公務員がいっちゃんええ   作:鯨油

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毎話毎話いつも大量の誤字が見つかって笑っちゃうな
いつも本当にありがとうございます、とても助かります。


11話

 

仄暗い空はまるでこれからの公安特異4課の未来を暗示しているように暗くて重たくてどんよりとしている。

窓から見える景色から目線を動かし、自分の生えたばかりの右腕を見つめる。

 

傷一つない綺麗な右腕、よく見れば少しだけ細くなったような気がするが気のせいかもしれない。

まだ上手く力が入らないがそのうち馴染んでくると、この腕を元に戻した公安のエージェントが言っていた。ならばきっとそうなのだろう。

 

暫くするとコツコツと廊下の方から規則的な足音が響き、この部屋の前で止まる。

丁寧なノックの音が部屋に反響する。

 

「どうぞ」

 

そう返せば扉がゆっくりと開かれる。

真っ白な扉から現れたのはマキマさん。いつもと変わらないシャツにパンツスーツを着たマキマさんは「入るね」と一言断りを入れると、俺が寝ているベッドの脇に置かれた椅子に座る。

 

「腕はもう大丈夫そう?」

 

「…そうですね。まだ本調子というわけではないですが…十分やれると思います」

 

「なら良かった。コレ…京都のお土産」

 

そういってマキマさんは手に持った鞄から綺麗な包装紙にくるまれた長方形のお土産をベッドの横に置かれた机の上に置いた。

 

「八つ橋。本当は急いで戻ってきたからお土産買えなかったんだけど…後で黒瀬君達に頼んで配送してもらっちゃった」

 

そう言って彼女は悪戯がバレた少女のようにあどけなく笑みを浮かべる。

 

「いいですよ、そんな無理しなくて。それより聞きました…公安特異課だけを狙った襲撃事件。20人近くやられたそうですね」

 

「そうだね。それで特異1課2課3課が4課に統合されるようになったからもう大忙しだよ。それこそリウシェン君には早く体を元気にしてもらって助けて貰わなくちゃ」

 

マキマさんは体の後ろで手を組んで上にあげ伸びをするように背を曲げた。

 

「でも公安に体の欠損を治せる人がいてよかった。片腕だと色々と難しいよね」

 

「デビルハンターなら片腕でもやってやりますよ」

 

そう言って直してもらった右腕を見せつけるように振る。

 

「片腕だと書類仕事が出来ないんじゃないかな」

 

「…うえ」

 

「冗談。でも治って本当に良かった。まさかこんな攻撃手段を公安を襲撃した人達が持っているとは思わなかった…一体何の悪魔と契約したらこうなるんだろう」

 

「銃の悪魔とかじゃないんですか?」

 

「銃の悪魔ではないと思う。今まで記録にないからね。でも私たちが知らない能力があるのだとしたら…まずいね」

 

そう言って顎に手を置いて考え出したマキマさん。

そんなマキマさんの姿を見つめていたら彼女と目が合った。

 

「…どうかした?」

 

特に何かあるわけじゃなかったが、少し気恥ずかしかったので言い訳を考える。

何が良いだろうか…話題、話題…そうだ。

 

「いや、他のメンバーは今どうしてます?入院してからあんまり聞けてなくて」

 

重傷を負っていた姫野さんが一命を取り止めた事と、襲撃からコベニと円さんが生き残った事だけは知っていた。でも円さんは退職したらしいけど。

円さんの空いた穴を埋める為には他の人員で…考えるほどしんどくなる。

 

「デンジとパワーちゃんは無事だから今もいつも通りに動いてもらってる。早川君もまだ入院してるけど、そんなに長くはかからないかな。姫野ちゃんは…どうだろう。まだ時間がかかるだろうね。でも他の課と統合されたからそこの連携が良くなったかな」

 

「何より新しく4課の隊長になった…」

 

ゴンゴン

 

先ほどのマキマさんのノックとは似つかない乱雑に扉を叩く音がした。

 

マキマさんは音の方へ振り向かないまま「来たみたいだね」と言う。

 

