ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい 作:nagiayu
魔族と人間の命の奪い合いの始まりは、誰が始めたのか分からない程、年月を遡る。 一説では、魔族は人間よりも遥か昔に少数が存在し、その後で人間がその数を爆発的に増やしたという話もある。
魔族と人間の違いは、生まれ持った力にある。 現存する魔族の殆どが、東の魔女が純粋なる魔族の血を使い生み出した者達であり、その力はそれぞれに違う。 しかし、そんな魔族達の中でも生まれながらに突然変異的に強大すぎる力を持つ者達が生まれる。
三美凶。 魔女の血と純粋なる魔族の血が混ざりあい、生まれて来たしまった者達。 この三人に共通している事は、魔女が取り込んだ強力な者の血が色濃く、三人共に前世の記憶を微かながらに覚え、生まれながらに他の魔族とは一線以上を超えた力を持って生まれて来てしまった事。
三美凶以外にも、血の混ざりが濃ゆくなった者達も複数存在する。 少数でありながら、その強さは歴戦の魔族達を凌駕する程に強く、賢く、基本的には三美凶の右腕として活動している者が殆どである。
赤い雷を操る魔族───コルレナ。 彼女の名である。 雷を操る魔族は、実は歴史上二人しか存在しない。 その内の一人、イルミディーテは、ウィンクドレスの手によって、既に生を終えている。 残るもう一人が、コルレナ。 赤い雷を操るその者は、歴戦の魔族であったイルミディーテを遥かに凌駕する程の力を持つ。 この名を付けたのは三美凶の一人である、炎を司る魔族。 コルレナは、かつて、人間達を無暗に虐殺し、ただ、己の自己満足の為に動いていた。 そんな魔族の中でも問題児とされていたが、幸か不幸か、コルレナは生まれながらにして、血の色が濃ゆく、周囲の魔族達は勿論、それなりに腕に覚えのある人間達では太刀打ち出来なかった。
そんな彼女を、完膚までに叩きのめした者がいる。 人間ではない。 魔族でもない。 怪物、化け物と呼ばれる者───それが炎を司る三美凶の一人だった。 自分の強さに自惚れ、調子に乗っていたコルレナは、己より後に生まれ、特別視される三美凶とやらを蹂躙してやろうと躍起になっていた。
そんな自分の強さや自信はあっけなく打ち砕かれた。 三美凶の三女である炎の化身に、傷一つつけることすら出来なかった。 叩かれ、殴られ、蹴られ、投げられ・・・炎の化身は己の特別な力を何一つ使わず、倒れるコルレナの頭を踏みつけた。
怒りと、悔しさと、恐ろしさ───様々な感情が混ざった瞳で見上げた時、炎の化身は小さく笑った。 そして、一言発した。
“いつでも私の命を取りに来てください”
コルレナは、その日から、その女に付き従った。
殺してやる。 いつか、必ず───だから・・・今は───
あの言葉は、未だにコルレナの頭の中から離れていない。
そんな昔の出来事を思い出しながら瞳を閉じていたコルレナは、ゆっくりとその赤を開いた。 目の前には膝を付き、忌々しく睨みつける手練れの女がいた。
「貴女、この国でも相当のやり手みたいですね」
「うっ・・・ぐっ」
「私に勝てると思っていたのでしょう? もう少し、歳をとれば傷の一つでもつけれたと思いますが、貴女は若すぎる」
「そう言う・・・其方も若く見えますけどね・・・はぁ、はぁ」
(あの赤い雷・・・身体が痺れて・・・あれが厄介すぎる! 影縫いも効かないなんて・・・この女、プリミアより圧倒的に強い・・・)
「見た目で判断しない方がいい。 私は貴女の何十倍もこの世界で生きています。 それに、この力が忌々しい様ですね。 それが人間の限界です。 我々魔族とは生まれながらに違う。 もう、お止めになりなさい」
「こ・・・のっ!!」
「何故無駄な事を繰り返すのですか?」
目を瞑り、頭を軽く振るコルレナに対して、隙を逃さず、ジュナが痺れる身体を奮い立たせ、投げつけたクナイ。 それは、コルレナに当たる寸前に、轟音と共に赤い雷によって消失した。 見る事もせず、気配だけで迫るクナイを消し去ったコルレナは、ゆっくりとその赤い瞳を開いた。
