「は、はぁ!?お前なんで戻ってきたんだよ!」
「淵上........」
「冒険者協会で依頼を受けてきたんじゃ、」
「
「あ?」
「
「.........................依頼料は?」
「目立ちすぎました、派手に。あのまま街に帰ったら凱旋ものでしたからトンズラしました。よって報酬はパーです」
「ほんと、まじで...........向こう見ず過ぎるだろ?」
「う、うるさいですね!?別にいいじゃないですか、これも立派な社会復帰の一歩......」
「おおよかった、復帰ってことは.........じゃあこれからはちゃんと依頼をこなすんだな?」
「──────、」
「おい、こっち見ろ」
「スメール、いくから........お金ちょうだい」
「ほんと、こういうくそ惨めな状況になると年相応になるよなお前」
「うっさい」
◇
side-サンドローネ
「ちょっとタルタリヤ!話が違うじゃないの!」
スネージナヤは厳しい寒空の下にある。
ナド・クライの荒れ果てた荒野に嫌気が差したとしても、思いつきで訪れるのはお勧めしない。なぜなら、この国には生き延びるだけの最低限の資源すらも不足しているからだ。
「厳冬計画」───スネージナヤ全土のエネルギーをとある計画のために利用する。当然、市民たちは厳しい冬の寒さに耐えるだけの備えがなくなる。
死は必然だ。
如何に便宜が図られるとはいえ、貧しいものはその救いの手からこぼれ落ちていくのがさだめ。政府の目には見えない者たちは小さい村々で人知れず凍えて死ぬ。
こんなメチャクチャな法案が糾弾されるのは想像に難くない。案の定、国内では厳冬計画への反対意見が出始めた。
議会で賛否を取り、方針を決める。
その度に民衆や一部の商会は結束して国のイかれた計画を中止するよう呼び掛けている。
そしてその運動は、ここ───スネージナヤパレスにも届いていた。
厳冬計画を指示する者、それに反発する者、傍観する者───さまざまだった。
故にここは息が詰まる。
気落ちするような暗い話題で
ついこの間だって『淑女』の訃報が届いたばかりだと言うのに───
このパレスの中で唯一明るい───と言うより白熱していると言った方が正確かも知れないが───話題を話しているのは
スネージナヤパレスの広い一室で『傀儡』サンドローネと『公子』タルタリヤは談義に耽っていた。寒空が建物全体を包む中、彼らはそばにある暖炉の火の恩恵を受けながら例の家で少女について舌論を繰り広げていた。
なお、熱くなっているのはサンドローネだけだったが。
「まさかあなた、私をハメたの!?」
「おいおい、そんなに怒鳴らなくたって良いだろうサンドローネ?」
タルタリヤは紅茶に舌鼓を打ちながら笑った。
まぁ子供のやることだから良いじゃないか、と言いながら目の前の同僚を嗜めている。
「せっかくの
マリオネットであるサンドローネは飄々としたタルタリヤの態度に憤っていた。
人間としての形態を持ちながら、その本質はフォンテーヌの失われた技術の結晶体である。故に、生活態度も普通の人間とは異なる。それは便利でありながら、時に不便な事情にもなりうる。
例えば、彼女の背中にはゼンマイが付いている。
黄土色の合金で賄われたゼンマイは彼女が起動している間中はずっと周り続ける。いや、むしろ彼女が起動するにはこのゼンマイが必要なのか?
