ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい 作:nagiayu
夥しい数の魔物や魔族の血液が、地面を覆い尽くし、赤い池のように広がっていた。
その中心に、一人の女が立っている。 とある部族出身の彼女が外で纏う衣服は、純白。 その白には、一滴の赤も付いてはいない。
ロイヤルクラウン第三部隊部隊長──レイメイ。 ロイヤルクラウン内では、唯一部下を持ない幹部の部隊長であり、戦闘をこよなく好む事から、好戦的なイメージを持たれている。 戦闘スタイルは己の肉体を駆使した拳撃と蹴撃による格闘術。 また、頭も非常にキレが良く、ロイヤルクラウンではクイーンに並ぶ程の頭脳を持っているが、この事は表立っていない。
そんな彼女はソフィア、ジュナと共にブルデンバウムへ向かう途中、ブルデンバウムへと向かうこの魔物の群れを発見した。
そして、一人自らその場に残った。
「数だけ多くても、意味ないネ」
抑揚の無い冷たい声が落ちる。
「な……何なんだお前はっ!! 本当に人間か!?」
残された魔族の女が声を裏返らせ、じりじりと後ずさった。
「残ったの、君だけヨ」
「こ、こんな筈は・・・! 人間如きに・・・人間如きに我々が負ける訳はないんだ!!」
魔族の女が叫び、一直線に飛びかかる。 レイメイは動かない。 正確に言えば、魔族の女にはレイメイが動いた事すらも分からなかった。
そして、破裂音だけが響いた。
次の瞬間、魔族の女の頭部は弾け、崩れ落ちるように地面へ倒れた。
「終わったヨ。 もう、出てきていいヨ」
「さ、流石レイメイ様ですね。 こちらも準備はしていたのですが」
「あの程度の数、問題にならないヨ」
侍女は息を呑んだ。
(あれだけの数を……息ひとつ乱していない?)
背筋を冷たいものが這い上がる。 この場にいる侍女は、ロイヤルクラウンに更なる救援を求める為に、駆けていた。
その折、大規模な魔物達と遭遇し、戦闘を余儀なくされていたが、レイメイによって救われていた。
ビチャビチャと、血の池を歩くレイメイの視線がわずかに動く。 そして、何かを捉えたかのように、彼女はその場を見つめた。
「何か来るネ」
レイメイの言葉に侍女が身構え、周囲を見渡した。
「何も・・・見えませんが?」
「君じゃ分からないヨ。 遠いからネ」
レイメイは一度だけ周囲を見渡すと、足元に倒れる魔族の女の胴体を足蹴にしながら口を開いた。
「此奴等より、空気濃いネ」
侍女の表情が固まる。 ゴクリと息を呑む音が響いた。
「目的は、ブルデンバウムですね」
侍女の言葉に、レイメイは短く息を吐いた。
「先行くといいヨ」
「私も残ります」
レイメイは一瞬だけ、侍女を横目で見る。 その視線からは、明らかに邪魔をするなと言う言葉が込められていた。
「邪魔になるだけヨ」
言葉は短く、重かった。
侍女は視線をレイメイと、その先へと往復させる。 そして、答えを出し、静かに頷いた。
すぐに背を向け、地を蹴って駆けて行く。
数分後。 レイメイの前には、先程の群れを遥かに上回る魔物の群れが広がっていた。
その中で、一人の女だけが前に出る。
「これはこれは、ロイヤルクラウンが誇る幹部。 レイメイと会えるとは」
魔物の中に立つ女が、楽しむように言った。 そんな女に対して、レイメイは一瞥しただけで口を開いた。
「誰? 君なんか知らないヨ」
「この私を知らないとは。 ナルアゴート・・・この名は人間共の文献に載っていないかな?」
「知らないネ」
魔物の群れに目を向けながらそう言うレイメイに、ナルアゴートが笑いながら口を開いた。
「あっはは! どうやら唯の戦闘好きな馬鹿という情報は正しい様だ」
レイメイはその言葉に、大きく溜息をついた。
「ふー・・・誰の情報か知らないけどネ」
「馬鹿なお前等が気づく事等、出来る訳ないな。 私が教えてやってもいいけどな?」
ナルアゴートの姿がわずかに揺らぐ。 空気が膨れ上がる。
「その言葉で気が変わったヨ。 君だけは生かしておいて上げるヨ」
「出来るかな? これだけの数、それも先程の奴等より上等な奴等。 一匹一匹がロイヤルクラウンの部隊兵を遥かに凌駕する」
周囲の魔物が、一斉に姿形を変え、空気を膨れ上がらせた。
互いの空気が重く沈む。
「ウチの部隊兵・・・ネ。 それはそうと、ウチの者を随分と殺したようネ」
「ああ。 追加でブルデンバウムへ向かっていた連中は今頃お花畑かな? 流石のロイヤルクラウンでも奇襲されれば大した事はない。 それに、さっき此処から逃げた女も後で私の餌にしてやる」
