BND、最高でしたね!!!!!!!!
電車に揺られながら通知音を鳴らしたスマホを開く。先日のミレニアムで起こったゴブリン事件の後始末についてメッセージが届いていた。
幸い、僕を庇ってくれたユウカには後遺症がなく、もうセミナーの仕事に復帰しているらしい。本当、僕より強いな。ゴブリンの爆撃に遭った生徒たちも復学しているようで、爆破された箇所の工事も順調なようだ。
アビドスに着き対策委員会の部屋を開けたが、中にはアヤネだけが作業に没頭していて他の面々は見当たらなかった。
「あれ、みんなは?」
「皆さんは資金集めのために外出中です……あ、でもホシノ先輩は別件で用があるみたいですよ。」
「アヤネは一人で仕事かい?」
「えぇ、なにぶん整理すべき書類が多くて……。」
「そっか、じゃあ二人で柴関ラーメンでも食べに行く?みんなには内緒でさ。」
僕の提案にアヤネが目を丸くした。
「えっ、いいんですか……? まだ仕事も終わってませんし……。」
「何言ってるの、もうすぐお昼だよ? 一旦休憩して、美味しいものでも食べようよ。」
「そうでしたか……もうそんな時間に……うーん、分かりました。では、お言葉に甘えさせてもらいますね。」
僕とアヤネは荷物をまとめ、柴関ラーメンに向かった。
「アヤネは一年生なのによく頑張ってるよね、本当凄いと思うよ。」
「いえ、私なんて……皆さんが頑張って戦ってるんですから、これくらいはできないと。」
「今は苦しくても、アヤネが居るならアビドスの未来は明るいよ……なんて、無責任なこと言っちゃうけど。」
のれんをくぐり、柴大将のいつもの顔を見ながら笑顔で挨拶をする。
いつものように、柴関ラーメン一丁。アヤネも同じものを頼んだようだ。
「はいよ、柴関ラーメンおまち!」
「いっただっきま__」
「いただき……あれ、先生どうかしました……?」
_____スパイダーセンスが反応した。
「伏せてッ!!!」
アヤネを抱え、柴大将のいる厨房へ飛び入る。そのまま二人を抱き寄せ、無理やり床へ伏せさせた。
それと同時に、大きな爆発音と揺れが店全体に響き渡り__店は完全に崩壊した。
「げほっ……こいつぁ一体……。」
「爆発……? っ! 先生! 無事ですか!?」
二人の視線が僕に集まる。
無理もないだろう、何せ今の僕は『山積みになった瓦礫を全身で支えながら』二人を守っていたのだから……。
ちくしょう、重い。今まで何度も重いものを背負わされてきたけど……今回も中々辛いな。
「大将……早くアヤネを連れて……!」
「待ってください! このままじゃ先生が潰されて……」
必死に叫ぶアヤネに無理やり作った笑みを向けて、静かに頷く。
「……わかった、すぐ助けを呼ぶからな」
大将に連れられて行くアヤネを見送りながら、震える肉体に鞭を打って全力で踏ん張る。ああ、まだゴブリン戦での傷が癒えてないな……。
「踏ん張れ、頑張れピーター・パーカー……!」
オットーの研究所で瓦礫に埋もれた時を思い出す。あの時も潰されてしまいそうだったけど……そうだ、ベンおじさんやメイおばさんのことを考えて頑張ったんだ、例え傷付いていても、僕はこんなものでへこたれるような男じゃない!