まぁ、どれだけ考えてもタルタリヤに彼女の技術は理解できない。
彼は「そういうものだ」と半ば本質的な理解を諦めていた。
彼の飄々とした態度にサンドローネは更に激昂していく。
背後のゼンマイがギリギリと勢いよく回り始めた。
彼女の憤りを体現するように火花が散る。
「今度こそ
「ま、まぁまぁ.....」
「おかげで無駄足を踏んだわ!そもそも何よあの強さ!一人でヒルチャール王種の異形個体を討伐するなんて!それも神の目もなしに!───まさか貴方が戦い方を教えたの?タルタリヤ!」
「残念ながらそれは違うよ。エレーナが家出してからというもの、彼女と再会したのはつい最近のことでね。そもそも指南する時間なんてない。もし彼女に剣の師匠がいるのなら俺が真っ先に挨拶しに行くところだ」
「───嘘じゃないでしょうね?」
「俺は家族のことについて嘘は吐かない。俺にとっては家族のことが一番大事だからね」
タルタリヤにとって家族は何よりも大事な存在だ。
彼女らを守るためなら命を投げ出すことすらお問わないだろう。
「むし俺の方が君に聞きたい───なぜエレーナに執心している?」
今度は彼の番らしい。
ヒステリックに叫んでいたサンドローネとは対照的に静かな闘志を燃やしている。いや、これは殺意か。
「もし君がエレーナに何かよからぬ実験でもしようとしているのなら........どうしてやろうか?」
彼の澱んだ瞳に潜む
「俺もそろそろ我慢の限界なんだよ。一刻も早く彼女を守ってやりたいのに、いつだって遠くに行ってしまう。俺と渡り合えるくらい強いから大丈夫だとは思うけど、それでも心配なんだよ───だって、璃月で会った彼女があんなにもボロボロだったんだから」
邪眼の奔流が蠢く。
偽りの雷が暖炉の火と反応して過負荷を起こしている。
「........ヒィ!?こ、『公子』様!?」
「お、おい!誰か『隊長』を呼んで.......」
「あの人はナタへ遠征に出たばかりで外してる!」
「じゃ、じゃあどうすんだよ!執行官
一気に剣呑な空気になった。
周囲の部下たちは怯えている。
「滑稽ね......」
執行官たちは各々、さまざまな技巧を会得している。
その中には策略家としての才を奮って執行官になった者もいる。各国で暗躍することの多い執行官にとって、暗躍は必須のスキルだ。
しかし彼は違う。
例外。
異例中の異例───それがタルタリヤだった。
彼が暴君としての才覚を世に知らしめたエピソードはいくつもあるが、中でも一際悲惨だったものは、彼女の妹であるエレーナが彼を逆恨みしたファデュイの男に半殺しにされた時の話だ。
───タルタリヤはその男を迷いなく殺した。
「どうしてお前みたいな下っ端が俺の家族を傷つけていいと思ったんだ」と問い詰めながら、双剣でこめかみを切り裂き、喚く男の首を切断してみせた。その時の彼はさぞ恐ろしい顔をしていたに違いない。
───そして、今もそうだ
今にもこちらを襲おうとしている。
まずいわね........
サンドローネは辟易していた。
ここで乱闘騒ぎでも起こしたら部屋に篭って実験に耽る権利を剥奪されかねない。それはダメだ。あの時間だけが自分にとっての休憩の時間であり、癒しそのものなのだから。
とにかくタルタリヤの誤解を解く必要がある。
「あのね、別にあなたの妹をどうにかしようだなんて思ってないわよ。」
「じゃあどうしてあの子を求めるんだ?」
慎重に言葉を選べ。
でないと、『
「ねぇ、ちょっとは頭を使ってみなさいよ」
「───。」
「か、『傀儡』様!?何を言っているのですか!?逆上されますって!」
「逆上って......あなたたち彼をなんだと思っているのよ───タルタリヤ、これを見て」
