京都高専の学生の多くは東京寮と同じように学生寮に入寮しており、男子寮と女子寮で分けられている。
風呂シャワー・トイレ別の1K個室が基本で、それぞれ共用の談話室、食堂などが備えられている。窓の寮母が常駐しており、事前申請で賄いも用意して貰える。
またそれらとは別に職員寮や来客用の宿舎もあり、有料ではあるが来客用宿舎に併設された食堂の質は高いとの評判がある。利用客も多く、来客用というよりも職員食堂という位置づけになっている。
加茂憲紀も男子寮に入居している学生の一人。
だが彼が学生寮の賄いを利用することはない。朝の男子寮の共用スペースには東堂がいるからだ。
加茂にとって東堂葵という男は多くのストレスの元凶だった。
度重なる授業の無断欠席に始まり、無意味な暴力行為、公共物破壊、公然猥褻(上半裸)、高田ちゃんの押し売りなど、歩く公害と言うべき所業の数々は規律を重んじる加茂の気分を害して余りあるものだ。
また授業など碌に聞いておらず全然勉強していないのに何故か座学の成績が良いことも、真面目に先生の話を聞いてノートを取っている優等生の加茂にとって疎ましいことこの上なかった。
更に腹立たしいのは、御三家の期待の星、禪院陽明に常日頃からちょっかいを出し、彼に悪影響を与えているということだ。
陽明が自分のことを加茂と呼び捨てしてタメ口をきき始めたこととも恐らく東堂と何かしら関係があるはず。少しずつ違和感が増え、いつの間にか口調が完全に切り替わっていたことに気付いた時は驚愕したものだ。
そして先月辺りからやたら素行不良が目立つ。東京校でも迷惑行為を働いたらしいという情報が届いている。彼はこれまで東堂を邪険にしていた様子だったのに、最近はそうでもなくなってきている気がする。何か因果関係がありそう。ギルティだ。
彼がこのまま東堂道に堕ちてしまうようなことがあれば呪術界にとって大きな痛手となるだろう。
「由々しき事態だ。一体どうしたものか…」
加茂は朝っぱらからそんな馬鹿げたことを真面目に考えながら職員食堂へ向かっていた。もしかしたら少し寝ぼけているのかもしれない。
加茂家の坊っちゃんである彼は自分で家事をすることなどほとんどなく、料理もまた同様だ。嫡男として迎えられる前は母親の家事手伝いなどもしていたが、人間必要に迫られていない面倒なことはやらなくなるものである。
食堂にたどり着き、食券を買ってカウンターに出す。モーニングセットB(洋食)、ホットコーヒー付き。
手早く用意された食事のトレイを持って席を探していると、何故ここにいるのか、意外な顔を見つけた。
「おはよう伏黒君。ここ、座ってもいいかな?」
「…ッス。どうぞ」
「ありがとう」
4人席、味噌汁を啜っていた伏黒の対面に加茂が座る。
伏黒は内心非常に面倒だと思っていたが、何とか表情に出さないように努めた。
御三家繋がりで面識がある二人。加茂は伏黒もまた有望な禪院の血筋であるとしてその将来を期待していたが、伏黒の方は自分が禪院である自覚が無いこともあり、その仲間意識を煙たく思っていた。
(別に悪い人ではないんだけどな…)
悲しいかな、呪術師や家の役割、立場に縛られることを嫌う彼にとって、加茂はドンピシャで苦手な類の人間なのである。自分を禪院の一員として捉えているのがまず鬱陶しい。何とか認識を改めて欲しい。
「また会えて嬉しいよ。しかし今回は一体どんな用事でここに?こんな朝早くからいるということはもしかして宿舎に泊まっているのか?」
「…ええまあちょっと、五条さんの指示で」
「五条悟は一緒じゃないのか。もしかして来年京都校に入学するための下見とか体験入学…」
「ないです。絶対」
「そうか…」
でもそんなに強く否定しなくても良くないか、と加茂は内心落胆した。
彼も伏黒に鬱陶しく思われていることには何となく気付いていたりするのだ。
「……」
一方の伏黒としては冗談ではなかった。東堂という術師の頭がおかしいという噂は風の便りで少しだけ耳にしていたが、流石にあの禪院陽明よりはマシだと信じたい。
何というか、発想というか理性がぶっ飛んでいる。思いついてもやらないだろうということを普通にやる。修行僧のようにストイック。彼の近くにいたら自分も矯正させられてしまう気がする。
現に今もその沼に足を踏み入れさせられている。
昨日、散々ダメ出しされた後の話。
陽明が影から何かを取り出し、ガシャン、という重い音を立てて地面に散らばった。
果たしてそれは大量のダンベルの重りだった。
「はいこれ、伏黒の分。予備もあるから自由に使っていいぞ」
「…いや意味不明です」
流石に今から普通に筋トレしろと言っているわけではないだろう。そうだよな?
