「さぁみんな! 見てくれ!」
「わぁ……!」
波乱万丈の
ベル達はそれぞれの荷物を持ちながら、ある場所に続く道を歩いていた。
その中で一人勢いよく走り出したヘスティアが振り返って満面の笑みを見せる。
彼女の背後に見えた大きな屋敷にベル達は思わず感嘆の声を上げていた。
「どうだい、今日からここにボク達が住むんだぜ!」
朝のうららかな日差しを浴びる美しい前庭に運んでいた荷物を置き、彼等は外観を見つめる。
ヘスティア曰く趣味の悪い外観から質素に、けれど品はよく、そして新築同然に造り替えられた【ヘスティア・ファミリア】の新たな
正面の玄関口には【ヘスティア・ファミリア】を示す『重なり合った炎と鐘』のエンブレムが飾られている。ヘスティアが前から考えていたというそのエンブレムに思わずベルが笑みを零した。
「ヘスティア、注文通りに済ませたぞ」
「ああ、サンキュー。ゴブニュ」
ベル達が屋敷を見上げていると、改装を終えた作業衣姿の職人達────【ゴブニュ・ファミリア】の面々がぞろぞろと帰っていき、主神であるゴブニュがヘスティアに声を掛ける。
鍛冶と建築を司る男神ゴブニュ率いる【ゴブニュ・ファミリア】は依頼があれば建築作業も受け持つ都市でも珍しい【ファミリア】である。
知名度こそ【ヘファイストス・ファミリア】に劣りはするものの、多くの鍛冶師を抱えており、その腕は決して負けていない。
お金の支払いや屋敷の説明を終えたのかゴブニュがヘスティアの前から踵を返す。
去り際にベルとヴェルフのことをじっと見つめ、男神は帰路についていった。
「流石ゴブニュ。しっかりやってくれたみたいだ」
「あ、本当ですか?」
「うん。みんなの要望もしっかり叶えてくれたみたいだし……さあ、そろそろみんなも我慢の限界なんじゃないか? 中に入って見よう!」
ヘスティアの音頭にヴェルフ達が我先にとホームの中に入っていく。
興奮した様子でそれぞれが望んだものの場所へと向かっていく姿にベルは苦笑を浮かべ、三人に続いて入っていったヘスティアに続こうとする。
『このっ……いい加減にっ……!』
『い~や~っ……!!』
「んっ?」
中に入り、扉を閉めようとした所でベルの耳が聞いたことのある声を捉える。
後回しにするか一瞬迷ったベルだったが、何かあったら嫌だからともう一度外に出てから扉を閉め、その声が聞こえた方へと歩く。
裏庭に回るとホームの敷地の外、沿道で言い争いをしている二人組の少女を見つけた。
長髪の少女は鉄柵にしがみついて駄々をこねる子供のように半分泣き散らし、短髪の少女はそんな彼女に苛立ちを隠しもせずに服を引っ張って引き剥がそうとしている。
「カサンドラさんとダフネさん……?」
その姿を見たことで元【アポロン・ファミリア】の女性団員の声であることを思い出したベルは少し考え込んだ後、彼女達に近付いた。
「あっ……【リトル・ヒーロー】……」
小走りで近付くベルにまずダフネが気付いた。
申し訳なさそうな彼女のすぐ後にカサンドラも気付き、特徴的な垂れ目をベルに向ける。
「ええっと……その……」
そんな二人に思わず気後れするベル。
【アポロン・ファミリア】の
「なんか、あの時とは随分印象が違うね。戦ってる時は堂々としてるのに今は……っと、これを言っちゃったのは君に失礼になるかな?」
「い、いえ! 大丈夫です!」
「そう? ならいいんだけど。それと、勝ったのは君達なんだから後ろめたく思う必要なんてないよ。戦争を吹っ掛けた挙句、君達に救われたのが私達なんだし」
戦闘中とはまた違うベルの姿に笑みを零しながら、てんで気にした様子もなく告げるダフネ。
むしろどこか清々した様子が見受けられる。
