昏く儚い復讐譚   作:Cross Alcanna

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狂人、されど思考す

 

「フフフ……ようやく、長年望んだ光景が。」

 

 

最後の駒も切り捨てた。問題ないと判断したから。

 

「絶対に謀反してはならない。」という、黒服の忠告を無視したのではない。アレは、間に合わない。もうじき、儀式は佳境を越える。そうすれば、私を止めようとも目的のモノは到来する。

 

私が死のうとも、私は勝つ。負ける要素など、残すものか。

 

 

「これが終わりさえすれば……()()()()()()。」

 

 

これは、比喩などではない。言葉の意味そのまま、終わる。残るのは、人が積み上げた文明の残骸(ガラクタ)が残るだけ。生命が残る可能性など、あってないような確率だろう。

 

こんな世界は、終わっていい。……いいや、終わらなければならない。()()()()()()()だ。

 

 

「……佳境を越えましたね。」

 

 

後は、アレが来るのを待つのみ。アレは、先生らでは止められないだろう。私や黒服でも、恐らく。

 

 

「……さぞ、浮かれた気分でいるだろうな。」

 

 

「…戻ってきたのですか。はて、何の用でしょう?」

 

 

「殺す。それだけだ。」

 

 

「私を殺したとて、最早アレの到来は止められません。無駄な足掻きですよ?」

 

 

()()()()()()。」

 

 

どうでもいい。彼は、そう言ってのける。世界の終わりが、どうでもいい?なら、ここに来る理由は何なのか。

 

…………いえ、その可能性が残ってましたか。

 

 

「お前を、殺す。」

 

 

その眼は、恐ろしく淀んでいた。

 

 

 

────────

 

 

 

剣を振る。銃を撃つ。殴り、蹴り飛ばす。目の前の肉塊を、殺さんとばかりに。考えている事と実行してる事が、何も結びつかない。最早、身体の制御もままならない。それ程、怒りを感じている。

 

怪物に成り果てたベアトリーチェ(クソッタレ)が、不死身と言わんばかりに再生を繰り返す。限度はあるだろうが、そろそろ煩わしい。

 

……倒せない事はない。厳密に言えば、存在そのものを消し去る事も、出来なくはない。しかし、その手段はあまり取りたくない。出来れば、後に取っておきたいものだ。

 

気付けば、ベアトリーチェの顔に苦の情が浮かんでいる。再生の限界が近いのか、煩わしさからくるものか。分からないし、別に分かってやろうとも思わん。

 

 

「無駄と分かっていて尚!何故私に刃を向けるのです!?」

 

 

ベアトリーチェにしては、感情の籠った声。それに含まれた怒気など、私からしてみれば可愛いものだが。

 

 

「用があるのはお前だけだ。その他の要素は何一つどうでもいい。」

 

 

「ちぃっ!黒服の忠告を排した結果、ここまでになるとは……!」

 

 

「肝心な所で間違える。いかにもお前らしい。」

 

 

今回もまた、コイツは間違えた。前回とは違えど、間違えた。最後まで臆病であれば、きっとコイツは勝っていただろう。力を得て、順調に事が進んだ。それが、臆病な彼女に慢心を生んだ。

 

ベアトリーチェ。やはりお前は、そうなるのだな。

 

 

「……もっと私について、識るべきだったな。」

 

 

死ぬその瞬間まで臆病であれば。……勿体ない。

 

 

 

────────

 

 

 

「っ……これは…………。」

 

 

凄惨だった。目を逸らしたくなる。カタコンベ最深部に着いたが、その景色は廃墟も廃墟。地面は割れ、ステンドグラスは粉微塵。道中で爆音や金属音がしていたのは、ここからの音だろう。

 

生徒は、唖然としている。何だこれはと、目の前の景色を理解しきれていない子もいれば、少しだけ身体が震えている子も。

 

私は、ベアトリーチェがいない事に気付いた。誰かが倒したのか、逃げられたのか。一部始終を見届けていない私には、結論を出す事は叶わなかった。

 

 

「……先生。ここを見てください。」

 

 

と、話しかけてきたのはユウカ。ここと言って指を指していたのは、壁であった。

 

それを見て、私はある事に気付く。

 

 

「……斬った跡?」

 

 

「はい。」

 

 

斬った跡。銃弾では絶対に入る筈がないであろう跡。注意深く周りを見渡すと、他にも大小様々な跡があった。弾痕もある。

 

ベアトリーチェが斬撃を使うだろうか。……多分、ない。このキヴォトスにおいて、私が遭ってきた敵の中で、斬撃を使うモノはせいぜい潜影くらい。その他に、そんな奴はいなかった。

 

ベアトリーチェは自分では手を下さない性格。そうすると、わざわざ自分が剣などの武器を持って斬りつける、なんて事は考えにくい。

 

誰かが、倒した。辿り着く結論は、恐らくこれ以外に無い。未知の敵か、或いは潜影か。

 

 

「…先生、どうしますか?」

 