ただ筋トレをしにわざわざ京都に来たとは思いたくない。
「あ、悪い。言ってなかったけど、さっきの影空間に入ってる質量分だけ自分に重さが加わるんだわ。密度に合わせて均一に質量が分散…まあ重力加速度が割合分付加されると思えばいい」
「マジすか…」
好き勝手ものを突っ込むことは出来ないということか。意外と使い勝手が悪そうだ。
そしてこの重りの使い道も自ずと見えてくる。擬似的な高重力化での生活をしなければならないということ。
無重力下での生活による変化は宇宙飛行士などが実験しているものの、逆はあまり聞き馴染みがない。少しだけ面白そうだ。
「取り敢えず慣らしとして30kgくらいから始めようか。見た感じヒョロ黒の体重が60kgちょいくらいだろうから、大体1.5Gくらいだな。ちょっと足りないか?」
「(ヒョロ黒…)いえ、十分ですけど」
只管戦ってを繰り返してというような修行よりは幾分か理論的なのかもしれない。こうやって提案している以上陽明自身も同じことをしているのだろう。
しかし安全性や有効性はどうやって確認したのだろうか。
「ウチの師匠が漫画好きでな。取り敢えずやってみろっつって」
「(よりにもよって漫画かよ!しかも全然実験段階じゃねーか!)……陽明さんはどのくらいの重りでやってんですか」
「んー、少し前まで2~3Gでやってたんだけど、最近は色々余裕出てきたから5G環境だ。割りとキツイけど慣れてきた」
「慣れるもんなんすかそれ…」
体重が70~80kgくらいだとして大体300kgの重りをぶち込んでいる計算。5Gといえば常に戦闘機でマニューバし続けているような状態だ。常人は血液が頭に行かず失神する。そこまで行かずとも絶対に健康には悪いだろう。
平然と生活しているのが恐ろしい。本当に人間なのだろうか。床とか絶対凹むだろう。というかやっていることが本当に脳筋過ぎる。
「心配せずとも、続けてれば体の方が勝手に適応する。骨も筋肉も徐々に構造や密度を変えて強靭になるっぽい。さっきお前に斬られたときとかほとんど呪力強化してなかったんだけど、刃の通りが悪かっただろ?気をつけるべきは内臓系だが、こっちは呪力強化で補ってやればいい」
「マジかよ」
元が漫画からの着想だから簡単に信用できなかったが、実際に効果が出てるというのなら信じる他ないだろう。
「あと加速度が付加されるとは言ったが、実際には体外から見ると術者自身の質量が増してるらしい。この刀、呪哭刀には俺の影の術式が組み込んであって、俺が持つことで同じように割合質量が付加される。つまり打撃とか斬撃の威力も増すっつーわけだ。まあ重い分動きも鈍るから単純に2倍3倍の威力にはならないが、単なる重りとしてだけ働くわけじゃない」
「へぇ…、ちゃんと検証はしてんですね(脳筋の癖に)」
未だ半信半疑ではあるが、本当に効果があるというのならやってみる価値はあるだろう。
色々理不尽なことを言われて腹も立てたが、正直言って影空間の能力があることを知ることが出来ただけでもここに来た意味はある。
…だからもう帰っていいですか。あとは自分で頑張るので。
嫌な予感がする。
「ああそれと…、今言ったのは全部ただの副次効果だ。基本的にこの修行は身体強化術を向上させるためのもの、生活だけじゃなく戦闘訓練の中に組み込んでこそ意味がある。…じゃ、無限組手を始めよう。どんだけきつくても式神は使うなよ?使ったら全部ぶっ壊すからな」
(結局そうなるのかよ!!)
