神秘を得た代わりに○ん○(以下略) BADエンドIF 作:プラハ
今の所考案してるBADエンドはもう一つあるので、そこ付近まで執筆中の本作が到達したら書きます。
シャーレに所属してから1ヶ月の時が過ぎて、業務にも少しずつ慣れてきた頃の日のことだった。ブラックマーケットを訪れた私は追いかけられていた。追いかけてきているのは連邦生徒会に恨みを持つ不良たち。私を拉致してシャーレに身代金を要求しようとすることを目的らしい。だけど、私とキヴォトスに住む生徒たちでは身体スペックが違いすぎる。私は曲がり角を駆使しながら逃げ続けて距離を稼ごうとするが、徐々に距離は詰められていった。
「やっと追いついたぞ! 手間かけさせやがって……」
「はぁ……はぁ……」
逃げた先は行き止まりだった。不良たちにこんなことはやめるようにと説得を試みるが、連邦生徒会への恨みつらみは相当なものらしく、聞く耳を持ってくれない。そして1人の生徒が私に向かって銃を構える。駄目だ撃たれる……! そう思って目を閉じるが、銃声の音はいつまでたっても聞こえてこない。
目を開けるとそこには1人の少女が立っていた。白くて長い髪をツインテールにした白衣を身に纏った少女がいた。
「なっ!? お前は『殺戮兎』……!」
「はぁ……、まるで俺様が誰かを殺してるみたいな発言はやめてくれない?」
『殺戮兎』と呼ばれている少女は可愛らしい声でそう言う。どうやら彼女はこの辺ではかなり恐れられている存在らしく、私を追いかけて来ていた不良たちは全員後ずさりをした。だけど1人の不良がしびれを切らしたのか、彼女に銃を向けた。
「関係ねえ! 相手は1人だ! それに後ろには人質だっている! 撃っちまえ!」
「はぁ……別に俺様としては後ろのやつがどうなってもいいんだけどね。まあでも舐められてるのは気に食わないから……」
彼女に向かって一斉に銃が向けられるが、その瞬間彼女の姿が掻き消えた。突然の出来事に動揺する不良たちのすぐそばに彼女は移動していた。彼女が懐まで潜り込んでいたことに気が付いた不良はすぐに離れようと距離を取ろうとするが、彼女がアサルトライフルを持っている手を蹴り上げると銃が吹き飛んでいく。
「弱い!」
「がはっ!」
掌底が不良に叩き込まれ前方へと吹き飛ばされていく。他の不良たちは彼女に向かって銃を放つが、誰も彼女をとらえることは出来ない。壁を駆使して立体的な軌道をする彼女は銃弾を回避して次々と不良を倒していく。半分ほどいなくなったところで、彼女は私の前に立った。
「まだやるの?」
「くそっ! 化け物め……!」
不良たちはそう吐き捨てると、気絶した不良たちを抱えて逃げて行く。彼女はそれを見送ると去ろうとしたので、呼び止めようとするが、彼女は足を止めなかった。
「別にお礼とかいらない。そんなの求めてないし、お前と話すことなんて何もない」
彼女は振り返ることなく去って行った。私は彼女を追いかけるが曲がり角を曲がった瞬間、彼女の姿はまるで幻だったかのように消えていた。どうにかしてお礼が言いたい、せめて名前だけでも知っておきたいそう思った私はまたブラックマーケットに護衛を連れずに歩いていた。危険だということは承知している。でも、私は彼女にまた会いたいとそう思った。
再会するまでにそんなに時間はかからなかった。あの時、彼女と初めて出会った場所で私はまた追い詰められていた。そんな私の前にまた彼女は現れ、不良たちを撃退した。声を掛けようとする私を彼女はまた無視して去ろうとするが、私の正体を知った彼女は「今度からここを歩くときは護衛でも付けたら?」とアドバイスをして去って行った。