「うぉぉおおおおおおおおおお!!!」
瓦礫の奥で雄叫びが轟く。少し離れた場所で柴大将に抑えられているアヤネは、その声が意味することを知りたくなかった。今すぐにでも瓦礫の山に突っ込んで、何もかもをかき分けて助け出したかった。
柴大将も、己が命をかけて救ってくれた恩人の意思を無駄にする訳には行かず、危険な場所へアヤネを行かせたくはなかった。
しかし、そんな2人の目に映ったのは予想だにしていなかった光景だった。
「……ギリギリセーフって、とこかな」
瓦礫の中から素早く飛び出し、屈みながら着地する男。直後に瓦礫の山が崩れて、轟音を鳴り響かせた。
「先生……!?」
荒く呼吸をする先生、いつものシャーレの制服は瓦礫の中に置いてきてしまったようで、真っ白なTシャツも所々が破けて『赤いスーツ』が見え隠れしている。
「やぁ……アヤネ、無事で何よりだよ」
「先生こそ……何があったんですか!? それに、その赤いスーツは……」
目を丸くしたピーターは自分のTシャツを引っ張り、破れていることを確認した。
「……流石に隠しきれないか」
「隠しきれないって……まさか」
アヤネの脳裏に浮かぶあの姿、最近キヴォトスを騒がせている正体不明の正義のヒーロー。赤いスーツに身を包み、糸を使って摩天楼を翔ぶ外の世界から来た人間。
「内緒だよ、スーパーヒーローは正体を隠すものだからさ」
ポケットから『マスク』を取り出し、シャツとズボンを脱いでマスクを被る。
「……僕がスパイダーマンだ」
アヤネと柴大将の目には、親愛なる隣人が映っていた。
……さて、「ヒーローは正体を隠すもの〜」なーんて言っちゃったけど、この世界に来てからもう……アヤネ達で7人目?か。いくらニューヨークより危険が多いといっても、迂闊に力を使ったらすぐ正体がバレてしまうな。
MJやメイおばさんみたいな親しい人が居ないとはいえ、もしスパイダーマンの正体が『先生』だと世間に明かされてしまったら……最悪シャーレは閉鎖になるし、連邦生徒会長との約束も果たせなくなってしまう。生徒もヴィランに狙われてしまうだろう。気を抜きすぎだぞスパイディ、ニューヨークに居た頃を思い出せ。
……あれ、僕って連邦生徒会長と面識あったっけ?
「大丈夫アヤネ!? 連絡があったからみんなで駆けつけたけど……」
セリカ、ノノミ、シロコの三人が到着した。爆発の正体は分からないけど、とりあえずアヤネ達の安全は確保できるだろう。
「ってスパイダーマン!? どうしてここに……なんか色薄いし所々破けてるけど大丈夫?」
セリカが面白いくらい驚いてくれる、そういえばヘルメット団から助けた以来だね。色が薄かったり破けてるのはまぁ……クリーニングに出す時間がなかっただけだよ。
「大丈夫大丈夫、それよりみんな警戒して。ここを爆破した犯人はまだ見つかってな__」
「あーあ、派手にやっちゃったねぇブルちゃん。木っ端微塵とは、さすが伝説の暗殺者!」
「おい、よせよ……俺だって不本意なんだぜ、今回に限ってはな」
悪寒が走る。声の主に目を向ければ、例の便利屋68の面々……そして憎たらしい『的』の刺青を額に入れたナンセンスな男、ブルズアイがこちらに向かって来ていた。
「あ、あれはアビドスと……スパイダーマン? どうしますか、爆破しますか?」
「げっ、スパイダーマンまで……どうする社長。傭兵はすぐに呼べるけど」
最悪のタイミングだ……あと少しで『新スーツ』ができるってのに、ボロボロのスーツとウェブシューターで戦えるか……?
「犯人はあなたたちってことでいいんですよね? 便利屋68」
怒気の籠った声でノノミが前へ出る。
「許さない」
「この店が何をしたっていうの! 目的は私たちなんでしょ!?」
続いてシロコ、セリカが並び立つ。アヤネは後方支援と大将の安全確保の為に退いて行った。
「……そ、そうよ! 私たちがやったの! これぞ冷酷なアウトロー、便利屋68のやり方よ!」
「あーあ、引くに引けなくなっちゃった」
真っ青な顔で腰に手を置くアル、苦笑しながらも銃を取り出すムツキ、バツが悪そうに目を逸らすブルズアイ。
思惑の詳細は分からないが、少なくとも敵対することには変わりない。となれば、選択肢は一つ。
「……僕を殺したいんだろ、ブルズアイ。ならかかって来な!」
近くの廃ビルにウェブを貼り付け、腕を引きながら飛び上がる。そのまま三階の窓を割りながらビルの中へと侵入した。
「引き離そうってか? ハン、俺は最初からテメェしか見てないさ……ガキ共の子守りなんざゴメンだからな」
マントを靡かせ、手品のように何も無いところからナイフを取り出しブルズアイも廃ビルへと向かう。
「ソイツらは任せたぜ、ボス。俺ァあの蜘蛛をぶっ殺す」
「ブルズアイさん、何度も言うけど殺しは……」
「はいはい、ただの比喩だっての。真に受けんじゃねぇ」
ひらひらと振り向かずに手を振り、廃ビルへと入るブルズアイ。殺しはしないだって? 冗談だろ、確実にアイツは僕を殺しに来る。
自動指揮機能A.U.T.O.を起動し、みんなの無線にAIの僕が指示を送る。アップデートで多少は改良されたとはいえ、意識すればところどころ機械感が残る。この辺りはもっと情報を集めてヴェリタスに提出する他ないかな。
「そろそろ幕引きと行こうぜ、スパイダー」
階段からブルズアイが現れる、手にはナイフが三本。そして周囲には凶器になる瓦礫が散らばっている。
「ああ、君を倒して終わらせるよ。無意味に延長したこの戦いをさ」
先手を取ったのはブルズアイ。ナイフを三本同時に放ち、それぞれが別々の急所を狙う。
ウェブシューターの発射口を抑えながらウェブを拡散させ、網のようにナイフを絡めとった。だが、ブルズアイは既に次の手を打っていた。
いつの間にか奴が手に取っていた瓦礫が天井を跳ね返り、ウェブの網を躱して僕の頭部に直撃した……!
