昏く儚い復讐譚   作:Cross Alcanna

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魔王は二人も要らぬ

 

「……ぅん……アリス…?」

 

 

「せ、先生……。」

 

 

目を覚ます。アリスは、既に目を覚ましていたようだ。他のゲーム開発部の皆も、どうやら起きていたらしい。

 

困惑するリオが視界に映る。が、先程まで対峙していた者の姿はない。

 

 

「う、嘘……アリスが……っ。」

 

 

「リオ、今はそんな事を言ってる余裕は無いんだ。潜影は?」

 

 

急かすように問い掛ける。しかし、返ってきた言葉は、私の予想を超えていた。

 

 

「潜影…?そもそも、ここに来ていないわ。」

 

 

「…………え?」

 

 

そんな素っ頓狂な声を出した時だった。突然、私達のいる空間が揺れる。微細な揺れでは無く、大きく地面を揺らした。立っていたのにも関わらず、尻もちをついてしまうくらいには。

 

何が起きていると皆が困惑に呑まれていた。勿論、私も例外ではなく。リオは、未だ困惑の色を浮かべている。どうやら、リオの仕業ではないらしい。

 

…そうなると、誰が?

 

 

「先生!窓を見て……!」

 

 

そう言われ、私もリオも窓を見る。

 

 

「…何だ……アレ。」

 

 

驚きの中、必死に絞り出した声。それは、窓の外の存在の咆哮に掻き消される。

 

獣のような頭を三つ備えた、巨大な機械。ビナーが蛇っぽいと言うなら、アレは犬や狼の類いだろうか。

 

 

「…天童よ。……いや、自称魔王よ。」

 

 

「!!」

 

 

部屋の入り口から声がした。その場にいる全員が振り返る。

 

 

「こういう力の使い方が、魔王だ。覚えておけ。」

 

 

潜影。完璧なタイミングで、私達の前に現れる。

 

……いや、潜影には構っていられない。ここが壊される前に、あのデカブツをどうにかしないと。

 

 

「皆!まずはアレを何とかしよう!」

 

 

『はいっ!!』

 

 

私の声と共に、皆が戦闘態勢に入る。潜影がアレを用意したのだとか、数々の疑問は残るものの、今は構う暇は無い。アレを仕留めない限り、ミレニアムが危険だ。

 

 

 

────────

 

 

 

「……随分、テンションが上がっていたではないか。」

 

 

「いや……ふむ。そうだな…これからの事を考えると、ついな。」

 

 

呼んでおいたファルストの場所に向かい、私もその場に腰掛ける。ここならば、あの番犬の被害は及ぶまい。仮に巻き込まれたとして、大した被害を被る事も無いだろう。

 

ここからならば、いい見世物を観れるだろう。

 

 

「何故、ワシを呼んだ?彼奴らを討つだけならば、ワシを呼ぶ必要なぞなかろう。」

 

 

「……一度は、アイツらの実力を見ておく必要があるだろう。アイツらは、平気で状況をひっくり返すだけの実力と、奇跡がある。」

 

 

「ほう……何も考えていない訳ではなかったのか。」

 

 

私をなんだと思っているのか。

 

それに、ファルストはキヴォトス連中の実力を深く知っている訳では無い事を、知っている。だからこそ、目に焼き付けておく必要があるだろう。有り体に言えば、敵情視察だ。

 

それに、あちら側からしてみれば、総力を以て対峙すべき相手。出し惜しみなど、余程の最終兵器以外はしまい。目的と照らせば、悪くはないだろう。

 

 

「……とはいえ、そこまで苦戦せんのではないか?パッと見て分かるが、強化を施してないだろう?」

 

 

「流石の観察眼。…そうだ、あれはあくまで未調整個体(実験体)。この戦闘で後の強化具合を決める。」

 

 

「……貴様、つくづく羨ましい程の技術力を持っているな。脳でも見れば秘訣が分かるかね?」

 

