我儘な天使 作:多様性の獣
アンケートの結果ですが、「どちらもいる」が最多票だったため、両方書く事にします。いらない派もまぁまぁいたので一話に纏めるかも。
※改稿しました。
季節は夏。どこもかしこも海だのプールだの、夏休みムードで浮き足立ってる中、僕は今、物理的に足を浮かせていた。
「ッハハハァ!!良いじゃねぇか、アンタ!!」
「褒め言葉ですか、それ」
「ったりめぇだろ!?」
目の前のこいつのせいで。
皮膚の下に収まらないどころか、その上を覆って巨体を形作る程のイカれた筋肉量と、そこから発揮されるオールマイトを彷彿とさせる超パワー。
勿論彼に届く程じゃない。けれど、原作でこいつはオールマイト級の一撃を正面から受けて耐えている。
「もっと楽しもうぜ!!」
血狂いマスキュラー。今年とあるヒーローを殺すはずだった凶悪犯で、原作では林間合宿で主人公の大きな壁となるヴィランだ。
一ヶ月程前に塩崎茨をこちらに引き入れてから、僕は連合のメンバーとなるヴィラン達を懐柔するために動いていたのだけど、まぁ連合に入るって事は生粋のヴィランって訳で。
「僕は楽しむつもりで戦ってはいないので」
「関係ねェ……なァッ!!」
こんな風に聞く耳を持たないマスキュラーから逃げないのは、後ろの二人が原因。頭に重い一撃を貰った戦闘服姿の女性と、それを庇うこれまた傷だらけで似たような戦闘服を着た男性。彼らはペアで活動を行うヒーロー、ウォーターホースの二人だ。
ぶっちゃけ彼らを助けるつもりなんて微塵も無かった。林間合宿から神野事件はかなり大きなターニングポイントだし、そこに関わる二人の死は出来る限り起こすべきイベント。
死んでくれた方が僕的には都合が良いし、何ならバタフライエフェクトで二人が殺されないようなら、僕がトドメを刺すくらいのつもりでいた。なのに助けてしまったのは……多分善人のフリが長引き過ぎたからだろう。何だかんだ二年以上やってるし。
「白い悪魔だろ!お前!聞いてたんだよなァ、面白ェ奴だってさ!!」
「それはどうも。ですが、僕は別に面白くあろうとは思ってませんよ」
「つまんねェ答えだ!!」
なのに今はこうして、続ける予定じゃなかったヴィジランテ活動を装ってまで前に出ている。きっかり一年経験を積んで一時身を引こうって感じだったのに、十三ヶ月じゃ何だか縁起が悪い。
せっかくだしもう少し続けても────…なんて余所見しながら考えてられる程、目の前の男は楽な相手じゃない。今まで相手にしてた奴らとはまるで違う、隔絶された戦闘能力。
僕だってこの一年でそれなりに経験を積んだつもりではいたのに、この男はそれを余裕を持って超えて来る。今だって筋力増強をフルスロットルで回して、文字通り粉骨しながら戦ってるのに、マスキュラーはと言えば欠片も本気を出してない。
その状態ですら僕をこうしてガードの上から押し切って、空中にまで跳ね飛ばしている。左腕のプロテクターの上から更に盾にするように構えたソードメイスは、たった一撃で歪んでしまっていた。
使えない事も無いって程度だけど、もう一撃受けたら大破は確実。どれだけ頑丈だと思ってるんだ。この一年と一ヶ月愛用して来て結局一回も買い換えなかったんだぞ。
「おいおい勢い落ちてんぞ!?どうした!武器が壊れちまったか!?やっぱダメだな、素手でやろう!!」
「会話の初手から最後まで自分の中で終わらせるの、やめてくれませんかね」
アスファルトを砕きながら跳躍して追い付いて来たマスキュラーの顔面に、歪んだソードメイスを振り下ろす。案の定ガードされるけど、こっちの狙いはメイスの一撃じゃない。
お望み通り、素手の一撃だ。
「ぐおっ!?」
比較的緩めに握った拳が、ソードメイスを両腕でパリィしたマスキュラーの顔面を捉える。隙だらけな急所をぶち抜いた甲斐あって、マスキュラーは真後ろのビルに突っ込んで行った。
「ふーっ……」
着地と同時に今の一撃の反動で砕けた右腕に超再生を集中して、即時回復を済ませた僕は左手に預けたままだった歪んだソードメイスを、この炎天下で柔らかくなったアスファルトに突き立てる。
前々から言ってた通り、僕の体はハイエンドと言い張るには弱過ぎる。耐久性だけ見るなら、まぁハイエンドならこの程度はあるよねって感じ。拳銃程度じゃ致命傷にはならないだろうし、超再生もある。
