しばらく、投稿を止めます。忙しくなってきた事、モチベの維持が困難になった事です。前者はともかく、後者は私の身勝手な理由で申し訳ありませんが、ご理解いただけると幸いです。
モチベが復活して、時間を確保できそうだと判断した際は、不定期に投稿します。
では、どうぞ。
「先生、こちらの書類は終わりました。」
「ありがとう、ナギサ。」
今日のシャーレも、平和だ。
外では銃声や砲撃、手榴弾の音が響いているものの、それを普通だと認識できるようになっては、何とも感じなくなった。それらが鳥の鳴き声や自然の音のように……は聞こえないか。ともかく、比較的平和である。
今日の当番は、ナギサ。何でも、トリニティの生徒会長でありながら、ティーパーティーの一人でもある。そんな立ち位置にもなると忙しいのではないかと思う。そう考えた私は、「トリニティが忙しいなら、無理しないでいいんだよ?」と伝えた。しかし、「いえ、当日はそこまで多忙でもありませんので。」と言われた。
…気遣っているのか本当なのか、いずれにせよ、罪悪感が込み上げる。今度、何か菓子折りでも買っていってあげようか。
「…そう言えば。先日の演習について、ハスミさんから伺いましたが……何でも、強い方がいらっしゃるので?」
「うん。皆が太鼓判を押しているくらいには、強い子だよ。」
話題に挙がった、演習。
あれには、私も開いた口が塞がらなかった。本人から聞いたところ、「私を知らない相手には、ああいう策が効果的なので。」と言っていた。それにしても、ではあるが。
ルシアの作戦は、どれも自分の身体能力前提の作戦と言える。遠くから近づくための筋力、正しく身体を動かす精度、相手の行動を読み解く頭脳。勝利こそ出来なかったとはいえ、ルシアの実力が尋常でないのは、火を見る以上に明確だと思う。
ネルも、戦いが終わってから名前を呼んでいた。ネルは基本、認めた人以外はあだ名なりで呼ぶ事が多い。そんなネルが、名前を呼ぶ。それは、ルシアの実力を認めた事に他ならない。
「そうですか……是非とも、会ってお話がしたいのですが…。」
「どうだろう。彼女、結構忙しくしてるみたいだし…。」
最近、シャーレの当番に来てくれたのはたまたま予定が合ったからであるし、この前の演習だって、元々戦闘訓練をしようと思っていたのを演習にしたから出来たものである。何をしてるかは分からないけど、忙しいのは確かである。
ユウカに紹介されるまで会わなかったのも、もしかしたらソレが理由かもしれないなと、今になって思う。
「あ、先生。ここ間違えてませんか?」
「どれどれ……あ、ホントだ。情けないなぁ。」
「誰しも、そういう事もあります。責め立てる必要は無いかと。」
こうは言われても、どうしても情けなく思えて仕方ない。
傍から見れば、子どもに間違いを指摘されている大人、という構図。いくらナギサが大人びているとはいえ、大人として実に情けない。
……まとまった睡眠を、摂る必要があるかもしれない。最近、出会う生徒の半数に寝る事や休憩を摂る事を勧められる。それも、かなり強めに。ここ数日、自分の顔を鏡で見る事もなく、自分の顔がどんなものなのかを知れずにいる。もしかしたら、かなりの隈があるのかもしれない。
……フラついたり体調不良になってないから、大丈夫だと思うんだけどなぁ。
「そうなる前に、休息を摂るんですよ?」
「あれ?声に出してた?」
「先生の表情を見れば、何となく分かります。倒れたりする前兆が出る前に、本来は休むべきなんです。」
「でも……。」
「確かに、先生が懸念している事も、理解は出来ます。」
恐らく、私の懸念材料も、的確に分かっているんだろう。
キヴォトス内の大人が私だけである事。そして、その重責。私の責任を背負い込む性格を理解しているであろうナギサなら、それらが揃えば、推測するのに難くない事だろう。
「ですが。先生が倒れてしまえば、それ以上のロスや混乱を招きかねません。先生ならどちらが賢明か、お分かりですよね?」
「…分かっては、いるんだけどね。」
分かっては、いる。ただ、
理屈では分かってはいる。休む時間と、倒れてロスするであろう時間と労力とを比較考慮すればどちらが建設的か、という事は分かっている。
ただ、本能として。大人としての私が、納得を拒む。もし、寝ている時間に何か起こったら。それが、私が出向く必要のある事であったら。その時間のせいで、取り返しのつかない事になってしまったら。
あるかどうかも分からない、しかし、有り得てしまいかねないたらればが止まない。「あるかも分からないIfを想定してどうする」という声があるかもしれない。けれど、起こってしまえばどうする。
ここはキヴォトス。そうした事が起こっても、何ら不思議でない世界。
「先生、ルシアです。少し宜しいですか?」
「…………」
「……入りますよ?」
風が、少し吹く。それに気付き、私はようやく誰かが入ってきた事を認知した。扉の方を見る。
「…………トリ、ニティ?」
ルシアだった。書類を持ってる辺り、何か聞きに来たのだろうか。
そう考えている時だった。
「…ルシア!?」
「……何をしているんですか?」
ルシアが、
──────
「ルシア!?」
「……何をしてるんですか?」
何をしてる?見れば分かるだろう。引き金を引いてないだけ、有難く思って欲しい。ここがシャーレの一室で、先生がいたから撃たなかったものを。仮にシャーレでもなく、先生がいなければ、コイツを殺していた。……いや、今にも殺してやりたいのは山々だ。
もう、見る事なんて無いと思っていたのに。あのプライドの塊集団が、シャーレの手伝いなどするとは、微塵にも考えなかった。それこそ、あの無駄に煌びやかな建造物で紅茶でもすすりながら、悠々と他人事面するものだと。
「その銃口を下ろしなさい。今なら、不問にします。」
「指図するな。物腰柔らかく行けば何でも事が上手く運ぶ、なんて思うなよ。」
思わず、先生には聞かせた事の無い口調になってしまう。こんなに永くトリニティの面と相対した事もそう無かったので、口調も荒くなるし、不快感も募るばかり。害虫をこの目で捉えている時と、さほどの差は無い。
……書類について聞こうと思って、態々来たのだが。どうやら、タイミングが悪かったようだ。本当は今日聞いて色々しようかと考えていたのだが、止めておく事にしよう。こんな不幸な、不快な日に、作業が手に着く訳が無い。
「…………興が冷めた。先生に書類について聞こうと思っていたが、ヤメだ。こんな不快な日に、書類と睨めっこなぞしたくない。」
「待ちなさい!」
あの女が、声をかける。待つ義理など、あるまい。
──────
「……ルシア。」
「先生。あの生徒が、例の生徒ですか?」
「うん。普段はああじゃないんだけど……。」
どうしたのだろう。いつものルシアとは、全くの別人だった。温厚で丁寧な彼女の姿は、全く無かった。さっきのルシアは、冷酷無情で、ナギサに対して敵意剥き出しだった。
トリニティに苦手意識がある、とは言っていたけれど、まさか、あそこまでそれが強かったとは。
……いや、違う。そんなレベルじゃない。あれは……。
─憎悪、だ。