あの後滅茶苦茶死ぬまで組手した。
体がだるい。全身が酷い筋肉痛というのもあるが、最終的に重りを60kgほどに増やされたせいだ。
今の自分の体重が丁度そのくらいなので大体2G。適切な身体強化をしていないと頭に血も登らなくなってくる。
しかし呪力も無限にあるわけではなく、自己補完と釣り合うように調整しないと枯渇してしまうから常に全力というわけにはいかない。そして足が出て強化が足りない分はそのまま肉体の負担になる。
最低限しなければならないのは脳、内臓、循環機能の強化。その他骨格、筋肉を強化して普段通りの動きをするためには強化の効率、すなわち呪力操作精度を上げる必要がある。
常に身体に意識を張り巡らせなければならない。呪力を扱うのは人の思考、つまり脳。疲労は精神、脳細胞に蓄積されていく。
「ふうぅぅゥーーーーー……」
「…どうしたんだ?急にそんな深い溜め息をついて」
「すいません、結構疲れるというか、滅茶苦茶ストレスなんですよね…」
(…何が?もしかして私と居るのが!?そんなに?!)
加茂は完全に凹んだ。彼は妙なところで繊細だった。
伏黒としては加茂に気を遣うような余裕がなかっただけだが、話の流れ的に仕方がない勘違いだった。
目の前の男のことを視界から除外して、伏黒は今日味わうだろう地獄のことに思いを馳せていた。
もういっそのこと逃げるか、とか考えていたとき、突然誰かの手が肩に置かれた。
グッと抑え込まれているように感じるほど重い手だ…。
「よう加茂に伏黒、おはよう。意外と元気そうだな」
「ぅげ…」
考えていたら例のあの人が来てしまった。
もしかしてこれが引き寄せの法則というやつだろうか。本当の呪いだ。
「今日は9時から始める。準備してまたグラウンドに集合」
「…あの、すいません。これいつまでやるんですか。マジで交流会までとか言わないですよね??」
「やるけど?俺嘘とか冗談とかあんまし言わないよ?(ウソ)」
「(冗談みたいなことを真面目に押し付けてくるのはマジで性質が悪すぎるだろ)…今日平日でしょ。普通に授業とか…」
「学力的に普通科高校の教育課程は修了済みだ。今のところ単位も足りる計算」
(何でそんな無駄に頭いいんだよ!)
「あとこの修行は五条悟公認だ。彼からも是非完遂させるようにとのお達しがある(ウソ)。ちゃんと自分の学校に休みの連絡入れとくように」
(何でそんなに密に連携取ってんだよクソがッ!)
伏黒は昨日のような地獄があと十日以上続くのだと考えて、本当に吐き気がし始めてきた。
だが食事の場で戻すのは流石に我慢しないといけない。
「って、お前朝飯こんだけ?」
「…そうですけど(食欲ねーんだよ、内臓も物理的に重いし…)」
伏黒の朝食。ご飯(小盛り)と味噌汁に鮭と卵焼き、浅漬がついた簡単な和食。
朝食とはいえ体が資本である術師の栄養源としては少なすぎる。陽明は大いに呆れた。
「…全然食ってねーじゃん、そらヒョロガリになるわ。加茂を見習えよ」
「え?私?」
「今から裏メニューの牛丼とカツ丼、シメのラーメンまで全部食うから。ねっ、加茂先輩?」
「あ、ああ…。というか裏メニューなんてあるのか」
とんでもない無茶振りをされるも、久々に先輩呼びされたことで加茂は反射的に頷いてしまった。
そして陽明は彼が普通に頷いたことに対して逆に若干引いていた。それは自分に対する好感度の裏返しでもあるからだ。
さり気なくタメ口に切り替えたり切り替えなかったりやたらぞんざいな扱いをしてみたりと試してみてもこれだ。まあタメ口は敬語を使うのが面倒なだけだが。
(東堂といい加茂といい何かがおかしい…。歪んでいる、この世界は)
とまあ冗談は置いておいて、実際伏黒は線が細すぎる。やはり小手先の技量よりも体を作ることがまずは必要だ。ついでに加茂も細い。貧弱。
陽明は伏黒、加茂、そして自分の分の食事を注文するべくカウンターに向かった。
朝の日課前の軽食、男子寮の賄いと、これが今日既に3度目の食事だった。
(フッ。真依や三輪のことといい、やはりアイツは面倒見がいいな。それでこそ御三家の未来を担うに相応しい…。だが授業にはちゃんと出るべきだと思うぞ)
