何の変哲もない平日の午後。
俺はクラスメート達が体術の訓練に勤しむのをグラウンドの端のベンチでぼーっと眺めていた。
実は最近、業界から干されている。1級なのに任務が全然回ってこない。
繁忙期が過ぎ去ったのは確かだろうが、それにしても人手不足に変わりは無いはず。上は一体何を考えているのだろうか。
まあ最近と言ってもまだ1週間くらいなんだけど。ワーカホリックだなこれ。
あれから”声”も聞こえない。正体についても一向にわからない。
生得領域を訪れた時の状況を再現しようと
初回ログイン限定、というよりはそもそも上手いこと死にきれない。反転術式に慣れてきたせいで、瀕死状態になるとほとんど無意識的に治療を始めてしまう。
これは死ぬ覚悟が足りないということだ。そもそも俺は死にたくないんだから頑張って死のうとしても上手く行かないのは当たり前な話だが。
ちなみに脳を物理的に破壊するのはまだ試してない。流石にハイリスク過ぎるからやるつもりもない。
もう今では”声”については諦め、開き直って反転術式治療のスキルアップに勤しむことにしている。
夏油傑関連の続報もなし。
何でも例のデータのプロテクトを解くのに苦労したらしい。ようやく解析、調査に乗り出せるというとこ。俺は約束通り蚊帳の外だからどうでもいいけど。
ということで珍しく結構暇だ。
仕方がないからこうして延々と影を弄って色々試している。
術式反転『影返し』。これは俺の影に実体を与えて広げる術。
平面で広げれば影が影を作り、作られた影は順転で影空間を作り出す対象にもなる。縛りとして最初の起点となった影を動かさないことで呪力消費が格段に下がるようになっている。
ここからが肝だ。実体化した影は俺が持続的に呪力を供給することで維持しているが、最初にある程度纏まった量を与えることで、本体から切り離しても暫くの間実体を維持するようになる。そしてその際の効率が少しおかしいのだ。
少量を持続的に与えるよりも、最初に多くの呪力を与えて切り離した方が同じ呪力量でも遥かに長く維持される。これは不動の縛りとは関係ない。
つまり影を維持するという目的ではなく、影という器に呪力が多く集まることが却って呪力を霧散しにくくしている。これは呪力の澱みによって呪霊が生まれることや、モノに呪力を多く込めることで呪物が生まれることがあるのとどこか似ている。
そしてこの原理を使って生み出された術がアレ。
「ワォンッ!」
「くっ、コイツ見た目の割に滅茶苦茶すばしっこいッ!」
真依が黒い大型犬を相手に徒手空拳を繰り出しているが、上手いこと躱されている。
別に銃使ってもいいんだけど、最近空手にはまってんのか?外付け呪力のお陰で身体強化もまあまあだし悪くはないが。
とまあこの通り、念願の影を媒体とした式神術というわけだ。
だが十種影法術と違って中身は用意されていないから全て自前。あの犬は前に俺が真依に譲った式神符の術式を少し弄って刻んでいる。設計図は全て俺の頭の中だから呪力があれば使い放題ではある。
自分の一部なだけあって符なんかよりも媒体としての質が高く、何より呪力を受けられる容量が滅茶苦茶大きい。かなり呪力を持っていかれるが全体的な性能は完全に上。
今出している式神は2級呪霊くらいの力はあるだろう。
ただ三輪には普通に壊された。彼女もいい感じに実力を上げてきている。
「ちょっ、また囲まれた!多対一はひきょうですって!刀は一本しかないんですよーー!!」
まあ三体も出したら対処できなくなるんだけどな。あれじゃ準2級がいいとこ、先はまだまだ長い。
そしてメカ丸の相手にはならなかった。術師の等級も思っていたより正確なようだ。
4体の式神を大祓砲で纏めて焼き払ったメカ丸が暇そうにこちらに歩いてくる。
「やっぱ出力すげーな。遠隔なのに」
「そっちこソ、2級相当の式神を複数出せるとはそれだけで中々の脅威ダ。一体何体だせるんダ?」
「あの『黒犬』なら全快状態でマックス16体。込めた呪力と刻んだ術式の性能次第だからまちまちだ」
「マジでカ」
ただいずれの式神も事前命令での自律行動しかできない。言葉や手印と紐づけた呪力パターンで幾つか行動パターンは組んであるが、基本的に追加命令を与えるためには自分の影と接続しないといけない。アレには確かな知性があるわけじゃないからな。
