二人の姫と出会った少年は英雄の道を歩む   作:Kkky

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大変遅くなり申し訳ありません。
少し長くなりましたがどうぞ。


英雄宣言

 剣を振る。剣を振る。剣を振る。

 動きを確かめるように、勘を取り戻すように、戻ってきた感覚を再び忘れないように。

 都市の外にいる以上迷宮(ダンジョン)に潜ることはできない。迷宮に代わって山や森にいるモンスターを相手にしても一瞬で終わってしまう。

 結果、ただ剣を振り続ける日々が続いていた。

 

 早朝の素振りは都市にいた時からの日課としていたから深夜から始める素振りはその延長だと考えれば大した苦ではなかった。

 

 ここに来てからの穏やかな日々はそこまで嫌じゃない。嫌じゃないけど物足りない。

 こんな環境じゃ強くなれない。

 

 焦りと苛立ち混じりに剣を強く振る。

 振った剣風で木々がざわめく。そのざわめきに混じって驚いたような声が聞こえた。

 その声の方向を見てみると、そこには──

 

「えっと……こ、こんばんは……?」

 

「……大丈夫?」

 

 ベルが尻餅をついていた。

 しばらく二人の間に沈黙が走ったが剣を鞘に納めてアイズがベルに手を差し伸べる。

 

「ありがとう」

 

「……どうしたの? 今日も寝れないの?」

 

「そう、なのかな」

 

 ベルのよくわかっていないような言葉に? と頭に疑問符を浮かべる。

 

「……ちゃんと寝ないと大きくなれないよ」

 

「アイズちゃんに言われたくないよ」

 

 ベルの言葉に少しムッとなる。

 確かにまだ小さいけどそれでもベルよりは身長はある……少ししか違わないけど。

 

「また昨日みたいに、止めに来たの?」

 

 頭を切り替える。

 少し話してしまったけど無駄話をしている暇はない。

 ベルを突き放すように少し睨みつける。一瞬怯えたように見えたけどこの場から去らない。

 それどころか少し近づいてくる。

 

「……リヴェリアさんからちょっとだけ教えてもらったんだ。アイズちゃんが強くなろうとする理由」

 

 アイズがスッと目を細める。

 別に誰に知られて、誰かから奇妙なものを見る目で見られようとも大して気にはならない。

 ただこの少年(ベル)に知られたという事実がよくわからないけど胸の内をチクチク刺してくる。

 何故だかわからないけどベルには知られたくなかった。

 

「……そうなんだ……リヴェリアから私の話を聞いて、それで? なんでまた起きてきたの?」

 

 チクチクと痛む胸の内を無視してベルに冷たく言い放つ。

 聞かれたところで何も変わらない。聞かれたことでベルが何か変わるようならそれも仕方がないことだと思う。

 ベルが離れることを考えるとチクチクした痛みがズキズキとする痛みに変わる。でもやっぱりなんでこうなってるのかよくわからない。

 明日リヴェリアに話してみようかな……

 

「アイズちゃん」

 

「……何?」

 

「ぼくが何を言っても特訓はやめないよね?」

 

「うん、今のところはやめるつもりはないよ」

 

 アイズの言葉にベルが少し残念そうな表情を浮かべる。

 だがその言葉がきっかけとなり、ベルは一つの選択をする。

 

「そっか……ぼくも今のアイズちゃんを止めるつもりはないよ。アイズちゃんがなんでこんな風に特訓をするのかも少しわかったし……」

 

「……? じゃあなんでここに来たの?」

 

「…………アイズちゃん、ぼくも一緒に特訓させて」

 

「えっ?」

 

 ベルの言葉にアイズが驚きを見せるがそれ以上に困惑が勝っているような反応を見せる。

 

 昨日までは止めようとしていたベルが何故急に心変わりをしたのかがよくわからない。

 リヴェリアに話を聞いたのなら絶対に止めてくると思ったのに……

 

「……無理、かな……私とベルじゃ全然違うから……同じことをしたらベルの身体が、バラバラに──」

 

 恩恵をもらっているアイズと恩恵をもらっていないベルでは能力が遥かに違う。

 バラバラになるというのは言い過ぎなのかもしれないが下手にアイズと同じようなことをすれば取り返しのつかないことになる可能性もある。

 流石にアイズも口下手ながらに止めようとする。だが幼いながらも目に宿るベルの強い意志に二の句が紡げなくなる。

 