「確かに、昔の人間に比べて今の人間達の強さは比較にならない程です。 その中でも、貴女は特にその若さでそれだけの力を持っている。 我々魔族からすれば、この先、非常に危険な存在になるでしょう。 しかし・・・今の貴女では私には勝てない」
「まだ・・・あたしは死んでいないっ! 最後まで諦めない! それがブルデンバウムの兵として、最初に教わった事です!!」
地に膝をつけながら、ジュナがそう叫んだ。 コルレナはその言葉を聞きながらも、諭すように静かに声を落とした。
「死ねば、全てが終わるのですよ?」
「終わらない・・・終わらせない!! この国はあたしが守る!!」
ジュナの命の叫びが、燃え盛る街並みに響いた。 そして、空気が変わった。 冷たく、それでいて、熱く、矛盾する空気がその場を支配すると、コルレナが小さく声を発した。
「・・・それが」
「・・・?」
「それが無駄な事だと何故分からない!! 勝てる見込みのない相手に勇猛果敢に挑む!? 死んでもそれが素晴らしい事だと!? お前達人間の美徳とでもいうのか!? 間違っている!!」
「!?」
怒りの表情でそう叫んだコルレナに、ジュナは驚愕した。 驚愕するジュナに、コルレナは続けて叫んだ。 まるで、昔の自分に対して言っている様に。
「人間でありながらも、貴女の・・・貴女程の腕がありながら、何故それを理解しない! この国はもう終わっている! それで国と共に亡ぶのが貴女の全てだとでも言うのか!?」
「ど、どういう・・・」
「生きてさえいれば、いくらでもどうとでもなる! 私へのリベンジも、何れは可能かもしれない! ここで死ぬ事がどれ程意味がない事か理解できないのか!!」
それは、明らかに怒りの言葉だった。 しかし、その中には諭す様な、ジュナを殺す事が惜しくもあるかの様な言葉だった。
「わ、分からないです。 何故、そんな事を・・・」
「私がわざわざこんな街中まで来た理由が分かりませんか?! “あの馬鹿女”から離れ、何故こんな所まで貴女と一対一を望んだか、理解すべき事だ!!」
「・・・」
「貴女は此処で死ぬには惜しい。 余りにも、です。 国を離れなさい。 そして、先ずは傷を癒し、力を付けるのです」
「それは、出来ません。 あたしはこの国で生まれ、この国を守ると決めている。 死ぬまで、この国の為に戦うと決めています。 敵に情けなんてかけられたくない!! それがあたしの───」
「あたしの、誓いだからっ」
ジュナの退かない言葉に、コルレナは唇を噛み締めた。 傷が付き、血が流れる中、コルレナは瞳を閉じ、小さく呟いた。
「・・・愚かな」
「終わりましたか」
一人、燃え盛る街並みを歩くコルレナの足取りは、重い。 そんなコルレナの後ろから、鈴の音が聞こえる。
「プラムベティ様、私は───」
コルレナは振り返る事なく、ただ足を止めた。 そして、力に溺れ、過信していた自分の首を垂れさせた相手に言葉を紡いだ。 そんなコルレナに、炎を司る者は、軽く首を振った。
「何も言わなくてもいいです。 あの娘に止めをささなかった事を咎めたりはしません。 これは貴女の戦いなのですから、貴女が決めた事。 何れ、彼女に寝首を搔かれても文句は・・・いや、本望でしょうか?」
「・・そう、ですね」
二人して、燃える王国から離れた場所を歩く中、プラムベティは横目で伺いながら口を開いた。
「どうかしましたか?」
「我々は何なのかと・・・考えていました」
コルレナの答えに、プラムベティは小さく笑った。
「答えは貴女が見つける事です。 貴女の目的は私の命では?」
「昔はそうでした。 ですが・・・どれだけ力を付けても、貴女の足元にも及ばない。 いや、力を付けたからこそ分かります。 貴女との差は縮まっていない。 この何十年・・・今の私は何の為に存在しているのでしょうか」
「御母様の為、人間を狩る為ではないのですか?」
当たり前の様に答えるプラムベティに、コルレナは沈黙した。 そして、沈黙のまま、一つの丘を越えた後、再度口を開いた。
