病弱幸薄少女はダンジョンに潜りたい   作:ぷに凝

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ダンジョン “ガイル邸”

この屋敷は、俺にとっての”檻“である。

 

屋敷内には、ガイルが肌身離さず持っているスイッチによって起動する俺の“封印機構”が張り巡らされ、屋敷内のどこにいたとしても行動不能にされる。

正面入り口。重々しい大理石の扉のロックは俺が触れれば電撃を流しトラップと化す。これもまた、俺に刻まれた“刻印”の効果によるものと推測される。

 

魔術は使える。ただし、使う素振りを見せた瞬間にガイルが封印機構を作動させることは想像に難くない。

そもそもここまで徹底した檻だ。俺が魔術を発動しようとすれば、即座に封印が発動するような仕掛けがあったとしても不思議じゃない。

 

まぁ試すけどな。

 

“火属性魔術” フレイムピラー。

 

───!!!

 

屋敷内に光が走り、俺の体から力が抜けた。

 

予想通りか。

 

「あらあら、何をやってるの?ルミネ」

 

……出たよ。

 

「嫌そうな顔ね。傷ついちゃうわ」

 

ほんの少しもそう思ってなさそうな声色で、実に嘘っぽい表情を作るババアが現れた。

 

一番の障害がこの女、ユダだ。

 

「全く、勝手に抜け出して……戻るわよ」

 

俺はユダに背負われ、自室へと連れ戻される。最近はこの繰り返しだ。

 

魔術を出せないという問題は解決したが、それ以上の厳しい縛りが掛けられた現状ではこいつの監視を潜り抜けるのは至難だ。

 

これは俺の予想だが、恐らくユダとゼノン、ロゴスの3人は願いを叶えるレジェンダリーアイテム“魔神の壺”を手に入れるために結成された臨時パーティだ。願いを叶えられる回数は3回。ちょうど三人で分けられるわけだからな。

 

だがユダは二人を騙していて、最初から依頼主のガイルとグルだった。そういうやり取りだったんだろう、アレは。

だとすればユダという女は、“魔神の壺”さえ手に入れることができればもうガイルと関わる必要はないはず。にも関わらずこの女はまだこの屋敷にいるし、ガイルに協力している。

 

“魔神の壺”をまだ受け取っていないのか?いや、だとすればユダはガイルを生かしておいてないだろう。

 

……こいつらは何故、俺を軟禁するのだろうか。

 

何が目的で、俺をここまで連れてきた?

 

……わからないな。わからないことだらけだ。

 

だが、どうせ碌でもない奴等だ。碌でもない理由だろう。知りたくもない。

 

何が碌でもないって、この女は仲間を簡単に切り捨てた。それが碌でもないのだ。

ゼノンやロゴスは、恐らく曲がりなりにもユダを信頼していただろう。それが友情かどうかはともかく、仕事仲間としては信頼を置いて、背中を預けていた。

 

それを後ろから容易に襲いかかることができるコイツは一切信用できない。

 

利益や目的のためなら、他人を犠牲にすることを一切躊躇わない。それが奴らなのだ。

 

(……俺も似たようなもんか)

 

だが、ある意味でそれは俺も同じだった。

 

俺はダンジョン内に取り残され、生死不明の状態だったラングルディア氏を放置してダンジョン探索を楽しんでいた。その危険な道中にヒノエを巻き込んだりしたし、周囲にかける迷惑なんて一切考えなかった。

 

それは俺自身が、人命よりも自分の欲求を優先するような異常者に過ぎないからだ。

 

今のこの状態は、俺に対する罰でもあるのだろう。

 

自覚したとて、それを直す気にもなれないのが俺の救えない所だ。

 

前世はPCの画面の向こうにだけ真実があり、それ以外の全ての雑音はシャットアウトされていた。

別に現実が嫌だったわけじゃない。ただ興味がなかっただけ。

 

俺に対して一切興味を抱かない現実に、俺も興味がなかっただけだ。

 

