「預言?」
「はい。先生にお話するかどうか、悩んだのですが……話の種になるかと思ったので。」
ある日、サクラコに呼ばれて軽く現況報告をしていた。そこで話が尽きてしまったのか、サクラコが預言と口にした。
何でも、シスターフッドには、預言書なる物が置いてあるのだとか。見れる人は限られ、噂によれば、前身のユスティナ聖徒会の時からあるのだとか。
内容に関しては厳格に秘匿されており、サクラコとヒナタ、そしてマリーしか知らないらしい。それを話の種にするとは。信頼されてる証拠と取れば良いかもしれないが、もう少し危機感を持った方が、とは思ってしまう。
「……大丈夫なの?機密事項みたいなものでしょ?」
「大丈夫です。機密とは言いますが、秘匿するまで重大かと言われれば、少し怪しいものなので。」
…シスターとして、その発言はいいのだろうか。私自身、それをどうこう言うつもりなどはないが、体裁は大丈夫なのか、とは思ってしまう。
サクラコが良いと言うなら、何も言う事はないんだけど。
そう思い、「分かった。」とだけ答え、サクラコの言葉を待った。
「とは言いましても、理解が及ばないもので…。」
「預言って、そういうものじゃないの?」
「そうなんです。ですが……少々変でして。」
変、とは。
預言は、一見して「こんな事が起こるわけがない」という偏見が土台にあると思う。世界滅亡論や、外の認識しようのないナニカとか。リアルなものと、ファンタジーなもの。預言とは、そんなものだと思うのだが。
そういう点での変、でないのなら。私には分かりようはなさそうだ。
「……お見せしますね。これです。」
そうして見せられたものは、薄く束ねられた、古そうな紙の束だった。
──────
─函が浮上する。時空が歪む。やがて、色は世界を呑む。
─誘われるは異の黒。轟くは世界の嘆き。
─夢は遠けれど、道は潰えど。
─捻じ曲がる悲願は、此処に。
──────
そして、ページをめくると、もう一つ。
──────
─それは、神の憤怒の種。それは、理不尽への叛逆。
─堕ちた翼。昏い底に蠢く憎悪。
─異端なれど、世界は許容する。
─怒れ、怒れ。人が許さぬとも、──は赦そう。
─その想いを以て、夢より来たれ。
──────
「どうですか?」
「うーん……謎、だね。」
「そうなんです。」
何も分からない。それが、最初の感想だった。
一般的に使う言葉の意味を以て読み解こうとしても、何が何だか。何かに置き換えられているのではないかと、そう結論付けるのが早そうだと。捻り出すとしたら、精々それくらいか。
サクラコが言いたい事は分かった。
預言とは、当たる方が少ない。適当に言って当たるような、そんな簡単なものでは無い。天文学的確率で当たったとして、二度目は無い。だからこそ。これが果たして、そもそもデタラメなのではないかという疑念が拭えない。
このような難解な預言であれば、尚の事。
「……寧ろ、公開して探ったり、とかした方が良さそうに思うかな。」
「私も、最近そう思い始めてまして。」
預言とは、宗教的要素と絡ませやすいし、そこから自身の宗教の善しを説く事だって出来る。挙句には、自身の宗教の正当性の表明にも。
けれど、コレは秘匿されている。生徒から噂すら聞かない辺り、本当に厳格に。とすると、預言の効力は意味をなさない。私の言うような体裁で出せば、世間の声を丸く抑えながら権威を上げられる。
よく考えたものだ。が、何故コレを今まで隠し通していたのかが、疑問に残るところではある。そこはユスティナの生徒と、その子らから聞き伝手で知った人のみぞ知る、といったところだろう。
「私も少し調べてみようかと思いまして。先生も、もし時間がありましたら調べてみてはどうでしょう?」
「そうだね。今はちょっと微妙だけど、落ち着いたら調べてみようかな。」
解らない。けれど、どこか離れない。そんな不思議な預言を、私は呑み込んでいく。
──────
「…………色彩、か。」
色々と一人で調べている中、そんな言葉がこぼれる。
色彩。形容の無い、破滅をもたらすナニカ。無名の司祭らが崇め讃える、至高たるモノ。調べていくと、意外と分かった事があった。
恐らく、黒服とかいう奴らも掴んでいるのだろう。私はあった事がないので、どういう奴なのかは知らないが。先生は、「なんかもう、見た目から胡散臭いんだよね。」と言っていたが、本当なのか。
「アリスに黒服、色彩……。」
集めれば集める程、解決しなければならなさそうな問題は尽きない。アリスの件は、何となく糸口は掴みかけているものの。
……が、先生に伝えるべきか。どうも、悩ましい。アリスに関してを告げるのはまだしも、色彩については明確に危機となるかすら分からない。
ふと、外を見る。珍しく銃撃音は鳴っておらず、快晴の空が見える。曇る事を知らないように、燦々と照っている。肌を焼く感覚が、妙に敏感に感じられる。
「何も、起きないと良いんですが……。」
そんな戯言は、静かに消えていった。