「何の為に生きているのでしょうか。 魔女の為ですか? 私は魔女の為に生まれて来たのですか? 私は───」
「・・・」
自問自答する様に、また、プラムベティへと尋ねる様に口を開くコルレナに、プラムベティは何も言わなかった。
「少し、あの者が羨ましくあります。 戦う意味を持ち、信念とでも言うのでしょうか。 あそこの者達が───私には眩しい」
立ち止まり、灰色の空を見上げながらコルレナは呟いた。 自分が生まれてきた意味、そして、戦う意味を見出せず、何のために生きているのかすら分からなくなっている彼女は、長く行き過ぎたのかもしれない。
「こんな力、持って生まれるべきでは無かったのかもしれません。 そうすれば・・・」
「自分が生まれてきた事を否定するべきではありません。 力の使い方は、それぞれですから」
「使い・・・方」
「答えはもう出ているのではないですか? その光を消すのか───」
先を歩いていたプラムベティが振り返り、言葉を紡いだ。 その言葉は、一筋の風によって聞き取れなかったが、コルレナは口の動きだけで何を言っているのか理解していた。 そして、困ったような、複雑な表情をみせたコルレナは、小さく口を開いた。
「レベルカとガルムボーン・・・エルディロイネが羨ましくも思います」
「ええ、まったく」
再度二人で歩きながら、プラムベティは何か思いついた様に人差し指を立てながらコルレナへと振り返った。 その表情は、三美凶の一人とはとても思えず、美しく、無邪気な少女の様な物だった。
「本を読むといいですよ。 書物は知識を増やす事ができ、己で考える事も増えます。 我々魔族には到底書けない代物かもしれませんが、今、少しずつ執筆とやらをしています。 いつか、貴女に読んでもらってもいいかもしれませんね」
「プラムベティ様が人間の真似事を?」
コルレナが意外そうな顔で聞くと、プラムベティは少しジト目になりながら頬を膨らませた。 そして、軽く胸を張り、優越感に浸った顔で答えた。
「可笑しいですか? 私は何も可笑しくないと思います。 人間の真似をする事は魔族に取って恥ずべき事。 それは、御母様の刷り込みでもあるのでしょうが、私達は傀儡ではありません。 考え、行動する事が出来ます。 貴女も、何か自分が愉しいと思う事を見つけると良いですよ」
「本は・・・良く分かりません。 プラムベティ様の真似をして読んではみても、何が“楽しい”のか・・・」
「それが分かる時がくると思います。 いつかは」
「いつか・・・」
プラムベティの言葉に、コルレナは小さく反芻した。 いつか、自分が愉しいと思う事が出来るのか。 それが、いつになるのか。 その答えは───。
それぞれの戦いが激しさを増す中、此処、ブルデンバウム西通りの戦いも、その激しさを増していた。
ベルビューヌとメアリの戦いは、正に互角だった。 お互いの必殺の一撃を防ぎ合い、せめぎ合う二人の空気は、禍々しさと、悍ましさに包まれていた。 防ぎ、躱すメアリの身体には傷が多く残り、切られても視認している限り液体化させ、致命傷をさけるベルビューヌにも、メアリの激しい攻撃全てを受け流す事は出来ず、多少の傷がついていた。
互いに息を切らせ、忌々しく睨みつける二人の間に、火花が散っていた。
「はぁはぁ・・・やはりすんなりとはいかない様ね」
【ふう・・・はあ・・・しつこい】
「こちらの台詞・・・よっ!!」
言いながら渾身の一撃を振るうメアリだが、その一撃もベルビューヌは自身の力で作り出した赤い剣で防いだ。 そして、メアリの鎌を弾くと、空いた手を振るった。
【赤の、血粧】
振るわれた手から赤い液体が飛び散ると、その液体が地に着くと同時に赤い棘と化してメアリへと迫った。
「見飽きたわっ!」
赤い棘を青い鎌を一振りしただけで打ち消したメアリは、その勢いのままベルビューヌへと迫った。 しかし、その時、ベルビューヌは持っていた赤い剣と腕を同化させ、大きく振りかぶっていた。
(さっきのは目くらまし! 本命はこっちか!!)
