煉黒宿す少女 作:光炎の大龍玉
燃え盛る蒼炎が渦巻く山の中、私はグランの示す場所へ向かう。
右へ向け…そうだ。その方向に微かな生命の流れを感じた……近いぞ
《うん……!》
蒼炎が身体を熱で灼き、空気を奪って呼吸を辛くさせる。
でも、あの時グランが言ったように死にはしない。
どれだけ周囲の蒼炎が身体を焦がそうとしても、鱗や甲殻がそれをいとも簡単に跳ね返してくれる。
それでも熱は身体に伝わるけど、体温を操作して熱を下げる。訓練の成果がここにきて役に立ってくれた。
呼吸は出来ないわけじゃない。我慢して燈矢さんが助かるならそれでいい。
《……あともう少し、なんだよね》
……止まれ。そのまま右を見ろ
グランの言う通りに右を向くと、黒焦げになったまま蒼炎を手から放出している人が倒れていた。間違いない、この人が燈矢さんだ。
グランが教えてくれなければ、私はそのまま通り過ぎていたと思う。
「大丈夫、ですか!」
どれだけ身体を揺すっても反応がない。僅かに呼吸はしてるから死んでいないのは確かだけど……このままだと燈矢さんは焼け死んでしまう。
(助けを呼ばないと! でも、どうやって……)
気絶しているのに炎は出たままで、どうにかして止めないと燈矢さんの身体が燃え尽きちゃう。
(この炎さえ何とか出来れば……!)
私は手を抑えて炎を止めようとしてみるけど、そうすると今度は別の場所から炎が吹き出してきた。
周りは蒼炎で囲まれていて、無理矢理出ようとしたら燈矢さんを焼き殺してしまう。
怒りと悔しさで私は制御が不安定になり、翼からマグマの体液が溢れ出す。
吹き出したマグマは噴石を飛ばし、近くの蒼炎を叩き潰す。
(……これだ! やるしかない!)
私は更に力を溜めて、体内のマグマを圧縮していく。
背中の翼が悲鳴をあげてヒビが入るのも構わず圧力を上げ────タガを外したように解放する。
「が、あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
蒼炎が支配する死の山に、マグマの花が咲いた。
(燈矢はどこにいるんだ!)
エンデヴァーは蒼炎を自らの炎の流れで押しのけて燈矢を必死に探す。だが、どれだけ探しても燈矢は見つからない。
「……クソッ!! 熱が……!」
エンデヴァーの動きが段々と鈍くなる。体質の都合上、身体に熱がこもるとロクに動けない彼は、タイムリミットが残り僅かなのを悟る。
彼が再び蒼炎を爆炎で吹き飛ばそうとした瞬間……空が爆ぜた。
「あれは……!」
轟音とマグマが空を舞うのを見て、彼は嫌な予感と微かな希望を抱えながらありったけの炎を噴射して噴火の方へ飛ぶ。
空を飛んで噴火の中心に向かうと、命波が顔をぐちゃぐちゃに歪ませながら翼からマグマの体液を噴き出させていた。
エンデヴァーはすぐさま彼女の所へ降りて、尚もマグマを噴出させる命波の肩を揺する。
「江渡船! 俺が来た! それを止めろ!」
「!! あ、あぁ、炎司、さん……よかった……」
ようやくマグマの噴出を止めた命波は、エンデヴァーの顔を見るなり彼の本名を呼び、安心しきった顔で気絶する。
すぐ近くには燈矢が倒れていて、エンデヴァーは2人を小脇に抱えたまま限界を迎えた体に鞭打って炎を噴射する。
プロヒーローが消火活動に奔走する中、1人の野次馬が空を指さして叫ぶ。
「あ、あれ見ろ!エンデヴァーだ!」
「今にも墜落しそうじゃないか!?」
叫び声でエンデヴァーに気がついたプロヒーローの1人が今にも墜落しそうなエンデヴァーを受け止める。
「エンデヴァーさん、大丈夫ですか!」
「俺は構わんでいい! 早く病院にこの2人を連れて行け! 救急車も呼ぶんだ!」
受け止めてくれたサイドキックに素早く命令を下し、エンデヴァーは命波と燈矢を彼に託す。
その後、奇跡的に雨が降った事で山火事は収まった……
「ん…う……」
目を覚ました私に、少し既視感のある例の部屋が視界に入る。
やっぱり病室だ。多分、無茶をしすぎたんだろうなぁ。
「……目が覚めたか」
声がした方を向くと、身体に炎を纏っていないエンデヴァーさん……じゃなくて、こっちの姿だと炎司さんだっけ。ちょっとややこしい。
……とにかく、炎司さんが椅子に座っていた。
私は周囲を見渡して人がいないことを確認する。炎司さんは結構他の人がいるとヒーロー名で呼んでもらうのを気にしてるっぽいからね。
「はい……えっと、今は炎司さんでいいですよね?」
「あぁ、構わん。……燈矢なら
「……そう、ですか」
俯く私の肩に、炎司さんは優しく手を置いた。
炎司さんの掌は大きくてゴツゴツしていて力強い印象がするけど、どこか繊細さも感じられる手だった。
「……はっきり言って、江渡船がした行為は法律違反だ。……今回は何とか俺が助けられたが、一歩間違えたらお前も死んでいたかもしれないんだぞ」
何故か炎司さんの声は、あんまり怒っているような感じは無かった。顔も何処か怒りきれないような表情をしていて、ちょっとチグハグにも思えた。
「…と、プロヒーローなら言うべきだが……ここからは轟 炎司としてこれだけは言わせて欲しい。……燈矢を助けてくれて、ありがとう。お前がいなければ、今頃燈矢は死んでいただろう」
炎司さんは深く頭を下げて私に感謝を述べた。
私はかけるべき言葉が分からず、曖昧に微笑んだ。
少し気まずい雰囲気が場に流れたけど、とにかく燈矢さんが生きていてよかったと思えた。
「……俺はそろそろパトロールに戻る」
炎司さんは顔に炎を纏ってエンデヴァーとして病室を出た。
《……グラン》
……どうした
空気を読んでたのか、黙っていたままのグランに私は1つ決意をする。
《私、ヒーローになる》
ククク……そうか! 貴様の飽くなき欲望の果て、見届けさせてもらうぞ! ハッハッハッハッ……!!
私と宣言を聞いたグランは大きく笑い、私の夢を否定もせずただ見守ると言った。
そう、私の夢は今ここで始まったんだ。