「ウチの者も馬鹿ばかりじゃないネ。 奇襲程度で簡単にはやられないヨ。 上手く手引きしたのは潜り込んでいる鼠で合ってるネ?」
「頭の悪いお前でもそれくらいは分かったか。 仇でも討ってみるか?」
レイメイの呼吸が変わる。 静かに、深く。
「君たち如きに殺される者達の敵討ちなんて興味ないネ」
「流石は幹部。 人間の中では珍しく考え方が非情だな?」
「情は拳を鈍らせるヨ。 敵討ちは興味がないけれどネ───」
一歩進む事に、死に絶えた魔物達を踏みつける。
「だけど今の私は───」
もう一歩、先程より強く踏み込むと、地面が震えた。 そして、その視線はナルアゴートを見据えた。
「機嫌が悪いから手加減は出来ないヨ」
その言葉に、ナルアゴートが凶悪な笑みを浮かべながら叫んだ。
「あっははは! お前を殺せば、あの御方も認めてくださる! 内臓は私の胃袋に! 手足は仕留めた者の褒美に! 頭だけはあの御方に! 無残に死ねっ!!」
ナルアゴートが吠えると、呼応した魔物達の咆哮が響いた。
「アルテア様、ブルデンバウムへと増援を向かわせていた第十一部隊が壊滅したと報告が。 奇襲を受けた様です」
黄服メイドからの報告を執務室で受けたアルテアは、止めどなく動いていた手を止めた。 そして、数舜の後、静かに、ゆっくりと筆を下ろした。
「唯の奇襲ならば対応も可能なメンバーを揃えていました。 その中に恐らく・・・そう、ですか。 やはり、皆の報告にあった通り、内通者が入り込んでいたのですね」
「はい。 一匹はクラウディア様の元で尋問後、処分したと報告がありました」
「一人ではありません。 その者も恐らくは繋ぎの一人でしょう。 “本物の内通者”を見つけ出さない限り、此方の動きは魔族達に筒抜けになってしまいます。 現状、その内通者もこの国にはおらず、十一部隊に編制した者の中にいた様ですね。 消えた者の名簿はありますか?」
「殺された遺体には肉片が幾つかしか残って無かったそうです。 内通者もロイヤルクラウンに戻れば生き残り・・・即ち、自分が内通者と言っている様なものですから、戻る事はないかと」
「そうですね。 しかし、今後の為にも誰がそうであったのか知る必要はあります。 遺体は可能な限り全て集めてください。 その後、迅速かつ丁寧に埋葬を。 しかし、十一部隊も壊滅したとなると・・・仕方がありません」
そう言うと、アルテアは一つ呼吸入れ、黄服メイドの目を見つめながら小さな口を開いた。
「“ディルムマーダー”を呼んでください。 彼女達に動いてもらいます」
アルテアの言葉に、黄服メイドの表情が変わった。 仲間の死を報告する際の悲痛な面持ちから変わって、驚愕した表情へと、変貌した。
「あ・・・あの方々をですか・・・? ですが、私は一度も見た事が無く・・・」
変に言い淀む黄服メイドに対して、アルテアは静かに、落ち着かせる声色を発した。
「大丈夫です。 貴女が、ロイヤルクラウンの者と分かれば、何もされません。 それに、そうも言ってられない状況です。 現状、幹部部隊長であるクイーン、アンナは手薄となった大陸境の警備に周って貰っています。 レイメイはブルデンバウムへ。 クラウディアは言わずもがな、動かないでしょう。 リースがいてくれていれば良かったのですが・・・」
そう言いながら顔を伏せるアルテアだったが、直ぐに表情を作り直すと、黄服メイドへと再度口を開いた。
「よろしく、お願いします」
「わ、分かりました。 それでは直ぐに“教会へと向かいます”」
そう言うと、黄服メイドはその姿を消した。 執務室に残ったアルテアは、一人息をつくと、その瞳を潤ませた。
「私の不甲斐ない指示で何人もの者がその命を散らせたのか・・・申し訳、ありません。 くっ・・・うう」
一人、嗚咽するアルテアの声は、誰にも届く事は無かった。
アルテアに指示された黄服メイドのリサは、唇を震わせた。 心臓の音が煩い程に響き、呼吸もまともに出来ない程に、緊張と焦り、恐怖を感じながら“その場所”へと赴いた。
(ま、まさか・・・ディルムマーダーの方々を呼ばれるとは思わなかった。 確かに、現状、何者かが人間へと擬態し、此方の動きを魔族側へと知らせていた。 そのせいで、十一部隊は壊滅。 幹部の部隊長やそれ以外の部隊兵も国外へと出向。 つまり、もし、もしも、大陸境を魔族に超えられた場合、ロイヤルミュートの国は今ほど手薄な事はない)
考えながら、汗が止まらない。 そして、リサは震える手でその扉へと手をかけた。
(だけど・・・こ、この方々だけは・・・見てはいけないと言われているのに。 姿を見た者で生きているのはロイヤルクラウン内部の一部の人間だけ。 それであっても・・・寿命が縮んでしまう)
