アイク島冒険記   作:嶺月

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とるものもとりあえず、といった調子で王都を出た三人ですが、旅路は順調に進みます。


三人の追跡行

 レオンハルトが最も心配していたのは、ルーチェも王都の外は港にしか行った事は無く、前回の旅も整備が甘かったとはいえ街道沿いの旅だったが、今回は地図を読み取りながら複雑に枝分かれした細道を行く事だったが、結果から言うとその危惧は杞憂(きゆう)となった。

 王都を少し離れた所からは農地が点在しており、少しわかりにくい道でも作業している農民に尋ねれば目印となる集落を知ることができた。またレオンハルトが天文局の任務で田の植え付けに関わったと知ると、親近感を感じるのか誰もがレオンハルト達を歓迎し、旅の間の水の心配の必要は無かった。

 情報も得る事ができた。やはり神殿騎士団はここ一年頻繫(ひんぱん)に洞窟を探索しているようで、盾にシペリュズ神殿の紋章を刻んだ騎士を見かけた者、慣れない旅で体調を崩した騎士を休ませた者などから話を聞く事ができた。

 

「私にとっては好都合だが、わざわざ王城に秘密にしている割に話が簡単に聞けるものだな」

 

 レオンハルトはあまりに都合よく情報が出た事が幸運ではなく、これもなにがしかの策略なのではないかと疑ってルーチェとアレンに水を向けた。レオンハルトの疑問について、相乗りするルーチェは問題にしていないようだ。

 

「平民が何を話しているかなんて関係ないからじゃない?実際王城の人たちは全然気付いて無かったんでしょ」

「ああやって世話になっているのにか?それは偏見じゃないかな?」

 

 バッサリと切って捨てたルーチェの言葉が、まるで騎士たちの振る舞いを(おとし)めるように思えたレオンハルトは、さすがに同じ騎士として反論せざるを得ない。

 

「レオンハルトがデュラディウスを持って見習いになった時にさ」

 

 だがルーチェには思う所が有ったらしい。主張を続ける。

 

「実は居たんだよ、これは凄い武器だから自分も使おうって騎士。カシウス家の紹介じゃなかったからさ、お祖父ちゃんだってそれなりに礼儀を守ってたんだよ。でもそんなこと全然関係無かった。デュラディウスは一人一人に合わせて調整しなくちゃ使い物にならないから、背丈や腕の長さを測らせてもらうって所からひと騒動でさ。卑しい平民が騎士の体に触れるのかって怒ったり、レオンハルトみたいにがっしりしてないから、少し細身で作るって説明したら馬鹿にするなって怒鳴ったりさ。何人か来たけど結局全部無しになっちゃったんだ」

 

 レオンハルトがデュラディウスの技を見せつけてからの事ならばここ数か月の話だろうが、全く気付いていなかった。レオンハルトに対してディルが他の騎士の話を漏らす事など無く、一人での鍛錬との違いや、数人を同時に相手取った時の使い心地などをぶっきらぼうだが丹念に聞き取るだけだった。アレンも神妙な面持ちで聞いている。

 

「変な話になっちゃったね。とにかく別に農家の人たちが気付いててもおかしくないって事。とにかく神殿の人たちが洞窟に向かったのは確かなんだろうし、急ごうよ。チュルク、頑張ってね」

 

 急に明るい声をあげるルーチェに、レオンハルトもアレンも何も言えない。これ以上聞けばまたルーチェの誇りに傷を付ける事になるだろう。

 

「いや、アレンの足に合わせなければいけないからね。ルーチェもチュルクを構ってくれるのは嬉しいが、手綱を引いたりはしないように。チュルクが勘違いするといけない」

「へぇ。アレンよりずっとたくさん荷物を背負ってるのに、やっぱりお馬さんは力持ちなんだね。私もちょっと欲しいな」

「甘いな、小娘。お前に馬の世話が務まるものか」

「小娘って言うな!でも確かに仕事や研究で忙しいからそれは無理かな。いや、お世話を楽にする道具を作るとか…」

「ルーチェ。馬の世話というのは馬が生きていくという事もだけど、世話を通じて馬がその背に人を乗せられる信頼関係を作る事でもあるんだ。手早く済ませるだけじゃなくて、時間や手間をかける事そのものが大事だよ」