「はぁ……あのさ、前に言ったよね? ここを歩くなら護衛をつけろって。それなのにどうしてまた1人なの?」
彼女は私から目を背けたまま呆れたようにため息をついた。彼女とのやり取りもこれでもう5回目になる。因みに3回目と4回目は言葉を交わす間もなく彼女は去って行った。
「ここに来れば君に会えると思ったから」
「うわきも……ストーカーかよ……」
ドン引きした彼女の声に、私は膝をついた。確かに最近の行動を思い返してみるとストーカーみたいだ……。
「で? そうまでして俺様に会おうとした理由ってのはなんなんだよ?」
彼女が立ち止まる。私は彼女の背中に向かって。
「お礼が言いたかったんだ。いつも助けてくれてありがとう」
「それだけのために……ここに……?」
そうだよと返すと、彼女は笑い始めた。
「馬鹿だ……。馬鹿がいる……! たったそれだけのために危険を冒してここまで来るとか……!」
彼女はひとしきり笑って私のほうに振り返った。赤い目をした可憐な少女の顔が見える。笑いすぎたせいか目じりには少し涙が浮かんでいる。あー笑ったと彼女は目じりに浮かんでいる涙を人差し指で拭った。
「名前を聞いてもいい?」
「名前……? 少し待って……うん。これで行こう。栄道エルナだ」
「えっと……偽名だよね?」
「ううん、今自分に名前を付けたから偽名じゃない。別に名前がないやつなんてここじゃそう珍しいことでもないしね」
私がエルナに学校に通うつもりはないのかと聞くと、エルナは首を横に振って、「学校って言うのは勉強をする場所なんでしょ? 学校で習うようなことは全部頭に入ってるからね」と語ったので、試しに何問か問題を出すと、エルナは淀みなく正解を答えた。少し意地悪をして学生では習わないような難題を答えさせてもエルナは完璧に解答する。
「学校は勉強をするためだけの場所じゃないよ。友だちを作ったり、いろんな人と触れ合う場でもあるんだ」
「友だち……ね。俺様が友だちだって言えるのは前にも後にも1人だけだから」
エルナは寂しそうに笑う。そう言うってことは多分……そういうことなんだろう。エルナはそれに付け加えるように、自分にはやりたいことがあるから学園に通っている暇なんてないと言ったので、やりたいことって何なのかと聞くが、エルナは答えてくれなかった。
「それじゃ、俺様はそろそろ行くわ」
去って行くエルナの背中に向かって私はまた会いに来てもいいかと聞くと、エルナはため息をついて私に手帳か何かを持ってないかと聞いてきたので手帳を渡すと、何かを書いて私に戻してきた。
「それ、俺様の連絡先だから。次に来るときはそこに連絡して。いつも助けにいけるわけじゃないんだからさ」
そう言い残すとエルナは去って行った。
それから数日後、呆れたような視線でエルナが私を見てきた。
「確かにこっちに来るときは連絡してもいいって言ったけどさ、毎日来ることはないんじゃないの?」
私があははと乾いた笑いを零すと、エルナはため息をついた。ここ数日間私は毎日のようにここに通い詰めてはエルナとこうして会話を交わしている。連絡をすれば、なんだかんだ言って必ず会いに来てくれるので、律義で優しい子だと私は思う。
エルナは時折羨ましそうに笑っている生徒たちを見ている時がある。その時の表情はとても苦しそうで、今にも泣きそうな表情に見えた。どうにかして力になってあげたいと私は思っている。でも、エルナと私の間の物理的な距離は人1人分くらいだが、今の私にはそれよりもずっと離れているように感じる。
エルナは一体どんな人生を歩んできたのか? どれだけの苦悩を抱え込んでいるのか?
