TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい 作:ソナラ
かくして、無事“
師匠と私にかかれば、街一つくらいなら簡単に滅ぼせそうな魔物もちょちょいのちょいなのだ。
真面目な話、土属性の魔術師は土属性の魔術師と組むのが一番いいと私は思う。
単純な話なのだけど、魔術師ってのは二人いてもぶっちゃけ邪魔だ。
だって、どっちがどっちの魔術を使ったかわかりにくいから。
別属性同士で組めばその点は問題ないけど、今度は別の問題が発生する。
別属性の魔術が戦場を飛び交うと気が散るのだ。
自分の属性の魔術をイメージしないといけないのに、戦場にある別属性の魔術のせいで意識がそちらに向くと魔術のイメージがうまくいかなくなる。
ので、基本的に魔術師はパーティに一人というのが基本。
後、魔術師って貴重だからね。
その点、土属性同士なら、どっちがどっちの魔術とかあまり関係ない。
先程の戦闘を見てもらえれば解るけど、土属性魔術は基本的に地形を変化させる物が多い。
<射出>以外は動きも少ないから、魔術の誤認はそうそう起こらないだろう。
後、これは他の属性にもできるんだけど、土属性は特に“他の魔術師が使った魔術”を利用しやすい。
簡単に言うと、例えば私が作った土壁を、師匠が即席で土の剣に加工し直したりとかできる。
他の魔術は動きがすばしっこいので、他人が干渉するのはかなり難しいんだよね。
ともあれ、そんな師匠との連携で無事にランペイジボアを討伐したわけだけど――
「――クロナさん、流石にこれは功績として誤魔化しきれませんよ」
ちょっと、問題が起きた。
具体的にはランペイジボアの討伐をミアさんに報告したときのことだ。
「“才覚者”のランペイジボアを討伐して、自分はただのBランクでーす! は無茶ですよ、クロナさん!」
「そこを何とか! いっそ全部師匠の手柄にしてもらってもいいですから!」
「いやダメだろ!?」
というのも、流石に才覚者のランペイジボアっていうのは、クエスト達成の功績が大きくなりすぎるという話だ。
元々、順調に実績を重ねていけばそのうちAランクに昇格するだろう、というのが私の実情なのだが。
このランペイジボアは、輪をかけてそれを助長してしまうのである。
嫌だ! あと三年くらいはBランク冒険者としてぬくぬくやっていたい!
責任とか負いたくない!
知る人ぞ知る冒険者でいたい!
「いいじゃないか、Aランク冒険者。世界の英雄に名を連ねる栄誉だぞ?」
「そして英雄にふさわしい実績が求められるんですよ、師匠……」
駄々をこねる私に、師匠が宥め賺すように言う。
だが、正直師匠が自分はAランクにならないのだから関係ないと思っているのが透けて見える。
Aランク冒険者。
それは冒険者の頂点、あらゆる冒険者の、そして冒険者の冒険譚を好む人々の憧れの象徴。
Bランク冒険者がプロスポーツプレイヤーなら、Aランク冒険者はそんなプロスポーツ選手の頂点。
世界大会とかで優勝するレベルの存在だ。
オリンピックで金メダル取れるって言えばわかりやすいね?
で、そんなAランク冒険者には、栄誉と共に責任も転がり込んでくる。
冒険者として
常に大きな冒険に挑戦し続ける義務と、それを成功させる責任が常に伴ってくる。
もしもその努力を怠れば、Aランク冒険者のままではいられない。
そうなればまたBランク冒険者へ逆戻りなわけだけど、逆戻りした時点で冒険者としての人気は地の底に落ちる。
はっきり言って、人気商売なところもある冒険者としてそれは、致命的と言わざるを得ないだろう。
加えて言えば、そもそもAランクに昇格した時点で「自分だけが良さを知ってる」冒険者ではいられない。
Bランク転落となったら、「玄人好みのいぶし銀」という実力にも疑問符がつくだろう。
昇格しても何もいいことがない!