「えっと……少しだけ、やってみる?」

 

「!! いいの?」

 

「………………うん」

 

(あ、嫌そう)

 

 アイズは承諾したが、その表情はベルでもわかるほどに嫌そうに歪んでいた。

 正直あまり自分の鍛錬以外に時間を使いたくないのがアイズの本心だ。

 

「……無理そうだったら……すぐにやめさせるから」

 

「う、うん! わかった!」

 

(無理はさせるつもりはないけど……多分十分も保たない……かな。ベルには、申し訳ないけど……早く諦めてもらおう……)

 

 気合い十分といったベルの姿を見ながらアイズはそんなことを思う。

 ベルに対して失礼ではあるが、まだ何か夢のような物を見ているベルには丁度いいのかもしれない。

 そうして月と星に照らされた空の下、二人だけの訓練が始まった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 1()()()()

 

 アイズはその無表情の中には確かな驚愕を浮かべながら訓練を行っていた。

 鍛錬を始めてから1時間。アイズの予想を遥かに上回る時間が過ぎてもベルは訓練について来ていた。

 

「おえっ……ぜぇ……ゼェ……」

 

 満身創痍になりながらもアイズの指示に従い、辛そうな顔をしても嫌な顔一つ見せずにベルはアイズの特訓をこなした。

 冒険者でもないただの子供が緩くしたとはいえ自分の訓練について来ているという事実にアイズがその手を止める。

 

「……はっ……はぁ……? …………どう、した……の……?」

 

「……ちょっと、びっくりしてる。こんなについて来れるって思わなかった」

 

 アイズの賞賛の色が含まれた言葉に息が荒れているベルの表情が緩む。

 その笑顔を見たアイズの心が揺れた。

 

「……今日はここまでにしよう。私も、止めるから」

 

「…………なん、で……?」

 

「今のベルを、放っておけないから」

 

 強くなるための訓練の時間が減ってしまう……嫌なことのはずなのに不思議とそこまで嫌悪感や苛立ちはなかった。

 それどころかベルに対する心配の気持ちが遥かに勝っている。

 

「でも……」

 

 ベルが不安そうな顔を見せている。

 一瞬何でだろうとも思ったけどすぐに訓練に関してのことだということにたどり着く。

 

「大丈夫……明日また一緒に付き合ってあげるから…………リヴェリアには内緒」

 

「いいの? ……ありがとう、アイズちゃん」

 

 またベルが笑顔を浮かべてくれた。

 なんでかはやっぱりよくわからないけどすごく心が温まる。ズキズキとした胸の痛みもいつのまにか消えていた。

 座り込んでいるベルに手を差し伸べる。その手をベルが取る。

 

「ありがと、アイズちゃん」

 

「うん……じゃあお風呂、入ろっか」

 

「え゛っ」

 

(前と同じ反応……)

 

 お風呂に行くまで少し時間がかかり、一人で入ると言うベルをアイズが言いくるめるのにさらに時間がかかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 訓練が始まってから一週間が経った。

 ぼくは昼間はリヴェリアさんと勉強したり、おじいちゃんの畑仕事を手伝ったりして過ごし、二人が寝静まった夜にはアイズちゃんと一緒に訓練をする。

 

 ただ訓練と言ってもアイズちゃんが持ってる剣の鞘を振ることとたまにアイズちゃんに吹き飛ばされるようなことしかできていないけど。

 アイズちゃんから教わったのは無鉄砲にならないこと、痛みを怖がらないこと、あとはぼくが苦手にしているという防御とそのために相手の動きを読むこと。

 まだたった一週間しか経っていないけどすごく身になることを教えてもらっている……けど訓練は防御すら出来ずに吹き飛ばされることしかできていない。

 

 でも……今はそれでいい。訓練もやりたかったことだけどもう一つ、ぼくには目的がある。どちらかと言うとそっちがぼくにとっての本命だ。

 ゆっくりとアイズちゃんと過ごしつつ、その本命の目的に近づければいい……そう思っていた。

 だがリヴェリアさんが話す言葉でそんな子供の考えは崩壊する。

 

 夕食後、いつものように食器を運ぼうとしたらリヴェリアさんに引き留められる。

 少し残念そうな顔をしたリヴェリアさんを不思議に思いつつ、元いた椅子に戻る。

 