こちらが何も返事を返していないにもかかわらず勝手に開く扉の先には酷く見覚えのある…出来れば二度と見たくないぼろ雑巾のように痛んだ古臭い中年男性が現れた。

 

「なんだ、思ったより元気だな」

 

酒焼けしたしゃがれた声だ。声帯の奥から老化が始まっているような死人の声。

 

「…げぇ」

 

最悪だ。マキマさんとの時間をよくもこのジジイは邪魔しやがって。

分かりやすいように顔を歪めてやるが、岸辺はそんな事は意に返さずに無断でずけずけと部屋に侵入してくる。

 

「隊長になった岸辺さんのおかげで今のところは上手く回ってるよ。それじゃ岸辺さんも来たところだし私は戻るね。元々リウシェン君の顔を見る為に抜け出してきたようなものだったし」

 

そう言って鞄を抱えたマキマさんはじゃあねと手を振って病室を後にする。

入れ替わりのように侵入してきた岸辺はマキマさんが座った椅子には座らず、壁に背中をつけたまま懐からスキットルを出すとそれを口につけた。

 

「病院では飲酒禁止だろおっさん」

 

「上司に向かって随分と威勢がいいな、負け犬」

 

負けてないわ殺すぞじじい。

ちょっと標的を逃して右腕を欠損して入院しているだけで負けてない…うん、あれだ。死んでないからセーフ。

 

「お前のとこの馬鹿二人を鍛えることになった」

 

馬鹿二人、岸辺の言葉から連想するにおそらくデンジとパワーの事だろう。

前回の戦闘の際は最初にデンジがやられパワーのケガ人の支援でまともに立ち回れなかったと聞く。ならこうやってテコ入れが入るのも不思議ではないだろう。

 

それにしてもデンジとパワーか…そうかそうか。

 

「出来る限り痛めつけてやってください」

 

「…言われなくてもそうやる。壊れないおもちゃは貴重だからな…存分に遊ばせてもらう」

 

「壊れないおもちゃ?今度トイザらス連れてってあげましょうか?」

 

「…」

 

爆発的に加速した老け顔の拳が俺の顔にめり込む。

ポタポタと止まらない鼻血でベッドのシーツを汚さないように無理やり吸い込むと俺はマキマさんが置いて行った八つ橋を一つ掴んで投げつけるが、八つ橋は美しい放物線を描いて病室の壁にぶつかり内容物が壁のシミとなる。

 

「食べ物を粗末にするなじじい」

 

「お前が投げたんだろうが」

 

口でキャッチすれば良かった話だろうが、食べ物を粗末にした上に言い訳とはとんだ恥知らずだ。加齢によって鈍感になっていく感性は見ていられないぜまったく。

 

「今、お前が避けられなかった理由が分かるか」

 

岸辺は俺の顔面を陥没させた拳を開いたり握ったりして俺を挑発する。

なんだコイツ、いきなり殴って説教とかキチガイだろまじで。

 

「…急に殴ってきたから」

 

「急に来たから…お前はそうやって敵の攻撃でも全部受けるのか?その右腕は?それより前の銃撃もそうだ、何発か食らったんだろ?あんな素人相手に」

 

「囲まれてたんだ、無傷で切り抜けられる方がおかしいだろ」

 

「昔のお前ならできた」

 

…は?

 

岸辺の飢えた猛禽類のような鋭い眼光が俺を見ている。

 

すぐ昔話かおっさん、そう売り言葉に買い言葉で返そうとしたが喉の奥からは掠れた息だけが零れた…あれ、おかしいな。

 

「組織に染まって妙な知恵をつけたか?それとも分かりやすい自分を律してくれる誰かでもいなくなったか?お前は頭が良くなったフリをしているだけのガキだ」

 

俺が何を言えばいいのか分からなくて黙っているのに、岸辺は淡々と言葉を続けた。

 

「始めてあった頃のお前はバカで品が無くてとても出来た人間とは言えなかったが迷わなかった。敵だと思えば後先考えず殺すし、敵じゃなくても殺してから考える行動力があった」