扉のノブに手をかけたまま、リサは動けなかった。 国の端にある小さな教会の扉を開くだけだが、それがどれ程に恐ろしい事か、知っている者は決して近づかす、そして、扉に触れる事すらしない。 国民でさえ、教会という心の支えであるその場所に、近づく事は禁止されている。 そんな、パンドラの箱の鍵を開く事は、一メイドであるリサには荷が重かった。
どのくらいそうしていたのか、リサは震えが収まらないまま、扉のノブから手を動かす事が出来なかった。
「はあ、はあ───うっ・・・く」
姿すら見ていないのに、分かる、感じる。 この中にいる者達は決して人間じゃない。 人間の姿をした、別の何かに感じる。 悪魔、化け物───いや、そんな単純な者じゃない。 人外の何かだ。
「何してんのさ、こんな所で」
「っ!?」
突如、後ろから声をかけられたリサが驚きながら振り返ると、そこにはリースが不思議そうな顔をして立っていた。 その手には赤い果実が握られており、一部が無くなっている事から、リースが食しながら適当にフラついているのが分かった。
「リ、リース様!? こんな所で何を!?」
「ん。 何をって、此処ロイヤルミュートだし。 アタシがいてもおかしくはないでしょ」
「い、いや、そうではなくて・・・リース様は今は亡き者なのですから、迂闊に動かれては困ります!」
「あー、はいはい。 そうだったね。 ま、鼠の気配は今の所ないし、大丈夫でしょ」
適当に答えつつ、手にした果実を齧るリースに、リサは呆れながらも胸を撫で下ろした。 幹部部隊長であるリースがそう言うならば、安心ができると思ったからだ。 実際、最近のロイヤルクラウン内部は皆が疑心暗鬼になりつつあった。 エマの一件があってから、誰かに擬態しているのか、もしくは、潜り込んでいる内通者が誰か分からないとい点から、信用を置ける者が少なくなってきていた為だった。
しかし、リースという幹部部隊長であり、相応の実力者がいれば、そういった事にも安心はできる。 現に、リースは適当にフラつきながらも、一人一人に先見眼を向け、それが内通者かどうかを見極めていた。 クイーンやアンナでさえ出向している状況から、現状、ロイヤルクラウン内部やロイヤルミュートの国は、リースがその守を請け負っていた。
当然、それはクイーンやアンナ、レイメイが戻るまでであり、戻ってき次第、直ぐに愛弟子を探しへと出向するつもりではあるが。
「で、何やってんの。 そこ、教会だよ」
「あ、それが───」
リサはアルテアの指示でディルムマーダーを呼ぶようにと言われた事、実際に来てみれば扉を開ける事すら出来ない事を説明した。
「ああ、そりゃ無理だ。 黄服メイドのアンタじゃ無理。 全く、アルテアの奴も酷い事指示するよ。 自分はからっきしだからって簡単に言うもんじゃないよね」
「からっきしに対しては私は何とも・・・」
「ん、そりゃそうだね。 此処で下手を言えば、首が飛ぶね。 じゃ、アタシが開けようか」
「よ、よろしいんですか?」
「よろしいも何も、アルテアの指示でしょ。 まあ、現状攻め込まれたらアタシやクラウディアくらいしかまともに戦えるのがいないから、ね。 アタシも、アイツ等は好きじゃないけどね」
そう言うと、リースはリサの隣に立ち、扉のノブへと手を掛けた。
「・・・殺気立ちすぎでしょ。 だから好きじゃないんだ。 アンタ、離れて後ろ向いてな。 失神した奴をおぶるの面倒だし」
「は、はい。 ありがとうございます」
言うと、リサはリースの言葉以上に離れ、其方を見ない様に後ろを向いて、顔まで手で隠した。 それを見たリースは、そこまでするかと苦笑いすると、勢いよくその扉を開いた。 薄暗い教会内部で、ゆらりと五つの影が、ゆっくりと光差す教会の扉へと動いた。
「邪魔するよ」
「祈りを、捧げております。 お引き取りを」
「「「「お引き取りを」」」」
薄暗い教会内部から、美しく、それでいて、暗く、冷たい声色がすると、続く様に別の声が重なった。 その声を聞いたリースは、眉間に皺を寄せ、めんどくさそうに口を開いた。
「アルテアから招集命令。 早く行きなよ」
「誰をお殺しになられるのですか?」
「「「「なられるのですか?」」」」
「自分達で聞きな。 アタシはアルテアじゃない」
それだけ言うと、リースは踵を返し、倒れているリサを抱え上げると、独り言を言いながらそのままロイヤルミュートの国へと消えて行った。
「ほんと・・・薄気味悪い」
あなたの好きな魔族は?
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