「すまんな、ベル。急に引き止めて」

 

「いえ、別に……どうしたんですか?」

 

「……先日、私たちの仲間から手紙が届いてな。簡潔に言うと一度都市に戻って来てくれとの事だ」

 

 リヴェリアさんは目を伏せ、アイズちゃんはいつもの無表情を貫いている。

 そんなぼくはちょっと……いや、かなりショックを受けている。

 

「急……ですね」

 

「仕方ない事なんだ。ここに来るのにも仲間たちにはかなり負担をかけていたからな」

 

 そう言われるとぼくもおじいちゃんも何も言えない。

 その仲間の人たちもきっと二人の帰りを待っているはずだ。まだ出会って間もないぼくが引き止めることなんてできない。

 

「……でも、またここに来てくれますよね……?」

 

 願いと期待を込めてリヴェリアさんを見つめる。

 

「もちろんだ。あの女との約束(クエスト)もまだ果たしたとも言えないからな……そんな顔をするな。大丈夫、約束のためだけにここに来たというわけではない。ちゃんと私の意思でここに住まわせてもらったんだ」

 

 話を聞いていたぼくの顔を見てリヴェリアさんが苦笑いを浮かべて、ぼくのことを撫でる。

 そんな顔と言ってたけどどんな顔をしていたのかはちょっとわからない。でもリヴェリアさんが笑うぐらいなら結構酷い顔だったんだろうな。

 

「……出発は三日後になる。明日以降はベルの好きなように過ごそう。余程の事じゃなければ何でも付き合ってやる」

 

 リヴェリアさんからそんな提案をされる。勿論とても嬉しい。

 ただ3日後にはリヴェリアさんもアイズちゃんもいなくなってしまう。

 それがとても寂しかった。

 

 それからの三日間は今まで以上に楽しい日々だった。

 ほとんどを自由に過ごしていたけど深夜の訓練だけは二人で欠かさずに続けた。

 加えて昼間にアイズちゃんが剣を振る時に我儘を言ってリヴェリアさんも混ざって一緒に訓練を行った。

 その時に時々見えたリヴェリアさんの恐ろしい表情は多分二度と忘れないと思う。

 

 楽しい時間はあっという間に終わってしまい、三日目の夜になった。

 そんなぼくの頭の中にあったのはアイズちゃんのことだけだった。

 もう時間はない。そして次に会えるのもまたいつになるのかわからない。

 

 それならぼくのやることは決まった。

 

 決意を固めたベルはアイズの待つ最後の訓練へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 訓練が始まってからおおよそ一週間。

 たったそれだけの期間しか出来なかったけどとてもいい経験になった。

 

 最後の訓練は教えてもらった動きの確認と軽い実戦形式の訓練のみと思いの外あっさりと終わってしまった。

 結局、最後までアイズちゃんに触れることすらできなかった。

 

「これで、終わり……頑張ったね」

 

「…………あり、がとう……ございました……」

 

 いつもの無表情で、けどどこか優しげな雰囲気を纏ってアイズちゃんはぼくを労ってくれる。

 それだけで訓練で無くなった体力が返ってくる……というわけではないけど少しだけ楽になる。

 

 最後の日はすぐに家に入らずに二人並んで座り、星と月が輝く夜の空を見上げる。

 ポツリポツリとアイズちゃん達が来てからの話を時には聞き手に、時には語り手となり話す。

 夜のためあまり大声で話すことはできなかったけど、クスリと笑顔を浮かべてくれたり、少し楽しそうに話してくれるアイズちゃんの反応が楽しかった。

 

 楽しかったけど……あの話をアイズちゃんに聞くのが怖くなってしまった。

 ぼくの本命の目的……それはアイズちゃんが抱えるモノを本人の口から聞くことだ。

 だというのにぼくはそれを躊躇ってしまっている。

 

 ぼくが話を聞いてアイズちゃんに嫌われるのが怖い、すごく怖い。

 アイズちゃんが内心ぼくのことを気に入ってくれてたとしてももこれを聞けばどうなるのかはわからない。

 でも……どんなに悪い方向に向かってもここで聞かないよりかはずっと良いような気がする。

 

 そしてぼくは意を決して家に戻ろうとするアイズちゃんに話しかけた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 最後の訓練を終えて、少し二人で話してから家へと戻ろうとしたその時だった。

