煉黒宿す少女 作:光炎の大龍玉
雄英試験当日。私は実くんを肩車しながら一般入試の会場へ向かっている。
実くんはガチガチに緊張してるけど、私が降ろした時に頭を撫でたら顔を赤くして「バババ、バカヤロウ! こんな場所で頭撫でるなよ恥ずかしい!!」って非難してきた。やっぱりかわいい……♡
とにかく、実くんの緊張がほぐれたようで安心。
すると、何やら後ろが騒がしい。実くんのこと邪魔しないでほしいな。
……さっさと行け。後ろが詰まってるぞ
「あ……う、後ろ詰まっちゃってるね。行こっか」
「お、おう!」
グランの指摘で我に返った私は、実くんを再び肩車して会場の中に入る。
周囲から嫉妬の目線が刺さるけど…実くんは私のものだからね。誰にも渡さないから……♡
ボイスヒーロー、プレゼント・マイクの説明で、同じ学校出身の子とは必ず試験会場の場所が違う事を知り絶望した。いやだ、実くんと離れ離れなんていやだ!!!
「ねぇ実くん」
「な、なんだよ命波……」
私の呼び掛けに実くんが小さな声で返事をする。
ちょっと机をぶっ叩いてヒビを入れたくなるけど我慢我慢。
「あのニワトリさんに火山弾ぶち込んでお願いすれば、実くんと同じ試験会場にしてくれるかな?」
「ニワトリさん……って、プレゼント・マイクの事か!? 司会の人に何しようとしてるんだよ! 試験以前に命波が犯罪者になっちまうぞ!? お、俺はそんなの嫌だからな!」
「むぅ……わかった」
実くんが小声で止めたから、私は口を尖らせながらひとまず引き下がる。実くんと離れ離れなのはイヤだけど、実くんに嫌われるのはもっとイヤ。だから試験終わったらいっぱいハグしちゃうもん。
ちょっとマグマの体液に混じってドス黒い感情が身体を巡りそうになるけど、頑張って抑える。
どうやら行動不能にするだけで加点されるらしい。別に粉々にしなくてもいいらしいぞ
プレゼント・マイクの説明によると、どうやら実技試験は仮想
……とにかくいっぱい倒せばいいんだね。実くんはちょっと不安そうにしてるけど、グランが言うには動けなくすればその時点で加点されるらしいし、多分大丈夫。
途中、メガネをかけてる真面目そうな男の子が質問をして0ポイントの仮想敵もいることが分かった。……その後他の人に注意してたけど、ちょっと言い過ぎにも思えた。
「……えっと、実くんも頑張ってね?」
「〜〜〜〜〜〜!! おう! ぜってぇ合格しような!!」
試験会場行きのバスの前で私が微笑むと、実くんは唸りながら顔をほんのり赤くして、元気にそう言ってくれた。
……絶対合格する。あと実くんを不当に落としたりしたら雄英を粉々にしてやる。
試験会場につくと、色んな人がアイテムを持ったりしていた。
私は何も必要ないから手ぶらだけど、大体の人は何かしらのアイテムを持ち込んでいる。
《グラン……えっと、常在戦場の心構えだよね!》
何時でも気は抜くなよ。こういった場なら尚更だ。……ここでぼうっとするのは間抜けの証拠だからな
私がグランと会話していると、不意にプレゼント・マイクの気の抜けた声が聞こえた。その瞬間、私はマグマの体液を活性化させて一気に駆け出す。
『ハイスタート! ……おいおい早く動けよおめぇら! 現場じゃ合図なんてものは無いんだぜ! あそこの岩石リスナーみたく走れ走れぇ!』
他の受験生も慌てて私を追いかけるように走り出すけど、目の前の仮想敵は私が壊すものだから……
『標的捕ソ』
『ブッコロ』
この9年間でコツコツと鍛え上げた身体機能をフルに活かして、私は次々と迫り来る仮想敵を粉々に吹き飛ばす。こういう無人ロボ相手なら手加減なしで思いっきり殴り飛ばせる。
『標的補足! ブッコロ、スススススス……』
少し大きな3Pt仮想敵なんかはすれ違いざまに翼から火山弾を飛ばしてボディの真ん中に風穴を作る。
どれだけ走っても身体は疲れない。息は苦しくなるけど、それなら一気にいっぱい空気を吸えばいいから何の問題もない。
「ほら、忘れ物だよ!」
途中、他の受験生が相手している仮想敵のミサイルが流れ弾で飛んできたけど、逆に掴んで投げ返したらあっさり命中。これまたあっさりと爆散した。
「あーもう邪魔!! ……うひゃあっ!?」
次々と襲いかかる仮想敵の集団をまとめてマグマの体液でドロドロに溶かしていると、近くで轟音が響いた。ちょっとビックリして飛び上がっちゃった……恥ずかしい。
キャタピラの重厚な音も聞こえる……上を見てみると、それはそれは大きな仮想敵がこっちを睨んでいた。
「お、おっきい……」
「チッ、邪魔くせぇ……」
私がその大きさに驚いていると、近くで仮想敵相手に大暴れしていたガラの悪そうな男の子が踵を返して別の方へ向かおうとした。
それを見て、思わず私はその子の肩を掴んでいた。
「邪魔すんなモブ!」
「……あれは倒さなくていいの?」
鬱陶しそうに男の子は私の手を振り払おうとするけど、何故か私は手を離せなかった。
私は0Pt仮想敵をあの時の蒼炎と重ねる。
「あ? ありゃ0Ptだから倒す意味なんてねぇだろ……っておい、いい加減離せクソ女!」
かなり苛立ってる男の子が怒鳴ってきて私はビクリと身体を震わせたけど、私はそれでも掴んだ手を離さなかった。
「ッ!!…………これだけは言わせて。ヒーローを目指すなら、たとえ敵わない相手でも戦う! だから私はこの0ポイントを倒す。ここで止めなきゃ、ヒーローじゃないから!!」
私はそう言って男の子から手を離し、脈動を更に早める。
大きく増加した身体能力で助走をつけて……ここ!!
