した。  その速さは、レアとニアの二人の目にギリギリ映る速度であり、先見眼を使っても漸く空気の流れが読める程だった。

 

 

 「うしろっ・・・ぐっ・・・あ!!」

 

 

 「レア!!」

 

 

 空気の流れを先見眼で読んでいたレアの首に、ログロムキッシュの尻尾が巻き付くと、その首をギリギリと締め上げていった。  苦しむレアを助ける為、ニアが迫ったが、ログロムキッシュは尻尾を巧みに操り、迫るニアへとレアをぶつけた。  ニアは瞬時にフランシスカを腰に装着させると、素手でレアを受け止めた。

 

 

 「くっ!  レア!!」

 

 

 「がっは・・・はぁ・・・ニ、ニア・・・後ろっ!」

 

 

 「ちっ!?」

 

 

 嗚咽するレアがニアの背後を見ながらそう言った瞬間、ニアの横腹を黒い尻尾が襲った。  瞬間的にフランシスカで受け止めたが、その威力は抑えきれなかった。  メキッという嫌な音を耳にしながらニアは燃える建物へと激突した。

 

 

 「ニ、ニア!!」

 

 

 建物に激突したニアへと振り返っていたレアだったが、その瞬間、背筋が凍った。  振り向き様に放った鋼の棍棒は相手を掠める事も無く、空を切った。  

 

 

 次の瞬間、首の骨を折られたのではないかという音と共に、レアの横顔をログロムキッシュの拳が捉えていた。  そして、レアもニアと同じ様に燃える建物へと突っ込んでいった。

 

 

 「こ、怖かった・・・」

 

 

 一人無傷で、おどおどしながらそう言うログロムキッシュは、つい先ほど手練れの人間二人を仕留めた姿には到底見えなかった。  キョロキョロと辺りを見回したログロムキッシュは、南通りと中央通りにいる二人の同族と、四人の空気を先見眼で見ながら小さく口を開いた。

 

 

 「フ、フィングラスちゃんも・・・・ド、ドルベルーダちゃんも頑張ってるから・・・わ、私も頑張らなきゃだもんね・・・こ、怖いけど・・・」

 

 

 ログロムキッシュが獣が歩く様に、手足を使って進んでいると、違和感を感じ、その歩みを止めた。

 

 

 「あ、あれ?  ふ、二人共・・・い、いない?」

 

 

 先程叩きのめした二人の空気が消えていた。  別々の方向に吹き飛ばした二人の跡地を先見眼で見てみるが、空気が見えない。

 

 

 「し、死んだのかな?  やっ、やった。  ひ、一人でも倒せた。  えへへ。  フ、フィングラスちゃん褒めてくれるかも」

 

 

 目を細めて嬉しそうな顔でそう呟いたログロムキッシュだったが、一瞬の後、その目が驚愕に大きく開かれた。

 

 

 「誰が死んだって?!」

 

 

 「ブルデンバウムを舐めるな!!」

 

 

 突如、背後からそう声が聞こえたログロムキッシュは、咄嗟に黒い尻尾を振り回したが、急だった為か、余り力が籠っていなかった。  その為、その黒い尻尾は二刀のフランシスカに受け止められた。

 

 

 「えっ?」

 

 

 「おらあ!!」

 

 

 一撃を止められた事に驚き、振り向いたログロムキッシュの眼前に迫る物があった。  気付いた時には、銀色の鋼の塊がログロムキッシュの顔面を捉ていた。

 

 

 「がっ・・・!!」

 

 

 短く、それでいて大きなうめき声を上げたログロムキッシュが、地を何度も跳ねながら吹き飛んでいった。  好機とみたレアとニアは瞬時にその場から動いた。

 

 

 「まだまだ!!」

 

 

 地を跳ねるログロムキッシュの背後からニアの言葉が響いた。  ログロムキッシュは吹き飛びながらも、咄嗟に黒い尻尾を自身の身体に巻き付けた。

 

 

 「“斧戦陣乱れ合切(ふせんじんみだれがっさい)”!!」

 

 

 「ギッ・・・!  グッ!」

 

 

 ニアの両手から繰り出されるフランシスカの舞は、ログロムキッシュの身体を切り裂いた。  しかし、ログロムキッシュは硬化させた手足と、自身に巻き付けた黒い尻尾でそれらを防いでいた。  切創は防がれる事で出来ないが、衝撃がログロムキッシュを襲った。

 

 

 「ちっ!!  手数じゃダメージは与えられないか!  後は任せた、レア!!」

 

 

 切り刻んだ衝撃でログロムキッシュが上空へ打ちあがると、そこには、鋼の棍棒を自身の身体が仰け反る程、大きく振りかぶったレアがいた。

 

 

 「“巌厳槌(がんごんつい)”!!」

 

 

 「あ・・・」

 

 