 

「アイズちゃん」

 

 酷く真剣な顔をしたベルが私に話しかけてきた。

 その表情には何故だかわからないけど緊張が混じっている……ような気がする。

 

「どうしたの?」

 

「今日の朝……いなくなる前に少し聞きたいことがあって」

 

 緊張していた理由は話したいことがあったかららしい。

 ただ話すだけなら緊張しないでいいのに。

 

「……聞きたいことって?」

 

 どんな内容かはわからないけど多分特訓についてだと思う。

 そう思っていたけどベルが放った言葉に思わず面を食らってしまう。

 

「前にリヴェリアさんに少し聞いたけど、アイズちゃんはなんでそんなに強くなりたいの?」

 

 風が強く吹く。

 そしてそんな強い風に揺さぶられているかのように私の心も大きく揺れる。

 そんな私の心を知ってか知らずかベルは話を続ける。

 

「モンスターを倒すために強くなりたいってリヴェリアさんは言ってたよ。でもアイズちゃんが一人でそんなに頑張らなくちゃいけないことなの? もっとリヴェリアさんとかアイズちゃんの仲間の人に頼ってもいいんじゃないのかな……あ、いやもしかしたら頼ってるのかもしれないけど」

 

 ベルは知らないことが多い。私自身もベルに自分のことを話すことは少ない。それに私よりも歳が下の子供だ。

 だから仕方がない……仕方がないけど───

 

「何も知らないから……そんなことが言えるんだよ」

 

 そんなことわかっていても心は大きく荒れる。

 これはどうしようもない八つ当たりだ。そんなことはわかっている。

 

「誰かに頼るなんてできない……これは私がやらなくちゃいけないことだから……」

 

「……どうして……どうしてそんなに一人で戦おうとするの!? 今のアイズちゃんじゃあ手も足も出ないってリヴェリアさんは言ってたよ! アイズちゃんも分かってるんでしょ!? それなら、他の人と一緒に───」

 

 その何も知らないベルの言葉に私の心は決壊する。

 

「そうだよ! そんなのわかってるよ!! でも、リヴェリアを……みんなを頼ってまた一人になるのは嫌なの! 一人になるなら、一人で戦って……死んだ方がいい!」

 

 また一人ぼっちになるのは嫌だ。もう誰も失いたくない。

 

「お父さんもお母さんも、誰も帰ってこなかった! ……みんな、私の前からいなくなった!!」

 

 あの日の光景は今でも鮮明に思い出せる。

 絶望を運んできた黒い風の前に傷つき倒れ、そして死んでいく大切な人達。

 私を突き放して『黒い竜』と戦うお父さん……そしてお父さんに寄り添い、最期は黒い風に飲まれたお母さん。

 

「だから私は剣をとった!!」

 

 もうあんなのは見たくない。もうあんな事は起きてほしくない。

 だから強くならなくてはいけない。お父さんのように……英雄のように。

 

 もう何も……また全部無くしてしまわない為に。

 

「私が……やらなきゃ……だって……だって……!」

 

 一度決壊した心はそう簡単に抑えることはできなかった。

 感情の思うがままに叫んだ声が夜の空に吸い込まれる。

 

「私の前に……英雄は現れてくれなかったから……!」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 アイズの本心からの叫び。

 それを聞いてベルは何を思う。

 

 アイズの思いを知ったが故の絶望か、はたまた何も知らなかった自分への無力感か。

 ベルはそんなことはこれっぽっちも考えていなかった。

 

 目の前には頬を涙で濡らす初恋の少女。

 そんな姿はこれまで過ごした日々の中で目にしたことがなかった。

 

 今のベルにその涙を止める方法はない。

 だが、なかったとしても少女の涙を止め、悲しみを晴らしたいと衝動的に思ったのは確かだ。

 

 だから─────

 

 

 

「なら、ぼくが『英雄』になる」

 

 

 

 ベルはその言葉を口にしていた。

 

 

 

 アイズが目を大きく見開く。

 ベルの口が勝手に動き、言葉を紡いでいく。しかし、その言葉に嘘偽りはないとそれだけは断言できる。

 

「ぼくが……アイズちゃんの『英雄』になる……!」

 

 目を見開いたままアイズは動かない。

 けれどもその瞳から溢れる涙は気付かぬうちに暴れ出していた黒風と共に収まっていった。

 

