昏く儚い復讐譚   作:Cross Alcanna

32 / 35
審らかならざる罪、粛清の方舟

 

「くっ……ここまでの実力…色彩だろう!」

 

 

「……煩い、黙って。」

 

 

気付けば、私の芸術もかなり消耗していた。打ち倒されてこそないものの、これ以上の損壊は見過ごせない。

 

強い。色彩から得た力であろうと、血みどろの努力からくる力であろうと。ここまで圧倒されてしまえば、いくら私であろうと、出るはずのない溜め息を零したくなる。

 

 

「…そこ。」

 

 

「っ!貴様…ァ!」

 

 

僅か。ほんの僅かな隙をぬって、私に銃弾をねじ込む。相当な苦痛が、私の身体を巡る。その痛みと共に、目の前の小娘に対する怒りも湧き出る。

 

倒さねばならない敵、理解の領域を超えた存在、許されていない異常(バグ)。仕留めねばならぬというのに、叶う未来は遠い。

 

 

「随分と消耗してますね。助けますよ。」

 

 

「……黒服か。」

 

 

どこからもなく、黒服が横に。普段であれば、皮肉の一つや二つをくれてやるところだが、今は素直に受け取る事にする。既に、満身創痍であるから。

 

 

「隙を作って下さい。後はどうにかします。」

 

 

「ふっ!そのくらい、出来るとも!」

 

 

私の芸術(アウグスト)を、残り僅かの気力で操る。倒す為ではない、惑わせる為の攻撃。

 

さぁ、踊るといい。魅せる戦いは、得意だとも。

 

 

 

────────

 

 

 

「先生!」

 

 

ルシフについて考察し、ヘイムダルについて対策を練っていた頃。妙に切羽詰まったような声色で、私を呼ぶハスミ。何事かと、その場の一同は焦りを浮かべる。

 

その中で、ゴルコンダは険しげな雰囲気を纏う。

 

焦燥気味のハスミを宥め、何があったのかと聞いてみる。

 

 

「トリニティが……敵に襲撃されています!」

 

 

その言葉を聞いて真っ先に顔を歪めたのは、サクラコ。幸い、ナギサは既にトリニティに戻らせていたので、トリニティが緊急事態に対して機能しない、という事態は免れた。

 

とはいえ、緊急事態である事には変わらず、対処は慎重に決めなければ。

 

 

「敵は?」

 

 

「…一個体が多数の敵を従えている様子でした。」

 

 

ケセドのような感じと捉えて良いのだろうか?だとすれば、トリニティでも対処可能にも感じる。が、ハスミの焦り様からして、それで済まない敵なのだろう。

 

とにかく、ハスミの言う一個体について知る必要がある。

 

 

 

────────

 

 

 

「救護が必要な方はこちらに!自力では困難な人は、我々が!」

 

 

「アズサちゃん!そっちの援護をお願い!」

 

 

「分かった!」

 

 

「……熾烈、ですね。」

 

 

私は先程まで、巨大兵器との戦闘をしていました。先生に言われてトリニティに帰ったのも束の間、ミネさんから敵の知らせ。休む間もなく、指揮に。

 

思わず、熾烈という言葉が漏れてしまうのも、無理はない。何せ……。

 

 

「あ〜もうっ!数が多過ぎる〜!」

 

 

「ミカさん!文句言わないで下さい!一番叫びたいのは私なんです!」

 

 

()()()()()()()()()()()なのです。しかも、先生について行っている人を除いて、凡そ全員を動員して。少し気を緩めれば呑まれてしまいそうな、数の暴力。

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()が、目の前にあった。

 

それは……。

 

 

「っ!コハルちゃん!」

 

 

「え?………きゃぁ!?」

 

 

圧倒的な、個体。形も性能も、連れている数多とは違う。一つだけが、異様に洗練されている。剣のようなモノを携えているソレは、あの巨大兵器と似た雰囲気を感じる。

 

近距離戦をしようと近付けば、その剣を振るいながら肉薄。銃撃戦に持ち込もうとして距離を置けば、光線や背中の武装から鉛玉の嵐。その上、スナイパーやサポートにまで注意を向けるときました。

 

……嗚呼、どうしたらいいのでしょう。勿論、トリニティの生徒を信用していない訳ではありません。が、信用を強さがねじ伏せてしまっているのです。無闇矢鱈に、キャンパスに黒を塗ったくるように。

 