 

 レオンハルトの説明を聞いたルーチェはアレンを見る。

 

「そういうものなの?」

「なぜ俺に聞く。若の言う通り、いくら馬に力が有ると言っても、人のような重い荷物を背負わされて気分が良い訳が無い。旦那様も若もヨシュハルト坊ちゃまも、厩番(うまやばん)に任せきりにした日は一日とてないぞ」

 

 普段は研究一筋で、人を含めて生き物とあまり交わらないルーチェにはなかなか珍しい視点なのだろう。しきりに感心した様子だ。しかしそんなルーチェはハインリヒと同じく神殿の動きに不穏な物を感じているらしい。レオンハルトはそれほど周囲に注意せず会話できる今のうちに、何を危惧しているのか聞いてみようと思った。

 

「ねえルーチェ、父上や君はいったい何故神殿を問い質すべきだと思っているんだ?」

「えっとそれは、話しても良い事なのかな?ハインリヒ様はレオンハルトには敢えて説明しなかったんでしょ?」

「うん。だけどそれは曖昧(あいまい)な推測で神殿を(おとし)めたり私に先入観を与えないためというだけじゃなく、あの場では説明する時間が惜しいと思ったからじゃないかな?今は一応落ち着いて話せると思う」

「若、俺は反対です。旦那様が話さなかったのですから、その判断を信じて行動すべきだと思います」

「そうだろうか。迷いを抱えたまま行動するべきではないと思うんだけど」

「レオンハルト、迷いながら行動するのが悪い事とは限らないよ」

 

 そう諭すルーチェの言葉は今の選択だけを指している訳ではないようだ。レオンハルトはそう思い、姿勢を正して耳を傾ける。

 

「研究していると時々有るんだ。材料がめちゃくちゃになっちゃうかもしれないって時。それでも研究を進めたかったら実験してみるしか無いって時。そういう時によく人は後悔の無い方を選んで迷いなく挑めっていうけど、それはちょっと違うかなって思うんだ。

 実験を諦めても、無理に強行して材料が飛び散っても、嫌な結果が出ればどうやったって後悔するよ。だからどっちを選んでも決めた事にこだわっちゃ駄目だと思うんだ…話が()れちゃった。

 何が言いたいのかって言うとね、今ここでレオンハルトが神殿の人達にどう接するかを決める必要は無いと思うんだ。ひょっとしたら悪い事をしようとしてるかもしれないし、私たちが勘違いしてて立派な行いなのかもしれない。正面から聞いても誤魔化されるかもしれないよ。いろんな可能性があるなら、なるべく中立の立場で対処するのだって大事なことだと思うよ」

 

 ルーチェの言葉では咄嗟(とっさ)にすべきことがわからないという不安は解消されない。だがルーチェはこれ以上のことを伝えるつもりは無さそうだし、アレンもどうすべきかは判らないようだ。ただレオンハルトは、自分の決断に不安を抱えたまま行動するというのも一つのやり方なのだと、ルーチェの言葉を受け取り、指針を示してくれたルーチェに感謝を伝える。

 

「…このまま進もう。神殿の意思は私が自分で確かめる」

「若がそう決めたのでしたら、俺に言う事は有りません」

「わかった。レオンハルトに任せっきりにはしないよ。ちゃんと助言するからね」

 

 僅かにせよ年長のアレンも、思索に慣れ、今も何か感付いているらしいルーチェもレオンハルトを信じてくれている。その想いに応えようとレオンハルトはまずは正しく皆を洞窟まで導く事に注力すると決め、頭の中で思い描いた地図と周りの地形を比べながらチュルクを歩ませた。




読んでくださってありがとうございます。次回も是非お読みください。
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