アストレアレコードやアルフィアIF、そしてダンメモの幼少期のアイズの話を見て書いてみたいと思った小説です。
独自の設定やスキルなどが含まれますがそれでもよければ楽しんでいただけると幸いです。
それはなんてことのない
────暗黒期
それは秩序が混沌に塗り替えられ、血で血を洗う史上最悪の大惨劇。
多くの命が天に還り、多くの冒険者が次代の礎となり散っていったそんな惨劇。
この物語はその暗黒期が終わるきっかけとなる出来事から始まる。
暗黒期の最終盤、【アストレアファミリア】はついに災厄の魔女……【静寂】のアルフィアを打破した。彼女達はアルフィアが語る最期の遺言をしかとその胸に……魂に刻み込む。
「……わかったわ。決して、貴方の言葉とその姿、忘れはしない」
力強い言葉を紡ぐ彼女たちを穏やかな眼差しで見つめ、アルフィアはゆっくりと背を向けた。
「アルフィア、どこへ……!」
一人の妖精の声がアルフィアの背中を叩く。しかし、彼女は何も答えなかった。
血を流す身体を引きずり辿り着くのは、巨大な『縦穴』。
『大最悪』の出現と共に生まれたその大穴は、今もなお灼熱の業火に包まれていた。
「私の亡骸は、灰に還すと決めている……あの子と同じように……」
地獄の釜と化した大穴を見下ろす女の言葉に少女達は息を呑む。
本来の歴史ならばアルフィアはその身を投げ、その短い生涯に幕を下ろす。
しかし、ほんの僅か……大切な妹の姿を思い浮かべた時にある子供の姿が浮かんだ。
この戦いを巻き起こす少し前、彼女は【暴喰】のザルド、そしてエレボスと共にある村を訪れた。そして遠目からその色を見た……見てしまった。
妹と同じ『白い髪』。
それを見た瞬間、いても立ってもいられず、体がその子供の元に走り出そうとする。
「─────────っ」
しかし、その溢れた感情はもう一つの決意の前に堰き止められる。
すでに悪となると決めてしまった。英雄を生み出すために多くを犠牲にすると決めてしまった。
それを完遂するには……この思いは邪魔だ。
ほんの少し走ったところでその足が止まる。
遊び疲れたような少年と一人の好々爺が去っていくところをアルフィアは黙って見ることしかできなかった。
「……いいのか? アルフィア」
「……………………ああ」
「そうか……じゃあもう行くぞ」
「…………ああ」
エレボスが二人が去った方とは逆の方へと歩いていく。それにザルドが続く。
少し経ったのちにアルフィアもその二人を追う。足取りは重く、その心はひどく荒れていた。
そんな三人の背中を歩き疲れて眠ってしまった少年を抱えた好々爺が見つめていた。
(あの子は今も幸せに生きているのだろうか……名前はなんて言うんだ? 好きな食べ物は? 好きな物語は? …………身体はどこも悪くはないか? ……ああ、ダメだ……魔が差してしまった……)
自分はあの子の姿にメーテリアを重ねているだけなのかもしれない。
だがそれでも、そうだとしてもあの子の幸せを願うこの気持ちに嘘偽りはない。
ならばこのくだらない意地は捨てよう。
「…………おい、ババア……聞こえるか」
「……くっ、貴様! 誰がババア───」
「お前に
【
その粗雑な口調とは裏腹にアルフィアの開かれた目はリヴェリアを真摯に見つめていた。
「……言ってみろ」
「────という山奥にある村で……私の妹の子があるジジイと共に暮らしている。その子のことを頼みたい。無論断ろうが受けようがどちらでも構わない……だが貴様にしか頼めない依頼だ……どうか頼まれてほしい」
その弱々しい笑みを見たリヴェリアが思わず目を見開く。才禍の怪物と呼ばれた女がそのような表情を見せる姿など一切見たことがなかった。
目を瞑り、一瞬の逡巡の内にその目を開く。
「ああ、いいだろう。貴様の最期の依頼……承った」
「……感謝する…………貴様と共にいるその娘とあの子は歳が近い。その娘も共に連れて行ってくれるとあの子もきっと喜ぶだろう」
「……ああ、わかった。お前の想いは……私が引き継ごう」
その言葉にもう一度アルフィアは目を細め、穏やかな笑みを浮かべる。
自分勝手な愛。名前も顔も知らない者から向けられる無償の愛。
それを受けて子供がどんな顔をするのかはわからない。
それに恐怖するのだろうか、はたまた感謝をしてくれるのか……それも死にゆくアルフィアにはわからない。
しかしその子が何を為すのか、はたまた何も為さずにごく普通の日常を過ごすのか、そのどちらでもない人生を送るのか…………アルフィアにとってはどれでも良かった。
ただアルフィアが……ザルドとアルフィアが願うのは、『子の幸せ』ただ一つ。
「…………ふふっ……話が長引いてしまったな……」
自嘲したような笑みを浮かべて、最期にもう一度『希望』を託した少女たちを見つめる。
口を引き結ぶ少女たちはこちらを見つめていた。
「さらばだ、正義の眷属。さらばだ、【
今まで固まっていたアリーゼが思わず手を伸ばしながら駆け出す。
だがその手は決して……届くことはない。
そんなアリーゼの顔を見つめ、ゆっくりとアルフィアは最期にもう一度笑みを浮かべた。
「────『未来』を、手に入れろ」
そう言って、アルフィアは奈落へと身を投げた。
灼熱の業火で己を裁くかのように────静寂の魔女はこの世を去った。
大穴の縁で立ち止まり、唇を噛み締める赤毛の少女はその光景を最後まで目に焼き付けた。
嗚呼……
ようやく……そっちへ行くよ──。
最期にアルフィアのそんな言葉が聞こえた気がした。
冒険者ではなく、英雄でもなく、大罪人でもない……一人の姉としての声が、やけにアリーゼの耳の中に残った。
多くの人々の命を奪った、後に『死の七日間』と呼ばれる日々は二人の英雄、そして『大最悪』を討ち果たしたことが決定打になり、終焉を迎える。
人々が歓喜の渦に包まれる中、アリーゼは一人浮かない顔を浮かべ、アルフィアが最期に漏らした言葉と顔を思い、あの手を掴めなかったことを悔やむ。故にここで誓う。次はもう取りこぼさないと……
誓いを新たにアリーゼは都市へと飛び出し、そんなことを考えていたなどとおくびにも出さず、皆の輪に飛び込むのであった。