…せめて、周りの敵をどうにか出来れば。それが出来さえすれば、解決の糸口が見える気がするのですが。

 

 

「はぁ…………こんな者達に力を貸すのは、だいぶ気が引けるのですが。」

 

 

その声が、どうしてここで聞こえるのか。

 

ベアトリーチェ。アリウスを利用し、トリニティとゲヘナを混乱の渦に巻き込んだ張本人。

 

いるべきではない、大人。

 

 

「何故、貴女がここに……!」

 

 

「勘違いなさらないように。この世界が私以外の手で滅ぶのが気に食わないだけです。あくまで、私とゲマトリアの総意です。」

 

 

ゲマトリアの総意。つまり、ゴルコンダという大人が私達と敵対しなかったのも、偶然ではなかったのでしょう。とするならば、先生が懸念していたゲマトリアとの衝突は杞憂になりそうです。

 

等と考えていると、ベアトリーチェが口を挟んでくる。

 

 

「考え事ですか?随分余裕ですのね?」

 

 

「こちらも、考えを巡らせるので手一杯なんです……!」

 

 

とはいえど、戦力が増えた事は、紛れもなく朗報。打倒の目処が立てられるかもしれない。

 

 

「ベアトリーチェ、貴女は取り巻きを始末してください。足りなければ、何人かそちらに回すので。」

 

 

「……言いますね、貴女。いいでしょう。大物を狩れない、などという事態は止めてくださいね?」

 

 

「言われなくても、そのつもりです!」

 

 

かの敵と組む事は真に不服ですが。今は四の五の言ってる場合ではありません。

 

トリニティを守れずして、何がティーパーティー代表でしょうか。

 

 

 

─異界に定まりし大罪の化身、SIN Ⅶ(シン=セヴン) 起動(断罪)

 

 

 

────────

 

 

 

「…………遂に、SINとも衝突したか。」

 

 

始まった。始まってしまった。ここまでくれば、最早戻る事は出来ない。元より、戻るつもりなどない訳だが。

 

この地で、このキヴォトスで。かつてない死闘が巻き起こる。紛れもない、私のせいで。後悔はない。未練など、微塵も無い。

 

……この闘いで起こる結果が何であれ、私はそれを受け入れよう。目的を果たせれば万々歳だが……キヴォトスの事だ、滅亡の運命すら捻じ曲げてしまい得るだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「動かすのか?この要塞を。」

 

 

「……あぁ。」

 

 

「…………良いのか?起動してしまえば、貴様の未来は無いぞ?」

 

 

「構わん。…元々、この時の為だけに生きていたようなものだ。」

 

 

その言葉を聞いたファルストは、どこか不満気な表情を浮かべていた。ゲマトリアらしからぬ、感情を持った表情。

 

…何故、今更になって懐かしくなるのか。そんな感情は、とうの昔に捨て去った筈だというのに。

 

 

「…これで、貴様との契約は終了だな。」

 

 

「あぁ。……後は、好きにするといい。」

 

 

「…………成功、する事を願っとる。」

 

 

それはどうも。

 

 

 

────────

 

 

 

「…っ!?この揺れは…!?」

 

 

マエストロと黒服を仕留めそこねた。そして、次に狙う標的を決めていた時。地面が、揺れた。

 

ただならぬ揺れ。色彩に、キヴォトスを滅茶苦茶にされた時くらいに。

 

 

「………あれは…。」

 

 

空を、見る。

 

光の柱がそびえ立ち、一つの町のようなモノが隆起し始める。……いや、違う。あれは……。

 

 

「…空中要塞?そんなもの、このキヴォトスには無かった筈。」

 

 

不思議なオーラを纏う、それでいて神秘的な要塞。それも、恐ろしく巨大。先程まで相手していた敵なんて、比にならないくらいに大きい。

 

……誰が、あんなものを。いくらゲマトリアといえど、あんなモノを仕込む程ではないはず。だとしたら……。

 

 

「…嫌な予感がする。行こう、()()。」

 

 

この世界を、正しい道に戻す為に。

 

 

 

─たった一つの道の為の方舟、LUCIF=ABYSS(ルシフ=アヴィス) 起動(胎動)

 





─LUCIF=ABYSSの起動に伴い、本記録の上書きを開始。

─…成功しました。本記録の主題を、『昏く儚い復讐譚』に変更します。

─更に、本記録の章題の一部変更を開始。

─……成功しました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。