ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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それぞれの戦い───⑤

 

 (今のジュナに“赤いコイツ”の相手は厳しい。  それなら、私との戦闘で疲弊している“本体”を担わせるしかない・・・!  私の体力が何処まで持つか・・・いや、泣き言は言えない!)

 

 「ジュナ!  “コイツ”は私が抑える!  本体をやりなさい!!  視認している間は身体が流動して攻撃は無駄になるわ!  これだけ言えば十分でしょう!?」

 

 「当然です!  メアリ様、無理はなさらないで下さい!」

 

 「無理は承知の上よ!!  来なさい化け物!  私が相手よ!!」

 

 迫りくるベルビューヌと赤いソレに対し、メアリとジュナは散開した。  メアリは宙を飛び回る赤いソレに向かい、ジュナは地に降りたベルビューヌへと迫った。

 

 【赤の、血粧】

 

 【キィイイ!!】

 

 「こんのぉ!!」

 

 「そう簡単にやらせはしないわ!!」

 

 しかし、相手も簡単には近づかせる事はない。  赤いソレは指先から、一本一本が鋭利な切れ味を持つ赤い雨を降らせた。  そんな赤い雨を、メアリは手に持つ青い鎌を高速回転させながら防いでいった。

 

 地で戦う二人は、赤い棘を無数に放ったベルビューヌに対し、ジュナは足元の地へとクナイを二本投げつけると、別のクナイを両手に持ち、突き刺した二本のクナイの間に勢いよく突き刺した。

 

 「“地章・地走り!!”」

 

 クナイから迸る衝撃は、ジュナから離れる程大きくなり、ベルビューヌの赤の血粧とぶつかり合い、相殺した。  抉れた地と、赤い液体が飛び交う中、ジュナとベルビューヌは互いに距離を詰め合い、クナイと赤い槍の撃ち合う音が響いていた。

 

 【はあ、はあ・・・ごほっ】

 

 撃ち合う最中、ベルビューヌが吐血しながらも、その赤い瞳をジュナへと向けていた。  ジュナもまた、銅に光る瞳を向けた。

 

 「はぁ、くっ・・・随分と苦しそうですね。  無理はしない方がいいと思いますよ?  はぁ、はぁ」

 

 【お、前が言う、事?】

 

 「は、はは。  た、確かにそうですね。  でも、あたしもメアリ様も負けませんよ」

 

 力を込めてそう言うジュナに対して、ベルビューヌはチラリとジュナの足に目線を向けると、小さな口を開いた。

 

 【足が、震えて、いる】

 

 「ちょ、ちょっと疲れているだけです!」

 

 ジュナがムキになって言った瞬間、ベルビューヌは己の左手に赤い液体を集中させ、球体を作り出した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 (凄い空気・・・直接触れられたら、ダメ。  メアリ様との戦闘で疲弊してもまだ、これだけの力を残しているなんて)

 

 赤い球体を左に纏わせたベルビューヌが攻め込むと、ジュナは二刀のクナイを駆使してそれを捌いていった。  お互いに必殺の一撃を捌かれる中、ベルビューヌが苛立ちを覚えながら小さな舌打ちをしたのを、ジュナは気づかなかった。

 

 【ちっ・・・!】

 

 「はあ、はあ!!  くっ!」

 

 【んっ、くっ、お前も、しつこい!】

 

 攻防の最中、ベルビューヌが右手に持つ赤い槍をジュナの目の前で液体へと飛散させた。  咄嗟の行動に、ジュナは完全に対応をすることが出来なかった。

 

 「っ!?」

 

 (な、なに!?  武器を自分から消した───しまっ───)

 

 ほんの一瞬だった。  目の前で飛散した赤い槍の液体が、ジュナの視界の邪魔をした。  そして、ベルビューヌに狙いに気付いた時、その時には遅かった。

 

 【赤の、破凱球!】

 

 珍しく声を荒げたベルビューヌの言葉が響いた。  そして、左手に纏わせた赤い球体でジュナへと殴り掛かった。  瞬間、ジュナは咄嗟に半身を翻したが、躱しきれなかった。  左腕の骨が砕ける音が響き渡り、ジュナは勢いのまま地面を抉りながら吹き飛ばされた。

 

 「あぐぅ!!  ぐっ、あ・・・かはっ・・・」

 

 (な、なんて威力!  あの赤い液体を纏わせるだけで破壊力を上乗せするなんて・・・!  だけど・・・!)