「面倒を見てもらってたけど、ウチ等は強制的に入団させられたようなものだったからこうなって良かったかもって思ってるよ。次こそはまともな
依然鉄柵にしがみつき唸るカサンドラの服を引っ張りながら、心からそう思っているであろう表情で気軽に近況を伝えてくる彼女にベルの表情から固さが抜け始める。
今は二人で新たな【ファミリア】……常識的で神格者である神が率いる【ファミリア】に入るべく、胡散臭い勧誘をかわしながら過ごしているとのこと。
ダフネの話を聞き終えた所で改めてベルはカサンドラに目を向けた。
「えっと……それでカサンドラさんは何を……?」
あー……と
「この子がね。今まで使っていた枕をなくしたみたいなの」
「枕?」
「そう。新しいものを買えばいいって何度も言ってるんだけど……」
「あ、あの枕じゃないとだめなのぉ~。あれがないと、私、寝付けなくて……」
ここで初めて、ダフネに引っ張られ続けていたカサンドラが口を開く。
涙目と涙声で自分を引っ張るダフネに振り返り、次いでベルの方を見た。
「えっと……つまりカサンドラさんはこの館に枕を忘れたってことですか?」
顎に手を当て、うーんと考え込むベルだったが、改装する際に運び出した荷物の中にそれらしきものは見当たらなかったはずだと呟く。
その呟きに顔を赤くしたカサンドラがおずおずと口を開いた。
「その、覚えてはいないんですけど……『
「ゆ、ゆめ?」
「だからぁ! そんな馬鹿げた話を言うのはやめなさいってば!」
「お願いだから信じてよぉ~~~~っ!」
カサンドラの話を聞いて思わず呆けた声を上げるベル。
そんな話をするカサンドラをダフネは叱りつけるが、彼女はそれでも諦めることなく、涙声で『
ギャーギャー騒ぎ続ける少女達を尻目にもう一度顎に手を当てて思案するベル。
その『
その熱に背中を押されるようにベルは口を開いていた。
「えっと、じゃあ探してきますね」
「「えっ?」」
ベルの言葉にダフネは唖然とし、カサンドラは涙目のままきょとんとする。
同時に動きを止めた二人にベルは苦笑を浮かべた。
「しょ、正気……? 夢よ、夢っ! というかこの子の妄想みたいなものよ?」
「も、妄想……でも、カサンドラさんはここにあると思うんですよね?」
話を振られたカサンドラははっとし、すぐに何度も頷く。
それならば、とベルは枕の具体的な場所を聞き出した。
「し、信じてくれるんですか……?」
「大丈夫です、信じます。ちゃんと探してきますから」
ベルの信じるという言葉に大袈裟と言えるほどに感極まるカサンドラと呼び止めるダフネをこの場に残してベルは館の中を探す。
そして、館に駆けこんでから間もなく。
「これですか?」
「────これですっ!!」
ベルは枕を見つけ出し、彼女達の元へと戻った。
歓声と喜びの笑みを浮かべながら枕に抱き着くカサンドラとは対照的にダフネは信じられないものを見るような表情で枕とベルを交互に見比べていた。
「あのっ、本当にありがとうございました! 私を信じてくれて、本当に、本当に……!」
「い、いえっ、そこまで感謝されることじゃないような……」
何度も何度も大げさなまでに頭を下げて感謝を伝えてくるカサンドラにホームの敷地を出て対面したベルは困惑しつつも安堵の笑みを浮かべる。
そんな少年をカサンドラが頬を染めて、まるで目を奪われたかのように胸に抱いた枕に顔の半分を埋め、見つめていた。
「ダフネちゃん、ダフネちゃん」
ベルのことを見つめていたカサンドラが未だ疑わしい目付きのダフネに身を寄せる。
彼女に耳打ちをされたダフネはその内容に驚いたように眉を上げた。
「えっ……いや、それぐらい自分で聞きなさいよ……」
「だ、だってぇ……」
こそこそと自分の前で内緒話を始める二人にベルが首を傾げていると、溜息を一つ吐いたダフネが改めて向き直る。