なのに、筋力はせいぜいが強化ガラスを砕き割るレベル。推測に過ぎないけど、この肉体は発展途上なんだろう。と言うより、開発段階?試作段階?そんな感じ。肉体強化を施す前に僕は起きてしまったんだと思う。こんな事ならもっと寝ておけば良かった。
あのオール・フォー・ワンをぶん殴るって目標を達成するには大き過ぎるハンデだ。個性というカードを万人が持つ世界だからこそ、個性が介在しない実力というのは重宝される。それが足りていないのは、些か頼りなく思えてしまう。
ただ、このハンデを背負って尚、僕は肉弾戦でマスキュラーに食い下がる事が出来ている。その理由が今も使っている筋力増強の個性だ。
僕は素の筋力が全くもって足りていない代わりに、かなり高倍率の増強型個性が積まれている。それこそ、あのインゲニウムから逃げ遂せるくらいに。
今の一撃によるマスキュラーの飛距離も20mはあった。足の踏み場が無い空中で、あの大男を20mも殴り飛ばすような圧倒的なパワー。倍率が高い分反動も大きいけど、それを補って余りあるメリット。
しかも、これが全力って訳じゃない。初めて使った時は前腕が消し飛んだし、あれが上限なら今のワン・フォー・オールと張り合える出力も有り得る。
……ちょっと盛ったかも。
「良ーいパンチ打てんじゃねぇか!!」
さっきまでより随分とテンションを上げて跳んで来るマスキュラーは、両手を前に構えて突撃の姿勢を取っている。それに対して僕はもう一度右腕を構えて、カウンターパンチを合わせた。
拳と拳がぶつかり合って、一瞬の静止の直後にどちらも大きく弾き飛ばされる。ただ、互いの位置はそう変わらなかった。この程度の衝撃で吹っ飛ばされるようなら、そもそも土俵には立てない。
「あぁクソっ!強ぇなアンタ!!」
「ありがとうございます」
────…まずいな。何度か強過ぎる衝撃に曝された所為だろうけど、変声機がイカレたみたいだ。ソードメイスと言い変声機と言い、こいつの所為でいろいろと出費が嵩む。
「……声変わりか?」
「耳聰いくせに馬鹿ですね……そろそろ落ち着いてくれると、僕としては助かるんですけど」
「落ち着けだァ!?そりゃ無理って話だ!アンタならわかるだろ!?」
「わかりませんよ……はぁ、なら良いです」
お、ちょっと変声機の調子が戻った。壊れたのかと思ったけど、一時的に調子が悪かっただけなのかな。
それはそれとして、これ以上の戦闘はマイナスが増えるだけだ。どうせならウォーターホースの二人を殺して欲しいし、僕との喧嘩で満足される前に撤退するべきだろう。
……僕ってこんなに命に無頓着だったっけ?なんだか何をするにも他人事でいるような気が────…いや、そうか。全部他人事だと思ってるんだ。
まだ「ここはフィクションの世界だ」っていう認識が抜けてない。彼らの死は「必要なイベント」で、だからそれを邪魔する必要はなくて。
酷い話だ。僕もこの世界に生きる住人なのに、彼らの命を何とも思ってない。むしろ────
「……まぁ、良いか」
「あァ?何が良いってんだよ、勝負はまだ────」
「それも良いです。目的は達成出来なさそうですし、僕はこれでお暇させて頂きますね」
「は?」
うん、別に気にしなくても良いや。悪役にはなりたくないけど、清廉潔白なんて目指してもいない。こうして気付いてみれば少し後味が悪いような気もするけれど……まぁ、あの二人は逃げる僕をマスキュラーが追ってる間に誰かが助ける事だろう。
「それでは」
「おい!待ちやがれ!!」
ソードメイスを担ぎ直して跳躍すれば、マスキュラーの声はしばらく僕を追って来るけれど、段々と距離が空いて小さくなって行く。どうやら思った通りに僕を追いかけて、ウォーターホース達から遠ざかってくれたらしい。
うんうん、良い事をすると気分が良いね。
・天使ちゃん
辿る未来の方向に干渉出来るなら既知の未来の方が良いものの、何だか後味が悪いので囮役を引き受ける事にした。
教会の内情や信徒から見た天使の様子などの閑話とかいります?
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教会の内情
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信徒から見た天使
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どちらもいる
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どちらもいらない