呪術縁起   作:生乾きの服

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5.入学…?

 

 

 明治の始め。文明開化の名の下に日本の文化や生活様式が大きな変化を遂げていた頃、裏の日本である呪術界でもとある改革が行われた。

 それまで各地には大小様々な術師の家系が散らばっていたが、それらの家が輩出する術師の知識・実力を統一・均一・高度化しようという試み。つまりは教育改革だ。

 当時から最も大きな呪術名家であった加茂家、五条家、禪院家を中心とする東京と京都の二校、後に呪術高等専門学校と呼ばれることになる学び舎が設立された。

 

 …という話らしい。俺の手元にある入学案内パンフに書いてあった情報だ。

 

 

 

 

 ついに呪術高専の入学の日である。この間禪院当主にも宣言した通り、俺が入るのは京都校だ。

 マジで入学前から言ってはいけないことをぶっちゃけてしまうと、本当のところは東京校に入りたかった。だって呪術師としての実力を高めたいなら東京校一択だし。

 

 まず呪力を見通す六眼持ちの五条悟がいる。彼は学生ごとの特性を見抜いて高効率の指導を行っていることだろう。

 あと正の呪力を生み出す反転術式使いである五条悟、そして家入硝子がいる。身体の回復と術式反転を使うのに必須の技術でいずれは覚えたいところだが、独学より手本があるほうがいいに決まっている。

 さらに結界術の指導も出来る五条悟がいる。これは間に合ってるからいい、と言いたいところだが、日本の国内結界の柱である天元サマがいるのも東京だ。もしかしたら何かの間違いで会える機会があるかもしれないし、実は彼から直接結界術を教わってみたい気持ちがあったりする。

 

 アレ?やっぱ東京校の方がいいじゃん、今から京都校の入学辞退して入り直そうぜ、とはならない。今のところ俺が優先しているのは禪院家との関係だ。そして禪院家と五条家は犬猿の仲であり、五条悟がいることからも分かる通り東京校は実質 五条家の傘下なのである。あと禪院家には月一で顔を出す予定なので物理的距離が遠いのもちょっとマイナスだ。残念。

 

 

 

 結界で囲まれた広い敷地内には、良く言えば趣のある、率直に言うとオンボロの木造建築物が立ち並んでいる。

 

 高専は呪術師を養成する教育機関としての機能と、呪術師に任務を斡旋する派遣機関としての役割がある。俺も呪術師の仕事で何度か来たことがあるが校舎などの学生の施設には用がなかったのでイマイチ土地勘がない。まあ迷いの結界とかがない限りそのうち教室まで辿り着くだろう。

 最近の俺は何故だか寝坊癖が著しく、今日も時間ギリギリに起きてしまった。実はもう既に集合時間を10分くらい過ぎていたりする。ちゃんと睡眠は取ってるはずなんだけどな。

 

 「やべー、初日から遅刻とか終わってるわ」

 

 そんなことを呟きつつも俺に焦りは微塵もなかった。最近何度も遅刻を繰り返してるせいでどうでもよくなってきたし、焦るのは最初だけなんだよな。ついこの間禪院家のトップを待たせた後だ。あの時は結局開き直って1時間も2時間も変わらんだろって感じで呑気に昼飯まで食ってたら3時間経っていた。今はそれに比べたらまだ全然イケるだろ的なアレだ。うん、割りとゴミ野郎だな俺。

 

 それから10分程歩いて、ようやく俺は目的地である教育棟1号館にたどり着いた。

 …はずだった。

 

 

 「よう新入生。お前はどんな女が好みだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 一方入学式が行われる予定の教室。

 

 

 

 なにこれ、雰囲気わる…

 

 ギスギスという擬音が聞こえそうな程。

 三輪は気を紛らわせるためにちらりと横目で右隣を見た。この教室に入ってから、これで10回はその方向に視線を向けただろう。

 

 (ロボ。やっぱりロボだこれ)

 

 等身大のメカメカしいロボのような何かが、高専の黒い制服を身につけて椅子に座って腕組みしている。

 最初はコスプレか何かかと思ったが、それにしては全く微動だにしない。呼吸をしている様子もない。故に三輪はこの存在をロボットであると結論付けた。しかし何故ロボが制服を着てこの場所に佇んでいるのかは全くわからない。

 

 「ハァ…」

 