そして知性に乏しいのも問題だが、一番ネックなのは呪力の自己補完、或いは遠隔による補給が出来ないことだ。与えられた呪力をバランス良く使うように半端な出力しか出せない。ガス欠になれば消滅だ。
この辺十種の式神とかはすごい。自前の呪力を持って自己補完能も完備しているらしい。一体どういう仕組だろうか。
自爆でもさせられればまだ使いようもあるが、全開でもそこまで有効な威力が出るほどの出力はない。術師相手であれば爆弾咥えさせればいけるかもな。
まあ強敵との戦闘で使えるかというと総じて微妙。
何かの縛りで強化してもいいが、術自体がまだ実験段階なので時期尚早。
とにかく一番の理想にはまだまだ程遠い出来だ。
そうやって俺が式神の構想に思いを馳せていると。
どこからか、ため息のようなものが聞こえた。
「…すごいなお前ハ。術師としてどんどん強くなル。だが、なんでそこまで頑張れるんダ?」
「呪いを祓うために必要だからだ。ただ呪術を練り上げること自体が嫌いじゃないのもある。…純粋に強くなりたいという欲も」
「欲…、そういうものカ」
メカ丸はそう言って腰を下ろし、女子たちの奮闘を眺め始めた。
無機質な鉄の体。これはただの端末に過ぎないが、メカ丸の意思はここにある。
静寂に包まれていると、偶にこうして彼の秘めた憂鬱が意図せず伝わってくる。
俺には想像することしか出来ない。まともに動けないままずっと暗い部屋の中で、傀儡の目を通して外の風景をまるで映画鑑賞するように眺める人生。
反転術式を習得して、呪力の核心に触れて少しだけ理解した。人は何か絶対的なモノによって、かくあるべしと定められている。
それはある意味で縛り。メカ丸だけではなく、誰もがその何かによって縛られている。
人と世界を形作る何か。物質を縛り付ける因果、運命、或いは魂…。もしそんなモノがあるのなら、それを変えることが出来れば全てを変えられるのだろう。
多分それは人の領分を超えている。だが呪力には、人の意思には可能性がある。
彼が何もかもを諦めるにはまだ早いだろう。
「あっ、いたいた。あそこよ」
覚えのある女性の声が聞こえた。我らが歌姫先生だ。
いつの間にかいなくなって授業放棄でもするのかと思ったら、どうやら来客の対応に行っていたらしい。
訓練の類は大体俺が取り仕切ってるからいてもいなくてもあんまし変わらないのが悲しい。いやでもいるだけで意味あるから大丈夫ですよ。
客人は、高専生じゃない。しかし術師だ。多分中学生。
どことなく顔立ちが俺や真依に似ているそのウニ頭の男子生徒は、ツカツカと俺の元に向かってきて、何故か一礼した。
「ども。伏黒恵って言います。今日はお世話になります」
「…?ご丁寧にどうも、禪院陽明です」
「………?………!!ちょっとすみません!」
伏黒と名乗る少年は俺が状況を全く理解していないのを察したのか、ものすごい形相で駆け出して、声が届かない遠くの方で電話を取り出した。
その姿を見て俺も何となく察してしまった。
確か前に面倒見てる子供がいるって言ってたな。機会があれば色々教えてやって欲しいとも。都合お構いなしで機会をぶち込んでくるとは思わなかったが。
少し時間が経つ。
伏黒がスマホを持ったまままた俺の方に近づいてきた。平静を装っているつもりのようだが、額にわかりやすく青筋が浮かんでいる。
「…すいません、こっちの不手際です。申し訳ないんですけど電話の相手と話して貰えますか?この状況の説明するんで」
「ああうん…。色々大変そうだなオイ」
「…陽明、話し終わったら切らずに渡しなさい。文句言ってやるわ」
まあ現場で判断せずに上司にすぐ連絡相談する姿勢は中々いいと思うよ。
別に必要ないとも思うけど。
電話を受け取ると、予想通りの声が聞こえてきた。
『あっ、陽明?僕だよ、僕僕』
「ボクボク詐欺ですか?微妙に新しいですね」
『いやーゴメンね?後で連絡しようと思って忘れてたんだけど、ちょっとウチの恵の面倒見て欲しいんだよね。ほら前に話した禪院筋の十種影法術の』
「覚えてます。別に構いませんよ、最近暇だし」
『あ、やっぱ暇なんだ。まあ僕も最近はそこそこ暇だからそもそも案件が少ないんでしょ』