「ねえ、【リトル・ヒーロー】。君の【ファミリア】って新しい団員を探してない?」
「えっ?」
「この子が君達の【ファミリア】に入団したいって言い出してね。もし探してるなら君の
突然の話に驚愕しつつもベルの内心は歓喜に沸いた。
入団希望者、しかも上級冒険者が二人。よほどのことがなければ、断る理由がない彼女達の話にベルは急いでヘスティアを呼ぼうと彼女の元へと向かおうとする。
「おーい、ベルくーん? 何かあったのかい?」
ベルが走る正にその時、裏庭にヘスティアが姿を現した。
ならば、とベルはカサンドラとダフネを館の敷地の中へと入れる。
二人を連れてこちらに近付くベルの姿にヘスティアはどうかしたのか、と首を傾げていた。
「入団希望者かあ……」
裏庭でベルの話を聞いたヘスティアはひとまず彼等と共に館の応接室へと向かった。
そこにはヘスティアから事情を聞いたヴェルフ、リリ、命の三人も集まっており、彼女が小声で呟く中で案内されたダフネ達と談笑をかわしていた。
「僕としてはすごく嬉しいですし、賛成なんですけど……みんなはどうかな?」
「俺は良いと思うぜ。
「自分もヴェルフ殿と同じ意見です。戦力という面で見てもダフネ殿達はLv.2の上位。彼女達がいてくれれば探索におけるそれぞれの負担も軽減されることでしょう」
「特にカサンドラ様は優秀な
ベル以外の団員も彼女達の入団には好反応を見せる。
彼等の話と彼女達の話を聞いた上でヘスティアは……苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……ごめん、君達の入団を認めることは出来ない」
「えっ……」
心の底から申し訳なさそうな声で……しかし、明確な拒絶の言葉に部屋が静まり返る。
自分に集中する視線にヘスティアは唇を噛み、深く彼女達に頭を下げた。
「入団希望があっても今は断ることにしてるんだ。これは君達以外の冒険者でも同じ。理由は話せないけど……今は新しい眷属を迎え入れるつもりはないんだ」
「そ、そう、ですか……」
カサンドラの泣きそうな声が部屋に虚しく響く。
その声にハッとした様子でベルが声をかける、よりも早くヘスティアが口を開いた。
「ボクのところに入団させてあげられないけど、ボクの知り合いの【ファミリア】を紹介することはできるよ。神格者ですごいまともな男神なんだけど……どうかな?」
入団を断った負い目からか恐る恐るといった様子で彼女達に問いかけるヘスティア。
落胆した様子のカサンドラに代わり、ダフネはその案をありがたがるように受け入れる。
ヘスティアがその場で書き上げた推薦用紙を受け取った彼女はベル達との話もそこそこにカサンドラを連れて、館を出ていった。
残ったのはどこか重い空気になっているベル達とヘスティア。
「……新しい眷属を迎え入れるつもりはないってどういうことですか、ヘスティア様?」
「断る理由はないと思うが……断ったのはどういうことなんですか?」
怪訝な顔をするヴェルフとリリにヘスティアが言葉を選ぶように唸る。
その先の言葉を躊躇うかのような彼女の様子にベル達は顔を見合わせていた。
「……話しておくなら少しでも早い方がいいか」
「神様……?」
「ん……断った理由だったね。ちゃんと大事な理由があるよ」
唸っていたヘスティアが目を細めると部屋の空気がわずかに張り詰める。
雰囲気を一変させた主神にベル達は疑問を覚える内心を抑え、彼女の言葉に意識を集中させた。
「
「は、はい。確か、ベル殿がヴィオラス?、と呼んでいたモンスターとそれと同じ極彩色を持っていた大型のモンスターのことでしたよね」