「くそっ……デアデビルのレーダーセンスの方が有利かもなぁ!」
「あの悪魔の方がまだ歯応えがあるぜスパイダー、テメェもアイツも不殺ってトコが面白くねぇけどな」
ヤツが指で弾いたネジが壁を反射して僕に迫る。スパイダーセンスが間に合い、飛び上がることで何とか回避した。
スパイダーセンスがあっても、気付くのに遅れれば一撃食らってしまう。マットのような超感覚を持たない僕は、常に意識を張り詰めなければならなかった。
「前よりも動きが鈍くなってるな、休む間もないってヤツか?」
「あぁ、そうだよ。だからちょっと休憩しない?」
NOと言わんばかりにブルズアイは3枚のトランプを投げ付け、ウェブの網を切り裂きながら飛んでくる。
「それ、どんな素材使ってるわけ!?」
「企業秘密だ」
飛び上がり身体を捻らせ回避を試みるが、トランプが空中で軌道を変え、両足と左肩を切り裂いた。骨まで達していないのは救いだったが、傷口から安全とは言えない量の血が流れる。
飛び上がった時の空気の乱れで軌道が変わったのか? そこまで読んでヤツはトランプを投げたのか……いや、あの異常者の思考回路なんて分かるはずないな。
「ただでさえボロボロのスーツだってのに……後で弁償してよ!」
「ああ、テメェの葬儀代なら払ってやるよ」
次々と飛来するナイフやら瓦礫やらを避けたり弾きながら、徐々に後退し建物の隅へと追いやられる。閉所はヤツが活き活きするから嫌なんだよな、跳弾で有り得ない方向から狙ってくる。
スパイダーセンスが感知したモノから蹴り上げ、ウェブで絡め取り、打ち上げる。遂に背中に壁がぶつかった。
ま、誘い込んだのは僕の方だけどね。
「もっと飛び跳ねるか? スパイダー」
「そうしたいのは山々だけど、そろそろ決着つけないとだからさ」
両手首からウェブを発射、狙うのはブルズアイ……ではなく、その真上の天井。
「何っ……!?」
ブルズアイは見上げ、僕が何をしようとしているのか理解し糸に向けてナイフを投げた。だがもう遅い。
僕が弾いたナイフや瓦礫は脆い天井に何度も衝突し、ウェブで引っ張るだけで崩れるよう計算した。ビンゴ!
「くそっ!」
崩れる天井に巻き込まれ、下敷きになるブルズアイ。手抜き工事か何か知らないけど、ここのビルの材質は異様に脆くて軽い。とにかく、あれくらいなら下敷きになっても死にやしない。
まぁ、相応のダメージは伴うだろうけどね。
「……もしもし、みんな? 今はどんな戦況?」
ひと段落着いたところで、息を整えて無線に繋いで状況を確認する。A.U.T.Oがしっかり作動していれば大丈夫なはずだけど……。
『先生の指示通りに動いてるけど、コイツらなかなかしつこくて……!』
『ん、何とか拮抗してる』
「わかった、引き続き指揮は任せて」
そうか、今はホシノが居ないから戦力が……仕方ない、生徒同士の争いだけどちょっとだけ手を貸すか。
下敷きになったブルズアイの状態を確認するために、一応瓦礫をどかし始める。
「考えてみれば、ブルズアイなんてそこらのスーパーヴィランに比べればアリンコみたいなものじゃないか……何を手間取ってたんだ僕は」
僕は今までたくさんの、それはもうたくさんのヴィラン達と戦いを繰り広げてきた。今さらブルズアイで躓いてちゃ、ニューヨークに帰った時はボコボコにされちゃうよ。
「なら……そのアリンコに踏み潰されちまいな」
スパイダーセンスが反応した!