 

岸辺の言葉がやけに頭に響く。

 

「馬鹿が頭を使って行動するから失敗する、お前は肥え太った慢心だ。だから油断して俺の拳をバカみたいな面で受け止めた」

 

「だからお前は「アンタには関係ない」

 

散々だった。何も聞きたくない。岸辺の言葉はやたらと心の内側に入って人を不愉快にさせる。急に現れて説教をするのは年長者の悪い癖だ。あぁ…そうだ、アルコールで頭がやられたジジイに俺の何が分かるというのか。

 

「俺はアンタのなんだ?親か先生か…違うだろ、他人だよ。関係ない他人でアル中で頭のてっぺんまでおかしくなっているデビルハンターだろ。人様に説教できる立場かよ」

 

自分でもスラスラと湧いてくる言葉をエンコードなしで嘔吐するように吐き出す。感情のままに、そのままで。頭の奥が燃えるように熱く、内臓が底冷えするような寒気が体を巡る

 

「…そうだな。そうだ。俺とお前は…ずっとそうだ」

 

そう言って岸辺はそれまで体重を預けてた壁から体を離し、俺に背を向ける。

ドアノブに手をかける時に小さな声で「邪魔したな」と呟いたが俺は何も言わなかった。

 

誰も居なくなった真っ白い病室には人の神経を逆なでするような沈黙が淡々と流れる。

むしゃくしゃした。目の前にあるものすべてを衝動のままに破壊すれば少しは気が晴れるんじゃないかと思ってすぐにその考えが霧散する。

 

意味がない、そんな事には何の意味もない。

落ち着けよ、ガキじゃないんだ。大人だろ、そうだよ、いい歳なんだからさ。

 

何となく目についた八つ橋を口に運ぶ。抹茶の苦い味が口内に広がった。

 

「…苦ぇ」

 

今度はちゃんとあんこが入っているのを選んで二つ目を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰の目にもつかないような何処にでもあるようなビルの地下のそのまた地下の部屋に二人の男がいた。

 

1人の男が手に持った銀色に光る金具を持って作業を行い、その後ろでもう一人の男が退屈そうに欠伸をしていた。

 

「なぁ、天使君。水族館って行ったことある?」

 

天使と呼ばれた男は椅子に座りウトウトと目を瞑り首を傾けていたが、作業をしている男の声で目を覚ます。

 

「ない。そもそも悪魔が水族館なんかに居たら危ないし騒ぎになるでしょ」

 

めんどくさそうに、抑揚のない声で返す。

作業をしている男は手に持ったアイスクリームをすくう時に使われるディッシャーのような形をした器具をカチカチと動かし淡々と作業を進める。

 

「天使君、水族館に行ったことがないのは人生の半分…いや3割…1割…う~ん、9割損している」

 

「なんで減らしていって足してんの」

 

天使の悪魔は自分の持っている水族館についての知識を思い返す。

水槽に入れられた魚を鑑賞する施設、うん。それであっていた筈だ。

 

「それに魚を見るだけでしょ、魚なら僕の故郷でも見れたよ。海を泳いで魚を銛で捕まえた事もある。わざわざ魚を見に水族館に行こうとは思わない」

 

「違うなぁ~違う、そうじゃないんだよな~。はぁ、これだから素人さんは」

 

何かを演じているようにワザとらしく指を振る男に天使の悪魔はイラつきを覚えるが、そんな天使の悪魔の様子に気が付いてないのか男は上機嫌に語り始める。

 

「まず最初に…水族館の通路ってのは薄暗くライトアップされているのさ、それでいて少し肌寒くなる気温設定になっていて…それでいて混んでたら魚を見る前からその状態で長い時間待たされるようになっている」

 

「待たされるのは嫌だな」

 

「逆だよ逆。それがなんて言うかな、映画館で映画を見る前のような少しの緊張と高揚、魚を見る前から体と心に非日常であると分からせる仕掛けになってんの。館内の色合いも深い青色で統一されていて何だか水の中にいるみたいな」

 

