昏く儚い復讐譚   作:Cross Alcanna

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祈りと赦し

 

「ミサキっ!」

 

 

「分かって…る!」

 

 

ミサキの持つセイントプレデターから夥しい数のミサイルが発射され、巨大兵器に着弾する。濁った煙が立ち、兵器の姿がなくなる。

 

 

「っ……どうなってんの、あの装甲……!」

 

 

しかし、煙が晴れて見えた景色は、煙る前の光景と変わっておらず。有効打を加えている気配など無く、思わずミサキから愚痴が零れる始末。

 

愚痴をどうにか呑み込んだ私だが、弱音や愚痴の一つくらい吐いてしまいたい。何せ、戦闘に入って数時間は経過しているのだ。それでいて、相手はほとんど無傷。ダメージが全て無効化されていない事から考えるに、微量ながら効いてはいるのだろう。

 

その事実が突きつける、途方のなさ。こちらの精神と体力が、果たして保つのだろうか。

 

 

「弱点らしい弱点……どこかにあるはず。」

 

 

弱点が無い敵は、存在しない。生命体であれ有機物であれ、知らないだけで弱点が無いモノはいない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。いつかに、ルシアが言っていた事だった。完全無欠な存在がいれば、その存在による独裁征服が完成してしまう。世界という仕組みが、それを許さないとも、言っていたような。

 

戦闘が始まってから、弱点看破に注力しているものの、それらしい場所は見つからない。あの装甲の中に弱点が隠されていると私は踏んでいるが、その装甲に苦戦している。倒す目処が、未だ立ちそうにない。

 

 

─突如の挨拶、申し訳なく思います。

 

 

後ろから、聞き馴染みのない声。

 

ゴルコンダだった。そして後ろには、どこか見覚えがあるような無いような姿の子。私の疑念を置き去り、言葉を続けるのは、ゴルコンダ。

 

 

「私の目的が気になる事でしょう。しかし、安心を。我々としても、この匣庭が失われる事は避けなければならない事項。ですので、些細な助け舟を。」

 

 

そうゴルコンダが言った瞬間、ただならぬ風圧が辺りを包む。それを認識したすぐ後には、背後から機械を斬りつける音が鳴る。

 

 

「何でもあの少女、かなり特異な存在なものでして。この状況を打開するキーマンになると思いますよ?」

 

 

「そういうこった!」

 

 

なんとまぁ、不安で頼りになる事か。ゲマトリアに感謝しようと思う瞬間が、非常に不服ではある。

 

 

 

────────

 

 

 

「あれは……おい、潜影?」

 

 

「チッ!ここにきて、最大の抑止力かっ!どこまで邪魔をすれば気が済むという!?」

 

 

見れば、潜影がかなり苛ついている様子。今までにこのようなコイツの姿を見た事はなかった。感情の起伏が分かる唯一の方法と言えば、声色から判断するくらいだろうか。そんな奴が、怒鳴り散らかすように声を荒げている。

 

正直、ワシも驚いている。

 

 

「…………済まない、大分取り乱していた。」

 

 

「別に構わんが……貴様も大きな感情があるんだな。」

 

 

「表に出さないだけで、普通にあるとも。」

 

 

バツが悪そうに、ワシと会話を続ける潜影。その豹変の様は、最早人格が変わったとかいう類いではないのだろうか?

 

……そういえば、ワシはコイツと契約する時、”研究の邪魔をしない事”を条件にしたような気がするが、何故ここまでコヤツに肩入れしているのか。…分からん。普段であれば「研究に関係せんもんはやらん。」と一蹴するはずなのだが。

 

…まぁ、どうでもよいか。ワシが良いと思っているなら、恐らくそうなのだろう。……まさか、コヤツが意識操作しているとかではあるまいな?頓珍漢な事をやってのけるコヤツならば、出来なくは無いだろう。

 

つくづく、恐ろしい奴よ。

 

 

「して、どうする?あのままでは、突破されかねないぞ?」

 

 

「…だな。今は撤退を選択するだろうが、討たれるのも時間の問題だろうな。」

 

 

そう言いながら、考える素振りを始める。ワシとしては、アレを起動してもいい頃合いな気もするのだが。ヘイトが云々と言う辺り、やる事の真意を見破られたくないのだろうか?手伝いをしてはいるが、ワシもコヤツの真意は分からない。

 

目的が壮大な事くらいは、何となく分かるのだが。

 

 

「……戻る。然る時まで、あそこにいるのが吉だと思う。それに、想定外が多すぎる。起動を取りやめたアレを起動させないといけないかもしれん。」

 

 

あまりにも、不都合すぎる展開が続いている。最早、私の尺度で測るのはあまり効果的に事が運ばない事も考えるべきだろう。ここらで潰す、位のつもりでいなければならない段階に足を踏み入れつつある。