私はそれを知りたい。それを知って一緒に背負っていきたい。
それから私とエルナは、毎日とまではいかなくてもそれなりの頻度で会っている。あれだけ感じていた距離も今では少しずつ近づいてきていて、今ではエルナは私のすぐそばにいる。いつものように他愛のない話を続けていると、エルナが真面目な表情で聞いてほしいことがあると言った。
「ブラックマーケットで暮らしている子たちはさ、皆根っからの悪い人ってわけじゃないんだ。あそこでないと生きていけない人はいっぱいいる。だから僕はそう言う人が報われるような世界を創りたいんだ。この世界は、現実は苦しくて辛いことばっかりだ。頑張っても努力しても、少しの理不尽で何もかも失うことだってあるから」
エルナの瞳には強い意志が宿っている。その瞳の輝きに私は魅せられていた。それと同時に危機感を覚えた。私はエルナの心に少しだけ触れることができたからこそ分かった。
エルナは私を『大人』として『先生』として見ていない。エルナにとって私は救うべき『人間』の1人にしか見えていないということに気が付いたから。きっとこのままエルナが走り続けたら……。
そんなのは嫌だ……。
だけど間違っているとは言えなかった。ここで否定すればもう会うことは出来なくなると思ったから。だから私は何も言えなかった。
エルナが語る夢は子どもの夢物語。でもエルナは本気でそれを成し遂げようとしている。きっとそれだけがエルナの生きる理由だから。エルナの心は深い絶望と後悔に溢れている。それを否定すればエルナは生きることを止めてしまいそうだと思った。だから私は否定することができなかった。
私はエルナと向き合うことを恐れた。目を背け続けた結果が私の目の前に残酷な真実として目の前に現れた。
――*――
「どうして……ここに……」
乾いた声が口から漏れる。アツコを助けるために至聖所の入口の前に立っている少女。それは間違いなくエルナだった。エルナはニヤリと笑みを浮かべる。
「どうして? 本当は気づいてたでしょ? だって、あの時目が合ったんだから」
今から数日前のことだ。私は黒服と一緒に歩いているエルナの姿を目撃してしまい、エルナと目が合った。そしてその次の日からエルナと連絡がつかなくなった。私は見間違いだと思いたかった。でも、それは見間違いなんかじゃなかった。
「こんなのは何かの間違いだよね!? エルナは黒服に利用されているだけなんだよね!? だから私と……」
「先生!」
サオリが私に呼びかける。パンという乾いた音がして私の真横を銃弾が通過していく。エルナの右手には銃口から煙が出ているハンドガンが握られていた。
「2回目に会った時、名前なんてないって言ったよね。実はあれ嘘」
僕の本当の名前はミサンスロピスト。ゲマトリアの構成員で、君たちの敵だ。とエルナは言った。
「あの女の協力をするなんて嫌だけど、色彩は僕の目指す理想に必要かもしれない。だからここで君たちを止める」
「何を……言って……」
「先生、下がれ!」
「何でだよ……何で!?」
私の叫び声が響き渡る。それと同時にエルナが私に向かって銃を放つ。危ないとヒヨリが私にしがみついて押し倒すと、私がいた場所に銃弾が突き刺さって地面に穴が空いた。エルナは顔色1つ変えずにこちらへ銃を向けている。それと同時に私の前にサオリとミサキがフォローに入った。サオリが銃を構えて、エルナに向かって発砲しようとする。
私はそれをサオリにしがみついて止めさせた。
「やめて! エルナは……!」
「何を考えてるんだ!? やらなければこっちがやられるんだぞ!?」
「はぁ……情報を抜き取るために近づいたけど、まさかここまでとはね。でも、もう邪魔。消えて!」
「姉さん危ないっ!」
ミサイルが発射されて私の足元に着弾する。爆風によって私とサオリは吹き飛ばされて地面を転がっていく。その時に頭をうったのか視界がぐらぐらと揺れて、立ち上がることすらままならない。心配したヒヨリがこちらに駆け寄ってくる。私はふらつく足で何とかして立ち上がる。