 今度は三輪の左隣から何度目になるかわからない溜め息が聞こえてきた。

こっちは普通の人間だ。それもかなりの美人。ショートボブの黒髪は同性の自分も羨ましくなるほど艶がある。

 しかしその表情が全てを台無しにしていた。不機嫌で仕方がないということを何とか懸命に表現しようとしているかのように顔が顰められている。

 

 そして正面。

 

 「遅い」

 

 教壇に立っている女性が腕時計を覗きながら小さく呟いた。

巫女服を身に纏い、右頬から鼻梁にかけた表皮を抉る古傷と、後ろ髪をハーフアップで束ねたリボンが特徴的だ。

 その傍らには一人の老人が黙して立っていた。白く長い眉と顎髭を垂らし、イヤーカフや鼻ピアスなど含め幾つもじゃらじゃらとアクセサリーを身に着けたパンクファッション。眉の影で目元が隠れていることもあり、そこはかとなく威圧感が醸し出されている。

 京都高専の教師である庵歌姫と学長である楽巌寺嘉伸である。

 

 二人共に表情がなく、如何なる感情も読み取れない。怖い。

 

 

 この場の人間は皆、既に予定の時間を過ぎても未だに初顔合わせの集合場所に姿を見せない新入生を待っていた。

 

 (もー何してんですかあの人は!ていうか先生たちもジッと待ってないで校内放送するとか探しに行くとかすればいいのに!何となく怖いから言えないけど!)

 

 一応知人である新入生に対して三輪が心の中で文句を垂れていた時。

 

 

 ドゴォォン!!

 

 唐突に校舎の外から大きな音が聞こえてきた。

 何かが、例えば木造の建築物などが破壊されるような音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこどいてくんないすかね。遅刻しそうなんですけど」

 

 俺は目の前で校舎への道を塞いでいる190cm近くあるだろう大男に向かって話しかけた。

 男は不敵な笑みを浮かべて応える。

 

 「遅刻なら既にしているだろう。今更10分20分遅れたところで何も変わらん」

 「確かに」

 

 反論できない。完全に論破されてしまった。滅茶苦茶のんびり歩いてたところを見られてるし。俺を論破するとは、さてはコイツ頭いいな?

 

 「で、一体何のようですか。名前もまだ知らない先輩」

 「俺はお前を知っているがな、御門陽明。入学前から既に1級術師レベルと目されている言われる麒麟児よ」

 

 結構広く噂されているのは知っていたが、こうしてうざ絡みされるのは正直余り予想していなかった。

 ただ一つ訂正がある。

 

 「今は“禪院”だ。“禪院陽明”」

 「ほう?」

 

 

 

 禪院直毘人に面を通してからすぐ、俺は彼の養子になった。

 御門の名を捨てることに抵抗はなかった。名前など只の記号、とまでは言えない。呪術にとってモノの名前は大きな意味を持つ。俺が亡くした家族との繋がりでもある。

 それでも必要とあらば俺は何でも捨てて、何でも手に入れる。これは禪院家と血の繋がりがほぼないに等しい俺があの家で認められるための儀式の一つだ。

 

 名実共に直久の弟分になってしまったのは何となくむず痒い。あと禪院家に組み入れられるからといって公的に現当主の養子になるのはレアケースらしく、普通は適当な人間が宛てがわれるらしい。

 きっと周囲の人間には色々勘ぐられたりしていることだろう。多分これから禪院関係のトラブルが多くなる。それこそ毒を盛られたり闇討ちされたりするかも知れん。

 

 

 

 「で、アンタは誰?何の用?」

 

 再度問う。俺の方もコイツに興味がある。

 コイツは()()。このレベルの強者はそういないとひと目でわかるくらい。

 

 「俺は2年の東堂葵だ。問いに答えろ、後輩。『どんな女がタイプだ?』」

 「あぁ、あれマジで質問してたんだ。妙な挨拶だと思って完全にスルーしてた」

 

 しかし納得。呪術師には妙なこだわりを持つものが多い。我が強いタイプが自分の道を極めて生き残るからだろうと思う。コイツも例に漏れずそのタイプだろう。まあそれがわかったところで何が正解なのかは全くわからんけど。

 返答次第では襲いかかってきそうな雰囲気がある。色々答えられるが、そうだな…、ここは敢えて。

 

 「俺より旨い飯を作る女」

 

 東堂から深い溜息が漏れ聞こえてきた。うん、外したなこれ。

なにあの悲しそうな表情。飼い犬が死んでもあんな顔しないぞ普通。

 