寂しくはなかったが、退屈ではあった。だからゲームにのめり込んだ。ダンジョンにのめり込んだ。

顔も名前もわからない相手との交流ほど気の休まるものはない。全ての人間が仮面を被って、偽名を使って生活していれば、俺の人生ももっと豊かになっただろう。

 

この女みたいに、クズばかりの世界であればどれほど良かったことか。

 

だが残念なことに、俺が中途半端に……本当〜〜〜に中途半端に人を助けるような真似をしてしまったせいで、俺が傷つくだけで悲しむような子が近くに出来てしまった。

 

クズがクズを突き通せなかったのだ。

 

クズにもなれず、かと言って善人にもなれなかった俺という半端者は、ここで一生飼い殺しにされて生を終えるのがお似合いだろうか。

せっかく“LoD”の世界なのに、まだ殆どダンジョンに潜ってないしなぁ。

 

……。

 

なんかムカついてきたな。

 

よく考えれば、なんで俺がこんな奴らに閉じ込められて落ち込まなきゃならないんだ? 俺がクズだろうがなんだろうが、そんなの今更だろう。

そもそも俺よりこいつらの方が遥かにクズなんだからよく考えれば落ち込む必要なかったな。うん、深く考え過ぎた。

 

俺のやることはこの屋敷から脱出することなのは変わらないんだから。

 

……だが一つわかったことがある。

 

俺もユダもクズであるということ。即ち、思考回路が似ているということだ。同じ魔術師タイプでもあるし。

とすれば、俺が考えつきそうなこの屋敷の突破手段は大体潰されてると考えていいかな。隙をついてガイルを殺して屋敷を機能停止させる、みたいな。

 

俺だったらこの屋敷に俺を閉じ込めておくなら、まず真っ先に魔術を警戒する。ユダも同じように考えたからこそ、俺の魔術を封じる策を持っていた。しかしそれが破られたのは、ユダにとっても予想外だったはずだ。

 

だとすればその予想外……誤算の分、俺がこの屋敷から脱出する手がかりはあるのではないだろうか。

例えば俺は魔術を使えない前提で設計していた壁や扉が、破壊可能になってしまった、とか。

 

俺は周囲をぐるりと見渡した。

 

一番に思いつくのは、壁に走っているあの模様を破壊することだな。よく見ればあの模様は、俺の体に刻まれているものとよく似ている。二つの模様は連動していると考えていいんじゃないか?

だとすれば、どちらか片方の模様を原型がなくなるまで破壊すればその効果は消える……という可能性は高い。

 

だけどそれは現状、現実的じゃないな。壁を破壊するどころか、魔術を使った瞬間に俺は無力化されるだろう。

それに、あまりこの屋敷から脱出しようという意思を強く見せすぎると、常時封印機構が作動し続けるという最悪の事態を招く可能性も高い。

 

しばらくは大人しく過ごして、屋敷の構造の諸々を把握してから本格的に動いた方がいいな。

 

他に思いつくところで言うと……。

 

「ねー、昨日配信されてたあのボスモンスター戦さー……」

「あー、あれでしょ!めっちゃでかい巨人のやつ!!えっ、超怖かったんだけど!」

「わかる〜!!」

 

彼女達、この屋敷の“メイド”達だろうか。

 

彼女達は俺と同じくメイド服を着用しており、屋敷の掃除や料理といった家事を担っている。

最初に着替えさせられた時、なんでメイド服なのかと思ったがここはどうやらそういう場所らしい。

 

そして彼女達は、屋敷の主人であるガイルがいる時は従者然としていて静かだが逆にそうじゃない時は非常に和気藹々としている。

どうやら、奴隷のような扱いを受けているわけではないらしい。彼女達の表情は明るい。

 

……だとすれば、俺の事情を話せば脱出を手伝ってくれる可能性もありそうだ。

 

そして、もう一つ。

 

「……」

 

あり得ない。というか俺自身もそんなことやりたくないのだが。

 

この女、ユダを味方につけることができれば……脱出は容易だろう。

 

「……」

 

……マジで気が進まねぇなぁ。

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