アイク島冒険記   作:嶺月

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鉱山街を手前に政治批判のようなやり取りを繰り広げていた騎士たちは、ケインに窘められて議論を止めて街へと入ります。


鉱山局の騎士

 ケインが心配したような、現在の政への批判ともとられかねない会話を見聞きした人間と出会うような事も無く、一行は無事に鉱山街へと入った。騎士二人も徒歩となる。鉱山街はアルカナ山の(ふもと)沿いの、この島では珍しいやや広い平野部に作られた街だが、その中に初めて入ったニールフェルト以外の三人は街の様子に驚く。

 

「いやに整然とした街並みですね。街道から繋がる中央の道の広さも驚きますが、何より道の交わりが常に直角です」

「そうだろう。アルカナ山に鉄の鉱脈が発見され、ここに鉱山作業の拠点が置かれる時に王家はこの街を計画に沿って作り、管理する事としたのだ。鉄の重要性から流通を管理する必要が有ったし、何よりアルカナ山周囲の山地の中には、金の鉱脈も見つかったからな」

「以前ディルが鉄以外にも見た事のない金属が有る、と言っていたのを思い出しました」

「ほう?それは初耳だ」

「鍛冶師やこの鉱山で働く者なら常識だそうです。ただどんなに炉で熱しても溶けず、使う事ができないのだとか。ディルは欠片になるまで砕いてから鉄に混ぜることで、役立たせられないかと考えているそうです」

「次から次へと色々と考えるものだ。それにしてもあの鍛冶師はレオンハルトには打ち解けているのか?」

「言われている程偏屈(へんくつ)な男ではありませんよ。ただ若い頃研究を理解されなかったのが原因で、人に伝えるのを億劫(おっくう)がるだけです。私はハイ・メイスやこのデュラディウスについて矢継ぎ早に質問を投げかけていましたから、逆に屈託が無いのかもしれません。先入観を持たず、積極的に話しかければ意外と答えてくれますよ。ラッドなど話し上手ですし向いているかもしれませんね」

 

 街の中央を貫く道を進みながら世間話をしていると、この任務に就いてからは導かれてばかりだったのが久しぶりに説明する側になり、レオンハルトは少し気分を良くする。教えを乞うのを恥と思っていたつもりは無いが、家では家長の長男として敬意をもって接され、騎士見習いの中でも武芸は指導役に回ることが多いからか、久しぶりに下の立場にあることにどこかで屈折した気持ちが有ったのかもしれない。

 

「そうなのか。ラッド、今度行ってみるか?」

「いや旦那様、何の用も無しに行ってもディルさんも困るでやしょう」

「それもそうだな。レオンハルト、なにか良い話題はないものかな?」

 

 問いかけるニールフェルトの向こうにラッドが顔を引きつらせているのが見える。大丈夫だとレオンハルトが保証したものの、気難しいと噂のディルとの交流を取り持つと考えると尻込みしてしまうのだろう。だがレオンハルトとしてもディルが周囲の人間との交流を断っている状態を良いとは思っていない。愛する弟ヨシュハルトに対してならどうアドバイスをするかと考えて答える。

 

「やはり武器についての相談を持ち掛けるのが良いでしょう。ハイ・メイスの調整なり新しくデュラディウスを()ってもらうなり。間に孫のルーチェを挟むのも良いかもしれません」

「確かに良い案だ。さて有意義な時間だったが中断だ。これからの予定を話すぞ。この街で二か所訪ねるべき所が有る。一方はこれも鍛冶師なのだがな」

「鍛冶師がこの街に?鉄鉱石はすべて王都に運ばれてから使われると思っておりました」

「さすがに王都で鍛えてからまたこの街に戻すのでは非効率ということだろう。今度の任務のように山に入るのでなければ使わない道具を扱っている店が一軒だけ有るのだ。店というのもおかしいかな?商いを行う訳ではなく、この任務のために必要な鉄製品や細々した雑貨が用意されているのだ」

「なるほど。その店はどちらに?」

「訪ねる場所は二つ有ると言ったろう。まずは中心部にある鉱山局の詰所だ。同じ騎士として礼を欠かす訳にはいかんぞ」

「そこまでは気が回りませんでした。ではさっそく」

 

 そう言うと二人の騎士は頷き合って中央の広い道をまっすぐに進んでいった。

 

 街と呼ばれてはいるが、ここに居るのは鉱山で働く者とその日常を支える者達ばかりだ。農業に携わる者たちが暮らす集落に比べれば格段に広いが、十分少々も歩けば目指す鉱山局の詰所に到着した。中心の区画は街の規模を考えれば驚くほど広く空間を取っており、そこここに草木が植えてある。詰所の前には小規模だが噴水までしつらえてあり、鉱山で働く者の家族らしい婦女や小さな子供の姿も見える。鉱山一色に染まらないよう敢えて遊びを作っているのだろう。