 

 【はあ、はあ】

 

 「うっ・・・うう・・・」

 

 倒れ、呻くジュナに、ベルビューヌが肩で息をしながら近づく為に一歩踏み出した瞬間だった。

 

 「はあ・・・はあ・・・こ、これでも喰らえ・・・!」

 

 ジュナは倒れながらも、震える右手でベルビューヌへとクナイを投げつけた。  これまで、何万回、何十万回もクナイを投げて練磨を続けて来た。  どんな状況でも、どんな態勢からでも。  外す事は無い、決して。  そう確信していたジュナのクナイは、狙い通り“それ”に突き刺さった。

 

  本来ならば、飛来するクナイを躱すなり捌くなりしたであろうが、ベルビューヌは体力の疲弊が激しい。  無駄な動きを控えたい筈だ。  そして、己のその“特別な身体”がそれ等をさせないと、ジュナは確信していた。

 

 そして、狙い通りだった。  ベルビューヌはそのクナイを視認しており、それが自身の身体に突き刺さったとしても、流動する為、ダメージは受けない。  その特別な身体が───ベルビューヌの強さたるものであり───隙でもあった。

 

 ジュナの“仕掛け”。  その違和感に気付くことも出来たであろうが、メアリ、そして、ジュナとの連戦でかなりの疲弊をしていたベルビューヌは、それに気付くことが出来なかった。

 

 「はあ・・・くっ・・・え、“炎爆の章・爆心飛”」

 

 クナイが右腕に突き刺さった瞬間、何かに当たった。  それは、ジュナがベルビューヌに破凱球で殴りつけられた瞬間、瞬時に流動する身体に食い込ませた物だった。  そして、ベルビューヌは初めてそこで違和感を覚えた。  だが、それを視認するには遅かった。

 

 【!?】

 

 瞬間、ボンッという轟音と共に、ベルビューヌの右腕が爆発した。

 

 【ああっう!!  うぁっあ・・・】

 

 抉れた右上を抑え、膝を付くベルビューヌが、今日初めて明確な“痛み”を覚えた。  メアリとの戦闘で傷はついても、痛いとい感覚は殆どなかった。  赤いアレを召喚した時も、痛みではなく、疲れだった。

 

 【あうう・・・ううっ!】

 

 「はぁ、はぁ・・・あ、あなたでも・・・そんな顔するん、ですね」

 

 【ううっ、こ、このっ・・・!】

 

 痛みで顔が歪みながらも、赤い瞳を向けて睨みつけるベルビューヌに対して、ジュナはようやく片膝をつきながら態勢を整えていた。

 

 (左腕は・・・死んでる。  痛みの感覚も無いくらいに。  だけど、相手の状態も相当酷い筈。  流動するあの身体が再生しない程に、相手も相当のダメージがある。  お互いに、片腕で対等。  勝負は・・・ここからっ!)

 

 【うう、お、お前、なんかに!】

 

 「か、格下と思っている相手にやられるなんて、はぁ、はぁ、腹立たしいですか?」

 

 【お、前・・・なんかにぃ!!】

 

 叫びながら残った左手に赤い球体を纏わせると、ベルビューヌはジュナへと迫った。  そして、ジュナもそれを迎え撃つ為、動く右手にクナイを握り、ベルビューヌへと駈け出した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 「ううっ・・・あああっ!!」

 

 【ぐぅ!  ああっ!】

 

 互いに最後の力を振り絞り武具を、拳を振るった。  お互いの、浅く濃い息遣いと、肉と刃物が合わさる音、骨を砕く音が響いていった。

 

 しかし、人間と魔族では根本的な体力が違う。  腕力も、速さも、魔族であるベルビューヌの方が上を行っている。  そんな、差が、徐々に明確となっていった。

 

 「あぐっ!  かはっ!  はっー、はっー!」

 

 (ま、まずい・・・もう、ダメ・・・)

 

 【はぁ、はぁ、これで、終わり、だ!!】

 

 態勢を崩したジュナへ、隻腕のベルビューヌが破凱球を纏わせた拳を突き出した。

 

 瞬間───

 

 

 

 “空蝉・自身御供”

 

 

 

 ベルビューヌの放った破凱球が勢いのまま、身体を貫いた。  しかし、それはジュナの身体ではない。

 

 ジュナの目には、これまで幾度となく目にしてきていた背中があった。  青い服が、赤く染まり、見たくない色が広がる。  そんな光景を見て、ジュナの頭の中に、心の中に、今までの記憶が蘇った。

 

 

 

 『メアリ様って、近衛六臣女の皆さんを練磨されたんですよね?  と言う事は、皆さんの技が使えるんですか?』

 

 『まさか。  アルムの様な残糸は使えないし、レアやニアの様に鉄棍もフランシスカも使えないわよ。  カエデとシラベは私に近い戦闘スタイルだけどね』

 