「よくも……!」
「っ……!」
ヒヨリのスナイパーライフルから銃弾が発射され、エルナの体を掠めると、エルナが着ている白衣が血で真っ赤に染まっていく。しかしその傷跡はあっという間に塞がっていく。そのことに驚きを隠せなかったサオリたちだが、すぐに冷静さを取り戻し、攻撃を続ける。エルナは急所に当たらないように最低限の回避をしつつ反撃を行う。エルナが着ている白衣はもう完全に真っ赤に染まっている。
「これくらいどうってことないね」とエルナは余裕そうな表情でそう言うが、どう見てもやせ我慢にしか見えなかった。傷が回復するたびに、顔はどんどん青白く染まっていき、動きに精細さが欠けていく。恐らく傷の高速再生には相応のリスクがあるのだろう。このまま戦い続ければエルナが死ぬ。そう思うと私の足は勝手に動き出していた。
「もうやめて!」
急に射線上に飛び出してきた私を見て双方が慌てて銃撃を一度止めた。私はサオリたちの方へと振り返る。
「お願い、ここは私だけに任せてくれないかな?」
「何を言ってるんですか先生!?」
「下がって先生。でないと死ぬよ?」
「死なないよ! だってエルナには最初から勝つつもりないでしょ?」
そう言うとエルナはビクリと震えた。この戦いが始まってからずっと違和感があった。本気でエルナが私を殺すつもりなら、私はとっくにしんでいるはずなのだ。でも、そうなっていない。エルナは万全な状態でこちらは消耗している。その状態でここまでほぼ互角の状態が続いていることはおかしい。だって、私が今まで見てきたエルナはもっと強かったのだから。
つまりエルナはこちらの動きに合わせて互角に見えるように戦って、そして最後には死ぬつもりなのだ。
「エルナ……もうやめよう。私たちが戦うなんて間違ってる」
「間違ってなんかない! 僕の居場所はそっちじゃない! 僕は敵。だから戦わなくちゃいけないんだ!」
エルナのハンドガンから銃弾を放つ。しかし、銃弾は私の足元に着弾する。当てるつもりなんて最初からないみたいだ。ミサキがこちらに向かおうとするがサオリがそれを静止した。
「サオリ姉さん!?」
「ここは先生に任せよう。それにアイツの自殺にわざわざ付き合ってやる必要はないだろ」
「サオリ姉さん……」
私はエルナのほうに足を進める。エルナは銃弾を放つがそれは一発も当たらない。足元や体の横を通り過ぎていく。
「どうして戦わない!? 殺せばいいだろ! 僕は敵なんだぞ!?」
「殺すなんてできるわけない! そんなことできるわけない!」
「早く撃てよ! 敵は目の前にいるだろ!」
「嫌だ! 絶対に嫌だ!」
足を進める。そして私はついにエルナのすぐそばまでたどり着いた。エルナの瞳には涙が浮かんでいた。
「どうして……それに僕は敵なんだよ……それなのにどうして……」
攻撃が止まる。
「やめてよ……もう……やめて……来ないでよ!」
エルナが私にハンドガンの銃口を向ける。エルナはもう目の前まで来ている。エルナは撃たなかった。エルナの手からハンドガンが零れ落ちて地面に落下する。
「どうして……僕は敵なのに……」
「エルナが大切だから」
「僕に生きる意味なんてもうないのに……どうしてこんなことするの……?」
「生きる意味はこれから一緒に私と探そう」
「先……生」
エルナが崩れ落ちそうになるので、私はそれを抱きしめて支える。エルナは子供のように泣いていた。きっとエルナはずっと我慢していたのだろう。泣きたくて、ずっと立ち止まりたくて、でも歩いていないと自分が許せなかったから。私はエルナを力強く抱きしめて、安心させるように頭を撫で――。
丁度みんなの死角になる位置で、こちらに向かって銃を構えているベアトリーチェの姿が見えた。瞬間、世界がまるでスローになったように見える。私はエルナの体を引き剥がして、前に押した。
パンという乾いた音ともに私の丁度心臓のあたりに銃弾が当たって、そこで私の意識は真っ黒に染まった。