「…映画館も行ったことないからそれも分かんないな、それに水の中に居たいなら海やプールでいいじゃん」

 

男が手に持った金具を引き抜くと室内に生物の唸り声のようなものが響いたが男は作業と世間話を止めない。

 

「それで薄暗い廊下を進むと急に明るい群青色にライトアップされた大きな水槽が目に入るの。廊下の薄暗さで目が慣れてきたところにいきなり現れるものだから普通よりキラキラ輝いて見えて水槽自体が一つの宝石みたいだった」

 

「その水槽の中をさ、大小さまざまな魚の色とりどりの鱗が光に反射しながら優雅に泳ぐんだ。上下左右に重力に囚われずに大きな水槽を自由に進む魚たちを人ごみに揉まれる薄暗い廊下からずっと見つめていた…その時思ったんだ、天国があるのならきっとこんな場所なんだろうなって」

 

黙って聞いていた天使の悪魔は自分が座っている背もたれのない椅子の腰掛の部分に両手をついて振り子のように椅子を揺らす。

 

「それって水族館の環境によらない?あー、環境って言うか…ちゃんとした水族館とお金がかかっている水族館とで感動が違うと言うか」

 

「いや、それは全ての事に言えるだろ」

 

「そういうもの?」

 

「そうだろ、それにだ!」

 

男が手に持った金具で叩き売りをセールスマンのように机を叩く。

 

「イルカショーは迫力がスゴイし、ヒトデとかナマコを触るとプニプニしてなんかキモいし、帰り道で買う魚のぬいぐるみは可愛い」

 

「さっきのに比べてかなり雑な説明だし、感触に関しては悪口だし、ぬいぐるみに関しては水族館じゃなくても良くない?」

 

作業中の男は目元に手を持っていき涙を流すような演技をする。

 

「悲しいね、水族館に行ったことがないからこんなに感性が衰えてしまって、あーあ。水族館にさえ行っていればこんな事には。俺は悲しい」

 

「…はぁ」

 

天使の悪魔は大きなため息を吐く。目の前の男の三文芝居に付き合うのも面倒くさいし、こんな暗くてジメジメした所に長く居座るのも嫌だった。

早く帰って家で寝ていたい。それが今彼が抱える一番の願望だ。

 

「それで?僕はキミと一緒に水族館に行けばいいの?」

 

面倒くさそうに天使の悪魔は言った。

男からこう言った話をされるのは珍しい事ではなかった。ゴチャゴチャ言いながら結局は男の言う場所や食べ物をパトロールの合間に行く、いつものことだった。流石に水族館なんて目立つ場所で、回るのに時間が掛かってしまう場所を言われたのは初めてのことではあるが。

 

どうせ、僕には拒否権がないし。

 

でも先ほどまでの会話に比べて少しだけトーンが上がっている事に天使の悪魔は気がついていない。

 

「行きたいんだ、行きたいよな、それはそうだ。だって水族館なのだから」

 

「うざいし、面倒くさい。やっぱり家で寝てたいからヤダ」

 

その時ちょうど、二人の男の先で全身を紐で雁字搦めにされた女性の口元に巻かれたタオルの結びが解けて床に落ちる。

 

「…ケテ…たすけて!!お願いだから、何でもするから助けてください!お願いします!」

 

涙を流し、嗚咽に塗れた大声で助けを懇願する女性の悲鳴が反響する。

 

天使の悪魔が「あ~あ」と呟くと、作業中の男…リウシェンは面倒くさそうに金具で自らの頭を軽く小突く。

 

「許して!許してください!何でもしますから!」

 

リウシェンは叫ぶ女性の両頬を片手で掴むとグニグニと揉みながらその特徴のない顔を女性に近づける。

 

「許すも何も貴方は何も悪いことをしていないのだから、俺達から許される必要はないよ」

 

それは子供をあやす様な優しい口調であった。その言葉からは到底敵意を感じることは出来ない。だからこそ女性は困惑し、恐怖した。

 

 

 

 