「3日くらいでいいですか?半日じゃ何も出来ませんし」
『そっちの都合が良ければいつまででもいいよ。んじゃ、ヨロシク』
ツーツー、と通話が切れた音がする。歌姫先生が早速自分の電話を取り出した。
俺はスマホを伏黒に返して小さくため息をついた。ちょっと前に俺自身似たような目にあったばかりだ。
忘れていたとは言うが、そもそもアポイントメントが必要だと思っていない可能性がある。自分がわざわざ連絡しなくてもその場で何とかなると思ってるから。多分友達とか親戚の家に遊びに行かせるような感覚なのかもしれない。しかし友達や親戚相手でも一応連絡は要るだろ。
もし俺が何かの用事で不在だったら可哀想な伏黒くんは東京くんだりから来てUターン直帰orいつまでも待ちぼうけだったわけだが。
「もしかして今何かストレスのテストとか受けてたりする?こう、どの程度の精神負荷まで耐えられるかみたいな」
「んなわけないでしょ…。あの人がテキトー過ぎるだけです。ていうか3日も?」
「もうすぐ交流戦だから何ならそこまでいていいぜ。寮の部屋も空いてる。向こうの奴らと一緒に帰れよ」
「…あと2週間も先ですよ。俺も一応学校とかあるんですけど」
「学校とかサボればいいじゃん。友達がどうこういうタマじゃねーだろ?」
「いやアンタに何がわかるんですか…」
伏黒が何か不満そうだけど無視する。何となく俺に似て友達いなさそうとか思っただけだ。
ともかく、コイツは十種影法術、俺の影のほぼ完全上位互換の持ち主だ。上手く鍛え上げれば特級に差し迫るポテンシャルがある。
一応暇だとは言ったが実際そんなに暇ではない。やるべきことは沢山ある。
だが種蒔きは必要だ。一緒に面倒を見てやろう。
俺たちはグラウンドの方に近づいていった。
「でもホントに良かったんですか?こんな突然押しかけてきた見ず知らずの中坊の面倒見ろだなんて、普通かったるいと思うんですけど」
「是非もない。後進を育てるのも呪術師の務めだ。お前が一人前になればその分俺が楽できる」
「そっすか…」
多分一人前の基準はお前が想像してるよりも高いがな。寧ろ君の方こそ覚悟できてるんですかって感じ。
ふと伏黒が真依や三輪が相手している式神に目を向けた。
「アレって…」
「俺の影だ。五条さんがお前を俺に頼んだ理由は、恐らく影を使う似たような術式を持ってるからだろう」
「へぇ…」
伏黒が興味深そうに呟く。
血縁でも無い限り同系統の術式持ちに会う可能性は低い。まあ学校のプールに1滴垂らして薄めたくらいの血の繋がりはあるんだが、もうそれって水と変わりないよな。
確かに同じような能力の術師の戦闘スタイルを知ることはいい勉強になるだろう。
基礎能力が近ければの話だが。
こうして軽く話しながら、俺は伏黒の体を横目で観察していた。
見ただけでわかる。まだ中学生とはいえ余りに貧弱だ。初対面の時の三輪と同レベル。…いやそれは流石に言い過ぎか?
五条悟が面倒を見ているといっても彼は多忙の身、ある程度基礎は教えて貰っているだろうが自発的な訓練はほとんどしていないに違いない。
本体がこの有様では式神を自在に使えたところでたかが知れてる。
最高の素材なだけに非常に勿体ない。きっと禪院で育っていたら次期当主筆頭から蹴落とされた直哉によって日常的に嫌がらせを受けていたことだろう。
「一つ聞きたいんだが、お前には呪術師として為すべきこと…つまりモチベーションはあるか?忖度はしなくていい。無いなら無いで」
「…最初は無理矢理だったけど、最近、何となく出来ました。言わなきゃダメすか?」
「いや、別にいい」
だったら、道を示しさえすれば頑張れるな。
取り敢えず全てはこの貧弱な体を鍛え上げるところからだ。術式を当てにして頼まれたんだろうけど、もう術式とかどうでもいいだろ。コイツはまだそういう次元にない。
「じゃ、早速始めようか。まずは組手だ。準備しろ」
必要性と可能性が、五条悟相手では遠すぎて実感できないだろう。
そういう意味では、彼は呪術を教えるのに向いていないのかもしれない。
犬達の相手をしていた真依と三輪も、陽明が何かをし始めたことに気付いた。