 深紅の瞳で強い意志を込めてアイズを見つめる。目を逸らすことなく彼女もそれを受け止める。

 

 静かな夜の風が二人の髪を撫でる。

 決して出まかせでもその場しのぎの偽りでもない言葉を天に輝く星々が聞いていた。

 

 奇しくもそれは別の路を辿った静穏の英雄(ベル・クラネル)彼女(アルフィア)に宣言した言葉と酷似していた。

 そんなもの、この世界のベルが知る由もないが。

 

 ベル・クラネルはこの選択をいつか呪うかもしれない。

 アイズの絶望を本当の意味で知り、その絶望に身を屈してしまうかもしれない。

『たった一人の英雄』になるという選択の意味、その選択と天秤がかかるほどの選択が出た時、理想と現実の違いに押し潰されてしまうかもしれない。

 

 だがそれでも、そうだとしても─────

 

 

 

 

 

「…………生意気……私より、ずっと弱いくせに……」

 

 

 

 

 

 この時、彼女が浮かべた笑顔を僕は未来永劫忘れない。

 瞳に焼き付けて、胸に刻みつけ、どんなことがあろうと誇ろう。

 

 物語の『英雄』のように大切な少女に笑顔をもたらしたことを。

 少女の『希望』となり、少女の『未来』を共に切り開くと決めたことを。

 遥か彼方の『理想』を目指して駆け抜けると決めた、今日という始まりを。

 

「今は弱いけど、ちゃんと強くなる! アイズちゃんを守れるぐらいずっと強く! だから──」

 

「……ベル」

 

「────」

 

 

 

 

 

「───ありがとう」

 

 

 

 

 

 憧憬を得て、願望を抱き、少女への『誓い』を胸に、少年はこの日より『英雄』となる。

『英雄』を奪われ、『英雄』にならざるをえなかった少女のために少年は戦う事を決めた。

 

 ────『最後の英雄』はこの日、誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「終わったようじゃぞ、声をかけなくていいのか?」

 

 家の中、一人の女性と一人の老人がその二人の姿を見つめていた。

 女性は心配そうに、しかしどこか安心したような表情で。

 老人は真面目な表情を浮かべてはいるがその目はとても和らいでいた。

 

「今の二人の間に入るのは野暮というものだろう。しかし……ベルはえらくアイズのことを気にかけていたと思ってはいたが、あそこまでアイズに踏み込んでいくとは思わなかったな」

 

「それもこれも儂の教えの賜物じゃな」

 

「…………今の私は機嫌がいい。特に突っ込まないでおいてやる」

 

 老人と話しつつも女性の視線は二人の方を向いていた。

 目を覚ましたのは少し前、アイズが怒鳴り声をあげた辺りからだ。

 

 飛び起きた女性……リヴェリアはすぐさまアイズの元へと向かおうとしたが、それを先に起きて見守っていた老人……ゼウスが止め、その様子を見守った。

 そして二人の問答はリヴェリアの想像を遥かに上回る最良の結果となった。

 

「あの年齢で心の底から『英雄』になると誓うか……あの年齢の少年には些か厳しいのではないか?」

 

「んー……まあそうじゃな。だがあまり心配はしとらん。何せあいつは───儂の孫じゃからな」

 

朗らかな笑みを浮かべてゼウスはそう言う。

 

「…………孫馬鹿もそこまでにしておけ」

 

 そんなことを言ってはいるがリヴェリアの表情は穏やかだった。

 そうこうしているうちに二人がこちらへ向かってくる。

 

「おっと、こりゃいかん。【九魔姫(ナインヘル)】、聞いていたことは内緒にしておくんじゃぞ。二人だけの秘密というのはあの子たちにとって大切なモノになるはずじゃからな」

 

「無論だ。さっきも言っただろう? そこまで野暮じゃないと」

 

 少し早足気味に寝室へと戻る。

 少し経ってから玄関の扉が開く音と浴室へと続く扉が開かれる音がした。

 

 二人で使っているであろうシャワーの水の音を聞きながら、この先の未来へ想いを馳せてリヴェリアはもう一度眠りについた。




ここまで待っていただいた方大変ありがとうございます。
投稿速度は遅くなってしまいますが完結はさせる気はあります。

なるべく早く、かつ質の良いモノを書けるように努力していきます。
どうかこれからもよろしくお願いします。
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