煉黒宿す少女   作:光炎の大龍玉

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プロローグ:黒焔盛んにして災異未だ止まず

事の始まりは中国、軽慶市。『発光する赤児が産まれた』というニュース。

以降各地で「超常」は発見され、原因も判然としないまま、時は流れる。

世界総人口の八割が何らかの特異体質である超人社会となった現在。

世界では一つの職業が脚光を浴びていた。

生まれ持った超常的な力“個性”を悪用する犯罪者・(ヴィラン)が増加の一途をたどる中、同じく“個性”を持つ者たちが“ヒーロー”として(ヴィラン)や災害に立ち向かい、人々を救ける社会が確立されていた。

 


 

ここは太平洋のマリアナ海溝付近。

上空で旅客機のエンジントラブルが発生し、墜落した。

今、ひとつの命が海に消え、マリアナ海溝へと沈んだ。

 

(息が……できない……)

 

少女は旅客機の残骸と共に為す術なく沈んでいく。

 

(……わたし、死んじゃうの?)

 

意識は途絶えてないが、少女の死は明確であった。

 

(やだよう……しにたく、ないよ……!)

 

水圧で骨が軋んでも尚生を求める思いに……かの龍は目覚め、応えた。

 

面白い……目覚めてみればこのような小娘に出会うとはな……!! ふふふ……この我を楽しませてみせろ!あの時のニンゲンのようにな……!

 

不死の心臓は再び動き出し、大地の化身が沈みゆく少女の前へ顕現する。

奴はその身で残骸を融かし、少女を自らの心臓へ取り込む。

 

脈動は今ここに、再び始まった。

 


 

今となっては珍しい大規模な飛行機事故に対応する為、海難救助に長けたヒーロー達が一挙に集まっていた。

迅速な対応により、ほぼ全ての乗客は助かった。……ただ1人を除いて。

 

「うちの子は! うちの子は助かったんですか!?」

 

「沈んでいったんです! 海の中に! まだ助かるかもしれません! お願いです!」

 

アザラシのような姿のヒーローに縋りつく夫婦がいた。

しかしそのヒーローは俯き、首を振る。

 

「……残念ながら、飛行機の墜落地点はマリアナ海溝の真上。沈んでしまったのなら、水圧の関係上誰も……そしてあなた達のお子様の命も…………申し訳ありません……!!」

 

(我々がもっと早く来ていれば……クソっ!)

 

彼は拳を握りしめ、船の手摺を叩く。

そして、何かが浮いてくるのに気がつく。

 

「これは……」

 

本能が告げている。

巨大な何かが、ここに迫ってきている。

異変はまだ続いた。

 

「熱い……!」

 

まるで近くにマグマが吹き出ているかのように、凄まじい速度で水温が上昇している。

そして、かの龍の姿が見えた。

他のヒーローも異変に気がついたのか、救助者を連れて飛行機から離れていく。

 

「なんだ、ありゃあ……!!」

 

その龍を表現するならば、火山そのものだ。

灼熱の花弁の如き黒鱗と燃え盛る岩石のような甲殻に覆われた龍は、膨大な熱と共に浮上してきた。

 

ほう……元の場所へ帰りたいのか。…いいだろう

 

少女の朧げな願いを受け取った龍は、身体をくねらせて目的地へ向かう。

少女の記憶が正しければ、しばらくは海が続く。ならば、己を阻む邪魔な大地は無い。

ただ泳げば、直に着く。

 


 

火山の如き龍は、誰にも止められなかった。

 

ふん、有象無象が我を止められるものか!

 

数多のヒーローが立ち向かったが、龍の圧倒的な力により蹴散らされた。

普通の生物なら致命傷になりうる攻撃を与えた者もいた。だが、龍の鎧を傷つけるには至らなかった。

灼炎も、氷結も、電撃も、鋭い刃も、戦車の如き巨砲も、ひとつとして龍の身体に傷をつけられなかった。

岩盤と錯覚してしまいそうな翼から巨大な噴石が降り注ぎ、一方的に乗ってきた船ごと吹き飛ばす。

龍はただ泳ぐだけで厄災を振りまく。ただの泳ぎで、自然の暴威そのものとして人に牙を剥いた。

だが、龍の行進もあるヒーローの登場で止まる。

 

「HAーッHAッHAッHAッ!!! もう大丈夫ッ! 何故って!? 私が……来たッ!!!」

 

筋骨隆々の男が船から飛び上がり、海を蹴ってこちらに走ってくる。

 

DETROIT……SMASHッ!!!」

 

男の渾身の力が込められた正拳により、遂に龍の外殻に罅が入る。

龍の身体を巡るマグマの如き液体も、殴られた部分は止まり、希望が見えてきた。

 

ほう、一撃で傷をつけるとはな……

 

しかし、龍は怯みこそしたが泳ぎは止めなかった。

不死の心臓はその名の通り、決して止まることの無い永久の象徴。

 

「おいおいマジかよ……再生するとは!」

 

龍の脈動が早くなったと思えば、傷は一瞬で塞がり、再びマグマが巡っていく。

この龍の最も厄介な性質が、ヒーロー達に動揺を広める。

だが、傷をつけた男はまだ諦めていなかった。

 

「ならば再生する前に壊し切るのみ!」

 

更に攻撃の手を激しくする男だが、龍の傷は永遠に塞がり、元に戻る。

そしてとうとう、龍は大地に立った。

 


 

(あれ……なんで私、いきてるの?)

 

少女は温かさのある何かの中で目を覚ます。

 

私がお前を生かしたからだ、小娘

 

少女の疑問に、龍が答える。

姿は見えないが、確かに気配はそこにあった。

 

「……生きてる、の? よかったぁ……!!」

 

少女は生きている事を実感し、へたり込む。

少しして、助けてくれた者に何者なのか、そして何故助けたのかを聞く。

 

「えっと、あなたは、だぁれ? どうして、私をたすけたの?」

 

私は古から生きている龍だ。……ずっと眠り続け、目覚めたら貴様がいた。……そして、小娘。お前の生きたいという渇望に惹かれた。

 

「……龍? 絵本とかに出るドラゴンってこと?」

 

今は分からなくてもいい。分かるようになったら教えてやろう。……ふむ、理由を知りたいか? なら言おう。……これは我にとってただの余興だ。深い理由などない。

 

「……そう、なんだ」

 

少し突き放すような言い方に少女は俯くが、不意に浮遊感を覚える。

 

ふむ、後はお前に代わる。せいぜい我を楽しませるのだぞ? ふはははははははは……!!

 

 

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