  小さく声を上げたログロムキッシュと、レアが振りかぶった鋼の棍棒が、打ちあがったログロムキッシュを捉えたのは同時だった。  瞬間、何かが爆発したかの様な音と共に地面が吹き飛んだ。  そして、レアとニアが肩で息をしながら共に並んでいた。

 

 

 「はぁ、はぁ・・・死ぬかと思った」

 

 

 「私も。  めちゃくちゃ痛かった。  でも、あの硬質化した手と尻尾以外の所はダメージあるみたい」

 

 

 「全身があんなに硬かったら私達の攻撃を防ぐ意味もないしね。  防ぐって事は、喰らったらヤバイ所があるって事」

 

 

 「・・・死んだかな?」

 

 

 「渾身の一撃だったよ。  手応えも相当あった。 あれで死んでないならヤバイ」

 

 

 二人は先見眼でじっくりと瓦礫の山を見つめた。  そして、二人同時に小さく溜息を付くと、その手に持った武器を握りなおした。

 

 

 「やっぱりヤバイ奴だった」

 

 

 「私達の渾身だよ?  化け物すぎる」

 

 

 二人の苦笑交じりの言葉が終わると同時に、瓦礫の山が吹き飛んだ。  そして、先程までの無表情とは打って変わって、怒りの表情を向けるログロムキッシュがそこに居た。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 「ミギャアアア!!」

 

 

 「うっ!」

 

 

 「なんつう声出すのよ・・・!」

 

 

 その雄たけびは、凄まじく、手練れのレアとニアも思わず耳を塞いでしまう程だった。  戦闘において、手を使って耳を塞ぐ行為はご法度である。  何故なら、その瞬間に相手が攻撃を仕掛けてきた場合、対処が遅れてしまうからだ。

 

 

 そんな事、これまで幾つもの戦闘をこなしてきたレアとニアにとっては当たり前な筈だった。  しかし、ログロムキッシュの怒りの咆哮はそんな当たり前を崩す程に凄まじかった。

 

 

 「グルルル・・・!!  ガアアウ!!」

 

 

 地獄の雄たけびと共に、ログロムキッシュが迫り狂った。  レアとニアの二人も負けじと前に突っ込んだ。  そして、魔族と人間の本当の戦いが始まった。

 

 

 「“峩々棍(ががこん)”!!」

 

 

 「“戦乱斧(せんらんふ)”!!」 

 

 

 二人の渾身の技はログロムキッシュを捉えられなかった。  その、獣の様な動きに、狙いが上手く定まらない。  近づいて来たかと思えば、何もせず急に離れ、直線的な軌道から円を描く起動に変化し、離れた位置から瓦礫を投げつけて来たかと思えば、その硬質化した両手を振るう。  余りにもトリッキー過ぎる動きに、レアとニアの二人は翻弄されていた。  しかし、そこはブルデンバウムが誇る近衛六臣女。  トリッキーなログロムキッシュの動きに対して、激しい攻防をしながらも、冷静な分析力を持ってしていた。

 

 

 「コイツ・・・攻撃時だけ直線的に突っ込んで来る!  御しやすい!」

 

 

 「獣と変わらない状態だ!  スピードも力の強さも段違いに上がっているけど、単調すぎる!  これなら殺れる筈!!」

 

 

 二人共、そう息巻いてはみたものの、ログロムキッシュのスピードと力はそんな経験値を凌駕していた。  戦闘的駆け引きはまるで無いものの、その圧倒的なフィジカルで、徐々に二人には焦りの色が出始めていた。  

 

 

 「このままじゃジリ貧になる!」

 

 

 「分かってる!  だけど、どうする!?」

 

 

 「硬化している部分が硬すぎて生半可な攻撃じゃ意味が無い!  一撃で仕留めるしかない!  だけどコイツは速すぎる!  レア!  どうにか出来ない!?」

 

 

 「私が叩き潰す!!」

 

 

 レアがそう言うと、ニアは小さく口角を上げながら、覚悟を決めた視線を送った。  そして、そんな覚悟を感じたレアもまた、小さく口角を上げた。

 

 

 「一発で仕留めてよ!  相棒!」

 

 

 「ちゃんと止めてよ!  相棒!」

 

 

 飛ばされてきた瓦礫を共に破壊しながら、二人が言葉をそう交わした。  そして、そんな二人の作戦等、どうでも良いといった風に、ログロムキッシュが迫った。  レアは瞬時に上空に飛び上がり、ニアはその場でドッシリと腰を落として、先見眼を強く持った。

 

 

 ログロムキュシュが硬化させた手を振るった。  それまで、先見眼を最大限に使用し、躱す事に専念していたニアが、防ぐ事に全力を注ぎ込んだ。  しかし、ログロムキッシュの速さは、恐ろしい程に強化されており、ニアには完全に見切る事が出来なかった。

 

 