 

「広場も心安らぐ風景ですが、詰所も大きく優雅な造りですね。鉱山局というのはそれほど大きな部署なのですか?」

「鉱山だけでなくこの街の行政も担当しているからな。三十人ほどが所属しているので大きい方だろう。だが平民と直接接触する部署という訳だからやはりあまり重んじられてはいない。大きいのは騎士だけが使う建物でないのと、ともすれば親しみと一体の気安さを生み出させないための方策らしいぞ」

 

 レオンハルトの問いに答えたニールフェルトは、街に入ってからはニールフェルトの愛馬を()いていたラッドに呼び掛ける。

 

「裏手に通用口がある。先触れを務めてくれ。言葉遣いに気を付けてな」

「わかりました、旦那様」

 

 ラッドは馬をケインに預け、早足で建物の裏に回っていく。五分ほどすると正門が開き仕立ての良い衣装で騎士と判る壮年の男が出迎えてくれる。見事なプラチナブロンドの巻き毛と、同じ色の口髭をたくわえていてやや細身で長身だ。レオンハルトとニールフェルトが拳を胸に当てる騎士礼を取ると、男も礼を返してくる。

 

「天文局所属、ニールフェルト・スメタナスです。こちらは騎士見習いレオンハルト・カシウス。任務のためこの街を通行させていただきます」

「鉱山局所属リップタイト・カルルスです。来訪を歓迎いたします」

 

 いやに謹厳(きんげん)な顔つきで答えた鉱山局の騎士はそう言うと、すぐに相好を崩し嬉しそうに話しかけてくる。

 

「二年ぶりだねニールフェルト卿。今年もそろそろだと思っていたが、見習いを伴って来るとは思わなかった」

「君も時には王都へ足を運んで他の騎士と交流してはどうかと思うぞ。なにも一年中この詰め所に待機しなければならない訳でもあるまい」

「そして厄介者を見る目であしらわれろというのかい?気心の知れた仲間はほとんど鉱山局の中に居るのだよ。それよりも彼が以前話していたカシウス家の跡取りだね。正式に配属が決まる前から連れ回すと周囲から(にら)まれるのではないかな?」

「もっともな懸念だが、すでに政務局の連中あたりには煙たがられている」

「気の毒な事だね。それはともかく鉱山局へようこそ。すぐに出立するのだろうがわざわざの挨拶ありがとう、レオンハルト君」

「初めまして、リップタイト卿。それにしてもお二人はだいぶ親しいようですね」

 

 会話の内容からは滅多に会わない間柄のようなので、親しげな雰囲気に疑問を抱いてレオンハルトが問いかける。

 

「確かにここ十年ほどはあまり王都には寄り付いていなかったけど、以前は頻繁に行き来してたのさ」

「直接探索の仲間には加わっていなかったが、私やハインリヒ卿がディル殿の呼びかけに応じた時、人脈を通じて仲間を募ってくれた事も有ったのだ」

「では私にとっても恩人ということになりますね。今の今まで知らずにいた事を恥ずかしく思います」

「気にしないでくれたまえ。顔見知りに少し声をかけただけの事さ。それより詰所の中に入ろう。毎年の事だから、この旅については鉱山局でも協力しているのだよ」

 

 そう言ってリップタイトは詰所に一行を招き入れ、中の設備を初めて訪れるレオンハルトに軽く説明しながら共に奥へと進む。途中でケインとラッドが従者に用意された部屋で待機することとなり、三人は会議室と思しき広い部屋へ入る。部屋には鉱山局の若い騎士が数人待っていた。

 

「ここ数日の山の様子を彼らに見てきてもらっていたのさ。じゃあ皆、天文局の騎士殿に説明して差し上げて」

 

 リップタイトに促されて、どうやら中では一番年長らしい騎士が進み出る。

 

「アルカナイチゲの様子ですが、例年とほぼ同じくやや高度の低い植生地ではまばらに咲き出しているようです。また雲もそれほど出てはいません」

「鉱山局の協力に感謝する。では、今年は予定通り高度が上の植生地まで登って確認するとしよう。リップタイト卿、十日たっても我々が戻らないようなら王都に連絡してくれ」

「承った。今回は見習い君も居ることだし気を付けるように」

「ああ、気遣いありがとう。ではレオンハルト、次は鍛冶師の下で荷物を受け取ってアルカナ山へ出立だ」

「かしこまりました。リップタイト卿、鉱山局の皆様、ありがとうございました」

 

 部屋に集まった騎士たちは互いに礼を交わし、レオンハルトとニールフェルトはケイン、ラッドと合流して目的の店のある街の最も北側の地区に足を向けた。




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