でも、私の実力だと何れ昇格しない訳にはいかない。
今回みたいなイレギュラーに遭遇して、それを解決していけば自ずと実績は溜まっていく。
詰みである。
「まぁまぁ、本来ならクロナさんはAランク冒険者にふさわしい実力を持っていることは事実ですから、これは当然の結果ですよ」
「フォ、フォローになってないよミアさん……」
そりゃあ端から見ていて私が、実力に対して評価が低いってことは事実だけれども。
原因は私が本来の実力を発揮しようとしていないから。
知ってる人からしてみれば、惜しいと思うのは当然だよね。
ま、だからこその「自分だけが良さを知ってる」系冒険者なんだけど。
「……まあ、いずれAランクになるつもりはあるよ?」
「そうなんですか!?」
嬉しそうに、こちらを見てくるミアさん。
私はまっすぐ、それに返した。
「――だってミアさんの期待を裏切りたくないから」
ミアさんは、私の良さを知っている。
そこには私に対する“期待”があるんだ。
私は、私の良さを知っている人の期待を裏切りたくない。
だから、たとえどれだけなりたくなくたって、私はAランク冒険者にいずれなる。
「――――っ!」
「ミアさん?」
ミアさんは顔を手で覆ってしまった。
……なんでそんな目でこっちを見るんですか、師匠?
「うう……い、今はまだ、私の期待するBランクのクロナさんで大丈夫です……」
「……? そう? わかった」
不思議なミアさんは、そのままパタパタと私達の方から離れていくのだった。
……何だったんだろう?
**
「お姉様! アタクシ達これから、偶にですけれど一緒にパーティを組むことになりましたの!」
「が、頑張り……ます」
そうして、ロロとコノハの下へ戻ったら、いつの間にか諸々のあれやこれやが解決していた。
まってまって話が早すぎてついていけない。
「えっと、つまり……どういうこと?」
「コノハさんには、時折臨時のパーティメンバーとしてパーティに参加してもらうことになりましたの。コノハさんは人付き合いが苦手とのことですから、これでちょっとでも慣れていってもらいたいのですわ!」
なんてこったい。
ロロは完全にコノハの問題点を把握していた。
いつの間に? 私が見ている間では、ロロとコノハはどこかコノハがよそよそしく壁を作っていたはずなのに。
一体いつ、距離を縮めたのだろう。
っていうか結構距離が近くない?
百合の花が咲いてない?
お姉様って呼ばれてる私より近かったりしない?
じぇらら……
「なるほど、固定パーティだと色々と問題も起こるかもしれないが、臨時パーティならそれも大きな問題にはならないか、いいんじゃないか?」
「……っ!!! あ、ありがとうございますわ、アスノ様!!」
私が変な嫉妬心を心の薪にくべている間に、師匠がロロ達の方針を褒めていた。
師匠? 師匠まで私から大切な人をNTRっていくつもりですか?
いくら師匠でも、NTRはダメですよ、NTRは……
じゃない!
実際のところ、パーティを臨時で組むというのは大正解だと思う。
固定パーティに臨時で入る助っ人というのは、別に珍しい立場ではない。
私の場合は殆ど無いけれど、師匠とかは結構、他のパーティと組んで行動することも多い。
師匠の英雄譚には、そういう別パーティとの合同クエストで起きたことも含まれているのだ。
ただ、特定のパーティにだけ、臨時で参加する助っ人というのは珍しい。
コノハの場合、しばらくは“進む光”でだけ臨時の助っ人をすることになるだろうが、彼女のことを考えれば何れは助っ人するパーティを増やしていくのがいいだろう。
「それに、色んなパーティの助っ人をすることを前提に、普段はソロで活動する冒険者も結構いる。コノハは、そういう立場で信頼できるパーティを少しずつ増やしていくのが理想だろうな」
「は、はい……深い人付き合いが苦手でごめんなさい……」
「もう、そんなこと言わないでくださいまし! コノハさんはとっても善い人なのですから、すぐにコノハさんの良さを多くの人が解ってくれますわ」
ってああー!?