 ズブリと腹に食い込む感触と、苦痛が身体中に響きながらも、ニアは瞬時にその手をフランシスカで受け止めた。  数舜でも受け止めるのが遅ければ、ニアの身体は引き裂かれていたであろうが、そうはさせなかった。  更に、激痛が襲う中、ニアは繰り出されたもう一方の手を、もう一方のフランシスカで受け止めた。

 

 

 「んんんあっ!!」

 

 

 「!?」

 

 

 正かこの一撃を受け止められるとは思っていなかったのか、ログロムキッシュの表情が怒りから驚愕に変わった。

 

 

 「お、驚いてるんじゃない!!  これが、肉を切らせ骨を断つって事だ!」

 

 

 身体を貫かれた事により、吐血しながらも、ニアはそう叫んだ。  そして、ログロムキッシュが黒い尻尾を操った瞬間だった。

 

 

 「ニア!!  行くよっ!!」

 

 

 「ッ!!」

 

 

 上空からレアの声が響くと、ログロムキッシュが一瞬だけ其方へと注視した。  その瞬間を見逃さなかったニアは最後の力を振り絞り、フランシスカから手を離し、ログロムキッシュへと抱きつく形で体当たりを仕掛けた。  更に深く食い込んでいくログロムキュシュの手は、赤く、黒く染まっていった。

 

 

 そして、思わぬ動きをされた為、ログロムキュシュの判断が遅れてしまい、二人は共に倒れ込んだ。  その時、ログロムキッシュはニアの目を見た。  悍ましい程の空気と、怒り、恨み、執念と呼ばれる諸々を含んだその目を見た時、ログロムキッシュは背筋が寒くなった。  

 

 

 「!?」

 

 

 「くたばれ・・・」

 

 

 ニアの空気が薄くなる中、ログロムキッシュへと抱きつきながら共に倒れ込んだその言葉は、ログロムキュシュの耳にしっかりと入っていた。

 

 

 「ああああっ!!」

 

 

 叫びながら落ちて来るレアは、鋼の棍棒を振りかぶっていた。  その目には、薄っすらと涙が見えた。  他の近衛六臣女とは違い、短い期間ながらも、二人は戦友として、相棒として幾度も戦ってきた。  そんな相棒の空気が無くなりかけている事実は、受けれ入れがたい物でありながらも、レアは止まる事が無かった。

 

 

 「ギィ!!」

 

 

 獲物を振りかざしながら落ちてくるレアに対して、ログロムキュシュは共に倒れ込んだニアから腕を引き抜くと、振り払った。  既にニアに力は無く、簡単に振り払えたが、接近するレアは速かった。

 

 

 しかし、ログロムキュシュも歴戦の魔族の中で、相応の強さを持っている者である。  手や足での防御が間に合わないと分かるや否や、最も速さに長け、最も動かしやすい黒い尻尾を使って防御を行った。

 

 

 爆発音と共に、周囲が瓦礫と火で包まれる中、決着はついた。

 

 

 「こ、この土壇場で・・・攻撃に転じるなんて・・・ね」

 

 

 「ギッ・・・グッ!」

 

 

 「ご、ごめん・・・ニア・・・」

 

 

 レアの鋼の棍棒はログロムキッシュを完全に捉えれきれなかった。  正確に言えば、ログロムキッシュの右足を潰していた。  あの一瞬、ログロムキッシュはレアの一撃を黒い尻尾で防ごうとしたが、その威力を目算し、危険すぎると感じ、逆にレアへと攻撃を行った。

 

 

 リーチの違いがあった為、その尻尾でレアの身体を貫いたが、レアは止まらなかった。  しかし、身体を貫かれた衝撃で、その鋼の棍棒から繰り出された一撃はログロムキッシュには直撃せず、その速さを生んでいた硬化された足へと振り下ろされていた。

 

 

 倒れ込んだレアの身体を振りほどきながら、ログロムキッシュは座り込んだ。  息が荒く、歴戦の魔族であるログロムキッシュでさえ、限界に近かった。

 

 

 「ハッ・・・ハッ・・・グウゥ・・・!」

 

 

 潰された右足の痛みが遅い、ログロムキッシュは嗚咽した。  思えば、本気を出す前に二人から受けたダメージも相当の物があった。  身体中が痛み、ログロムキッシュは暫くその場から動く事は出来なかった。

 

 

 「はあ・・・はぁ・・・」

 

 

 どれくらい経ったのか、漸くログロムキッシュがその場から離れようと動き出した。  倒れている二人を喰う事はしなかった。  そんな力も無く、何故か───そうしたくなかった。  一刻も早く、この場から離れたい。  唯、その一心で動きモゾモゾと動き始めた。

 

 

 「やっぱり・・・に・・・人間は・・・怖い」

 

 

 ログロムキッシュの言葉は、心底深く、重く倒れる二人へと放たれた。  自分自身にも言い聞かせる様に言ったそれは、歴戦の魔族として生きて来たログロムキッシュの心の中で、永遠に刻み込まれる物だった。   

 

 

 

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