今、式神たちは相対する術師からの敵対行動に応じて戦闘行動を取るように設定されている。従って手を休めた術師に襲いかかってくるような危険性はなかった。
「アレって、もしかして伏黒くんかしら」
「伏黒?知り合い?」
「結構昔なんだけど、一度だけ家に来たことがあるのよ。私のこと覚えてるかしら」
「へぇー。今から陽明くんと組み手でもするのかな」
「骨とか折ったりしなきゃいいけど…」
「ああ見えて手加減だけは上手いから大丈夫ですよ。まあ多分心は折るけどね」
「……」
真依は彼女のことを真面目に心配し始めた。
伏黒恵にとって五条悟は恩人という立場だ。蒸発した碌でなしの父親に禪院家に売られるところだったのを救って貰った。高専からの資金援助を通し、自身が後見人となる条件として将来呪術師になることを約束させられはしたが、大切な義姉の面倒もみてくれるということだったから従った。一応、恩人である彼の言うことはなるべく聞くようにしていた。
少し前、その五条に京都で”勉強”してこいと言われた。
基本的に放任主義の五条から、任務関係以外でそういう提案、もとい指示があることは結構珍しいということもあり、否とは言わなかった。
全く無かった呪術師として生きるモチベーションも、
まあ先方に全く何も情報が伝わっていないとは流石に考えていなかったが。
(マジであり得ねぇ…。普通忘れるか?一体頭ん中どういう構造してんだ)
なるべくイラつきを顔に出さないように努めはしたが、普通にバレているだろう。
そして件の術師がまた五条悟に似ている。見た目もさる事ながら、空気というか雰囲気が。
多分悪い人間ではないだろうが、既にデリカシーのなさが見え隠れしており嫌な予感しかしない。
しかし一応予定通り”勉強”とやらは見てもらえることになった。
そもそも1日だけの予定だったのに2週間とか言ってることには目を瞑ろう。流石に社交辞令とか冗談の類のはずだ。
呪術の勉強ということで動きやすい格好はしている。
いきなり組み手を始めるといわれたときは少し驚きもしたが問題ない。
相手は高専1年にして1級術師になった天才らしい。まず敵わないが、胸を借りるつもりでいこう。
「組み手とは言ったけど、お前の体術を見たいだけだ。得物はいるか?俺は素手だが、お前は何でも使っていい。剣とか槍の類はある」
「…じゃあ剣で、って真剣ではないですよね?」
「どっちでもいいが…それじゃこれ使え」
陽明はそう言って自分の影に手を突っ込み、鞘から柄から漆黒の刀を取り出した。
影から?
「なんですか今の」
「何って、なにが?」
「いや影に手を突っ込んで刀出して…」
「…?お前も出来るだろ?取説にも書いてるし」
「……俺が見たことあるのは五条家に伝わってる文献だけです」
「あ、なるほど」
ドラえもんの四次元ポケットみたいだ。十種影法術にそんな便利機能があるなんて知らなかった。学校行くのに鞄とかいらないではないか。
伏黒は投げ渡された刀を受け取り、少し眺める。
鞘から黒い刀身を抜いて少しだけ指に当ててみた。切れた。痛かった。
「真剣なんすけど」
「何か問題が?」
「…別に、そっちがいいならいいっす」
相手が格上であることはわかっている。殺す気でいかなければ文字通り刃が立たないだろう。
優れた身体強化術の使い手の肌は鉄より硬くなるのだから。
対する陽明は両手を下ろした自然体。
「はい、どっからでもどーぞ」
「(舐めやがって)…いきますよ」
やはり人の神経を滑らかに逆撫でしてくる。あまり好きになれそうにない。
逆に遠慮なく斬りかかれるように気を遣っているのか。それは考えすぎか。
伏黒は上段に刀を構え、相手を見据えた。
想像していたほどの威圧感は無い。
ここに来て迷いが生じる。
刀相手に無手とは、身体強化術、とりわけ硬さに自信があるのだろうが、万が一ということもある。
一撃入れても浅ければ恐らく致命的にならない部分……肩関節。
彼は勢いよく踏み込み、狙った部位に刀を叩き込んだ。
ゴリッ!
「え”?」
鈍い、骨を砕くような嫌な音がした。気持ちの悪い手応えも。
刀がめり込んでいる。陽明の左肩の半ばまで。
彼は微動だにせず攻撃を受けていた。
(いや普通に食らうのかよ!それなら少しは避けるとかしろよ!!意味わかんねぇ!コイツ頭おかしいのか!?)