 

…もう片方は、じきに勝手に動き出すだろう。ヘイムダルと違い、アレには明確にキヴォトスを狙うようプログラムしてある。敢えて、特定の学園を指定していない。状況を荒らすなら、何でもいいとふんでいるからだ。

 

……待っていろ、─────。

 

 

 

────────

 

 

 

「……ゴルコンダがいる事について問いただしたいのは山々だけど」

 

 

「そうですね。あそこではまともに話も出来ませんでした。私のような身でこのような場に足を踏み入れるのは気が引けますが……。」

 

 

そんな事を言っている場合ではないだろう。分かっていて言っているのだ、目の前の紳士(人でなし)は。

 

私達の助けになる、とは聞いたが……何がどう助けになるのか。そもそも、この子は誰なのか。聞かなくてはいけない事だらけ。……いや、それ以上に聞いておく必要がある事が。

 

 

「…ゴルコンダ。お前の目的は?」

 

 

「そんな切羽詰まった表情をなさらずとも。先程から言っている通り、私達ゲマトリアは今の先生方に敵対する気はありません。」

 

 

「……じゃあ、あの兵器は?」

 

 

「私は知りません。少なくとも、ゲマトリアの誰かが主導権を握っている事はないです。……マエストロと敵対した勢力側なのか、はたまた別勢力なのか。」

 

 

その先は、語らなかった。顔があれば、もしや苦い表情を浮かべていたのだろうか。全貌は掴みあぐねているように聞こえた。

 

 

そんなゴルコンダを一度視線から外し、正体不明の子どもに目を向ける。

 

 

「君は、なんていうのかな。」

 

 

「私ですか?言祝(いのり) ルシフです!」

 

 

印象的な名前だ。

 

どこか、誰かに似ているような気が。

 

 

「…………言祝さん、その本は?」

 

 

偶然合流したサクラコが、突然そんな質問を投げる。その言葉を聞いてルシフの手を見ると、本が一冊。

 

…あれ?この本、サクラコと見た予言の書物?どうしてこの子が?

 

 

「これですか?気付いた時には持ってました!」

 

 

「気付いたら……そうですか、ありがとうございます。」

 

 

質問に答えたルシフを撫でるサクラコ。それが心地よいのか、「えへへ……!」と言いながら満足気な表情を浮かべるルシフ。

 

 

「…っ!そうです!そうですよ先生!」

 

 

その光景を眺めていると、横から急に大きな声をあげるユウカ。ビックリしたぁ。

 

 

「ルシアさんです!あの人の名前とほとんど瓜二つじゃあないですか!?」

 

 

「…………あっ。」

 

 

そうか、そうだ。やけにデジャヴな気がしていたのは、そのせいだ。何で今の今まで気付かなかったのか、という疑問は一旦捨て置くとして。

 

その事を踏まえてルシフを見てみる。

 

……似ている。髪色や口調を少し変えれば、ほぼルシアと同じ見た目だ。モモイとミドリレベルに似通ってる訳ではないが、人によっては姉妹と見間違えてもおかしくないだろう。

 

 

「……ルシフという生徒についてはさて置き、発見した経緯が些か不思議でしてね。」

 

 

今まで口をつぐんでいたゴルコンダが、口を挟み始める。その経緯とは、こんな感じだった。

 

ミレニアムの件から少し経って、トリニティ付近の郊外の路地裏に横たわっていたのだとか。その不思議さに拍車をかける事として、傷一つ付いていなかったらしい。このキヴォトスで、路地裏で傷一つ付かずに戻る事は、普通に大変だ。ましてや、意識もなく横たわっていたとなると。

 

何かに守られていたのだろうか。だとしても、それが何かは分からない。

 

 

「それに彼女、とても不思議な事が出来ましてね。」

 

 

「…………不思議な事?変形するとか?」

 

 

「そこまで奇想天外ではありません。……が、完全に間違いとは言えませんね。」

 

 

当てずっぽう、しかも絶対外れるだろう意見は、意外や意外。正解に類似しているのだとか。

 

マジか。

 

 

それを聞いて、私はルシフにそれをするよう頼んだ。それを快く受け入れたルシフは、私達の目の前でそれをしてのける。

 

 

「これは……剣?」

 

 

「えぇ。しかも、ここに何か彫られていまして。」

 

 

「えっ?……あっ!ホントだ!」

 

 

本人も知らなかったようで、ルシフも驚いている模様。ただ、私の分からない言語で記されていたので、何と記されているのかは分からなかった。

 

それを悟ったのか、ゴルコンダが言葉を紡ぐ。

 

 

「何語で彫られているかは、この際語る必要はないでしょう。それは、こう書かれています。」

 

 

 

─赦しのキリエ、と。

 

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