煉黒宿す少女 作:光炎の大龍玉
あれから1年が経ち、私達はパパ達の仕事の関係という理由で静岡から神奈川へ引っ越す事になった。
パパとママは仕事が理由だって言ってたけど、多分違う。
……私がこんな姿になってから、幼稚園のみんなに距離を置かれていたから…きっとそれを心配していたんだと思う。
引越し先は潮風の吹く港町で、笠木市という所らしい。
「
私が通うことになった笠木小学校でも、やっぱり距離を置かれた。
私が人と喋るのが苦手なのもあったかもしれないけど、やっぱりニュースで見たグラン・ミラオス(あれから私はグランと呼んでいる)を怖がっていたのが1番の理由なんだろう。
こっちから挨拶をしても、返ってくるのはぎこちない返事ばかり。
私とお友達になろうとした子はいなかった。
「あ、えっと。おはよう、実くん」
「おう 命波! おはよう!」
でも、1人だけ私を怖がらない子がいたの。
ブドウみたいな頭の
クラスで1番ちっちゃい子で、みんなからはちょっと引かれるくらい女の子が好き。
他の女の子にはゴミを見るような目で見られてるけど、実くん本人は全然平気っぽい。
下校時間、実くんを肩車しながら家に帰っている私は、恐る恐る彼に聞いてみる。
「……実くんは、私が怖くないの?」
「ん? 命波が怖い? そんな訳ねぇだろ! こんな可愛い女の子を怖がるあいつらがおかしいんだよ!」
「か、可愛い!? ……わ、私が?」
「おう!」
驚きのあまり、私はビクリと身体を震わせる。
実くんは怖がるどころか、私を可愛いと言った。
それがすっごく嬉しくて、私は実くんを降ろしてそのまま抱きついた。
「……ありがと、実くん」
その日からしばらくは、グランも実くんも殆ど黙ったままだった。
実くんが目を合わせて話してくれなかったのはちょっと寂しかったけど、1週間もしたら元に戻った。
夏休み。ある日私はとあるプロヒーローの事務所に来ていた。
「えっと、よろしくお願いします……」
「しばらく貴様の娘は預かる。……ついてこい」
私には、その人がどこか暖かさと冷たさの入り交じった炎を纏っているように見えた。
この人の名前はエンデヴァー。No.2プロヒーローで、圧倒的な火力で
エンデヴァーさんはは一言だけ告げてさっさと歩いていく。
「頑張るんだぞ命波!」
「うん!」
父親の応援で勇気をもらい、私は頷くだけに留め、急いでエンデヴァーさんについていく。
事務所の中に入った私は、エンデヴァーさんから早速個性を見てもらった。
「よし、やってみろ」
《グラン。私に制御をやらせて》
いいだろう。ただし危険と判断したら勝手に奪うぞ
「! …うぅ、あぁ……!!」
私がグランに制御権を譲ってもらった瞬間、身体のマグマがどんどん熱くなる。
普段はグランが制御していたけど、私の制御が甘いのかマグマの体液は身体の許容温度を超えてしまう。
エンデヴァーさんは苦しむ私をただ見つめる。
別に見捨てられている訳じゃない。本当に危ない時がどうなのかくらいは分かってるんだと思う。1秒たりとも見逃さんと私の変化を見つめている。
「あ、あぁ、うぅ……かはっ……」
私の身体中に傷口が出来てそこからマグマの体液が吹き出し、こぼれたそれが耐熱室の床を少し焦がす。
結局何度もグランに制御権を奪われて止められ、その日は手がかりもつかめなかった。
その日の夜、私はエンデヴァーさんの家に泊まる事になった。
「…帰ったぞ」
エンデヴァー…いや、炎司さんが帰りを告げたけど、まともに返事は来なかった。色んな靴があるから、炎司さんに家族がいないというのはありえない。
「ここで待っててくれ。家族が案内してくれる」
炎司さんがそのまま自分の部屋らしき所に入ると、近くの障子が少し開いて、中学生くらいの男の人が出てきた。