「それで合ってるよ。それとあのモンスターを呼び出したのがアポロンじゃないってことも知ってるかな?」
「【アポロン・ファミリア】の団員からはアポロン様が用意したとの話を聞いていますが、その可能性もあるのでは、と話はしていました。ありえないと思っていましたけど……」
明かされた一つの真実に今度はリリが唸った。
しかし、すぐにその顔を上げてヘスティアの瞳を見据え、続きを促す。
「あれはアポロンが呼び出したものじゃない……じゃあ一体どこの誰があんなモンスターを用意したのか……そこは正直に言うと全くわからない」
「わ、わかっていないのですか?」
「うん。でも、一つだけはっきりわかっているものがある。何故
眷属の名を呼び、少年と女神の瞳が交わる。
「あのモンスターは君を殺すために用意されたものだ。【アポロン・ファミリア】とアポロンを隠れ蓑にした黒幕……君の命を狙う誰かがこの都市にいる」
ベルが目を見張った。ヴェルフ達が言葉を失った。
時が止まったかのように部屋が静まり返った。
「ベル様を、殺すため……?」
「冗談……流石にこんな冗談は言わないよな……」
「何故、そのようなことを……!」
リリが呆然と呟き、ヴェルフが腕を組んで天井を見上げ、命が顔も知らぬ誰かに憤慨する。
心当たりを探るようにベルは思案するが、あれほどの殺意を覚えられるような恨みを買った記憶は思い当たらなかった。
(……いや、一人いる……でも、あの人が一人であれだけのことを出来るとは考えられない)
一人、思い当たる人物がいたが、その人物が
そもそも、あの人物は恐らくもう死んでいる、と。
「ベル君を狙う存在がいるのがわかった今、新しく眷属を迎え入れることは出来ない。巻き込んでしまう可能性もあるし、黒幕の手先が大胆にも近付いてこないとも限らないからね」
眷属達の反応を見ながら話を続けたヘスティアはそこで一度言葉を切った。
それに気が付いたベル達がヘスティアに視線を集める。その視線を受けた彼女はヴェルフ、リリ、命の三人とそれぞれ目線を交え、口を開いた。
「正直、ここから先はあの
「ここから離れてもいい……なんて言い出さないでしょうね、ヘスティア様?」
自分の言葉を遮ったヴェルフにヘスティアが目を見開く。
ヘスティアが話そうと考えていた言葉を先回りした彼は笑った。
「そんな話を聞かされて危険だからここを離れまーす……なんて言うわけないじゃないですか。あまりリリ達を舐めないでほしいですね」
「あの
ヴェルフに続き、リリと命がヘスティアに自分の意思を示す。
何を言われようとも離れるつもりはないという彼女達にヘスティアが言葉に詰まっていると、静かに見守っていたベルが口を開く。
「狙いはわかっていますし、僕はみんなと離れた方がいい……少し前の僕ならそうしてたと思います。けど、今は違います」
三人の顔を順に見回し、最後にヘスティアを見たベルは自分の胸に手を当て、願った。
「みんなが僕を守ってくれるって言ってくれるのなら、僕がみんなを守ります。だから、みんなの力を僕に貸してください」
自分達を頼ってくれたのを嬉しく思うような……そんな笑みだった。
「……うーん、無用の心配だったかあ。危ないのがわかってるのにこれを言うのはダメかもしれないけど、残ってくれてすごく嬉しいよ。その時のことを一応は考えていたけど、それはそれとして間違いなく心にクるものがあっただろうし……」
「へえ? じゃあもし俺達全員が離れていったらどうしてたんですか?」
「ものすっごく不満だけど恥も外聞も知ったものかっ、ロキに頼る!」
もしもの話をしながら、重苦しい空気から元の【ファミリア】の空気に戻るヘスティア達。
やがて今が引越しの荷解きをしている時間だったことを思い出し、それぞれが部屋を出ていく中、最後に残ったベルはヘスティアに振り向いた。
