昏く儚い復讐譚   作:Cross Alcanna

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影る日常

 

「……ルシア、聞きたい事があるんだけど。」

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

何でもないような、そんな声を出して私の言葉を待つルシア。そんな彼女に聞くべきでは無いかもしれない。けれど、彼女しか分からない。

 

私は、意を決して訊ねた。

 

 

「ナギサとの件についてなんだけど……あれはやり過ぎじゃないかな。」

 

 

「……その件でしたか。」

 

 

私の言葉を聞いた彼女は、表情をガラッと変える。先程までの柔和な表情を一変させ、どこか冷たい表情に。その顔は、あの時のルシアを彷彿とさせる。

 

少し経ち、彼女から返ってきた言葉は、意外なものだった。

 

 

「….そうですね。いくら苦手とはいえ、やり過ぎました。今度会った時に、謝罪でもしておきます。」

 

 

「……あれ?」

 

 

思わず、そんな声が漏れる。

 

てっきり、もっと食い下がってくるとばかり。あの時の嫌いようは、それこそ憎悪に匹敵するものだったと見ていいだろう。そんな感情を持つ彼女が、呆気なく引き下がるとは思わなかった。何なら、少し言い合いになる事すら想定していたというのに。

 

 

「苦手意識、と濁していた事にも落ち度がありますし。それに、先生の前でやる事でもなかったと、後に考え直していましたので。」

 

 

大人だなぁ、と感じる。

 

自分の行いを間違いと判断し、非を認めた上に相手に謝罪しようとする。言葉にするだけは簡単でも、実際に行う事のハードルは遥かに高い。

 

それを彼女は、未だに持っているだろう忌避感を押さえ込んでまで行動しようとしている。見習わなければならない程、立派だと思う。

 

……と、ふと思い出す。そういえば、と。

 

 

「ねぇ、ルシア。ここ最近で潜影を見た事ってある?」

 

 

「急ですね。ありませんよ。」

 

 

「そっか……。」

 

 

一人で行動していると聞く彼女が、もし潜影と鉢合わせていたら危険だろうと思い(あわよくば何か情報でも掴んでいないか知る為に)、聞いてみたのだが。生徒から情報を得る事は、未だ叶わない。

 

便利屋の子達に聞けばいいのかもしれないけど、つい先日敵対した事を考えると、少しはばかられる。

 

 

「どうしてまた急に?」

 

 

「いやぁ……アビドスの皆と行動してたら鉢合わせちゃって。」

 

 

「なるほど…噂は本当だった、と。」

 

 

そう言うと、顎に手を当てて思考を巡らせるようにし始める。何を考えているのか、私には分からない。

 

……そろそろ、ヒナ達にも本格的に聞く必要があるかもしれない…かな?あの実力を見たからこそ、皆が実在を認知しているかを問わず喚起する必要があるだろう。

 

便利屋の子達も、結構な実力者揃いだったと記憶している。そんな相手すら翻弄してみせた潜影の強さが計り知れないのは、傍観をする他無かった私ですら解る。

 

 

「……これから、不安だなぁ。」

 

 

生徒の実力を疑ってる訳では無い。ただ、潜影にアビドス問題の黒幕、恐らくあるだろう他学園の問題……考えるだけで頭が痛くなる。

 

 

「…頑張って下さい。しばらくは、応援しか出来ませんが。」

 

 

ルシアの激励が、少し心に染みた。

 

 

 

──────

 

 

 

「おや?貴様は……見た事の無い顔だな?」

 

 

「……こっちのセリフ、でもあるが。」

 

 

ほほぉ、返しはまずまず。初対面相手にバレないであろう程度の警戒心、それでいて距離を置く立ち振る舞い、隙の無さ。

 

……面白い、面白いぞ。

 

 

「こんな陰った場所にいるとは。私が言えた義理もないが、お前、まともな人間じゃないな?」

 

 

「特大ブーメラン、とはこの事を言うんだろうな。」

 

 

「…………むむ?貴様の特徴、どこかで……?」

 

 

少しコントじみた返しをすると、目の前の人間の特徴に引っ掛かりを覚える。

 

どこかで知った気がしてやまない。何だったか。最近、研究続きで考える時が多いせいか、研究に関係ないような物事は忘れがちになってしまって仕方ない。ムムム。

 

黒いコートに仮面。携えた大剣……。

 

……おお!思い出したぞ!

 

 

「貴様、黒服のトコの駒か!」

 

 

「……こんな場所で声高らかに言うな。誰に聞かれるか分かったものじゃない。」

 

 

おっと、分かった時の興奮が言動に出てしまっていたようだ。確かに、キヴォトスに敵対する身としてはまだ身分を隠しておきたいだろうな。幸い、我々の存在はシャーレ側に認知されていない訳だしな。無粋であったか。

 

……にしても、駒と言った事に関して何も言及しないところは、流石の私も奇妙に感じるが。

 

 

「惜しくて仕方ない!黒服と契約を交さずにこうして出会っていれば、私がお前を手に入れていたというのに!」

 

 

「……それは自分を恨め。私は知らん。」

 

 

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とでも言いたげだな。

 

……いや、実際そうなのだろう。このキヴォトスでコイツの事を()()()()()()()()()()()()()()()()()のだからな。先生とやらがコイツの正体に気付いていないのは勿論の事、黒服ですらコイツについて知らない事が多い。

 

私は、正体に留まらずバックグラウンドまで知っている。然る時まで、それを言うつもりなども無いが。手札は多いに越した事はないだろうとも。

 

 

「いやぁ!随分と面白い収穫だった!今日はこれで帰るとしようか!」

 

 

「……騒がしくするなら、場所くらいは弁えておけ。」

 

 

「善処しようとも。」

 

 

私には分かる。コイツは、後々重要になる。何が、とまでは測れぬが。それに、私はコイツを制御できるだけの術がある。

 

嗚呼、楽しみだ。

 

 

─この第5のゲマトリア、ファルスト。生きて久しく笑いが止まらん。

 

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