「喰らええぇぇぇぇ!!!」
大きく跳び上がった私は空中で大きく振りかぶって、0Ptの胸部装甲目掛けて最大限のパンチを打ち込む。
私の全力パンチで0Ptは大きく吹き飛ばされ、装甲と基盤がグチャグチャになったまま吹き飛んだ。
(あ、まずい……! 私、頭から落ちてる!!!)
でも、ここで誤算があった。パンチの反動で私の体が回転してしまい、頭から真っ逆さまに落ちてしまっていく。
別に怪我はどうだっていい。首の骨が折れたってすぐに治る。
でも、私が真に恐れているのはその再生能力を見た周り。
また、怖がられる日が来るのかな……そんな事を考えていると、不意に横から衝撃が伝わる。
さっきの男の子が掌から爆発を起こして、私を小脇に抱えながらホバリングしていた。ものすごい形相で私を睨んでいるけど、助けてくれたのに変わりは無い。
男の子が着地するのと同時に、プレゼント・マイクが実技終了の合図を叫んだ。
「……その、助けてくれてありがとう」
「…………」
心底迷惑そうにしながら私を降ろした彼は、いきなり私の胸ぐらを掴んで睨みつけてきた。
「……なんであんな無茶しやがった。死んでたかもしれねぇんだぞ!!」
彼は自分の命を軽視する私の行動に強く怒っていた。でも……彼の目をよく見ると、何故そんな事ができるのかという疑問も混じってた。
「……私は死なないから。たとえ首が折れても、胴を切断されても、くっついて元に戻るの。だから大丈夫……」
「……そうかよ」
私の説明にひとまず納得したのか、彼は私の胸ぐらから手を離す。
ふと、私は疑問に思った。……なんで、この人は私を助けてくれたんだろう。
「……その、ひとつ聞いていい? なんで、私を見捨てなかったの?」
「あ? そりゃ……………………」
私の問いかけに、彼は言葉を詰まらせる。でも、しばらくして口を開いて答えてくれた。
「……分からねぇ」
「……そっか。ごめんね、変な事聞いて」
「もう会うこたぁねぇだろうがな……あばよクソ女」
上手く答えを見つけられなかったのか、彼は謝る私にトゲの多い悪口を言いつつ、踵を返してさっさと去ってしまった。
(分からない、かぁ……)
……私は急いで実くんに連絡して、いっぱい仮想敵を倒した事を報告した。実くんもいっぱい行動不能にしたんだって。合流したら、すぐにめいっぱいハグしてあげよう。……キスは、まだ恥ずかしいかな。
(身体が勝手に動いた、か……)
雄英受験の帰り道、命波を助けた少年は10ヶ月ほど前の鮮烈な記憶と先程の出来事に妙な既視感を覚えていた。
「あぁ、イラつくぜ……俺があのデクみたいな理由で人を助けただと? 世界がひっくり返っても有り得ねぇ」
口ではそう言ったが、心のどこかで納得している自分が居る。それに気がついて自分に苛立ち、また否定しようとするという負の連鎖が始まった。
「……ババァに激辛料理作らせるか」
少年はスマホを取り出し、母親に電話をかけて好物の激辛料理を作れとだけ言って通話を切る。
結局、その日のうちには彼の中で渦巻くモヤモヤが消えることは無かった。