「神様、一つ聞いておきたいことがあるんですけど」
「ん、なんだい、ベル君?」
「僕を狙っているって言う誰かを捕まえられたら新しい団員を募集するんですか?」
「もちろんだよ! 厳正な審査の下になるけど、新しい眷属を迎え入れるつもりさ! そのためにも頑張らないとね、ボクもベル君もみんなもね」
それを聞いたベルは笑みを浮かべて頷き、部屋を飛び出した。
自分のために、仲間のために、大切な【ファミリア】のために。
新たな目標を定めたベルは今やることを終わらせるため、前庭に向かうのであった。
神様との話から一夜が明け、翌朝。
朝早くからバイトに出かけていった中、僕達も残っている仕事に努める。
「こうやって運んでると、意外と荷物があったんだなぁ」
今日何度目かになる荷物の運搬のために僕は廊下を歩いていた。
引っ越し作業が始まってからまだ二日目。しばらくダンジョン探索が休みになることを少し残念に思いつつ、同時にいい休養になってくれたらいいなあ……なんて、思ってみたりする。
「命様ー、お客様です。千草様がお見えになってますよー?」
「千草殿が?」
ヴェルフと命さんと合流して、運び込んだ木箱の中から荷物を取り出している時だった。
扉から顔を覗かせたリリの呼びかけに命さんは立ちあがって部屋から出ていく。
「急にどうしたんでしょうね」
「さあな。つい最近まで向こうにいたわけだし、忘れもんでも持ってきてくれたんじゃないか?」
命さんの代わりにリリが加わってヴェルフと一緒に荷物を取り出していく。
どうしたんだろうな、と思いながらふと窓の外を見てみると、確かに千草さんはいた。ただ、その様子が少しおかしい。
落ち着きなく前庭の中心で右往左往していて……焦っているような……?
作業の手を止めた僕に気が付いた二人も窓に近付き、千草さんを見つける。
そうこうしているうちに玄関から命さんが姿を見せ、彼女の様子がおかしい事に気が付いたのか小走りで近寄っていった。
僕達に見られているとも気付かずに話を進める二人。話が進むたびに命さんの表情から笑みが消えていくのがわかった。
「ほ、本当ですか!?」
そして、笑みが完全に消えたのとほぼ同時に驚きの声を上げた。
冷静さを失った命さんが千草さんに詰め寄るのを見た僕達はそれぞれ怪訝な顔をする。
「……何かあったのか?」
「さあ、わかりません」
遠方かつ窓に遮られていたおかげで二人の会話はほとんど聞こえてこなかったけど、彼女達……もしかしたら【タケミカヅチ・ファミリア】にとって大事なことが起きたのかもしれない。
やがて千草さんが小走りで去っていくと、思い詰めたような顔をしていた命さんが玄関の中に入り、僕達がいる部屋に帰ってきた。
「命さん、どうかしたんですか?」
「い、いえ! 何でもありません! さあっ、作業を続けましょう!」
尋ねてみると、僕でも分かるほどの動揺を見せ、すぐに目を逸らされてしまう。
彼女は僕達と視線を合わせずに急いで荷物を持ち、部屋を出て行ってしまった。
その姿にこの時ばかりは僕達も顔を見合わせることしか出来なかった。
「きょ、今日は早めに就寝させてもらいまーす」
「わかりました。おやすみなさい」
それは夕食の時も同じで命さんは食事を終えるとそそくさと食堂を出て行ってしまう。
今日は残業になってしまったのか、神様は夕食までに帰って来ることはなかった。四人だったのが三人になる食堂で何も問い詰めることなく命さんを見送った僕達も食事を終える。
「どうだ、ベル」
「うん、今は裏庭に出ようとしてると思うよ」
「よし、戸締りも終わってますし、追いかけましょう」
明らかに何かを隠している命さんを僕達は何も気にしない……なんてことはなく、しっかり彼女の様子を見て頷き合う。
