アイク島冒険記   作:嶺月

28 / 31
一旦は説得できるかと思ったレオンハルトですが、ローグライアンの恨み節に呼応して神殿騎士団たちが実力行使に出ます。



分断された三人

 ローグライアンの血を吐くような恨み言に心励まされた神殿騎士たちは、その意気に当てられたかの様にそれぞれに覚悟を面に表して距離を詰めてくる。だが踏み込めばデュラディウスが届くその数歩手前で立ち止まった。叛逆(はんぎゃく)を形にする決意は固まっても、見るからに長大なデュラディウスへの恐怖心は抑えられないのだろう。目配せをして期勢(きせい)を計る騎士たちに対して、レオンハルトから大きく跳躍するように飛び込む。

 騎士団の調練では形式的な一対一の打ち合いしか教えないが、騎士の任は平民の蜂起(ほうき)や野盗化に備えるものとして、カシウス家では従者たちの協力を得て一対多の戦いについても研究を重ねている。その知識がレオンハルトに受け身に回る事、包囲網が完成する事を避けさせた。この状況でレオンハルトが攻めに回ると考えていなかった神殿騎士たちは慌てて盾をかざして防御しようとするが、レオンハルトは盾の動きに構わずデュラディウスを振り抜き、一人目の標的を軽々と弾き飛ばした。

 重力水の力を理解していない騎士はしばしば、その威力を超常の膂力(りょりょく)を得たかのように誤解する。しかしその本質は剣身の周囲に物体を()ね退ける斥力場を発生させることで、直接デュラディウスの刃で叩き切っている訳ではない。したがって甲冑を着込んだ騎士一人を軽々と部屋の壁に叩きつけても、装備者には一切の反動を残さない。それを承知しているレオンハルトは一人目の標的を弾き飛ばした勢いのまま、手首の返しで先ほどの攻撃に使った刃と持ち手の部分を挟んで対になる反対側の刃を二人目に叩きつける。その騎士も一人目と同じく壁に弾き飛ばすと、体勢を立て直す余裕を与えず三人、四人と無力化していく。見習いの身でありながら王宮騎士団において武芸並ぶものなしと目される、レオンハルトとデュラディウスの面目躍如だった。

 

「お、おのれ、小僧!」

「待て、むやみに斬りかかるな。こやつ手練れだが一人であることは違いない。落ち着いて同時に切りかかってしまえば、盾を持っておらぬ以上はどうしようもあるまい」

 

 たった一人、と侮っていた相手に先手を打たれて包囲網を崩された騎士の一人が、己を鼓舞(こぶ)しようと無理に踏み込もうとするが、同輩が(なだ)めて集団戦術を提案する。

 改めて剣を構えて、ぐるりと取り囲む騎士達の動きにレオンハルトは思わず歯噛みする。彼らの言う通り、二つの刃を持っていると言っても、一度に二人に切りかかれる訳ではない。まして重力水の力は振るって遠心力を発生させねば発現しないので、受けに回ってしまうと脅威(きょうい)とはなりえないのだ。そこまでデュラディウスの特性を知悉(ちしつ)しての判断とはレオンハルトには思えなかったが、結論が最良の選択である以上は流れに委ねて戦闘を運ぶことは愚策だ。集団戦術を学んでいないと言っても、一斉に切りかかるくらいのことはできるだろう。

 幸いなことにルーチェやアレンを人質に取ろうとはしていないが、このままレオンハルトが優勢ならば誰かが思い付くかもしれない。一気呵成(いっきかせい)に形勢を決めようとして突進を選んだが、攻めきれなかった事で敵中に飛び込んでしまう形となった。レオンハルトとしては大きく選択肢を削られる結果となった形だ。

 戦えない二人に意識を向けさせないために、レオンハルトは敢えて今包囲されて危機感を覚えている事を強調して、騎士たちの意識を自分に集中させることにする。

 

「確かに私は盾を持ってはいませんが、この長い刀身ならば中途半端に包囲したところで貴卿(ききょう)らの刃を全て受けきることもできましょう。そして私の一撃は振るえば確実に一人を倒す。数の優位を確信するのはまだ早いのでは?」

「この期に及んでまだそんな強がりを。前と後ろから同時に切り込まれても防げるつもりか」

 

 先ほど一人が先走ろうとしたのを制した騎士がレオンハルトの挑発に応える。兜越しでは見分ける事はできないが、恐らく彼が神殿騎士団の団長を務めるリルビン=サキュレント家のガイラッハだろう。この島で実戦を経験したことのある騎士など居ない(はず)だが見事な統率ぶりだ。