「……アンタが親父の連れてきた江渡船 命波か」
「は、はい……」
「……客室はこっちだ」
男の人はそれだけ言って、私を客室に案内してくれた。
私を突き放すような感じだった。でも……なんでだろう。あの人から少し羨むような目で見られていた気がする。
一週間後、耐熱室で相も変わらず私が肉体の制御で苦しんでいた。
「今日はこれで最後にしろ」
「あと、もう少し……もう少しで……!」
時計が6時を示す頃に、私は少しなら体温を制御できるようになった。でも、身体が耐えられる温度にまでは下げたり出来ない。
また傷が生まれ、そこからマグマが吹き出してはすぐに塞がる。
炎司さん……じゃなくて、エンデヴァーさんから「貴様の肉体は再生力が異様に高い」って言われたけど、私にそんな感覚はあんまりない。
これくらいなら私の個性の範疇ですって答えたら、渋い顔をされたけど……
「……う、うぅ……あぁ!! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………ふぅ。その、出来たかもしれません」
偶然かもしれないけど……今この瞬間、体温を一定に保つ事ができた。
制御が出来たようになった途端、ドクンドクンと心臓の脈動をはじめとした身体中を巡る体液の流れも掴めてきた。
「そうか……よくやったな」
エンデヴァーさんはそれだけしか言わなかったけど、ほんのちょっと嬉しそうに炎が揺らめいていたのが私には見えた。
私がグランに制御権を戻すと、エンデヴァーさんのスマホが振動する。
「む……燈矢からか…………俺だ。…………………………何? 炎が青くなっただと? 鍛えた俺を見て欲しい? ……燈矢、今すぐ事務所に来い!!! ふざけるな!!! 俺は取り返しがつかなくなる前に個性を使うのはやめろと言ったはずだぞ!!」
スマホを取って着信に出たエンデヴァーさんは、突然怒鳴る。
私はビクリと身体を震わせるけど、エンデヴァーさんの頬に涙が流れているのを見た。
「その、燈矢さんって人は……?」
「……俺の息子だ。江渡船、ここで待っていろ」
エンデヴァーさんはそれだけ言って黙り込んだ。
でも、その燈矢さんはいつまで経っても来なかった。
時計が8時を示した時、事務所に事件の報せがやって来た。
「山火事だと?」
どうやら近くの山で大きな火事が起きたようで、青い炎が熱すぎてヒーローも近づけないらしい。
それを聞いたエンデヴァーさんがスマホで燈矢さんに連絡しようとするが、何故か一向に繋がらない。
ほう……なるほど、な
《……グランは、何か分かったの?》
あぁ、あの男はまだ信じられないような顔をしているが、奴の言う燈矢とやらが山火事に巻き込まれているのだろう
「……お前達、救助に行くぞ。……江渡船はここで待っていろ」
エンデヴァーさんは相棒(サイドキック)の人達にそれだけ言って現場へと向かった……でも、あの時のエンデヴァーさんは明らかに声が震えていた。
……さぁ命波、貴様はどうする?
《…私だって、力になれるのなら助けたい。でも、エンデヴァーさんに言われた通りここで待っていないと……それに、エンデヴァーさん達ならきっと……》
私の根拠の無い主張と言い訳を、グランは一蹴してきた。
ほう? あの腑抜けた状態の奴が人を助けるなど不可能だと思うがな……それに、貴様には力があるのだよ。何もかもを受け止め、絶対に死なない力がな
《でも! 力の制御ができない私が行っても、足でまといになるだけだよ……》
助けられるかもしれない人を見捨てるのか?
私の言い訳は全てグランが打ち壊した。
もっと己の欲望に忠実となれ命波
《………………》
グランがここまで言うなら、行くしかない。私はサイドキックの人を振り切って、燃え盛る山へと駆け出した。