 「…違う。そういうんじゃないんだ、御門よ」

 「禪院だっつってんだろ」

 「…性癖にはソイツの全てが反映される。お前ならきっと俺を退屈させないはずだと、そう信じていたのに……俺の気持ちは裏切られた!」

 

 東堂は胸に右手を当てて、魂の慟哭を表すかのように叫んだ。

 

 見た目通りキメェなコイツ。俺が知っている中でも群を抜いた変人だ。

 そして勝手に期待されて勝手に失望されるのはどこか腹立たしいものがある。

 

 だがここまでは概ね想定通り。

 

 「俺はお前を満足させるために生きてるんじゃねぇ。そういうお前の好みはなんなんだ?」

 「…ハァ、ケツとタッパがデカい女だ。もうお前に用はない、行っていいz」

 「うわー、ふつうだ。つまんな」

 「…………あん?」

 

 東堂は俺の言葉が理解できなかったようだ。

 ゴリラでもわかるようにハッキリと言い直してやる。

 

 「つまんねぇ性癖だって言ってんだよ。何がケツとタッパだ、そんなん男なら皆好きに決まってんだろボケ。浅ェんだよこのパイナップルゴリラが」

 

 驚くほどスラスラと罵倒の言葉が出た。あまり面と向かって人のこと貶したことないんだけど。というかぶっちゃけ人の性癖とかマジでどうでもいい。俺はとにかくコイツをマジギレさせたかった。

 俺が鼻で笑ってみせると、東堂はしばしの間うつむいてしまった。

 

 そして幽鬼のようにゆっくりと俺を見据え。

 何故か涙を流しながら憤怒の表情を形作った

 

 

 「…人の性癖を嘲笑うなよ」

 

 

 濃密な呪力が噴出した。

 

 いやお前も俺の性癖(仮)のことつまんねぇって言っただろうが。

 

 

 筋肉達磨が俺に突撃してくる。俺の予定通りに。

 しかしここまでとは少し想定外、本気で殺しに来てる勢いだ。術師ってのはどいつもこいつも生死と善悪の境界がユルい。

 思わず小さな笑みが漏れる。

 

 それは奴の方も同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近強く自覚していることだが、どうやら俺は戦いに喜びを覚える性質の人間らしい。

 強い奴がいれば戦いたくなる、そこに理由はいらない。戦うこと自体が楽しいし、強者との戦闘経験は俺を高みへと押し上げる。

呪霊を憎む心とは全く別に、そんな戦闘狂のようなことを考える自分がいる。

 

 だから一応時と場合は考えるが、戦える条件があったら戦う。

多分奴(東堂)も俺と同じタイプ、あの妙な質問は戦うための理由付けがしたかっただけ。

 初対面だからこそいい。下手に仲間意識を持ってしまえば自覚できない遠慮や戸惑いが生まれて全力で戦えない。

喧嘩を売ってほしそうにしている先輩に対して理由を与えてやったのだ。

 

 …まあ今は大事な入学式前で時と場合がアレだけど、俺の言い分としては向こうがいきなり襲いかかってきたから仕方なく対処するだけである。

何も問題はない。これで遅刻も何もかも全部東堂のせいにできる。

 

 

 

 

 東堂は猛烈な勢いで突進し、一気に俺との距離を詰める。

そのまま拳の連打。俺は即座に感知結界を展開し、超常の認識力によって躱せるものは躱して受けは最小限に留める。

 攻めっ気に富んだ攻撃は俺が一歩でも引けば即座に叩き潰されると感じる程の勢いがある。事実として呪力強化込みの膂力は俺のほうが少し競り負けていた。

 

 俺は攻防を仕切り直すために、隙を見て東堂の足元に伸びた自分の影に術式を発動させる。

 

 影の底なし沼は注ぎ込んだ呪力の分だけ引きずり込む力が増す。

ほんの一瞬だけ東堂の体勢が崩れる。

 俺は作り出した明確な隙を突くために跳び上がり、奴の横っ面に空中で回し蹴りを叩き込んだ。

 

 しかし。

 

 「ッ!」

 

 東堂は体を仰け反らせながらも手を中空に伸ばし、宙に浮いた俺の足首を掴み取った。

 

 予想以上に手応えがない。

軸足が利かない分威力が足りなかった、いや頭部と体幹を捻って衝撃を逃がすようにいなしたのか。

 

 

 奴は俺の右足首を潰さんとするかのように右手を握り込み、俺の体ごと腕を振りかぶった。

 なんという馬鹿力だ。俺の体重は影に収納した呪具類含めて100キロを優に超えてるってのに。

 