まさかまともに呪力強化していないのか。
伏黒は動揺を隠せずに一端刀を引き抜こうとするが、出来なかった。
陽明が右手で刀身を掴んで止めている。
一瞬だけ呆気にとられ、間髪入れずに腹に衝撃が走った。
「がはッ!」
蹴りで十メートルほどふっ飛ばされる。
伏黒はうめき声を上げ、痛む腹を抑えながらゆっくり上体を起こした。
陽明がめり込んだ刀を引き抜き、伏黒の目の前へ放って寄越したかと思えば、刀は鞘と共に影に溶けて消えた。
そして彼の深く抉れた肩口の肉が盛り上がりみるみる修復されていく。
「は、反転、術式…!?」
傷口が塞がり、肩をぐるぐる回して調子を確かめる。全く問題はなさそうだ。
陽明は小さくため息をついた。
「お前が遠慮なく急所狙ってくるようだったらちゃんと相手してやろうかとも思ったが…。なんか色々ダメだ」
「…ゴホッ、何、が」
伏黒が呻きながら問う。
陽明は再び影の中から呪哭刀を取り出し、肩に担いだ。
「まず目が悪い。相手の力量が見えてない。確かに基本的に強いやつは普段から纏っている呪力も多いが、中には油断を誘うために隠す奴もいる。端っから俺を侮ったな。呪力がマトモに籠もってなかったぞ」
(斬らないようにしてたんだよッ!あとテメェがノーガードで斬られるのは俺が油断することと関係ないだろうが!)
理不尽理論を叩きつけられて歯を食いしばる。
どう考えても斬られたかったようにしか見えない。
反転術式が使えるようになると頭のネジも外れてしまうのだろうか、と伏黒は戦慄した。
陽明はそんな彼の心の叫びを見透かしてため息をついた。
呪哭刀に先程と同等の量の呪力を乗せ、自分の左腕を勢いよく斬りつける。
しかし今度は刃が皮膚を裂くことはなかった。
刀に乗っていたのは雀の涙ほどの呪力で、根本的に威力不足。本来のレベルの防御を貫いてダメージを与えられる最低量にも達していなかった。それが見誤ったということだ。
なおわざわざ斬られたのはただ治療の練習がしたかったからなので完全に自分の都合である。
「まあ取り敢えずそれはいい。だが大前提として、真剣握ってる癖に敵を殺す気がないのがダメだ。強いとか弱いとか以前の問題。そのつもりがねーなら端っから握んじゃねぇよボケ。ひのきの棒でも持っとけ」
「あ、アンタが渡したんだろうが、しかもマジで殺せとか無茶苦茶言ってんじゃねぇよ…!」
「うっせぇ受け取ったのは自分だろうが、人のせいにすんな。そもそもお前が刀寄越せっつった理由は大方無手での戦闘に自信がなかったってとこだろ。格上相手に一矢報いようとする姿勢はいいが、やるならちゃんとやれ。真剣は殺すための道具だということを脳髄に刻んどけ」
「うっ…」
「素手では戦えないし武器を持つ覚悟もない、だから結局式神頼み。だが十種影法術の式神は一度壊れたら復活しねーんだ。式神の足引っ張るだけの術師なんて要らないんだよ」
「くっ…」
「それと、やっぱ思った通りペラッペラだったな。そんな紙装甲で大丈夫かよ。呪詛師が銃火器持ち出してきたら速攻詰むぞ?術師たるもの普通の銃弾くらいはボディで受けられるようにならないとな」
「ぐっ、この…!さっきからマジで好き放題言いやがって…!」
矢継ぎ早にダメ出しされて本当に腹が立ってきた。
しかし正論…?正論なのかこれは。頭がおかしいとしか思えない自分が間違っているのだろうか。
素で銃弾耐えるなんて1級レベル以上じゃないと無理だろう。コイツは自分の基準で物を言っているだけだ。
「とにかく非力紙装甲のお前が目指すべきことは式神を上手く操ることじゃない。まず第一にフィジカル、第二、第三にフィジカルだ。…フィジカルは全てにおいて優先する、今からその真理を徹底的に体に叩き込んでやる」
勝手なことを好き放題言われ、しかし気づけばゴクリと生唾を飲み込んでいた。
さっきとは違うこの威圧感。蛇に睨まれた蛙のような心地だった。
見物していたギャラリーの声が聞こえてくる。
「うわぁ…わざわざ制服ダメにして、もったいな…」
「あの無意味な自傷行為ももはや見慣れてきたナ」
「なんかそれっぽいこと言ってるけど根本的に脳筋なだけよねアレ」
同級生は皆彼のことをヤベー奴扱いしていながら、それを日常風景として受け入れていた。何故自傷行為なんてものを見慣れているのか。制服とか今どうでも良くないか。
もしかしたら自分はとんでもないところに来てしまったのではないか。
伏黒恵はそう考えずにはいられなかった。
呪術世界のフィジカル、もとい身体強化術は攻守速のパラメータ全部伸びるので最も重要なのは確定的に明らか
最近の描写からして術師が強ければ式神も強くなるっぽいし