料理をする人間にはいくつかの種類があるが、大別してレシピ通りに作る人間とそうでない人間に分かれる。
男はどちらかというと後者側だった。
とりあえず新しく挑戦する料理は参考にするレシピ、材料、調理法はあれど、だいたいその内容を綺麗に買いそろえるのではなく、あり合わせや近場のスーパーにあるもので代用しようとする。
もちろん味は全然違うものになるが味見などをして好みになるように調整はする。
ただ当然、似通った調味料、味付け、調整になるので、どの料理も食べた人間の感想は"この人の料理っていつもこの味じゃない?"という結果になる。
それをいわゆる家庭の味、という風に思えるかどうかは食べ手によるのかもしれない。
「ねえ」
「ん?どうした、まふゆ」
「いつも味付けが一緒なのはなんで?」
「え」
男は固まった。
「別に材料が違うときは違うけど、トマト系とかクリーム系とかお肉系とか、ジャンルが近い時、具材が違うだけで全部同じ味付けしてない?」
「えぇそんなこと──」
「──あるかもしれない……」
今までの料理を思い返す男、そしてあまりにも偏った調理と材料、なんなら内容も割と近いことが多いことを思い起こし、冷や汗をかきはじめる。
もともと自炊の延長戦であった男の料理は基本的に買いだめの時に食べたい食材を雑多に買い、それらを数日に分けて調理することが多く、必然的に腐りにくいもの、長持ちするもの好みのものなど、特定の食材にかたよりやすく、そこからできるレシピも必然的に同じようなレシピになりやすい。
つまりはレパートリーが具材を少し変えただけで同じ調味料、同じ調理法になりがちなのだ。
「思い起こせば肉の種類やいれる野菜を買変えただけで2.3種類の料理をローテーションしてるようなものだな……」
「今更?」
「はい、適当ですみません……」
「別に、思っただけで嫌なわけじゃない」
「あ、そうなんですねよかった。とはいえもうちょっと考えるか」
うーん、うーんと悩み始める男を、"本当に思っただけ"で困らせるつもりはなかったまふゆは複雑な表情で見つめる。
「不満は、別にない」
「ああ、大丈夫、まふゆがそういうならだろうけど、個人的にレパートリー増やしたいだけだから」
「……そう」
「まふゆのためもあるけど、まふゆで困ってるわけじゃないから気にしなくていいよ」
「……」
またうんうんと唸り始める男、その背の裏で先ほどの複雑な表情とはまた別の複雑な感情を胸にまふゆは男の悩む姿を眺める。
「──」
「おわ、なになになにまふゆさん?腰に頭突き入れないで!?」
「セリフが、クサすぎ」
「いや、俺もちょっとやりすぎかなーって思ったけ……ちょっとまって倒れるからそろそろ押すのヤメテ!」
「……」
どあーー!とついに床に倒れこむ男、とその男を下敷きに衝撃を和らげるまふゆ。
「俺が何をしたっていうんだ……」
「別に」
「俺知ってますよまふゆさん、そういうときホントは別にじゃ──あ、何でもないです」
経験則でまふゆのさらなる追撃を予知した男は間一髪で予兆を回避する。
「まふゆは嫌なら言ってくれるし、そうじゃなくて勘違いしてても今回みたいに気がついて言ってくれるだろ?俺もそうするようにしてるから変に思わなくても大丈夫だよ」
「……」
「ほら、俺とまふゆの仲ってやつ?」
「……私は言われた記憶がない」
「え、まふゆへの不満ってこと?割とたまに言ってるけど封殺──ほらこれこれこれ!」
まふゆのするどいめにより、男の抗議はなかったことになった。
「──まあそれは冗談として、いや半分は冗談じゃないけども、本当に何かあったら言うよ。今のところまふゆになーにも不満がないってだけで」
「……そう」
「あ、でもたまに衣服が消えたり出てきたりしてるのだけはちょっと流石に怖いというか、恐らくまふゆさん関連だと思うんですけどあれは──あれ?まふゆさん?ちょっと聞いてます?まふゆさーん?目を合わせてくださーい」
結局、再びまふゆの頭突きで床に転がされた男は、己の立場は一生まふゆより上になることはないんだろうな、と悟るのであった。
ご無沙汰しております。
とりあえず、突然ですがこの話で一旦区切りのようなものにさせていただこうと思います。
これ以上は結構料理も会話も焼き増しになりそうだなーというのが大きいです。
とはいえ、今後創作欲というか、まふゆちゃん欲が高まったらまた書いていこうとは思うので本当に一端の区切りとしての終わりになります。
お読みいただいた皆様、ありがとうございました。