 『なるほどー!  そんな中で練磨をされるって難しいですよね!?』

 

 『短所を補うのも大事だけど、どちらかと言えば長所を伸ばした方がいいと私は思っているから』

 

 『メアリ様らしい言葉ですね!  そうだ!  近衛六臣女で一番手が掛かったのは誰ですか?』

 

 『貴女よ』

 

 『もう!  あたしは六臣女じゃありませんよっ!』

 

 『ふふ、冗談よ。  そうね・・・カエデとシラベは優秀すぎて、嫉妬を覚えたくらいだし、レアとニアはまだまだ若すぎて教える事がありすぎるし。  アルムとリズ・・・強いて言うなら、リズかしらね』

 

 『えー!?  リズさんですか!?  意外ですね?  リズさんって真面目ですし、それでいて明るいし、凄くいい人ですから、手が掛かるイメージはないんですけど!?』

 

 『全くその通りだけど、強いて言うならって言ったでしょ?  私はリズ程に器用じゃないから、ある意味で手が掛かったわ』

 

 『ある意味、ですか?』

 

 『そう、ある意味でね。  もうこんな時間・・・ジュナ、ソフィアの警備の時間が終わるわ。  御付きの貴女が出迎えなくていいの?』

 

 『いっけない!!  すっかり長居しちゃいましたー!』

 

 『行ってらっしゃい。  支払だけど、前回もその前も・・・というかずっと私が払っているし、今回は貴女の誘いだから貴女が───』

 

 『じゃ、あたし行きますねー!  お茶、ご馳走様でしたー!』

 

 『あっ!  もう、また私が支払い?  仕方ない娘ね。  けど、ふふ。  そういう所が可愛いのよね』

 

 

 

 

 

 「この娘は・・・この娘だけは・・・やらせは、しないわ・・・」

 

 「メ、メアリ・・・様」

 

 【くっ!  何故、お前、が・・・!】

 

 【キィイイイ!!】

 

 身体を破凱球に貫かれていても尚、メアリの目から光が消える事は無かった。  その目を間近で見たベルビューヌは、震え、驚いた。  そして、主人に危険が及んだ事と、目の前で対峙していたメアリが突如消えた事で、赤いソレが猛スピードで迫った。

 

 背後から迫る赤いソレに対し、メアリは振り向きもせず、手にしている青い鎌を投げつけた。  勢いよく投げられた青い鎌は、赤いソレに突き刺さると、小規模の竜巻を起こして赤いソレを細切れにした。   破片となり、地へと降り注ぐ赤いソレを見て、ベルビューヌは目を見開いた。

 

 【っ!?  ば、バカ、な。  何故、死な、ない?  何故、動け、る?】

 

 「この娘は・・・我が国の、希望・・・光なの、よ。  光を失わせる、訳にはいかない」

 

 【光・・・?  光とは、なん、だ】

 

 「希望・・・願い・・・夢・・・」

 

 【なん、だ・・・それ、は】

 

 「お前達、には・・・理解、出来ないでしょう・・・ね」

 

 そう言いながら、メアリは仰向けに倒れて行った。  そんなメアリを、片腕が動かないまま、ジュナが抱き留めた。

 

 「メアリ様っ!! どうしてっ!!」

 

 「っ・・・」

 

 苦しむメアリを覗き込んでいたジュナが、凄まじい殺気を向けてベルビューヌへと振り向いた。

 

 【ん・・・くっ!  はあ、はあ】

 

 「お前が・・・お前達さえ生まれて来なければ・・・!」

 

 怒りに震え、睨みつけるジュナに対して、ベルビューヌは冷たい目で見下ろしながらも、ある感情が生まれて来ていた。

 

 そして、ベルビューヌはゆっくりとジュナとメアリに背を向けると、フラフラと覚束ない足取りで歩みを進めた。  そんな彼女へ、ジュナが怒気を向けた。

 

 「待てっ!!  このまま逃がすと思っているのかあ!!」

 

 「じゅ、ジュナ・・・行かせて、やりなさい」

 

 「メアリ様!?  何を言うんですか!!  こいつは・・・こいつは!!」

 

 「ベル、ビューヌと・・・呼ばれて、いたわね」

 

 メアリの小さな言葉に、ベルビューヌが足を止めて振り向いた。  そして、その少女の横には赤いソレがいつの間にか再生された状態で舞い戻って来ていた。  襲って来る訳でも無く、表情も無く、唯、佇んでいるだけだった。

 

 「この勝負、私の命で・・・済ませて貰えない、かしら」

 