彼女は突如現れた黒服の男達に攫われて、気が付くとここに居た。

手足は拘束されており身動きがとれない。

口元にはタオルが巻かれ、声を上げることも出来なかった。

 

目の前に自分と同じように拘束され、声を封じらえた自分と同じ年くらいの男性。

 

そして銀色に光る見たことがない金具を持った長身の男性が、拘束された男性の眼球を金具で抉りだすところであった。

 

痛みのあまり全身を震わせ、獣のような唸り声をあげる男性に対して全く関係のない世間話をその後ろで椅子に座る15歳くらいの少年にする様は異様の一言で会った。

 

視神経と思われる眼球にくっついた糸状のものがブチブチと引き千切れていく光景を見て、女性は思わず失禁を起こすが、二人はまるで見飽きたかのような無反応を見せた。

 

「私は…私はァ、何も悪いこと、してなくて…お金がある、お金ならあるからぁ!」

 

恐怖のあまり、支離滅裂な命乞いをする女性に対してもリウシェンの態度は変わらない。

彼が人を攫って眼球を抜く動機は金でも恨みでもないのだから。

 

「大丈夫、貴方は何も悪くないし殺したりはしないよ。しいて言うなら身内がちょっとヤンチャだったってだけだよ。貴方は悪くない」

 

彼が落ちたタオルを拾い、後ろから女性の口元に巻きつけるとまるでパン屋でパンを選ぶ時のように金具をカチカチと鳴らし女性の眼球の前で構えた。

 

「力むと痛いからリラックスしてくださいね。じゃあいきますね」

 

 

 

 

 

マキマさんにヤクザと交渉する為にヤクザの身内の眼球が欲しいと言われた時は流石にちょっと…と思ったが、自分の腕と同じように目を元に戻せる者が公安に居て記憶も短時間なら消せるらしいので俺は二つ返事で答えた。

 

元に戻せるし、痛い思いをした記憶も消せる。それなら何も無かったのと変わりないもんな。

 

それにヤクザを相手に交渉するなんて難しい仕事を任される方がきっと大変だろう。こちらが金を払うわけにはいかないだろうし、絶対に言うこと聞かないだろう。

 

指定された場所に行くと、3分クッキングよろしく既に確保されたターゲット達が居たので流れ作業のようにくり抜き開始。

 

でも罪のない人たちの痛がる声を聴くとやっぱり可哀そうに思えるので途中から猿轡を噛ませて作業再開。でも猿轡が1個しかなくて、涎でベタベタの猿轡を使い回すのは可愛そうなので急遽近場のスーパーでタオルをたくさん買った。他人の涎とか汚いから嫌だよね。

 

暇だろうからってマキマさんが一緒の任務につけてくれた天使君と楽しくおしゃべりしながらくり抜くこと数時間。最初は上手くできなかった作業も最後はスムーズに出来るようになった、素早い方が痛みも少ないから良かった良かった。

 

麻酔とか使わないですかと聞いたら、内容が内容だから関わる人は少なくしたいとの事。それはそうだ、表沙汰になったら良くないよな。

 

素人が麻酔なんかしたら下手すると殺してしまうので俺が使うのも無し。数日後には元気いっぱいの姿で社会に復帰してもらう人を殺したりなんかしたら夢見が悪くなっちまう。

 

摘出した眼球は綺麗に水洗いしてマキマさんに直納。

最初の方は上手く摘出できなかったので金具で凹ませてしまった眼球があるんですけど…どうします?と聞くと袋の下の方に入れたらバレないと思うからこのままでいいよって言われた。マキマさんが寛容で良かったー。

 

 

 

 

 

「この仕事って君がやる必要あるの?」

 

天使の悪魔は作業が全てやり終えたばかりのリウシェンにずっと抱えていた疑問をぶつけた。

 

「マキマさんが言うには内容的に外に漏らさない信頼できる人にやってもらいたいからってさ。それにやりたがる仕事でもないだろ、これは」

 

「でも…マキマなら他にも裏切らない部下なら沢山いるし…別に君がやらなきゃいけないものではないだろう」

 