〈ピッ……ピッ……ピッ……〉
ぽーん、と目の前に投げ出された球体。
1度この目で見たことがある、ムツキ製の爆弾だ。
「ぐっ……!!」
至近距離で爆弾が炸裂し、僕の肌を焼きながら吹き飛ばす。
ビルの壁に背中を打ち付け、口から血液が漏れる。だいぶ食らった……!
だが、ブルズアイもあの距離では無事で済むことはないはずだ。
「……はァ……はァ……!」
肺にダメージが入ったのか、呼吸がし辛い。まったく、キヴォトス製の爆弾はどうなってるんだ……!
「……よぉ、お顔が丸見えだぜ……先生……」
その声と同時に飛んできたナイフを避ける。背後で窓ガラスが割れる音がした。
タフなヤツだ、もう立ち上がってる。流石にフラフラして至る所から血を流しているが……瓦礫を盾に使ってダメージを抑えたな? それとも投げる角度を調節していちばん被害の少ない投げ方をしたのか……いや、両方か。
「悪党に見せる顔は……ないんだけど……」
顔に触れる、確かにマスクの半分が破けていた。
だがブルズアイはもう興味がないかのように、先程割れたであろう僕の背後にある窓ガラスに視線を向けていた。
「……そろそろ、この因縁を終わらせるしか……ねぇな」
「同感……もう飽きたしね」
お互いに重いダメージを背負っているが……勝機はある。
全神経を集中させろ、ひとつでも間違えれば死に至る。スパイダーセンスだけじゃない、五感全てを活用するんだ!
「これで終いだ……!」
「歯を食いしばれよ……ブルズアイ!!」
五感もスパイダーセンスも冴え渡り、全てがスローモーションに映る。
隠し持っていた、恐らく最後の投擲物である三本のダーツの矢を左手で放ちながら駆け出すブルズアイ。
だがスパイダーセンスは背中に隠しているその右手に集中している、騙し討ちは効かない。瓦礫にウェブを放ち、横薙ぎに振るってダーツを弾く。刺さらなければ威力はどうってことない、投擲物は無くなった。後はヤツの右手だけに集中すれば……!
案の定、ヤツは隠していた右手、その手に持つナイフを振り翳してきた。いくら超人的な投擲能力を持っていようと、腕力や筋力は一般人と変わりない。その手首を掴み、強く握りしめてナイフを落とさせた。
それと同時に、スローモーションに見えていた世界は再び元のスピードを取り戻す。
「……最後は投擲じゃなくて……自分で刺しに来るとはね」
「決着はナイフで……って、決めてるんでな……」
ブルズアイのニヤケ面を見た瞬間、嫌な予感がした。
再び時間の流れが遅くなる。激しい頭痛、スパイダーセンスが警鐘を鳴らしている……。
何かが来る
僕は無意識に飛び上がり、
「……クソ」
スローになった世界の中で、ブルズアイの口から小さく悪態が漏れた。
次の瞬間、ブルズアイの腹部には一本のナイフが突き立っていた。
「まさか……」
……まさか、爆発後にヤツが放ったナイフがビルの外へ飛び出て……戻ってきた?
振り返れば、窓ガラスが割れていて数百m先に別の建物が見えた。あそこから反射してきたってことか……超人的とはいえ、ブルズアイはただの人間だったはずなんだけどな。ダーツの矢にでも噛まれた?
……とにかく、これでもうブルズアイは戦闘不能だ。刺さった位置的に即死は有り得ない。刺さっているナイフをウェブで固定し止血も済ませる。流石に意識は持たなかったか、変に暴れられるよりはいいけど。
「アロナ……救命ドローンを呼んでくれる? 急病人がひとり居てさ……」
『ぜんぜぇ!! ずっどじんばいしてだんですよぉ!!』
ノイズ混じりの無線機からアロナの泣き声が聞こえてくる。
「ごめんアロナ……近所のサンドイッチ屋さんが混んでて……」
『なんでわかりやすい嘘をつくんですかぁ!!』
「はは……あと、医療キットもお願い……傷は隠して行かなきゃね……」
『先生! 今すぐシッテムの箱と一緒に其方に向かわせますから、絶対に安静にしててください!!』
シッテムの箱は……あぁ、シャーレに置きっぱなしだったか。ずっと起動しておけばいいと思っていたけど……持ち歩かないとな。でもスーツには入らないし……どうしよ。
……一旦、休憩しよう。疲れた……。
VSブルズアイ、完
正体バレすぎじゃないですか?
ワイトもそう思います。アビドス編以降はあんま正体バレないと思うので!!どうか!!どうかご容赦を!!