 そして振りかぶったものは振り下ろすのみ。俺はこのまま頭から地面に叩きつけられるだろう。

 瞬間、東堂と視線がぶつかる。

 

 この野郎、さっきのはブチギレたフリか。打って変わって喜色満面、やっぱり滅茶苦茶楽しんでるじゃねーか。

 

 

 だがそれは俺も同じこと。

 

 俺の術式は自らが接地した影に対してしか効果を及ぼさない。

 だから俺は感知結界を予測接地面方向に集中させて収集情報を限定、タイミングを測る。 

 地面に後頭部が衝突する瞬間、ジャストで術式を発動した。

 

 「ぬッ?」

 

 予想された衝撃が返って来ず、東堂が疑問の声を上げて足元を見た。

 

 俺は頭から影の中に沈み込んでいた。

 少し思考する余裕さえあれば対地衝撃の回避はお手の物、これまた繰り返し訓練を積んでいる。

 

 そのまま東堂の足元の影に接続し、奴を引きずり込もうと呪力を注ぎ込む。

 しかし奴は既に自らの呪力で抵抗できることに気づいていた。

 互いの呪力出力による単純な綱引きが始まる。奴を引きずり込むか、俺が釣り上げられるか。

 

 

 数秒の拮抗の後、天秤が傾いた。どうやら出力は俺の方が若干高いらしい。

ジリジリと東堂は影に引きずり込まれていく。小さい舌打ちが聞こえた。

 影の中の空気の循環は俺が支配している。全身を引きずり込んだ時点で俺の勝ちだ。

 

 

 不意に俺の右足に激痛が走った。

 

 「チッ、放せこのっ!!」

 

 東堂は自由に身動きが取れない中で反撃することを選んだ。両手を使って俺の右足を握りつぶそうとしてきたのだ。本当にゴリラかこの野郎は。

 

 自由な左足で何度も奴の腕を蹴るが、呪力を術式と足の防御に回しているため威力が足りず引き剥がせない。

 逆に奴は影の引力に抵抗する呪力を握撃に回し始めた。呪力出力の拮抗点から逆算して我慢比べを持ちかけてきたというわけか。

 

 

 右足を犠牲にして奴を確実に沼に引きずり込む…、いや馬鹿か、そこまで安くないだろ。

 

…いっそのこと刀を呼び寄せて腕を斬り飛ばしてやろうかという邪念が過る。奴も俺の足を持っていこうとしてるんだからお互い様、それで良くないか?

 マジで斬り落としてしまったとしてもすぐに東京の家入硝子のところに送るか彼女の方を呼ぶかすれば何とかなるだろう。何とかなれ。

 寧ろここでやらない方が失礼じゃないか?今俺たちはそれくらい真剣に勝負しているのだ。

 

 よし決めた。敬意を持って、全力で腕を斬り飛ばす。

 

 

 

 呪力を攻撃に回すために術式を解除し、一気に東堂と俺は影から浮上した。

 既に影の中で呪哭刀を手にしている。“抜刀”をもってすれば奴の呪力の防御など薄紙の如く切り裂くだろう。

 

 そうして俺が覚悟を決めて刀に手をかけようとした時、奴は叫んだ。

 

 

 「ようやく刀を手にしたなァ!!」

 

 

 唐突に足の痛みが消え、俺は空中に放り出された。

 そして乾いた破裂音が耳に響く。

 

 瞬間、俺の見ている世界が変わり、背後に気配が現れる。 

 すぐさま衝撃と音。まるで大砲のような。

 

 ドゴォォン!!

 

 

 

 

 

 気がつけば俺は古びた木造の壁に空いた穴を、ぼやけた視界で見つめていた。

幾つかの建物を貫通してきたようだが、どれくらいぶっ飛ばされたのかわからない。

 恐らく咄嗟に呪力で防御したのだろうが不意打ちのせいで不完全だった。衝撃によって一瞬だけ気を失ってしまった。

 

 脳が揺れている。前後不覚ではっきりとしない頭、しかし本能から来る危機感が体を動かす。

 すぐさま立ち上がり、さらなる危機に備える。

 背中にダメージがある筈だが、痛覚が脳内麻薬によって遮断されている。完全にスイッチが入っている。

 

 体が勝手に動く。いつも通り、刀に手をかける。

 シン・陰流、簡易領域。そして抜刀。寝ていても使えるくらいに繰り返した俺の奥義。

 

 

 壁の穴目掛けて駆けていくと、十を超える呪力の籠もった飛礫が結界の感知網に引っかかる。

 その全てが俺の身に届く前に切り落とされた。

 

