昏く儚い復讐譚   作:Cross Alcanna

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Lost Archive 独りの死闘、叶わぬ夢に手向けの華を
殉礼の鐘は鳴る


 

「……ここが。」

 

 

「…む?貴様は……。」

 

 

私が芸術品を手掛けていた時だった。後ろから、声がした。振り返ると、恐らくこのキヴォトスでは見た事のない姿をした誰か。

 

……いや、違う!何故、何故!私は、コイツを知っている!

 

 

「何故、貴様がいる!」

 

 

「……うるさい、黙って。」

 

 

そう淡々と言ってのけたソイツは、私に銃口を向けた。

 

貴様がこの世界に干渉するだと!?そのような横暴、許されて良い訳がないだろう!

 

 

「ならば!我が芸術の糧になるといい!貴様などという異分子、私が白紙にしてやろう!」

 

 

緊急ではあったが、しかしこうした時のためにと用意していた作品。先生に提示しない事は悔やまれるが、止むを得まい。

 

アレは、ここで消さねばならない。()()()()()()()()()()()()

 

 

「ゆけ、アウグスト!不文律を亡き物に!」

 

 

祈る時すら与えぬ。願う瞬間すら齎さぬ。私の”崇高”に、こやつは不要だとも。

 

救われぬと思え、並行世界からの刺客ども。

 

 

 

────────

 

 

「始まったか。」

 

 

「始まった?まだ対した戦など、起きてはおらんぞ?」

 

 

「……いや、色彩の手足達と教父の皮被りが衝突している。恐らく、マエストロはもたんな。」

 

 

遠巻きでその光景を観ながら、私はそう零す。まるで他人事だが、実際他人事だ。それに、恐らく黒服かゴルコンダ辺りがどうにかする事だろう。わざわざ、心配してやる必要などないだろう。

 

……しかしまぁ、全部作り上げていたとは。…いや、気に留めるだけ無駄か。気にしたところで、何が変わる訳でもない。

 

ただまぁ、救済を下す者の名を与えておいて、その実、恐怖を齎す存在になっている所は実に皮肉がきいている。あれを芸術と言ってのけるマエストロの感性は、最期まで理解できそうにはない。

 

面白いとは思う。外から笑う分には、実にいい。

 

 

「…………ッ!」

 

 

瞬間、予期せぬ衝撃。それは、先の衝撃とは反対の方向から。そう意識する瞬間には、耳をつんざく音。いわば、笛の音。

 

動き出してしまった。マエストロの作品との衝撃が、起動のキーになってしまったのだろうか。せめて、もう少しの疲弊を見計らいたかったのだが。

 

ヘイムダル。ある作戦の為に、ファルストと共同で手掛けた兵器。兵器といっても、ハッキングのような小細工は効かない。仕組みとしては、あの杭と同様。出来るとしても、神秘を持たない者に限られる為、ミレニアムのハッカー等ですらどうにも出来ない。

 

特徴としては、見上げる程の巨躯と笛から鳴らす轟音。生命の神経に作用するその音は、聞く者の動きを格段落とす。あの音量からして、恐らくキヴォトスのどこにいても影響を受けざるを得ないだろうか。我々は、既に対策済みだが。

 

あの笛には、ギャラルホルンと名付けておいた。他意はない。

 

 

「…予定変更だ、ファルスト。アレの調整をしないと、本格的に予定が狂う。」

 

 

「アレ……もう片方はいいのか?」

 

 

「最悪、アレさえ起動しなければ何とかなる。まだ、アレを動かすのは早すぎる。」

 

 

「……ならば、急がねばなるまい。」

 

 

ファルストに先に行くよう指示を出す。意図を汲み取ったらしい彼は、気付いた頃には私の横を去っていた。

 

私の目的。

 

私の存在理由(レゾンデートル)

 

私の、信念。

 

 

「これ以上、折られてたまるものか。」

 

 

フードを、深く被る。そして、私は歩き出した。

 

 

 

────────

 

 

 

「これはマズイ……。」

 

 

ヴェリタスの皆が開発した超耐性ドローンから届く映像を見て、私はそう言葉を漏らす事しか出来なかった。

 

怪物を(恐らく)従えているマエストロと、それに応戦する誰か。不思議と、見覚えがある見た目をしている。見たところ、拮抗している。

 

それだけなら、まだよかった。もう一台、別の場所に飛ばしているドローンから送られる映像にも、ソレは映っていた。笛と思われる何かを鳴らし、その巨躯を浮かせて進む巨大兵器。その音は、距離の離れたここまで届く始末。酷く不気味で、身体が拒む音。

 