 

「止めろ、グロい。」

 

 

そんな雑談を交わし、視線を爆音の方へとやる。いつの間にか、C&Cとやらもが参戦している。

 

……誤算だった。C&Cを引っ張り出せたとはいえ、それ以上を引き出す事にならなさそうだ。正直、他学園の援助くらいは呼ぶとばかり思っていた。だが、あの先生とやらは、ミレニアムだけで倒しきるつもりらしい。死線を越えて、私の想像以上に強くなったのか。

 

……そこまで成熟しているとは、考えていなかった。もう少し、強くしておくべきだった。

 

 

「……計算が、少し狂った。行くぞ。」

 

 

「ほう?顔合わせでもするのか?」

 

 

「いや、もう少し待つ。思いの外、調整が必要そうだからな。」

 

 

本当であれば、ここで宣戦布告の一つや二つをしようと考えていたが、今するべきでない事が分かった。

 

が。

 

 

「…先に帰ってくれ。やるべき事はここに書いた。」

 

 

「貴様は?」

 

 

「……種でもまいておこうと思ってな。」

 

 

 

────────

 

 

 

「はぁ………はぁ…。終わった……。」

 

 

どれだけの時間が経った事か。身体も、とうの昔に限界を迎えていた。それでも、何とか。身体が地面と接する前に倒しきれた。

 

皆を見る。全員が、肩で息をしている。疲弊感を感じていない子は、恐らくいないだろう。

 

今までにあまり見なかった、近接系の敵。仮に以降もコレが敵対するとしたら……。あるかも分からない未来の心労を考えると、不安でしかない。

 

何故、潜影がこんなモノを従えているのか。私の中の疑問は、これに帰結した。今までの潜影は、自分からこうしたモノを従えようとする気概が感じられなかった。黒服やベアトリーチェなどと行動を共にし、逆に従っているような振る舞いをする。

 

違和感が残る。目的が変わった?だとしたら、目的は何なのか。”解らない”が脳を支配しようとする。

 

 

「…誤算だった。他学園の生徒を呼ぶと思っていたのだが。」

 

 

「っ!?」

 

 

しまった。コイツを倒したという事は、それを従える潜影もいる。……これ以上の連戦は、キツい。私含めて、皆が満身創痍。闘うだけの気力も体力も、残っているか怪しい。

 

 

「……闘うつもりは、ない。ケルベロスの調整も必要だしな。」

 

 

ケルベロス。恐らく、私達が倒した敵の事だろう。よくよく見れば、ケルベロスと聞いて思いつくイメージと合致している気もする。不思議と、納得できた。

 

…調整が必要。潜影は、確かにそう言った。その発言からして、潜影が作ったモノでほぼ間違いないみたいだ。

 

と、すると。下手をしたらミレニアム程の技術力を持っている事になる。それは、私達からしてみれば恐怖でしかない。

 

緊張は、まだ解けそうにない。

 

 

「…目的は、何なの!?」

 

 

静寂な空間を破るように、モモイが言い放つ。

 

 

「……まだ、教えるつもりは無い。が、遠からぬ内に分かる。嫌でもな。」

 

 

淡々と、そう言ってのける。真剣に思考を巡らせる私達を、さもくだらないと嘲笑うように。

 

……けれど、私達の命は潜影の掌の上。気が変わったとなれば、今の私達では抵抗なんて出来たものではない。彼にとって私達とは、そんな存在なのだろう。そびえ立つ壁になり得ず、ただ煩わしいだけ。

 

 

「…これ以上、話す事もないか。」

 

 

また一つ、冷たい言葉を放つ。彼の一言一言が、酷く鋭くて冷たい。

 

 

「……いや、一つだけあったな。」

 

 

笑んだような声で、彼は言う。

 

 

 

─その時まで、死んでくれるなよ?

 

 

 

およそ、優しさの欠片も感じ取れなかった。

 

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