 さらに前方より人の気配。まだ結界外。

 

 東堂が風穴の空いた建物を通り抜けてゆっくりと歩いてきていた。 

 

 「素晴らしい殺気だ。やはり見立て通り、頭のネジが幾つかぶっ飛んでるな。今お前のテリトリーに踏み入れば流石に死ぬ。だが…」

 

 奴はパンッと両手を打ち鳴らす。

 

 「なっ!?」

 

 一瞬にして俺の手の内から刀が消え、代わりに先程切り落とした飛礫の欠片が握られていた。

 

 得物がそばに落ちていることはすぐに感知できた。

 だが未知の体験が未だに本調子ではない俺の思考を鈍らせる。その隙を見逃す奴ではない。

 再び拍手の音が聞こえ、今度は東堂自身が俺の目の前に現れた。

 

 反射的な防御が俺を守る。同時に足元の呪哭刀を一旦影に返した。

奴の蹴りによってまた宙に飛ばされた。今度は自分から飛んだお陰でダメージはほとんどないが、対策を考えなければいずれジリ貧になる。

 

 

 着地と同時に影に半ばまで潜んだ俺に東堂が語りかける。

 

 「成る程、その呪具はお前の式神に近いモノ。便利だな」

 「…アンタの術式ほどじゃねぇよ。呪力を帯びたモノの位置を拍手で入れ替える術式…、アンタの前じゃ呪具は使えない」

 「流石、気づいたか。俺の術式、“不義遊戯”のタネに。いいぞ、そうこなくては」

 「舐めんなよ、あんだけパンパンやってたら誰でも気づくぜ」

 

 しかしなんという天敵。呪力を持たない普通の刀を使って、攻撃の瞬間だけ一気に呪力を込めるとかいう無茶な攻略法しか思いつかん。それすらも彼我の位置を入れ替えられたら容易には当てられない。

 あとは影の中ならばあるいは。影空間の中では三次元的な座標は意味を持たない。全てが隣り合っていながら遠く離れているのだ。そもそも俺の呪力に満たされた空間では感知すらできないだろう。調子に乗って全力の一撃をお見舞いするために奴を影から出したのが明らかな失着だ。

 

 東堂を封殺するには恐らく必中必殺の領域展開しかない。簡易ではなく、生得領域の具現化しか。

 ただ、俺はまだその段階にまで至っていない。

 努力はしている。だが未だに自らの生得領域がわからない。霞掛かっているかのように輪郭がぼやけているのだ。

 

 基礎能力に大きな差がない以上、無策で挑んでも翻弄されるだけ。コレはそういう術式だ。

 どうするか…。

 

 

 そうして俺が策を練りあぐねていると、遠くから人が駆けてくる音が聞こえてきた。

 

 大きな音を立てすぎたな。

 

 「どうやら俺たちの蜜月の時も終わりのようだ」

 「みたいだな」

 

 ん?

 

 「なんて?」

 「直接拳を合わせたことで魂が理解した。御門よ、お前わざと俺を怒らせるようなことを言ったな?」

 「……いや、アンタのことは心底キモいと思ってるし、さっき言ったのは俺の本心だが。あと禪院…いや、もういいわ」

 「フッ、そうか。俺もまだまだ未熟だな。言葉尻に捕らわれて本質を見失うとは」

 

 何言ってだこいつ。思考が飛び飛びで拾えないぞ。

 

 「お前はさっき『ケツとタッパのデカい女なんて男は皆好きだろう』と言った。つまりお前の中では大前提として当然有って然るべきと考えるほどの大好物。…俺とお前は既にソウルメイトだったというわけだな」

 「ああ、なるほど…」

 

 コイツの思考回路が何となく理解できてしまったのが嫌だ。俺の察しが良すぎるだけだと信じたい。

 

 確かに俺たちが本質的に似たようなタイプだというのは認める。俺もコイツみたいに大概自己中な性格してるし。今の東堂の発言が否定するまでもないことであるのも。

 

 ただ、言い方が嫌すぎる。

 

 「やっぱキモいから近づかないでくれ」

 「照れ隠しか?」

 「…よし、その言を認める代わりに、今後お前は俺の半径20メートル以内に近づかないという縛りを結ぼう」

 「それは難しいな。俺たちは互いに半身に等しい存在なのだから」

 

 ちょっとマジで鳥肌が立ってきたから本当にやめてくれないだろうか。

 

 

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