強いて言うなら、マエストロとぶつかってる勢力が、ゲマトリアと敵対している可能性がある事くらい。あの轟音を響かせているアレについて、何の朗報もないのがもどかしい所。

 

 

「…全学園が連携する必要があるね。」

 

 

「そうでしょう。ビナーやゲマトリア、エデン条約の時ほど状況は優しくないですし。」

 

 

ナギサの言う通り、今までの状況以上に宜しくないスタートになってる。今までは、何だかんだ黒幕はある一点に収束していった。目の前の事を全力で当たれば、何とかなった。

 

しかし、そうもいかなそうなのは、流石の私でも分かる。ゲマトリア、ゲマトリアの敵対勢力(憶測の域を出ない)、巨大兵器。せめて、一つくらい選択肢が消えてくれれば。

 

取り敢えず、まずどうにかしないといけないのは…………。

 

 

「…巨大兵器、かな。」

 

 

「そうだね。…うへ〜、あれを相手しないといけないのかぁ。」

 

 

「そんな事言わないで下さい!……と、本当なら言いたいんですけど…。」

 

 

いつも通りに面倒くさがるホシノをなだめるアヤネ。しかし、そのなだめも言い淀む程、相手は一筋縄ではいかない。ただデカくて強いだけなら、ミレニアム総動員でどうにか出来るかもしれなかった。

 

しかし、現実はそう上手くはいかないようで。

 

 

「……やっぱり効きません。遠隔でやれる範囲でハッキングを試みてはいますが、そもそも内部にまで到達出来そうにないですね。」

 

 

ヒマリから返ってくる返答は、変わらなかった。天才を自称するヒマリだが、ハッキングや心理戦においては、言葉通り天才といって差支えは無い。どこから人材を連れたとして、果たして超える者はいるのかと思うくらいには。

 

……最早、アクセスそのものを拒絶するように出来ているのではないか。そんな仮説が頭をよぎる。訳が分からない高性能な機械がそこらにあるキヴォトスでも、そんな訳分からない性能は見ない。

 

…そう考えると、アレは本当に何なのか。いよいよ、未知の技術を使っていると言ってくれた方が信用できる。

 

 

「直接、叩くしかなさそうだね。」

 

 

何度も考え、色んな角度から検証して導かれる結論は、やはりこれだった。

 

どれ程強いのかも分からない。どんな性能なのか。誰が作って誰が操っているのか。分からない事しかないとしても、結局は打破しないといけない。なら、正面突破しかないのでは無いか。どうしても、ここに行き着いてしまう。

 

一直線だけの迷路を、深く勘繰っているような錯覚に陥っている。

 

 

「……皆、やろう。私も不安で仕方ないけど、これ以上放置する訳にもいかない。」

 

 

「…やれるだけやってみるのも、有効かもしれない。もしかしたら、それが最有力かもしれない。」

 

 

ヒナの一言もあり、皆が同意の意思を示す。それを見た私は、すぐさま編成を考え始めた。

 

…………ルシアは、大丈夫かな。

 

 

 

────────

 

 

 

「………ひとまず、これで誤作動は免れそうだ。」

 

 

「…アレは、もうじき動きそうだぞ。」

 

 

「耳の痛い事を言うな。ここまで予定が狂うと、クるものがある。」

 

 

調整が終わり、どうにか誤作動しないようプログラム出来たのを他所に、ファルストが耳の痛い言葉を放つ。茶化しながらも、僅かな安堵の時間に耽る。

 

……何故、ここまで予定が狂うのか。あの衝突も、そもそもマエストロがアレを完成させていた事も。後者はまだしも、前者は想定外過ぎた。アレがなければ、もしくはあの勢力の到来場所が違えば、もっと上手く事が運んだはず。ここまで、私に都合の悪い方向に進む事は、偶然か?

 

いつぞやかに話したゴルコンダとの会話で挙がった話題を、ふと思い出した。

 

 

─この世界では、テクストが強く作用している。それも、匣庭に不都合な存在に対しては特に強く。

 

 

思い返して思ったが、確かにそうかと考える。黒服の計画断念やベアトリーチェの計画失敗(あれは詰めが甘かったようにも思うが)等々、当てはめようとすれば当てはめられるだろう。

 

腹立たしい。

 

が、冷静を保たねば。情に身を委ねたところで、全てを滅ぼすだけ。格好の例を、ベアトリーチェが見せたではないか。

 

まだ、出てはならない。あの兵器を、ましてや全ての兵器を。アイツらが下せるとは思えない。終焉を知らせる笛の所有者、大別された大罪の化身、果てには……。

 

 

「必ず、終わらせる。」

 

 

この、殉礼を。

 

 

 

─破滅の調律を奏でる者 HEIMDAL、起動(開演)

 

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