瞬時に次の一手を悟ったメアリは、迫る速度を緩め、鎌を己の前に大きく突き出して迫る一撃へと対処する為に目を凝らした。
【赤の、哭死扇】
(躱し・・・無理だっ!!)
ベルビューヌから振るわれた一撃は、流動しながら大きな扇の形を司り、メアリへと迫った。 その速度と大きさに、回避する事を諦めたメアリは、防御に徹した。
「ぐっ!! く・・・うう!!」
その手に持つ青い美しい鎌は、メアリの身体の一部と言っても過言ではない。 刃物と硬質化した液体のぶつかり合う音は、異音を発生させながら響いた。 メアリはベルビューヌの哭死扇を防ぎながら、その威力の大きさに、徐々に地面を滑りながら後退していく。
「くっ・・・!」
【はぁ・・・はぁ】
必死に防ぐメアリの耳に、小さなベルビューヌ言葉が届いた。 それなりの大技なのか、ベルビューヌは肩で息をしながら力を込めているのが分かった。 それに負ける訳にはいかないと、メアリも更に力を込めた。
「くっ・・・ううあああ!!」
【はあ・・・うう!】
互いに拮抗した力が混ざり合い、遂には、哭死扇が弾け飛び、その場で周りの瓦礫を吹き飛ばす衝撃波となった。 その威力に、メアリは小さく呻きながら吹き飛ばされ、瓦礫の山に突っ込んだ。 そして、ベルビューヌはその場に膝をつき、息を切らせてメアリが突っ込んだ瓦礫へと目を向けた。
【はあ・・・はぁ・・・くっ】
息を整えるベルビューヌの目には、未だにメアリの空気が残っている。 止めを刺さんと、ベルビューヌは手を液体化させ、赤い槍へと変貌させると、それを投げ飛ばした。
【赤の、葬血槍】
高速で迫る赤い槍は、メアリの空気を目掛けて飛翔した。 その槍が、瓦礫に突っ込んだメアリに届く寸前、瓦礫が木端微塵に吹き飛び、赤い槍も衝撃で脆い液体へと破壊された。
「ふっー・・・ふっー・・・!」
そこには、血だらけになりながらも、凄まじい形相で立ち上がり、睨みつけるメアリの姿があった。 衝撃波のダメージと、瓦礫に突っ込んだダメージで、相当の傷を負ってはいるものの、その瞳と空気から、凄まじい殺気が込められていた。
【はぁ・・・はぁ・・・しつこい】
「お互い様・・・でしょう」
お互いに、先程までの威勢はない。 どちらも相当の疲労が溜まり、メアリは足元もフラついていた。 そんな中、ベルビューヌがカッと目を見開き、地に両手を付くと、その姿からは似つかわしくない呻き声を上げた。
【んん・・・あっ・・・あああ!!】
「!?」
ベルビューヌが呻きながら、地へとその赤い液体を這わせた。 その余りの異様さと、凄まじい空気が収束していく様を見て、メアリの中での危険信号が鳴り続けた。 今の内に何とかしないと、手の打ち様が無くなる。 分かっているのに、恐怖と蓄積したダメージから、メアリは身体が動かせないでいた。
そして、遂に“それ”が姿を現して“しまった”。
【これで、はぁ、はぁ・・・最後。 お前は、死ぬ】
「な・・・何よ・・・これ」
ベルビューヌが這わせた赤い液体が混ざり合い、その背後に一つの形を取っていった。 それは、大きさこそはそれ程でもないが、問題なのはその悍ましい程の空気だった。 爆発的な空気が周囲に広がり、それを発しているのが、ベルビューヌからではなく、その後ろにいる“何か”からだと言う事は、先見眼が弱い者でも肌で感じる程だった。
【赤の・・・冷血なる少女】
メアリの目に映るそれは、己の死を予感させる“何か”だった。
あなたの好きな魔族は?
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オルベルスネーシア
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ウィンクドレス
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プラムベティ
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ベスキュビア
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ビクトリア
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ガデルベルナ
-
ヴァレリアーナ
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牡丹
-
ベルビューヌ
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ルナ
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エルンヴァイス