――*――
パンという音が響く。先生の胸のあたりから鮮血が散って先生が地面に倒れ込んだ。音がした方向に視線を向けると。ベアトリーチェがこちらに銃を向けていた。銃からは煙が上がっており、僕はこの現状が誰によってもたらされたものなのかすぐに理解した。
「先……生?」
「先生! そんな……」
「息をしてません!」
言葉が右から左へと流れていく。僕のせいだ。
「ミサンスロピスト、貴方が協力するからと様子を見に行ってみればこのざまとは……」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!」
髪の長い少女が激高してベアトリーチェに襲い掛かっていくのが見えた。僕はただそれを立ち尽くして見ていることしか出来なかった。この現実を受け入れることができなかった。
「あ……、あぁ……あああああああああっ!」
また僕のせいで誰かが死んだ。どうして僕なんかを庇って……。今にも狂いそうになるが、冷静に思考を回している自分がいて嫌な気持ちになる。先生の所へ駆け寄って、胸のあたりに手をかざすように置く。何をするつもりだと聞いて来るが今はそんなことを言っている場合じゃない。幸い銃弾は先生の体を貫通している。これならまだ間に合う。
僕にはもう1つ進めていた研究があった。それは死者を蘇らせること。研究は理論上可能というところまで進めることができた。でもそれは僕が願っていた形じゃない。
蘇らせることができるのは、死因は外傷によるものであることと、死後10分以内であることが条件だ。だからどうあがいても僕が蘇らせたいと願った人を蘇らせることは不可能だった。でも、先生なら蘇らせることができる。僕の手が光を放って先生の体に開いた穴を塞いでいく。
今僕がやっているのは神秘及び生命力の全譲渡だ。その代償は当然命と引き換えだ。
体に耐えがたい激痛が走る。まるで神経が血管が無理やり押し広げられ、空中の毛穴にドリルを突っ込まれたかのような痛みが走る。痛みで意識が飛びそうになるのを全力で堪える。徐々にではあるが、先生の顔色が血色を取り戻していく。様子を見ていた子も僕が今何をしているのか理解したのだろう。悲痛そうな表情で僕を見ていた。
そして僕の全ては先生に譲渡された。
それと同時に先生の鼓動が再び鳴り始めた。
あぁ……良かった……。
――*――
気が付けば私は真っ黒い暗闇の世界にいた。なるほど、ここが死後の世界というものか……。何て寂しい世界なんだろうかと私は思った。でも、私の選択に後悔はなかった。あそこで大切な人を守ることができたのだから。
「これは……光……?」
上から金色に輝く光が降ってくる。その幻想的な光景に思わず目を奪われる。
『本当は夢なんて綺麗なものじゃなかった。ただの義務感だった。だからそんなの忘れて先生とずっと一緒にいられたらってそう思った』
光の中から声が聞こえる。これはエルナの……。
『でも、それは無理なんだ。だって僕は人工的に作られた命で普通の人間より長く生きられないように設計されてるから』
「何を……」
嫌な予感がする。でもどうすることもできない。光が私の周りに集まっていく。それはまるで抱きしめられているみたいに温かく感じる。
『僕の全部を先生にあげる。だから先生はまだここで終わりじゃないよ』
息苦しさで目が覚める。目を開くとエルナが私を安心した表情で見下ろしていた。それと同時にエルナの体から力が抜ける。私がエルナの体を支えるとエルナは私の頬に触れようとする。
「良かった。助けられた……」
「エルナ!」
エルナの顔色は真っ白で、まるで死人のようだった。エルナの体に触れると恐ろしいくらいに冷たかった。
「ふふ、あったかいなぁ……良かったちゃんと生きてるんだね……さっすがぼく……てんさいだぁ……」
「エルナ! しっかりしてよ!」
エルナの体を揺らす。
「これで僕と先生はずっと一緒に居られる。これからは僕が先生を守るから……ずっと」