(…飯くらい好きにさせろよ、せめて朝食くらい)
無限組手では5分組手1分インターバルの戦闘を延々と繰り返す。間に休みを設けることで緊張と弛緩を繰り返し、集中力の回復も確保する。
これは当然のことながら近接戦闘技能や基礎体力の向上を主な目的としている。
陸上競技基準の400mトラック10周をダッシュすることででウォームアップを済ませ、終わりの見えない修行が始まってから既に8時間が経過していた。
「…ゼェ、ゼェ、ハァ、ゼェ、ごほッ…!」
激しい息切れ。体力の限界はとうの昔に超えている。
伏黒は地面に横になり回復体位を保ちながら、何とか息を整えようとしていた。
まだ訓練は終わらない。陽明が終わりと言うまで終わらないと最初に宣言されている。
その彼は未だに息を乱していない。いつ終わるのか全くわからない。
(死ぬ…マジで…)
昨日、最初のうちは反骨心を持って挑みかかっていたものの、そのうちすぐに諦めた。
陽明が身体強化術のレベルを、敏捷性、膂力などが自分と同じ程度になるように合わせているということに気付いたからだ。
両者で異なるのは純粋な戦闘技術と経験値。歴然とした力の差がある。今の自分では逆立ちしても敵う相手ではない。
自分が呪術師になることに意義を見いだせずに腐っていた時間、彼は黙々と努力し続けていたのだろう。その多層に折り重なった研鑽の痕跡を見てしまえば流石に敬意を払わずにいられなかった。頭がおかしい先輩術師の指示に文句の一つも言わずに従っているのはそのためだ。
陽明は伏黒にほとんど身体的なダメージを与えていない。伏黒の攻撃を捌きつつ、隙があれば寸止めの攻撃を差し込み、投げで終わらせる。即座に立ち上がるように指示し、また同じことが繰り返される。身体が傷つくことはなく体力だけが減っていく。影の中の重りも体力を減らすのに一役買っている。
伏黒は無駄な攻撃や防御に呪力を割くことはなく、出来るだけ体の動きを維持して隙を無くすという方向に早々に切り替えていた。そのため呪力の消費は体力の消耗に対して意外なほどに少なかった。
今立ち上がったところで酔っ払いのような動きしか出来ないだろう。近接の訓練も何もあったものではない。
だがこのような無様な状態でありながらも、伏黒は弱音を吐かず立ち上がろうとしていた。
伏黒恵は優れた洞察力を持っている。だからもう気付いていた。これは自分との戦いなのだと。
昨日は中途半端な時間で終わってしまったから気づかなかった。
この訓練の本質は戦闘技能向上などではない。ただ単純に、人を追い詰めるためのもの。但し呪力を出来るだけ温存し、肉体の体力だけを優先して減らすように仕掛けがしてある。だから気づくことができた。
体力の限界を迎えていてもなお体が動く。呪力がこの未熟な身体を支えているのだ。
身体の動きが精彩を欠き意識が朦朧としている中で、僅かに残る原始的な思考。立ち上がること、敵を倒すこと、生きるという本能。それが今、自分の中で呪力を生み出しているのだと実感している。呪力を何処に集中させてどうやって体を動かせばいいか、呪力の方が教えてくれている。
ただの根性論などではない。仕組みとして
しかしもはやそれすらも尽きかけている。呪力はもう残り少ない。十種の最初の式神、玉犬を出す分すら残っていない。
「無いと思っていた体力もそこそこ。確かに術師としての基礎はある。そしてやっぱりお前は頭がいい。今日はここで『終わり』にしよう」
「…っ!」
「呪力の限界が術師の限界だ。反転術式を習得すれば肉体の疲労すら回復することが出来る。身体能力が成長しないから俺は使わないがな」
地獄の終わりを告げられたことで伏黒は少しだけ気力を取り戻し、体をゆっくりと起こして地面に座り込んだ。
彼は呪力の本質の一端、そして肉体と呪力の関係を少しだけ理解し始めていた。
人の負の感情より生じるエネルギー。扱うのは人の思考であり認知能力だということ。それは結界の条件や”縛り”などの呪術的要素が術者の主観的価値観に左右される理由でもある。
