昏く儚い復讐譚   作:Cross Alcanna

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1章 二粒の異端
動機知れずの暴君


 

「アビドス高等学校の生徒って、貴女達だったの!?」

 

 

アビドスの皆と私達が相対して、少しの間無言の時が続いた中。その空気を破る様に口を開け、大声を上げたのは、便利屋68の(自称)社長である陸八魔 アルだった。

 

「今更気付いたの〜?」と、アルを揶揄うようにケラケラと笑っているのは、浅黄 ムツキ。なんでも、二人は幼馴染の関係にあるのだとか。

 

その横で、呆れながら顔を手で覆っているのは、鬼方 カヨコ。意外に感じるかもしれないが、便利屋の中で最年長で、皆をまとめている。後、苦労人。傍から見れば、真に社長としての役割を全うしているように思える。

 

……アルに聞かれたら拗ねそうだから、声には出さないでおく。

 

そして、アルの横で「アル様が戸惑われて…なら、その源を爆破してしまえば……。」と、発想が遙か彼方に行っているのは、伊草 ハルカ。アルの事を大変(もはや狂気的、崇拝的に)慕っており、「発想の行き所に苦労してる。」とカヨコが言っている、便利屋一の逸般人。

 

私にとっては生徒対生徒。どちらに与するのかは、言うまでもないけれど、少し……いや、それなりの罪悪感に駆られてしまいそうである。

 

 

「…でも、いくら貴女達とはいえ、任務は成し遂げるわ!」

 

 

「それでこそアルちゃん!」

 

 

「だから!こういう場では"社長"と呼んでちょうだい!」

 

 

「…今はそんな事で言い合ってる場合じゃないでしょ。」

 

 

アルが驚きから我に返り、アビドスの敵として立ちはだかる意思を示す。が。

 

……この通り、グダグダである。これにはアビドスの皆も、思わず苦笑い。とか言う当の私も、苦笑いをせざるを得ない。ただ、私にとっては少し見慣れた光景でもあるため、どちらかと言えば親のような、見守りの意味が強い。

 

 

「ん。つまり、貴女達は敵。なら、私達も容赦はしない。」

 

 

「そうだね〜、キヴォトスではこういう事、よくある訳だし。」

 

 

対してアビドスの面々は、アカネを除いて皆が臨戦態勢に入りかけている。アカネはアビドスの中でも一際情深い。それ故に、気持ちに区切りをつけるのが難しいのだろう。内心、私も同じではある。

 

そんなアカネに「大丈夫、大丈夫。」と、安い言葉をかける他無かった。アカネに投げかける言葉が、見つからなかった。

 

何と、言えば良かったのか。

 

そう思う自分を律し、便利屋の子達と戦闘を始めるべく、両頬を叩く。…いつまでも、ナイーブになっていられない。

 

 

「さぁ!始めるわよ!」

 

 

「……来る!」

 

 

アルの声に呼応するように、シロコがそう言う。さぁ、戦闘開始だ。

 

そう、思っていた時だった。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

そんな声を上げたのは、ムツキだった。らしからぬ声を上げたムツキを心配するように、「どうしたの!」と声を荒らげるカヨコ。それに意識を引っ張られた一同は、ムツキの方を見やる。

 

そこには、一振の黒と紅の大剣が刺さっていた。さっきまで無かったはずのソレが、気付いた時には我々の意識を置き去りにし、ソコにあった。

 

そして。人影が一つ、大剣の元へ降り立つ。

 

 

「…………」

 

 

黒い。そう、思った。

 

 

 

──────

 

 

 

「せ、潜影!?」

 

 

思わず、私はそんな声を出す。

 

噂に留まっていた、実在なんて眉唾な存在。目に留まった悪を悉く斬り伏せてきた、キヴォトスで唯一の剣士。銃弾すらも斬ってしまうとか、そんなトンチな噂まで立つ、あの潜影。

 

何故ここにいるのか、何故私達を標的にしたのか。そんな思考が、湧いては消える。少なくとも、今の私は正気を保てていない。

 

 

「…ッ!皆、潜影の方に集中して!あっちの方が厄介だから!」

 

 

「カ、カヨコ!そうしたらアビドスに……!」

 

 

()()()()()()()()()()!!」

 

 

アルの言いたい事も、解る。が、そんなヤツじゃない。もし、噂が事実だとするなら。潜影をどうにかする事が、何を差し置いても優先しなければならない。

 

銃弾の嵐の中でも的確に攻撃してくる、他の事に意識がゆけば最早追えなくなる、時に訳の分からない策を講じてくる……挙げればキリのない程、潜影は未知数。

 

アル達には申し訳ないけれど、依頼の達成より、自分達の身を安じた方がずっと良い。

 

 

「……ッ!」

 

 

瞬間、私の前に人影。アイツだ。

 

そう直感が告げて、思うままに身体を動かして、奇跡的に斬撃を避けられた。恐らく、何度も出来るものでは無いだろう。何せ、剣相手の戦い方や立ち回り、ましてや避け方なんて知らない。

 

未だ何も言わないアイツに、恐怖が募る。何故か、動く様子もない。二撃目が来る気配も、ない。

 

私達の動きを、見ているのか。逃げるのか、立ち向かうのか。

 

…………間違いない。()()()()()()。あっちは、最早遊戯のレベルなのだろう。身の毛がよだち続け、収まる事を未だに知らない。

 

 

「……皆、撤退するよ!アレは、勝ち目が無い!」

 

 

「カヨコちゃん、随分焦ってるね〜?」

 

 

「ムツキも分かってるでしょ!?なら早くッ!」

 

 

理屈で勝てない事など、噂が真実だとしたら自明の理。それに、私達を弄ぶような戦闘。勝てると踏む方がおかしい。

 

それ以上に、本能が叫んでいる。

 

対峙するなと。勝とうとするなと。

 

─自分らと、同列とするなと。

 

 

 

──────

 

 

 

「……手を出す暇が、なかった。」

 

 

シロコのそんな一言に、皆が意識を取り戻した。

 

かく言う私も、噂の潜影が実在していた事に驚いて、指揮も皆への呼びかけも出来ずじまいだった。どういう心持ちでいたのかは把握出来ないけど、ホシノ達も立ち尽くしていた。何も言わず、何もせず。

 

やはり、各学園の頭が噂に留めるよう裏で動いていたのかもしれない。そんな馬鹿げた仮説が、少しずつ現実味を帯びているように感じる。

 

カヨコが一瞬で判断した事も、それを加速させる。それに、カヨコのあんな蒼白な顔を見た事が無かった私としては、そうさせた当人である、潜影の方にフォーカスがいく。当の本人は、「…腰抜け、か。」と、呟いていた。

 

そんな私達を置いて、潜影は背を向ける。その姿を見て、私は。

 

 

「…少し、聞きたい事がある!」

 

 

そう、声をかけていた。

 

無視されるだろうと思っていた私は、「…………何だ。」と、こちらを振り返って言葉を催促する姿を見て、更に焦る。

 

無意識に出たものだから、質問内容なんて考えていなかった。

 

少し考え、咄嗟に思いついた事を一つ、聞いた。

 

 

「どうして、来たの?」

 

 

─実力の為だ。

 

 

返ってきた言葉は冷たく淡々としていた。そして、すでに潜影はいなかった。

 

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