命さんに感付かれないように部屋の明かりはつけたまま、館を抜け出した僕達は命さんと付かず離れずの位置を保ちながら、尾行を始めた。
「あれだけ街の方を気にしていたら流石に誰にでもわかります」
「嘘を吐くのが下手なんだろうな」
こそこそと物陰に隠れながら、嘘が苦手な彼女を追う。
普段の命さんなら三人もついてきていたら気付きそうなものだけど、心が逸っているのか僕達に全く気付く様子はない。
ややあって、南のメインストリート────繁華街に命さんと僕達は辿り着いた。
「あれ、千草さんだけ……?」
「……本当だな。あの大男も他の奴らも見当たらないぞ」
人や神様で物凄い喧騒に満ちた中心部から離れた路地裏で命さんは千草さんと合流した。
だけど……そこにいたのは千草さんだけだった。ヴェルフが言った桜花さんや他の団員の人達はどこにも見当たらない。
【タケミカヅチ・ファミリア】の問題じゃない、のかな……?
神妙な顔で頷き合った二人が再び移動を始める。
合流してから中心部に向かうなんてことはなく、むしろさらに繁華街の中心から離れていくように薄暗い小径を先へ先へと進んでいく。
進んでいく、進んでいく、進んでいく……………………………あれ、この先って────
「ベルっ、お前はここで帰れっ!」
「ベル様ッ、ここで帰ってくださいッ!」
二人の鬼気迫った同じ命令に目を白黒させながら、ふと、お母さんから教えてもらった
そして、ピタッ!、と止まったページに書かれていた地名を思い出した僕は二人がなんでそんな命令を僕に叩きつけてきたのかがはっきりとわかった。
「いいからお前はここで……って、やべえ! あいつら、行っちまうぞ!?」
「あ~~~~~! もうっ、なんでよりにもよってここに!?」
「と、とにかく追いかけよう!」
何とか僕を帰そうとする二人だったけど、道の奥に消えていく命さん達を見失うわけにはいかないと、僕を連れたまま尾行を再開する。
苦虫を噛み潰したような表情をするヴェルフとリリにちょっと怯えながらついていくと、道が開けた。そして、予想通りの光景が目の前に広がった。
「やっぱり……『歓楽街』……」
現在地……都市の第四区画、南東のメインストリート寄り。
雰囲気……さっきまでの繁華街と違って、何というか……淫靡な感じがする。
歩行者……アマゾネスを中心に様々な種族の着飾った蠱惑的な女性達。
完璧な『夜の街』。神様とお母さんに『絶対に行くな』と厳命されていた場所。
もしバレたら……事情があったとしても想像を絶する『罰』が待っているのは間違いない。
漂ってくる香りに思わず腕で鼻を塞ぎながら、僕はその下の顔を青褪めさせていた。
「なんで命さん達はこんな場所に……?」
塞いでも抜けてくる香りに頭をくらくらさせながら命さん達を追うヴェルフとリリになんとかついていく。
(あ、この匂いダメかも……状態異常じゃないから『アビリティ』で防げない……『
そんなことを考えていただからだろうか。
ふらふらと歩いていた僕はヴェルフ達を追うために
普段なら簡単にかわせていたはずの人の波に翻弄されながらも、なんとか抜け出した僕は周囲を見渡す。
「は、はぐれた……?」
見渡したけど……ヴェルフ達はどこにも見当たらなかった。
それどころか周囲の景色には全く見覚えがない。
なんとか見覚えのある道まで戻ってもそこにヴェルフ達がいるはずもなく、僕は呆然とその場に立ち尽くした。
「噓でしょ……?」
道の中央に突っ立った僕は思わず心の中で叫んだ。
……迷子だっ、これ!?
ここまで見ていただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。