エルナの目が閉じていく。
「私もエルナとずっと一緒に居たい! だから……!」
「あはは……そっか……。最後にそれが聞けて良かった。……先生に会えてよかった……ありがとう先生……」
眠るようにエルナは目を閉じた。エルナの体から完全に力が抜けて、だらんと腕が垂れる。
「エルナ……? 嘘……だよね?」
エルナの体を揺らした。だが、何の反応もない。
「起きてよ! 返事をしてよ!」
呼びかけるが何の反応もない。頬を触っても何の反応もない。軽くたたいても何の反応もない。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ! どうしてこんな……!? 私の慟哭が周囲に響く。
「がっかりだわ。折角あのクソガキがもっと絶望した顔が見たかったというのに……こんな3文芝居にもならないような結末を見せられるとは」
ベアトリーチェが吐き捨てるようにそう言った。怒りで我を忘れるなんていう言葉が、今は理解出来そうな気がした。私はジャケットを脱いでエルナの体をそこに寝かせ、ゆらりと立ち上がる。
「ふざけるな……! お前だけは……! お前だけは絶対に許さない……!」
体に力が溢れてくる。これはきっとエルナがくれた力だ。ベアトリーチェとアリウススクワッドの生徒たちは私の頭頂部を見て驚いていた。
「どうして先生にヘイローが!?」
「一体どういうことなのですか!?」
頭の中に声が響く。
『さあ、呼んで……私の名を』
声の示す通りその名を呼んだ。
「マルドゥーク……セットアップ」
超高速で飛来して来たそれが私の体に装着された。私はずっと生徒たちを戦わせて自分は守ってもらう立場に居なくてはいけないことが嫌だった。でも、これで私は戦うための力を得た。これでようやく私は生徒たちと同じ視点で戦える。私はベアトリーチェを睨みつける。
「さあいくぞ」
私はベアトリーチェに向かって飛び掛かった。
――*――
結局私はベアトリーチェを取り逃してしまったものの、エデン条約を巡って起きた一連の騒動は無事に終結し、キヴォトスに一時の平和が戻った。
私はどうすればよかったのだろうか。どうすればエルナが死なずに済んだのかと考えてしまうことがある。でも、そんなことは無意味だ。だって時間は戻らないのだから。
シャーレの執務室にある鍵付きの引き出しの一番上を開ける。
「結局渡せなかったな……」
エルナに渡そうと思っていたプレゼントがそこにあった。誕生日がないと言っていたエルナに渡すはずだった誕生日プレゼント。鍵付きの引き出しを閉じて鍵をかけて、私はいつものように仕事を開始した。
この『結末』は、『選択』の結果産まれたものである。
先生は戦うための力を手にした。
それが幸せなことなのかは誰にも分からない。
ただ1つ言えることはこの世界で先生が心の底から笑うことはもう無くなってしまったということだけ。
―BAD END ①『届いた指先』―
おまけ
BAD END ①『届いた指先』 発生条件
1.エルナがどの学園にも所属していない。
そのためエルナの研究がうまく進んでいません。そのため少し自暴自棄になっています。
先生が他の生徒たちと仲良くなったうえで、エルナに紹介し、エルナとその生徒が仲良くなるとエルナに学園に入学するように誘うことが可能になります。
2.エデン条約前にエルナの正体を知ってしまい、エルナの好感度が最大になっている。
エルナの好感度だけを狙って上昇させ続けない限り、このルートに突入することは不可能です。
つまり先生は皆の先生ですから。特定の生徒ばかりに構ってはいけないということです。
3.エルナが自分の願いを話したときに、その願いを否定しない。
エルナと喧嘩することになりますが、エルナが死ぬという結末だけは変えることができます。
ただし、信じていた人に裏切られたエルナがどう思うか、エルナの目的が達成できなくなった時どうなってしまうのでしょうか……。