呪力を知り、適切に扱うことで望み通りに現実を変えることができる。”出来る”と考えるのはその第一歩。呪術とはそういうものだ。
「だけど翼がないのに空は飛べないし、鰓がないのに水中で生活できるわけがない、と俺たちは考えてしまう。現実的に肉体という物質に思考が縛られている以上、何でも出来ると考えることは出来ない。呪術は現実を変えるための方法であり力。それ自体が人の認知を拡張させるもの。術師にとっての翼ってわけだ」
五条悟が最強である所以もそこにある。
六眼は呪力の流れを見通す。それは呪術、ひいては世界に対しての認知の次元が異なるということ。彼は呪力をどう扱えば上手く機能するのか自分で考えるまでもなく理解しているのだ。
そんなチート能力持ちに追いつくためには、彼の見ているものと同じものを見られるように努力するしかない。例え千年掛かろうとも。
「思考は肉体に追従する。逆に肉体は思考の檻、呪力もまた同様だ。呪力の核心に近づくために、檻を広げろ」
縛られた思考で幾ら考えたところで
幾ら脳筋と揶揄されようが、それが正しく確実な道だと陽明は信じている。その道程は、初めから呪力というものを知っている五条悟では教えられないことだった。
「…色々言いたいことはありますけど…、何となく、わかりました」
伏黒が素直に頷くのを見て陽明はなぜだか嘆息してしまった。
「ふぅ…。たった1日で納得するとは、お前は物分りがいいな。誰かさんとは違って」
「誰と比べてんですか」
「さぁな……って、あ」
そこで陽明は何かを思いついたというように手を叩いた。
「そうだ。伏黒、お前シン・陰に入れ」
「は?」
また突拍子もないことを言い始めたと思った。
シン・陰流の技は一門相伝と聞く。そんなに軽々しくホイホイ入門させられるものではないだろう。
「力には責任が伴うというのが理念の一つだけど、お前が呪術師である限りそこは問題ない。領域を使う敵なんて滅多にいないから軽視されがちだが、本当なら簡易領域は全呪術師が覚えておくべき技術だ。刀の扱いもちゃんとしたものを学んでおけ」
「…誰が教えるんすか。俺来年は東京校に入る予定ですよ」
「あっちには日下部さんがいるだろ。確かあの人も地味に師範の資格持ってたはず」
(マジで言ってんのか…?)
「入るというならこれをくれてやる。お前の呪力に馴染ませれば多分刻んでる術式も使えるはず」
陽明はそう言って影から漆黒の刀剣を取り出した。
影の術式で形状を記憶している刀。例え折れても即座に復元できるというのは術師にとっては非常に魅力的だ。
呪具は基本的に消耗品ではあるが、呪力を込めて使い慣らすほど徐々に力を増していく。特級呪具『游雲』などその最たる例である。
壊れても直せるという特性は戦闘で紛失することがないというだけでなく、呪具の成長の上でも都合がいい。しかもこの刀、そもそもがかなりの名刀である。
彼はそんなセールストークを伏黒に語った。
「あとこれって一応俺の式神でもあるから、ちょっと離れたところから引き寄せるとかもできるんだよね。マジ凄くない?」
わかりやすい餌をぶら下げられて伏黒の心が大いに揺らぐ。
「(やべぇ、普通に欲しい)そんなの人に譲っていいんですか」
「こいつは(真依に作ってもらった)予備の内の1つだ。同じのがあと2本ある」
伏黒は暫くの間俯き高速で思考を巡らせた。
あらゆるメリットデメリットを勘定に入れ、どうするべきか判断する。
……デメリットとか全然無くないか。
「やります」
伏黒、入門。
彼は自分が沼に沈み込んでいっていることに気付いていなかった。
*伏黒は疲れ過ぎて正常な判断ができなくなっています。
無重力下で生活を続けると骨密度下がって筋肉も衰えるというのは有名な話。
その逆やれば強くなるんじゃね?という龍球的発想。
木製のボロい床とか普通に踏み抜きそうだけど、呪力で床も強化しながら歩けばよくね、とか思って訓練の一環として取り入れている変態主人公
あと京都校内の施設とかは適当に捏造してます。外伝小説とかに描写あるかもだけど全然読んでないです。全部に言えることだけど、この世界ではこんな感じってことで。