原作:プロジェクトセカイ
タグ:クロスオーバー プロジェクトセカイ プロセカ ボーカロイド VOCALOID ボカロ ボーカロイド亜種 VOCALOID亜種 ボカロ亜種 宵崎奏 弱音ハク オリジナルセカイ
宵崎奏は困惑していた。『誰もいないセカイ』に行こうとスマホから『悔やむと書いてミライ』を再生しようとしたのだが、その下に、入れた覚えはないが、見たことのある曲が入っていたからだ。
「『Untitled?』?」
『悔やむと書いてミライ』も、本当の思いを見つけるまではタイトルが『Untitled』となっていた。そのため見覚え自体はあった。だが、何故『Untitled?』が新しく追加されているのだろうか?。そして、何故新しい方の『Untitled』には「?」がついているのだろうか。
「ミクに聞けばわかるかな?」
彼女に聞けばこの曲について教えてもらえるかも知れない。奏はそう考え、『Untitled?』を再生してみたい気持ちを抑え『悔やむと書いてミライ』を再生……
「あっ」
しようとして、うっかりすぐ下の『Untitled?』を再生してしまった。眩い光が画面から発せられ、思わず奏は目を瞑ってしまった。
「ここが、さっきの曲の『セカイ』?」
数秒ほど経ち、光が収まったので目を開けてみると、奏はいつの間にか駅のホームに立っていた。近くに建物らしいものは改札口横の小屋以外見えず、地平線が広がっているだけ。駅のホームには古びたベンチと、その隣りにある古びた自動販売機しかない。改札口を通り抜けようかと考えたが、キップもパスも持っているはずがない。誰もいないしコッソリ通り抜けても問題ない、という悪魔の囁きを両断して、一度自分の部屋に戻ろうと考える。そもそもここに来たのは事故のようなものなのだし、最悪もう一度『Untitled?』を再生すればいい。
「また来ればいいよね……」
奏がそう呟き、スマホの『Untitled?』を止めようとした時、
「ちょっと待った!!」
改札を飛び越え、白髪の女性がそう叫びながら奏に向かって全力疾走、そして奏の腕を掴む。
「え、え?」
「帰還しないで!!話し相手がぁ!!」
突然現れた女性に腕を掴まれ、奏は混乱しながらも考える。この白髪の女性は誰だろうか。彼女の声はミクの声にとても似ていたが、緑要素がどこにもなく、白髪赤目の女性だから初音ミクではないような気もする。だが、『誰もいないセカイ』のミクはグレーの髪だったし、白髪赤目のミクがいてもおかしくないだろう。そう結論づけて、奏は腕を掴んだままの女性に質問をする。
「もしかして、あなたがこのセカイの初音ミク?」
彼女はその言葉を聞いて、
「がふっ」
血を吐いて倒れた。
「え? ちょ、ちょっと!大丈夫ですか?」
「あはは、こんなマイナーな奴、まともな人はまず知らないですよね。あはははははは」
倒れたまま、壊れたおもちゃのように笑い声を上げる白髪の女性が不気味で仕方ない。
「えっと……ごめんなさい。お名前を教えて貰えませんか?」
「あはははははははは………っとゴメンゴメン、みっともない所見せちゃった。」
彼女はそう言うと立ち上がり、自虐的な笑みを浮かべてその名を口にする。
「私は弱音ハク。ここでお飾りのトップをやっている、ボーカロイド
「弱音ハク……?」
聞き慣れない名前に奏は困惑する。ボーカロイドについて詳しいわけではないが、自分の知る限り『弱音ハク』というボーカロイドは商品化されてないはずだ。
「そりゃそうよ。私はボーカロイドじゃなくて、ボーカロイド亜種よ。売られているわけないじゃない。だから私を初音ミクと言うのはやめて、恐れ多すぎるから。」
彼女は依然として自虐的な笑みを浮かべながら話を続ける。奏にベンチに座るように言い、自身は隣りの自動販売機の前に立つ。
「才能が、欲しいっ!!」
そんな掛け声とともに繰り出された彼女の蹴りが自販機に当たり、自販機が揺れる。その直後、ガコンガコン!と音がして、取り出し口に缶が2本落ちてきた。
「アイスココアとビールか。奏は未成年?」
「は、はい。あのハクさん、今のって……」
「ココアで良いかしら?」
「え、は、はい。その、ハクさん、今の……」
「いやー、偶然ココアとビールを買ったは良いけど持って行き忘れた人がいたなんてラッキーね。」
今の掛け声は何だったのかとか何で名前を知ってるんだとか今のは窃盗罪に当たるのではないだろうかとかそもそもここはどういうセカイなのかとか色々言いたかったが、奏はハクの圧力に負けて何も言えなかった。セカイだから法律の範囲外だ、だから問題ない。そう考えて奏はハクから貰ったココアのプルタブを開ける。数十秒ほど格闘し、ようやく開けて一口飲む。うん、美味しい。
7、8秒程で現実に戻ってきた奏は、このセカイについて尋ねることにした。
「ハクさん、聞きたいことがあるんですけど……。」
「呼び捨てでいいよ。それで、質問は? 答えられることなら何でも答える。」
「じゃあハク、このセカイがどのようなセカイなのか教えてくれない?」
奏の問いにハクは腕組みをしながら答える。
「うーん、見ての通りとしか言いようが無いんだけど。強いて言うなら『セカイを繋ぐセカイ』ってとこかしら。」
「セカイを繋ぐセカイ?」