「なんだい───ああ、
彼女の手に握られていたのは人間の顔写真が載った
褪せた皮紙はところどころ破けている。
しかし指名手配されている人物の人相を
そこにはメリュジーヌと共に歩くエレーナが映っていた。
顔には戸惑いの色が浮かんでいる。
「俺だってその手配書の存在には気がついていたさ。でも、流石に他人の空似じゃ.........」
「本当にそう言える?」
「───エレーナはまだ十代の女の子だ。家出するまでスネージナヤを出たことはない。で、その手配書は四百年前の
「だから別人だと?」
「そう言うしかないだろ?もしそれがエレーナなら、彼女は時間を超えたということになる。アヤックスの冒険譚よりもありふれているような、あり得る筈のない夢物語のようにね」
「───私はその前提から疑っているのよ」
「何?」
「どうしてこの子が『時代を超えたかもしれない』って思わないの?」
「───は?」
突拍子もない理論だが、あり得ない話ではない。
「あなただって薄々気がついているんでしょう?だって、他でもない
「それは───」
タルタリヤは幼い頃に深淵に落ちた。
それがどこなのかは分からない。
確かに言えることは一つ───あそこ過ごした時間は現実世界のよりも早く、凝縮されたものであるということだ。
彼が深淵でスカークと過ごした時間と、実際に経過していた時間にはズレがあった。彼自身が時間の誤差を体験していたのだ。
もし、これと似たようなことがエレーナにも起きたのだとすると、全てに説明がつく。
もし彼女が時代を超えたのだとすれば、幼い年齢のまま指名手配として写真を撮られるというのも可能だろう。
「まぁ、そうなると別の問題が出てくるのだけれど......今はそんなことはいいわ。兎も角!私の目的は彼女の本当の動向を明らかにすることよ。決して危害を加えるためなんかじゃないわ」
「───説明になってないな。エレーナの敵じゃない証明をしてくれよ」
「ああもう!しつこいわね!?毎度毎度あなたに情報を提供していることが何よりの証明でしょう!もし独り占めしたいなら情報を寄越すなんて馬鹿げた真似はしないわよ!」
「む、それもそうか.......」
静寂。
タルタリヤは何かを考える素振りを見せた。
暖炉の火は消えている。雷に反応しすぎて消失したらしい。炉壁は黒ずんでいて、部下たちは「自分たちも黒焦げにされるんじゃ?」と怯えている。
「───俺は嘘が嫌いだよ?」
「ふん!それくらい知ってるわよ!」
「ふふっ、悪かったよ。ちょっと試しただけさ」
張り詰めた空気が離散していく。
パンパンに膨らんだ風船からすーっと空気が抜けるように。
部屋にいた不幸な部下たちはドッと冷や汗を掻いていることに今更ながら気がついた。
ついさっきまではそれどころじゃなかったから無理もない。
「話を戻すけど───結局今回もダメだった。これでまた振り出しってわけね」
「でも姿は見えたんだろう?」
「ほんの少しだけね。時間にしたら五分もない程度よ」
エレーナはキャサリンから依頼を受けてすぐに出立した。
そこに一切の迷いはなかった。
恐らく、今までもこうしてコソコソと依頼を貰ってはこなしていたんだろう。
こうして振り返ると、彼女は随分と粗が多いというか、なんかこう.........雑だった。
隠れ忍びたがっているくせに、いざとなったら魔王武装を纏って武力で解決しようとするし。気に入らないことがあったら割と口汚く罵るし───こうして見ると、なんだか戦闘狂であるタルタリヤよりも酷い有様だった。こんなザマでは、そりゃファデュイに捕まってもおかしくないとは思う。
では、なぜ一向に捕まえられないのか?