今までの無気力な物言いとは異なり、芯を込めた強い口調の天使の悪魔の言葉にリウシェンは内心で驚いたが表に出すことは無かった。

 

「それなら世の中の全てもそうだ。俺がデビルハンターをやる必要はないし、医者だって学校の先生だってその人である必要はない。特定の人じゃないといけない事なんて僅かだよ」

 

「…だったらこの仕事が変だ。取引の為に目を集めるだなんて…他に良い方法もあるはずだ」

 

「それはそうだろうね。でも方法を吟味する時間も潤沢にあるわけじゃないし今はこれが最善だったんだろう。普通の交渉が出来る相手でもないだろうし」

 

「だったら誘拐だけして偽物の目を用意とかでもいいはずだろう!実際の人から取る必要なんてない!」

 

徐々に強まる口調。天使の悪魔は軽い息切れを起こしながらその普段は眠たそうな目を大きく開き長く伸ばした赤茶色の髪を乱しながら吠える。

天使がここまで自分の意思を表明することがなかったのでリウシェンは困惑した。

何が彼の琴線に触れた。一体なにが彼を突き動かす。彼がここまで意地を張る理由はなんだ。

リウシェンには彼がここまでマキマのやり方に盾突く理由が分からなかった。だって天使の悪魔は…。

 

「…なんで天使くんが怒ってんの?天使くんは…人間が嫌いじゃないの?」

 

天使の悪魔が大きく目を瞠った。そしてようやく自分が気持ちを高ぶらせている事に気が付いたのか、発汗し目を泳がせわなわなと口を震わせる。

 

「ちが!…いや、これは、違わないけど」

 

「なら嫌いな人類が何人不幸になろうと良くない?それとも別に理由があるの?今回の仕事内容を許せない個人的な理由とか」

 

リウシェンはそういって問い詰めると天使の悪魔は小さく否定の言葉を吐くが、まとまった内容の言葉はついぞその口から出ることは無く、終いには俯いたまま何もしゃべらなくなる。

 

困ったな。別に問い詰める気はなかったのに。

 

リウシェンはただ理由が知りたいだけだった。だがそれが結果として天使の悪魔を追い詰めることに繋がったのだと思った彼は対応に困る。幾つものパトロールや他業務を共にこなした天使の悪魔はリウシェンにとって友達と認識しても間違いではない相手になっていたからだ。

 

「…良くないな、俺も変になってた。無かったことにしよう。もう仕事も終わった事だし。頼まれてないから片づけは他の奴らに押しつけて早く出よう。ここは暗くて陰気だ」

 

他の部屋で待機していた公安の暗部…黒服達に連絡をして天使の悪魔と共にビルの外に出る。郊外の端に建てられたビルの周りは廃れた町が広がるばかりで人通りは少ない。

 

仕事自体はそこまで時間が掛からなかったのでまだ外は明るい。昼間と夕暮れのちょうど間の少しだけ薄暗い空の下で二人は同じ歩幅で歩いた。

 

「僕は…僕はただ、キミが…正当性を無理やりこじつけている。そういう風に見えた、から」

 

天使の悪魔が愚痴るようにそう言った。吐き捨てるように、それはもしからしたら本心を隠すための別の理由だったのかもしれない。

 

気のせいじゃない?

 

彼がそう天使の悪魔に答えようとした瞬間、幾つかの疑念が彼の頭をよぎったが彼は軽く自分の頭を叩くとすぐに考えるのをやめた。きっと自分が知らない合理性がそこにあるのだと、自分に言い聞かせるように思い込んで。

 

「やっぱり水族館に行こうよ、今は忙しいから無理そうだけど…冬だな。うん。」

 

6月のジメジメとした風が二人の間に吹いた。

 

「冬になったら、行こうか」

 




マキマのセリフで公安には眼を元に戻せる人がいるとあったので、なら腕だって元に戻せると思いこの展開にしました。

ちなみに僕が思う作中の時系列はレゼ編が夏で銃の悪魔との対決が冬でデンジとマキマとの最後の戦いが2~3月くらいの認識です。
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