 だがその戦術はレオンハルトにとって好都合。誰かの動きに対処している(すき)に死角から攻撃される波状攻撃が一番恐ろしい。前と後ろから同時に攻撃されるのは確かに危険だが、見る事のできない後ろの敵の動きを前の敵の挙動から予測する事が可能なのだ。

 相手の一斉攻撃に合わせて大きく斜め前に踏み込み、殺到する刃をデュラディウスの力で払って包囲を脱する。進むのは右、ガイラッハの盾側に位置取ってできれば統率者を倒したい。欲張りな案だがこの状況では常に最大の戦果を求めていかねばならない。

 言葉でなく仕草で合図を出されることを警戒してガイラッハを注視していると、戦場の騒乱を全く気に留めぬ風情の、ギルベルトの穏やかな(しゃが)れ声が割り込んでくる。

 

「騎士たちよ、その見習いにばかり気を取られぬ事じゃ。それ、そちらに武器も持たぬそ奴の仲間がおるではないか」

 

 傍目八目(おかめはちもく)という事か、それとも先ほどルーチェと問答を繰り広げたことが頭に残っていたのか、ギルベルトはレオンハルトが最も恐れている選択肢に気付いたようだ。

 

「見たところお主らの内五人ほどしか、その見習いに斬りかかることはできそうにない。残りは従者と先ほどの生意気な小娘を捕らえよ」

「卑怯な、それが騎士たるものの振る舞いか!」

「気にするでないぞ。ガイラッハ卿、セイブラス卿、ミュセル卿、デアボラス卿、ヒースレント卿、五人はそのままその騎士見習いを見張っていよ。その隙に他の者で手分けして二人を捕らえてしまえ」

 

 ギルベルトの指示に頷いて周囲から離れていく神殿騎士たちを見ながら、どうすべきかレオンハルトは思考を巡らす。いっそ思い切って再び先手を取って、薄くなった包囲網を突破すべきか。しかしいくらレオンハルトでも一息で二人以上を()ね退ける事などできない。ましてルーチェたちを救う為には後方に方向転換しなければならないのだ。一人を倒す間に他の四つの刃がレオンハルトに届くだろう。

 分の悪い賭けに出るか否か迷っているとアレンの声が聞こえてくる。

 

「若、俺たちの事は気にせずに!最前ルーチェ殿が言ったようにこの場から逃げることも考えるべきです!」

「馬鹿なことを言うな!お前たちを見捨てることなど絶対にしないぞ!」

「正直なところ逃げを打たれたらどうしたものかと思うておったがの。背を向けられぬというのならば(なお)の事人質として役に立つ」

「二人とも、何とかしばらく逃げ回ってくれ。必ず突破して助け出す!」

 

 まだ三人揃って危機を脱する希望は残されている事を大声で叫んで、レオンハルトはアレンとルーチェが追われているだろう後方に振り向きざま大きくデュラディウスを振るう。神殿騎士たちも先に切り伏せられた同胞の様子から、デュラディウスを盾で受け止めてはならない事を既に学んでいるのだろう、標的となった騎士は大きく退いてレオンハルトの刃を(かわ)す。

 二度、三度と手首を返して更に追うが、なりふり構わずといった様子で後退されて今一歩届かない。だがレオンハルトは焦らない。狙いは飽くまでも二人の下への道を開くこと。狙った騎士だけでなく、大きく振り回された剣身に左右の騎士も腰が引けている。甲冑を身にまとっていない身の軽さを活かして、五人による包囲網から抜け出すと、先にルーチェを追う騎士の動きを封じようとする。ルーチェもレオンハルトが救援に来たことに気付いたようで、三人に囲まれて強張っていた表情が少し緩む。

 

「レオンハルト!」

 

 ルーチェの呼びかけで後ろからレオンハルトが来たことに気付いた神殿騎士は、一人はそのままルーチェを追い、二人がレオンハルトを押しとどめる事に決めた様子だ。向き直った二人は最初の強襲を繰り返させるまいと、二人で息を合わせて左右から攻め立ててくる。

 急拵(きゅうごしら)えの連携は(つたな)く、足捌(あしさば)きで二人の仕掛ける呼吸を巧みにずらして、一手一手打ち込みを受けることはできた。しかし二人もレオンハルトが攻めに転じてしまえば、呆気なくけりが付くだろうと察しているようだ。懸命にレオンハルトを挟み込む位置取りを保ち、闇雲だがそれだけにレオンハルトが流れを読めない攻撃を繰り返してくる。

 すぐにルーチェを保護できると思ったレオンハルトは、攻撃を刃で受けるたびに左掌にうずく痛みも相俟(あいま)って徐々に焦り始めていた。

 




読んでくださってありがとうございます。
今回は人間相手の集団戦でしたが、剣戟の駆け引きなど全く知らないためかなりご都合主義になってしまいました。詳しい方にもご意見など頂きたいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。