それは彼女自身が強くて───そして速すぎるからだ。
現に、居場所を突き止めて追手を差し向けても全て返り討ちにされてきた。
時には精鋭を差し向けた。
しかし彼女の強さは彼らを簡単に上回った。
つまり居場所を特定してからが本題なのだ。
如何にエレーナを無力化してスネージナヤに連れ帰るか。
これが目下の課題だった。
「一度は『散兵』が岩神と取引をして彼女の行方を特定したのに、それも結局無駄だった。だって居場所を突き止めても全部返り討ちにされるんですもの。それも毎回ね───まるで見えない壁に邪魔されている気分だわ」
「うーん.......俺としては『散兵』に妹が見つかること自体はあまり喜ばしくないから、彼らの部下が追い返されること自体は嬉しいけどね」
「あら、どうして?」
意外な意見だった。
彼は意地でも妹を連れ戻そうとしているし、そのためには手段を選ばないきらいすらある。だからこうしてサンドローネに協力を要請している。
だと言うのに、妹を『散兵』が見つけるとなると話は違うらしい。
「じゃあ逆に聞くけど、どうして彼がエレーナを追っていることに危機感を抱かないのさ?」
「だって彼、岩神に『彼女を傷付けないように』っていう条件を課していたのよ?もし殺すつもりだったら彼が直接赴いてヤる筈よ。でも今のところ目立った動きはない。」
「まぁ、それはそうだけど.......」
これは誰しも納得することだ。
『散兵』は面倒を何よりも嫌う。
愚鈍な部下がいるのなら容赦無く切り捨て、そそくさと自分が手を下して面倒ごとを片付ける。なまじ身体が丈夫なだけに、考えるよりも先に暴圧で解決する───そういう男だ。
そんな彼がエレーナを生かしている時点で、そもそも彼に殺意がないことの証明になるというわけだ。
「詰まるところ、結局は『散兵』もあの
「だから彼の手に落ちてもよかった、と?」
「ねぇちょっと、ついさっき剣呑な空気にしたばかりでしょ?もう殺気を振り撒くのはやめてちょうだい.......あくまでも事実を述べたまでよ」
「それでも、俺は自分が許可した人間にしかあの子を触らせたくないんだ.......大事な家族なんだ!今だって弟たちが彼女の帰りを待ってる!」
「───そう」
執行官『公子』としての殺気と圧力がまた部屋を支配した。
己自身に向けた責念だというのに、それは周囲のオブジェを物理的に歪ませるほどの力を放っていた。
───まぁ、そりゃ焦るでしょうね
彼の家族愛は本物だ。
それは彼の命懸けの働きが証明している。
こうして切羽詰まった表情は彼らしくない......戦闘で万事を乗り越えてきた彼にとって唯一乗り越えられていない問題が実の妹に関することなんだもの、それは焦りもするだろう。
しかし、これ以上『公子』の圧を部下に浴びせるわけにはいかなかった。
サンドローネは部下に部屋を出るよう命じた。
「ここはいいから任務に戻りなさい」と言う命令を聞いた部下たちは、まるでその言葉を待っていたかのような速さで部屋を出ていった。ずっと我慢していたんだろう。彼らには悪いことをした。
静かになった部屋には彼女ら二人の息使いと焦げた暖炉から時折聞こえる灰の崩れる悲しい音、それから外の吹雪くらいしかない。カーテンを閉め、灯りを付ける。淡い橙の光がテーブルを照らし出す。
手配書をテーブルの上に置いて指名手配中の少女の顔を眺める。なんて可哀想な顔だろうか。まるでこの世の全てに怯えているような、悲しい表情をしている。恐らく手を握っている隣のメリュジーヌだけがこの
でないと、こんなにも固く手を握りはしない筈だ。
写真のエレーナを優しく撫でる。
手が届かないのがもどかしい。
「よっぽど周囲の人間たちが妹さんを追っていることが気がかりのようね?」
「当たり前だろ......不安で仕方がないよ」
「まぁ気持ちは分かるわ。でも、貴方が思っている以上に私たちはエレーナを必要としているの。そしてそれは女皇陛下も例外じゃない───それほどまでにあの
「───じゃあ、そういう君はどうして俺の妹にそこまで執着する?接点はないように見えるけど?」
それは───なんでだろうか。
言われてみると少し分からないかもしれない。
なんだって同僚の妹をこんなにも気にかけているんだろう。
「───そんなの、どうだって良いでしょう」
「よくないさ。腑に落ちない善意ほど気持ち悪いものはないだろ」
「んなっ!?」
酷い言い草だ。
この青臭い坊やの目玉には、『傀儡』が『
「あなた結構言うじゃない......私の善意がそんなに不服かしら?」
「だって君、会議のたびに俺を殺したそうな目で見てくるだろ。よほど俺に恨みがあるだろうって思ってたんだ。それなのに、なんだって俺の家族を憂うんだ?」
「そ、れは.......っ!あなたが茶会のティーセットを雑に扱うから、でしょうがぁ...........!!!!」
「ん、なんだい?もうちょっと大きい声で言ってくれ。」
彼女の中で何かがキレた。
「うるっっっっっっっっっっっさいわね!?」
「うおっ!?」
「あんたは黙ってその気持ち悪い善意への懐疑とやらを抱えながら悶々としていなさい!私は私で考えとか事情とか、色々あるのよ!!!」
「え、えぇ......?」
「ふんっ!気分を害したから今日の話は以上よ!進展はなし!これ以上ここに止まっていたらまた
「なんだよいきなり.......女性の扱いは難しいなぁ」
「一丁前に紳士を語らないで!」
「なんなんだ全く、いきなり怒り出して.......?」
タルタリヤが不満そうに出ていくのを尻目に、サンドローネはまだエレーナのことを考えていた。
◇
無駄に長い廊下を早歩きで行きながらエレーナについて考える。
あのオレンジの長髪とか青色の瞳とか、それになんと言っても.......
