「演習を?」
「はい。先生は私の戦う所を見ていませんので、実力の判断がついていないと思います。」
「それで、演習をって事?」
はい、と淡々に告げるルシア。この会話のやり取りは、今しがたシャーレに来たルシアが「演習をしましょう。」と言った事から、始まる。
何でも、ルシアの実力を私に見せ、実戦投入の判断材料にしようという事らしい。どの道、いつかはしなくてはならないと思っていたので、渡りに船ではあるのだが。
これからルシアに、作戦に参加してもらう上で、実力を把握しておく事は重要だ。どんな立ち回りを得意とするのか、どんな地形の戦闘に長けているか、どんな技術を持っているのか……。単に実力とは言えど、その種類は多岐に渡る為、知らねばこちらが不利になりかねない。
だからこそ、この提案は今からすぐにでも実行すべきだろう。
「あ、私側は一人で結構ですので。」
……この一言さえ、なければ。
「……流石に、不利が過ぎるわよ。」
まるで怪しむかのように、呆れるように言うのは、ユウカ。今日の当番であり、この話の一部始終を聞いていた生徒。そう言うのも無理はない。
なにせ、一人の動きと複数人の動きは違う。気にすべき箇所は多いし、見る側だって、ルシアがどの位置を得意としているかを見極めるのが難しい。
恐らく、「私は一人でも戦えます。」と言う事を示したいんだろう。しかし、それでは演習の目的を真に達成できない。ルシアも、その事は理解してると思うんだけどなぁ。
「先生達が考えてる事は、理解してます。その上で、提案しているんです。」
「……と、言うと?」
ルシアは、語った。
一人で動くのが一番適している事やその動きを一番熟知している事、逆に、複数人では気にする事が多過ぎると感じる事。妙な説得力を乗せて、私達にそう伝えた。
言い分は理解できる。納得もできる。ただ、不安で仕方ない。彼女が知っているかは分からないが、私が指揮する生徒達は、謂わば戦場の経験者である。激戦を潜り抜けた、猛者達と言って差し支えない。
彼女の実戦経験を知らない以上、その不安が拭える事は無いだろう。
「さぁ始めましょう。さぁさぁ。」
初めて、彼女はその場をゴリ押しで凌いだ。
──────
「…………先生、本当に大丈夫なの?」
「言いたい事は分かるよ。でも、本人が望んでるから……。」
舐めてんじゃねぇだろうなぁ!?なんて怒号も飛び交う演習場。
私が呼び出したのは、私が指揮する生徒の中でもかなりの実力者達。空崎 ヒナ、美甘 ネル、羽川 ハスミ、小鳥遊 ホシノの四人。ルシアの注文(「先生の思う強い生徒との演習を希望します。」との事)の通りに集めたんだけど……やり過ぎかな。
集められた皆は何をやるかを察したのか、(一人を除いて)ルシアへの心配をしている。当のルシアは、「これで良いんです。やり甲斐があります。」とか言っている。……意外とハッチャケるタイプなのかな。それか、戦闘狂とか。だとしたら、頭が痛い話ではある。
「先生〜、本当に大丈夫なの〜?」
「……今になって、反省してるところ。」
……疲れているんだろうか。そろそろ、ちゃんとした休みを取るべきな気がしてきた。
ふと、ルシアの方を見てみると、ネルと言い合いになっていた。…とは言っても、ネルの方が何か言ってるだけだけど。
「おい!アタシら相手に勝てるとでも思ってんのか?」
「手練、だとは把握してます。勝てない、とは思いませんが。」
「ア”ァ”!?」
……ネルのあの口調は、割と平常運転である。何なら、少し心配しているようにも聞き取れる。無理してるんじゃないのか、万一大怪我するかもしれない、と、そう不器用ながら言いたいのだろうか。
他の皆は腹を括ったのか、戦闘準備に移っている。やるからには全力。ルシアの意思を汲んだのか、はたまたそういう気質なのか。皆、手は抜かまいとする気迫を纏っている。
やがて、ネルとルシアも準備に移っていた。ルシアはどうしているかと気になったのだが、不敵に笑みを浮かべている。
少し、不気味だと感じた。
──────
「審判はユウカに一任する。私は両チームには介入しない。撤退判断はユウカと私で行う。開始の合図は、笛の音。」
互いに準備を終え、位置についたとの連絡。演習場は広いため、連絡はスマホで行っている。そして、私は先程のメッセージを両方に送信した。
暫く無音が支配する。それは、ユウカが握る笛の音によって掻き消される。
─数十発の銃声が、一瞬にして響いた。
──────
「小鳥遊 ホシノ、撤退。」
審判の声が、私達の意識を更に迷宮入りさせる。
どういう事だ。こちらの位置配置の時に、彼女がいるような音は全くなかった。それこそ、呼吸音すらも。
有り得ない、おかしい。そんな言葉だけが、私達の意識を埋めていく。目の前にいる、ルシアを他所に。
「単純な話です。
そんな出まかせ、出来たら苦労しない。
ここにいる生徒は、誰もが戦闘に自信があり、少なくとも彼女に遅れをとる訳が無いと思う程に、強い。余程の緻密な奇策でなければ、驚きなど感じない位には。
確かに、彼女は距離を詰めて撃ったのだろう。
彼女が来た方向を見ると、木々がクレーター状になぎ倒れている。あそこから、直線で飛んできたとでも言うのか。
不敵な笑みを浮かべる彼女を見て、私は。
正真正銘の、化け物と対峙している感覚を抱いた。