アイク島冒険記   作:嶺月

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順調に進んできた油断か疲労ゆえか招いた窮地を何とかしのいだ一行は、洞窟の奥から誰かやって来るのに気付きます。


神殿騎士団

 レオンハルト達が待ち構えている所に二人の騎士が現れた。鎧の形はそれぞれに個性があるが盾に彫られた紋章はどちらもシペリュズ神殿の物で、二人がともに神殿騎士団に所属している事が見て取れる。お互いのランタンの光が互いを照らす距離まで近づくと年かさの騎士が誰何(すいか)してきた。

 

「貴様ら、何者だ。こんな所で何をしている?」

 

 居丈高な口調にレオンハルトが驚いていると、ルーチェがレオンハルトの脇腹をつつく。対応は任せるという意味だと解してレオンハルトはまず名乗りを上げる。

 

「私は騎士見習いのレオンハルト・カシウスと申します。この二人は…」

 

 そのままアレンとルーチェを紹介しようとすると、二人の騎士はレオンハルトの口上を(さえぎ)ってお互いに値踏みを始める。

 

「騎士見習い?武器らしいものは持っているが、その貧相な身なりではとても信じられん。身分を(かた)っているのではあるまいな」

「いえ、ゴルディアス卿。あの顔は見たことがあります。あのカシウス家の長男で間違いは無いでしょう」

 

 あまりの無礼に啞然(あぜん)とするが、ともかくも身分を明かせた事にほっとする。もしただの平民だと思われたら、対等に話す事もできなかっただろう。悪評であろうとも名が知れていて助かった、と思いながら今度こそ同行者を紹介する。

 

「改めて、レオンハルト・カシウスです。こちらの少女は名をルーチェと言い、高名な鍛冶師ディルの孫娘でございます。今回この洞窟を探索するにあたって意見を聞きたいと思い、連れてまいりました」

「鍛冶師のディル…話には聞いている。それでレオンハルト殿は何用でこの洞窟に?」

 

 予見していたその質問にしかしレオンハルトは迷う。神殿騎士団の思惑を詰問(きつもん)するような答え方をして敵意を持たれてはいけない。慎重に考えながら言葉を紡ぐ。

 

「神殿騎士団の方々がこの洞窟の調査に乗り出したとの噂を耳にいたしました。それで…」

 

 そこで詰まってしまう。王宮に連絡が無いという事を話題にすれば、どう解釈しても独断専行への詰問としか取られないだろう。何か接ぎ穂を探しているとルーチェが口を挟む。

 

「偶然レオンハルト様が当工房へご来訪の際にその話題が上ったのです。この洞窟や重力水についての件で祖父に相談が無かった為、何か急を要する問題が発生したのではないかと私が推論を口にしたので、レオンハルト様が神殿騎士団の皆様を心配なさって私をここへ」

「娘!平民が騎士の会話に口を挟むものではない!」

「この者の無礼についてはご容赦を。今は神殿騎士団が此処へ派遣された理由をお聞かせ願えませんか」

「見習いごときが気にするような事では無い」

 

 このまま話が進めば追い返されてしまう、と思ったレオンハルトが困っているとまたしてもルーチェが口を挟む。

 

(かしこ)まりました。問題が起きていないのでしたら、後から来る王宮からの使者にもそうお伝えしてお帰りいただきます」

「え…」

 

 唐突な王宮からの使者、という言葉に驚いたレオンハルトが声を上げかけるとルーチェが目配(めくば)せする。突然の嘘に困惑するが、ルーチェへの信頼が勝ったレオンハルトはそのまま口を(つぐ)む。不自然な振る舞いだったが、ゴルディアスともう一人の騎士はそれどころではない様子だ。

 

「待て!娘、既に王宮にも話が伝わっているのか?」

「左様です。何か有ってからでは遅いからと、祖父が武具のお手入れをさせていただいているお家を通じて王宮に連絡を。レオンハルト様と私はあくまで先遣隊としての派遣でございます」

 

 先のレオンハルトの説明とは食い違う言い分だが、神殿騎士はもはや矛盾に気付く様子もルーチェの無礼を(とが)める様子もなく狼狽(うろた)え始めている。

 

「そ、そういう事であれば少し待て。正式な使者がいらっしゃるとなれば回答を用意せねばなるまい」

「はい。ごゆっくり相談ください」

 

 ルーチェがことさらゆっくり頭を下げると、騎士たちは少し離れた場所で相談を始める。アレンが話を聞きながらなんとか完成させた包帯を左手に巻きつけてもらいながら、レオンハルトはルーチェに真意を問い質す。

 

「ルーチェ、どういう事だい。公平に判断するという話だったじゃないか。これじゃ疑っているも同然だ」

「レオンハルト、その段階はもう過ぎてるよ。今だってレオンハルトが怪我しているのわかるだろうに心配もしないじゃない。絶対に悪だくみしてるよ」

「残念ですが若、俺も同じ意見です。このうえは本隊のいる場所まで踏み込んで真実を確かめるべきです」

 

 二人から言われ、レオンハルトは唸る。確かに一旦は何も知らせずに突っぱねようとしたのは不自然のようにも思える。だが心配なこともあった。

 

「もしも良からぬ企みがあるとして、一度は追い返そうとしたのに招き入れようというのは…」

「うん。少なくとも監禁くらいはするつもりかもね」

 

 ルーチェが敢えて言わないそれ以上の対応の可能性を考慮し、同行した二人を無事に返すことをレオンハルトは改めて決意する。

 

「任せてくれ。こんな時のためにと今まで鍛錬を重ねてきたんだ。二人は何が有っても守ってみせるよ」

「ありがと」

「若、何よりも御身の無事をお考え下さい」

 

 決意を伝えるとそれぞれの言葉が返ってくる。レオンハルトは無言で頷き、騎士たちに呼び掛ける。

 

「そろそろ相談は終わりましたか?」

「うむ、やはり我らごときの独断では決めかねる。司祭様に直接指示を仰ごうと思うので、付いてきたまえ」

 

 そういって二人の騎士はこちらの返事も聞かずに洞窟の奥へと歩み出す。もう一度顔を見合わせた三人は決意を込めて頷き合い、デュラディウスを手に取ったレオンハルトとランタンを掲げたアレンが先を進む形で神殿騎士団の後を追いかけた。




読んでくださってありがとうございます。次回も是非お読みください。
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