「───やっぱり似すぎよね、これ」
魔王武装を纏った時のエレーナの姿───この写真は『傀儡』の部下に撮らせたもので、璃月港でエレーナが渦の魔神と一戦交えた時の写真だ
数年前にテイワットに現れた怪物の姿───こっちは偶々フォンテーヌの熱心なスチームバード新聞社の社員である少女が撮影したものだ
これらを見比べると───やはり瓜二つだ。
体躯の大きさも近い。
黒ずんだ鎧に大きなマント、湾曲した大剣、そしてあの特徴的な独眼マスク。
どれもが共有している。
「それに、
それは四百年前のスチームバード新聞社が出した誌面だった。
当時のフォンテーヌで殺戮の限りを尽くしたと言われる怪物の姿が───後に指名手配される少女の変身体と思われる───古めかしい新聞の一面を飾っていた。かなり粗雑な熱転写で撮られたものらしく、ちょっと見難い。それでも怪物の恐ろしさを伝えるには十分だった。ジャギったインクからでも怪物が黒い鎧と独特なマスクをしているのが分かる。
これは偶然?
偶然似たような怪物が四百年前のフォンテーヌに現れた?
偶然似たような怪物が、数年前のテイワットのヒルチャールや
偶然、これらの怪物と似た戦い方をする少女が、四百年前のフォンテーヌで指名手配されていた?
いいや、いいや!
「いいえ、これを偶然とする方が無理があるっ!」
嫌な感じだ。
自分の知らないところで、とんでもないことが起きているかもしれない。一体世界はどうなっている?この少女は、エレーナは一体何者なんだ?なんでこんな強大な力を持つ羽目になったの!?
いや、問題はそこじゃない。
一番嫌なのは、恐らくエレーナが初めて怪物と化したその瞬間、サンドローネもフォンテーヌにいたかもしれないということだ。今となっては場所も分からなくなったアランの隠れ家で過ごす日々はとても和やかで好きだった。
でも、地上であんな悲惨なことが起きていたと言うのなら、アランが尽くした街が崩壊させられ、そしてそれがこの少女の仕業なら───
「だとしたら、私は彼女に問う権利がある筈よ」
しかし、そのあとはどうする?
問い詰めてどうなる?
私は年端も行かない美少女を罵るつもりなのか?
「分からないわ───ねぇアラン。私はどうするべきかしらね?」
少なくとも、あの娘は悪人には見えない。
現に逃げ惑っているのも、元はと言えば当時のファデュイが先走ったからだ。
その責任を彼女一人に押し付けるのは違う気がする。
分からない。
いくら考えたって、分からないことが多すぎる。
「───行くわよプロンニア」
「.........。」
デカい機械体を侍らせながら、サンドローネは話したこともない同僚の妹のことを考えていた。来る日も来る日も、ただひたすら彼女のことを思っていた。
なぜなら。
手配書の中で不安そうに顔を強張らせていたエレーナは怪物には見えなかったから。
「分からないなら、会いに行けばいい......待ってなさいよ、エレーナ!」