私が考え事をしている間に、三人が何かいい感じに話をまとめ始めている!?
やめて! NTRはまぁ癖の話だからともかく、のけものにされると私は死んでしまうぞ!!
「それに……」
「……あ、はい」
「ふふ、そうですわね」
三人の心が通じ合っているのを感じる。
私以外の三人が友情を深めているのを感じる!
イチャイチャの種を感じる――――!
「――ク、クロナ先輩」
と、そこで三人の視線が私に向いて、コノハが私の名を呼んだ。
え、何? 勝手に脇で変なことを考えていたのがバレた?
私があまり考えなしだということがバレた!?
「こ、これからもよろしくお願いします……ね?」
「え、あ、うん。こちらこそよろしく……」
普通によろしくされてしまった。
不束者ではないので、コノハはまだ未婚だ。
私は何を言っているんだ?
さっきから変なことばっかり考えているので、思考が変な方向に行ってしまっているのを感じる。
「全く、何を呆けているんだ、君がしっかりしないとダメだろう、クロナ」
「師匠?」
「なにせ、コノハくんの方向性をこうしていい感じに纏められたのは、君がコノハくんとロロくんを巡り合わせたからだろう」
「あ……」
なるほど。
確かにコノハとロロは、住む世界が違いすぎて何かしらの偶然がなければ巡り合うことのなさそうな二人だ。
それこそ私の介入がなければ、道端で落とし物を拾うとか、そういう運命的な何かが必要になる。
「そうですわ、お姉様! アタクシ、こうしてお姉様と出会えてとても幸運だと思っておりますの!」
「ロロ……」
「ですからこれからも、お姉様と仲良くしたいですわ!」
つまるところ、この三人……私を含めて四人は。
私がいなければ、出会わなかった四人なわけだ。
だから、私をのけものにするなんてのはむしろ逆、絶対にあり得ない。
NTRとか、イチャイチャの種とか、そういうアホみたいなワードで適当言ったけど、それは単なる私の思い違いというわけだ。
「く、クロナ先輩とも、一緒にパーティを組んで……い、色々なこと、教えてもらいたい……ですっ」
「コノハ……もちろんだよ。まぁあんまり教えることもなさそうだけど……」
「え、あ、う……が、頑張ります」
多分教える前に一人で理解しちゃうんじゃないかな、と思わなくもないけれど。
コノハの言葉はとても嬉しい。
先輩として、コノハの成長を見守ると決めた身として、とても光栄なことだ。
だから……
「コノハも、ロロも、もちろん師匠も……」
私は、三人に笑顔でこういった。
「これからも、よろしくお願いします」
三人も、それに笑顔で首肯するのだった。
**
夜。
祝勝会でお酒を頼んだら、ロロとコノハが速攻でダウンしてしまった。
ふたりとも、成人になったばかりということもあって、あまりお酒を飲み慣れていないのもあっただろうけど。
単純に、お酒には弱いタイプらしい。
私? 私は普通、前世の頃から変わらず、強くもなければ弱くもない。
そして、あまり飲むタイプではないので、傍目から見ると強く見えるタイプかもしれなかった。
そして――
「いや――流石冒険者の聖地とも言えるダンジョン都市グラール、冒険者の喜ぶモノの質はとても高いな!」
師匠は、ドワーフの宿命か、とんでもないウワバミだった。
「師匠、それ何杯目ですか?」
「さてな? もう覚えてない。だがまだ酔ってないから、もっと行けるぞ」
「ドワーフって大変ですねぇ、酔うにもとにかく量が必要で」
「ははは、それだけいっぱい飲めるってことじゃないか! まぁ、今日は折角クロナと呑んでいるんだから、君と同じくらいには酔いたいものだ」
なら、そこまで大量に飲む必要はないだろう。
今の私は、酒のほてりを師匠と一緒に、ギルドの二階にあるテラスで冷ましているところ。
ほろ酔い加減の、個人的には一番ちょうどいい具合を楽しんでいるところだ。
まぁ、ぶっちゃけあまり酔ってはいない。