 「メ、メアリ・・・様」

 

 【・・・】

 

 「あ、あなたに・・・心という、物が・・・あるならだけ、ど」

 

 メアリの震える言葉に、ベルビューヌは答えなかった。

 

 「やっ、やっぱり・・・ダメかしら、ね」

 

 人間と魔族。  その心にあるのは、互いに相手を屠らんとする一心。  そんな、完全なる敵対者に対して、拳を合わせて来た三人の中に、何かが生まれて来ていた事は明白だった。  長い対峙時間で、三人の心には、相手への憎しみだけでは無く、好敵手としての気持ちが、そこには確かに在った。  

 

 殺したい気持ちはある。  だが、それは相手に勝ちたいから気持ちであって、相手を蔑んだり、見下しているが為の殺意では無い。  殺意の無い殺意。  矛盾したその言葉が、三人の中にはあった。

  

 【・・・お、前達は、強い】

 

 「認めて、くれる・・・の、かしら」

 

 【殺して、きた】

 

 睨みつけるジュナと、そんなジュナに抱きかかえられるメアリに対して、ベルビューヌが、そう言った。

 

 【数えきれない、程。  人間も、魔族も・・・】

 

 「・・・」

 

 【それが、普通だった。  弱い、人間、強い、魔族。  わ、私を、化け物、扱いしてきた者達、全て】

 

 ベルビューヌの言葉に、ジュナもメアリも何も返さなかった。  俯き、独白するベルビューヌは、儚かった。  今日まで、彼女もまた、己の出自には逆らう事は出来ていなかった。  それが変わろうとしている。  ベルビューヌの、彼女の想いが、そこには在った。

 

 【止め、だ。  もう、いい】

 

 「ありがとう」

 

 メアリから掛けられたのは、生まれてからこれまで、一度も言われた事のない言葉だった。  意味は知っている。  だが、そんな言葉は魔族である彼女にとって、遠く、儚く、あり合えない言葉だった。  そんな、初めての言葉に、彼女はパッと顔を上げ、メアリとジュナを見つめた。  だが、彼女はその言葉には何も返さなかった。

 

 

 

 いや、返す言葉を知らなかった。 

 

 

 

 彼女は赤いソレに飛び乗り、二人を残して空へと飛び立っていった。  そして、暫くした後、地に映る二つの影を視線に取らえた彼女は、その上空で気を失い、膝から崩れ落ち、倒れた。  彼女もまた、二人との戦闘で限界を迎えていた。

 

 彼女が意識を失うと、赤いソレが飛散し、彼女は空に放り出され、落下して行った。  意識が無いまま、速度を上げて落ちて行く彼女だったが、地面に当たる直前、何者かに受け止められた。

 

 

 

 「お疲れ様でした、ベルビューヌ。  あの女の元で働いた事、苦しかったでしょう。  貴女のお陰で、あの女の人形達とやらを随分と減らす事が出来ました」

 

 「随分と、所ではありません。  壊滅させましたよ、彼女は。  たった一人で、後方に陣取っていたあれだけの数の魔族と魔物を、です。  それだけに、疲弊をした状態でのブルデンバウムとの連戦でしたから、相当堪えたでしょうね。  歴戦達は先に行動した為、取り逃がした様ですが、彼女には良かったかもしれませんね。  歴戦とも戦闘していたら、恐らく・・・」

 

 「良い働きをしてくれました。 ベルビューヌの力が無ければ、難しかったでしょうが、大したものです。  これで、一方的だった風向きが変わりましたね。  ブルデンバウムは墜とさなければなりませんが、此処まで被害が酷くなれば、再起は難しいでしょう。  それに“あの女”も生かしておくわけにはいきません」

 

 「少し、失礼します」

 

 「そうですね、隠して上げないといけませんね。  ベルビューヌが再生出来ない程、疲労が激しかったのでしょうね」

 

 「これでも、女の子ですから。  恥ずかしいでしょう。  裾は少し短くなりましたが」

 

 「見えなければ大丈夫。  感謝します、コルレナ」

 

 「・・・プラムベティ様、私が受け持ちます。  お身体に汚れが───」

 

 「これは、ベルビューヌが私の為に戦って出来た傷。  汚いなんて事はありえませんよ。  寧ろ、美しいくらいです。  大丈夫。  私が連れて帰ります」

 

 「分かりました。  彼女も彼女なりに初めて考え、想いを持って行動したのでしょう。  随分と良い経験をしたみたいですし、暫く休ませてあげましょう」

 

 「ええ、本当に。  綺麗な寝顔ですね」

 

 

 

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