 

「……折角来たんだ。少し辺りを調べよう。」

 

 

ここまで来て、何もしないで帰るのは得策じゃない。せめて、何らかの手掛かりを探さないと。私の頭は、それで埋め尽くされていた。

 

 

 

─結局、ここに来たのか。

 

 

 

「っ!?その声は……!」

 

 

静かな空間に伝う、鋭い声。聞き違える訳もない。

 

潜影だ。纏うローブは所々傷んでいる。……ベアトリーチェを倒したのは、潜影なのだろうか。

 

…いや、聞くまでもないのだろう。倒したのだ。倒してしまったのだ。その事実は、私達が対峙した時の絶望を一層煽る事になる。一足先に気付いた私は、独り絶望を覗いた。

 

 

「……今の私には、やる気が無い。お前達と戦おうなど、微塵も思わん。」

 

 

雰囲気や語気をガラリと変えた潜影の一言は、随分呆気なかった。今の潜影からは、やる気のない人間のそれしか感じ取れない。本当にやる気が無くなったのだろうか。…もし演技ならば、手を挙げて降参する他無い。

 

少しの沈黙が訪れ、潜影はひとりでに言葉を放った。

 

 

「……アイツの目的は、キヴォトスの終焉だった。ゴールこそ黒服と何ら変わらないが、過程が突飛だった。」

 

 

「キヴォトスの……終焉?」

 

 

「厳密に言えば、自身の生物としての格の昇華の先に終焉がある、と言えばいいかもしれん。」

 

 

あっけらかんと、キヴォトスのバッドエンドを述べる。私には、それが非常に受け付け難いものだったのだが、それを気にもとめず、つらつらと言葉を並べる。

 

 

「今回は、たまたま利害がお前達と一致しただけに過ぎない。次、敵となって相対しない保障は何一つない。」

 

 

それはそうだろう。潜影の目的が何か分からない以上、私達目線からしても味方に引き入れるのは、視野に入れづらい。

 

あっちが私達をどう評価しているのか。そこにかかっているのだろう。一応、”何がなんでも滅する対象”では無いのだろう。仮にそうであれば、利害の一致で同一の敵を倒すなんて事はしないはず。

 

良い関係を築けるかは分からない。ならばせめて、あまり刺激しない方がいいかもしれない。何が逆鱗に触れるのか、皆目見当もつかないのだし。

 

 

「…………せいぜい、呆気なく死んでくれるなよ。」

 

 

その言葉だけ残し、潜影の姿は消えた。

 

 

 

────────

 

 

 

「全く……だからあれ程言ったではありませんか。」

 

 

「……あそこまでとは、考えていなかったわ。あんな合理的な奴が、あそこまで非効率になりきれるなどと、果たして予想できるものですか。」

 

 

「それは否めませんね。」

 

 

ベアトリーチェが滅多打ちにあってから。我々のアジトに退いたは良いものの、目を付けられていないかと不安は残るものです。私は最後まで穏便に事を終えられたので、条件を破るだけであそこまで変わるのは私も知り得なかったのでね。

 

ただまぁ、ベアトリーチェから聞いた内容には、大層驚かされました。”衝動のまま動く生き物”か何かと感じるくらいに。会話が成立したところを見ると、理性まで崩れていた訳では無いようですが。

 

あの姿のベアトリーチェを相手取り、しかも想定よりずっと卒なく倒してしまうとは。先生の指揮下の生徒達でも、かつてない苦戦を強いられるはずなのですが。

 

……それよりも、です。これからキヴォトスは崩壊の危機に瀕するでしょう。それは、潜影も承知の上とみていいはずです。しかし、それを「どうでもいい。」の一言で済ましてしまう。何か、理由があるに違いないとみて間違いないでしょうね。

 

キヴォトスが残らなければ、潜影の目的(どんなものかは把握できていませんが)は達成出来ないはず。それに、その発言も僅かながらにも理性のある時に放たれた。

 

 

「……奥の手が?」

 

 

何かを、隠し持っているのでしょうか。私達ですら到達出来ていない、崩壊に対抗しうるだけの手段が。それを込みで計算して動いているのであれば、益々私達側に引き込みたいですね。

 

先生が”奇跡”を以て戦うとするならば、潜影は”頭脳”を以て戦うと言える。前者は脆い基盤ではあるものの、後者は中々に揺るがない。

 

彼女の言う通りに進まなかった未来は、僅か。彼女がいかに戦が上手いかが、最早この実績だけで分かる。それに加えて、怪物にも対抗しうる戦闘力。一体一でも多対一でも衰えないソレは、味方でないのにも関わらず賞賛してしまう程でしょう。

 

 

「フフフ……本当に、敵には回したくないですね。」

 

 

ベアトリーチェがいるというのに、笑みが零れてしまう。彼女を刺激してしまうだろうと理解していても、零れる笑みを抑える事は叶わない。

 

 

─あぁ。貴女は、こちら側のニンゲンでしょうに。

 

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