「ええ。例えるなら『ゲームのワープポータル、但しバグでのみ侵入可能』って感じね。このセカイはこの駅に停まる電車に乗ることで、色んなセカイに行く事ができるの。本来このセカイに人は入ってこられないはずなのだけれど、偶に貴方みたいに迷い込む人が居る。その人達が電車に乗ってしまわぬようにするために、私
ここに来る電車の中には貴方のセカイ通じているものもあると思うよ、とハクはそう続けた。
「なんで電車に乗ってはいけないの?」
「セカイっていうのは、セカイを作った人の本当の想いが現れている場所。見ず知らずの人が踏み入っていい場所じゃあないでしょ?」
「あ、そうか。」
他人のセカイに入ることは即ち他人の心の内を知ること。自分の秘めた想いを見知らぬ人に知られるのは誰だって嫌だろう。
「だから基本的に電車に乗せてあげることはできない。ごめんなさい。」
「あ、いえ。説明ありがとうございます。」
「まあ貴方が乗れる電車、もうすぐ来るけどね。」
「えっ!?」
「乗ってみる?時間があるなら、乗って帰れるよ?」
ハクは笑みを浮かべて奏に尋ねる。
「さっきハクが『基本的に乗ってはいけない』って」
「大丈夫、もう時期来る電車は
時間に関しては問題ない。それに、こんなチャンスは二度と訪れないだろう。
「じゃあ、お願いします。運賃は……」
「運賃は貴方達の話よ。貴方が、貴方の仲間達が、どんな曲を作っているのか、貴方達のいるセカイはどんなとこなのか、色々教えて頂戴?」
ほら、ここってすごく暇だから。舌を出してあざとい笑みを浮かべつつ、そんなことをのたまうハク。すぐに顔を赤く染め俯いてしまった。どうやら今の自分の行動が恥ずかしいらしい。
「分かりました。私が話せる範囲で、皆のことについて話します。」
その言葉を言われるとハクは俯いていたのを辞め、目をキラキラとさせた。余程人の話を聞きたかったのか。
「やった、交渉成立ね!」
駅のホームで、電車が来るまでに色んな話をした。自分のこと。まふゆのこと。絵名のこと。瑞希のこと。セカイのこと。ミクのこと。リンのこと。レンのこと。ルカのこと。MEIKOのこと。KAITOのこと。曲のこと。MVのこと。視聴回数のこと。コメントのこと。そして、今現在直面している問題のこと。ハクも少しだけ話してくれた。他のVOCALOID亜種のこと。今までここに来たことがある人のこと。この世界で起きたちょっとした事件のこと。そして、弱音ハクのこと……つまりは自分のこと。話しても問題なさそうなことは全て話した。しかし、そんな楽しかった時間にも終わりが来る。電車が駅に到着した。
「さて、ここでお別れだね。これに乗れば帰れるわよ。」
「そっか。……ココアありがとう、ハク。」
「いえいえ。偶然取り忘れた人がいただけだから。」
自販機を蹴り飛ばしたことは認めない姿勢らしい。
「ま、もうここに来ることはないから会えなくなると思うけど。一応言っておくわ。貴方と話せて楽しかった。じゃあ、
「うん、またね。」
こうして
後日談。
「それにしても、弱音ハクと会ったなんてすごいよね!ボクも会いたかったな〜。」
「夢かなんかじゃないの?……って言いたいところだけど、この前ココアの空き缶を見せられたし奏が嘘ついてると思えないし……」
彼女の所属するサークル、『25時、ナイトコードで。』こと通称ニーゴのオフ会inファミレス。弱音ハクとの邂逅から一週間程経ち、オフ会では話題が弱音ハクについてになっていた。
「……弱音ハクって、誰なの?」
「まふゆは弱音ハクについて知らない?じゃあ、ボクが教えてしんぜよ〜う!」
どうやら朝比奈まふゆは弱音ハクについて知らないらしく、暁山瑞希が説明し始めた。
「ねえ奏、もしかして……少し寂しい?」
ぼんやりとしていた奏に絵名がそう尋ねる。
「う、うん。本来ならありえないはずのことだから会えないのが普通だと頭では分かってるけど。少し、寂しいかな。」
「奏……」
東雲絵名に内心を見透かされ、思いを吐露する奏。あの後電車に乗った奏はいつの間にか気を失っており、気付いたら片手に空き缶を持って「誰も居ないセカイ」にいたのだ。そして、『Untitled?』という名の曲は無く、データをいくら復元しようとしても戻らなかった。まるで最初から存在しなかったかのように。
「でもさ、きっとその出会いは、奏にいい影響も与えてくれたんじゃない?」
「……うん、そうだね。ハクと話して知ったことや感じたこと、曲に活かせると思う。」
「元気出てよかった。奏、頑張ろう!」
その後もしばらくオフ会は続き、彼女達は充実した時間を過ごしたのだった。
とあるセカイにて。白髪の女性のもとに、黄色い髪の女性が近づいてきた。
「お、ハク!何してたんだ、空なんか見上げちゃって。」
「……ネル、電車の運転はどうしたの?」
「シーエに任せた。」
ネルと呼ばれた黄色い髪の少女は腕を組み、胸を張って答えた。
「ごちゃごちゃうるせえ、アイツは特に文句言ってねえぞ、むしろ喜んでいた。で、何してたんだ?」
「ネルとシーエは後で説教コースだね。何をしていたって言われても、別に。」
彼女が目を向けた先には、ビールの空き缶があった。床に同じ缶がいくつも転がっているが、それだけは透明なケースの中に、宝物のように入れられていた。
ハクは笑みを浮かべ答える。
「ただ、少し前のことを思い返していただけだよ。」
読んでくださりありがとうございました。
評判よかったら他のユニットのキャラと他のボーカロイド亜種の組み合わせも書いてみようかな……