そもそも呑んだ酒の量が大した量ではないからそんなものだけど。
「思うに、君と初めて出会った時は、まさかこうしてグラールのギルドで酒を飲み交わす日がくるとは想像すらしていなかったよ」
「それは、私が普通の村娘だったからですか? 師匠が普通のCランク冒険者だったからですか?」
「もちろん、どちらもだ。……まぁ、当時の私は普通というには落ちこぼれの部類に入る冒険者だったが」
「それを言ったら、私だって地味な落ちこぼれ村娘でしたよ。とてもじゃないけど、人から注目を集めるタイプじゃないです」
そうだなぁ、と言って師匠はまた酒を一杯飲み干す。
樽に入った酒を一つまるごと持ち込んでいるので、またその樽から酒を取り出して飲む。
大樽一つを軽々と飲み干してしまう、やっぱりこういうのを見ていると、師匠もドワーフ――異世界の住人だなと感じる。
「師匠、私は……」
「うん、どうしたんだい?」
「この世界で、生きているんですよね」
「……? どういうことかな?」
ふと、酔いにまかせて何かいいことを言おうとして、そんな事を零してしまった。
正直自分でも何も考えていなかったから、言葉に詰まる。
「ああいやえっと、……私って、何でもない人間だったんですよ」
「まぁ、元は印象に残らない村娘だったんだから、そうだろうね?」
「なんとなくそれを、生きているって言えるのかな、って思って」
口に出しながら考えを纏めていく。
「そう……そうなんですよ、私はこの世界で生きていくために、人から評価されることで実感を得たかったんです」
「承認欲求ってやつか? まぁ、君の願いを考えれば、不思議なことじゃない」
「自分だけは良さを知ってると、まわりに思われたい」
ああ、つまりあれだ。
現実感の問題。
私はふわふわしている。
前世からそうだったけど、確固とした目的を持って生きているわけじゃない。
コノハのような“資格”もなければ、ロロのような“目標”もない。
そしてそれは転生したことで、更に加速したように思う。
その地に足がついていない感覚をなんとかするために、まわりとのつながりを求めた結果が、今。
なんとなく、しっくり来た。
「――師匠がいたから、私はそう思えました」
「買いかぶり過ぎじゃないか?」
「それだけじゃないです。師匠の存在は、私にとって転機になるんです。師匠とこうして顔を合わせるたび、私は変化を迎える」
「ふむ?」
具体的には、こうだ。
「
「それは……流石に私とは因果関係はないだろう」
「でも、ジンクスみたいなものは感じますよ」
そしてそのジンクスは、大抵の場合いいものだ。
今回だって、二人の後輩に恵まれて、私は少しだけ、私を評価してくれる人を増やすことができた。
「君は……そうやって私との出会いで迎えた変化を、良い物だと思っているんだね」
「もちろんですよ」
「だったら、そうだな――」
ふと、師匠が手にしていた酒樽をこっちに向ける。
私の手の中にあるジョッキのお酒はすでに空になっていて――
師匠はそれを、少しずつ満たしていく。
「君には色々ないいところがある。変なところもあるし、偶にどうかしてると思うところもある」
「いや、それ褒めてるんですか?」
「褒めてるんだよ。でも――私との出会いによる変化。これはもちろんいいことだが」
それが一杯になると、師匠も自分のジョッキを一杯にして。
「それは、私だけが知っていることだ」
カツン。
私のジョッキと乾杯をして。
また、お酒を飲み始めた。
「……そして、師匠が私をそうやって認めてくれたことも、私だけが知っています」
私も同じようにお酒を口につけ始め。
それから、暫く言葉はなく。
二人だけが見上げる夜空が、私達を照らしていた。
とりあえず一区切りになります。
少し最後は投稿が遅れましたがここまでお読み頂きありがとうございました。
また気が向いたら続きをかけたらと思います。
その時はよろしくお願いします。